第18回毎月短歌・3首連作部門 作品一覧

第18回毎月短歌・3首連作部門に投稿いただいた短歌作品の一覧です(表示順はランダムです)


恋と色について

きみが好きな色をまだ覚えている無意識に手に取る赤い花

白黒をつけずグレーを許せたら今も笑い合えていたのかな

これまでの恋愛を全て重ねてキャンバスに描くグラデーション

はざくらめい


地獄片

地獄より行きたいところがあったからるるぶを買いに本屋に行った

ちょっとした地獄は落ちる場所じゃなく飲み会とかね仕事場とかね

死にたいと言えない地獄は天国と何が違うか知りたいだけで

三月


★急募!未経験歓迎♪★

明るくてアットホームな職場です ヒステリックなババアもいるし

本当に鮫がいるって知ってたら白線引いて進んだのにね

丁寧な暮らしを送る丁寧に破綻させてく 枯れたたまねぎ

宇佐田灰加


忘れても

日によって僕を忘れる父だから何度でも友達になれるね

ボールペン使い古せば新しい記憶の方が掠れてしまう

未来から来たことにする 学生の僕しか父は覚えていない

めめんと


ペンネーム「クマのK」さん

ヒトという名の肉ですかおすすめの部位を教えて byクマのK

狙い目はカワイソウダという音を出しているヒト byクマのK

大丈夫ヒトは今後もうまそうな肉でしかない byクマのK

てと


謙虚の行方

赤ちゃんが初めて見遣る19がこんな私でいいのでしょうか

アンテナを他人ばかりに向けていて存在理由の領土が沈む

あの場所は謙虚の行方を知らない理解しなじる僕はサイテー

志村昊哉


裸眼

知っている街でなくなる感覚をザッピングするような寄り道

雨音が演説みたいに降りそそぎ当確してからも降りそそぐ

ゴルコンダ行こうよたとえその先がコンタクトの支払いばかりでも

onwanainu


そこから見える摩天楼

千年後ほぼ全員が死んでからオペラについて語らいましょう

より高い場所へ行きたくなることが人が人たる所以でもある

僕たちが死んでも残る摩天楼未来へ託すタイムカプセル

空虚 シガイ


解なし

軽薄な好意をいなし友として最適解の相槌を打つ

指先を伝うアイスが床に垂れまだ均衡は崩せないまま

分類ができない好きを両腕に抱え廊下を並んで歩く

あきの つき


幻想になるスイーツ

幻想になるスイーツ

バランスを探すふたりのパンケーキ生クリームを持て余してる

積み上げた日々は儚くザクザクと無惨に崩れゆくミルフィーユ

ふんわりとしたクリームが好きなのね 溶けてなくなる幻想だから

真朱


地続きの世界で

将来の高校生は教科書をめくるほら今7万死んだ

気づいたら始まっていた戦争の終わらせ方は分からないまま

愛犬の腹にごめんを吸い込ませ明日の歴史の授業をつくる

菜々瀬ふく


Bus(gone)

パーキングエリアを超えた先にある運転手だけおぼえてる街

徒歩よりも早くタクシーより遅い 夢を見ている窓に頬打つ

予定より早く発つなよ まだ好きな私を置いて行こうとするなよ

はじめてのたんか


美のなかにすむ

君の瞳《め》が私を忘れてしまうほど ミロのヴィーナス、魂つかむ

ルーブルを締め出されてる月までもカノジョの口からI love youを

腕がなくとも凛と佇むヴィーナスはためらいのない美のなかにすむ

りんか


白菜

白菜を半株買って左右ずつ子どもを産んだようにダブった

白菜が展がるほどにムルソーが人を殺してしまいそうです

白菜に貝の一生歩ませてひっくり返す羽根つき餃子

白雨冬子


お正月の終わり

かまぼこが正月休みを終わらせる 棚にはいつもの120円

七草になれぬミツバの負け惜しみ 私はえらい箱入り娘

百均の棚に並ぶは赤い色正月飾りと鬼のお面と

紅生姜天ひやむぎっ


東京

死ぬことを知らないみたい 新宿の極彩色に素肌をよごす

着飾った無造作たちが待ち合わせ 下北沢の東口にて

「東京はなんにもないよ」わらうきみ 毎日祝祭のような街

ゆうぴょん


26時の高速道路

高速の料金所には火が灯る午前二時でも世界はまわる

「積載物:チョコレート」のトラックが光らせていく深夜の街を

真夜中の高速道路ぼくたちはひとりじゃないと東へはしる

みぎひと


しずかで良いじゃない

ほんとうは一人でいたかったんだよな引き連れてきてほんとごめんな

サイレンとSILENTのどっちです?雪で囲んで静けさをやる

冬眠がしたいしたいよ積雪のあと再生する私のために

綿鍋和智子


きみと

くちづけてきみの細胞足していくほんのり照らす臓器の色 紅

舌伸ばし届かないとこ2つありアイスコーンときみ口蓋垂(コウガイスイ)

うしろから入りし君が不意にイキ、戸惑う肩と春雨を抱く


調光

まだ暗い明け方を朝と呼べるなら靴ひもを結ぶ理由にしよう

真昼間の月 四時間目を泳がせて三角定規の穴に囚えた

夕闇の帳《とばり》は今日も下ろされるカーテンコールも拍手もなしに

宇井モナミ


悼む海

一月の午前十時の海が好き寒すぎて好き悲しげで好き

悲しみは寒さが海に変えてゆく浮かんでるのは僕の抜け殻

抜け殻を集めてみれば漏れてくる僕の残渣が砂に浸み込む

北乃銀猫


ペンギンになる日

ひと掻きで逃げだせるならいいほうでじたばたしてるペンギンになる

寄り添って静かにみんな受け入れて春はまた来るペンギンになる

ペンギンになりたいわけじゃないワタシあなたとだったらペンギンになる

ZENMI


お伽話異聞

今時の蟹は青柿打ち返す臼たち見守るラリー合戦

コイントス運命自分で引き寄せる親指姫とはわたしのことよ

これからは親友として接しましょう 私は生きたい、広い世界を

別木れすり


遠吠え

遠吠えをただ一度だけ響かせて独りの夜でないと教えて

月までは届かぬことを知りながら電波塔から送る信号

産声よ真空管を震わせて伝えよ子宮の比類なき赤

宇井モナミ


漫画なら吹き出しになる真っ白な吐息にのせるキミガスキダヨ

伝えたら終わると知ってるのにキミが伝える勇気を分けてくるんだ

キミはまだ気がつかないの? そんな目で笑って半分パピコよこすな

小仲翠太


雫は祈りのように

青空に枝を広げて息をするプラタナスの木すべて盲いて

ペディキュアの剥がれて見える爪先も層をなしてて生物みたい

やがていつか樹木はぼくを食い破るそのときまでは風に当たるよ

川瀬 翠


encounter

液晶ににじんだ冬の繊月をきみに贈ろう正気のうちに

金星と目が合って引き寄せたとき(往路なら)前髪をさわれる

都会向けの夜の綴りでたよりなく示す夢占い わすれない

onwanainu


アイスが溶けても

がむしゃらに追いかけていたこともある葉桜のように美学を脱いで

想い出はアイスとともに溶けました(回収を待つ プラのスプーン)

君のこと残らず消えたはずなのにアイスを食んでいます、今また

りんか


届かない

宛先に着けない手紙 電柱の貼り紙の猫も迷子のままで

ポストからぺろりと垂れる不在票そろそろ腐る私の荷物

彼方なる星もドラマの恋愛も同質として腑に落としてく

北野白熊


箱庭

また時を代謝してゆく砂時計 人とは何の容れ物だろう

壊れてもやり直せると思ってた もう崩せないジェンガばかりだ

屋上は旅立つこともできるから終電だけの駅だと思う

よるね


まぼろしの種

終活をしようと思うと母が告げタイムラプスで閉じてゆく花

コンビニの抜け殻だけが残されて昼のサラダは幻となる

幸せを振り撒く双子ベビーカー人は枯れない花だと思う

白鳥


北千住発エンドロール行き

そのためにふたりで傷を付け合って北千住発エンドロール行き

吊り革につかまりたくないどうしても掴んでいたい布があるから

すきだった匂いと常磐線に乗るハンカチーフくださいハンカチーフください

松たかコンヌ


猫もみに

猫も見に来たら空き地は駐車場他人の音に囲まれている

黒猫が角に座って白猫が列皆黒くなる猫だまり

ひじ裏を毛がさらさらとなでながら抱っこ未遂で猫が流れる

新井宗彦


鱗の記憶

吐く息の白さで悟る 凍てついた海の記憶を肺に満たして

海風に撫でられている 私にも鱗を剥げば柔らかい肌

透明な檻だと思う水曜の雨にのたうつ人魚のように

よしなに


月光パンツ

「好きだよ」も「凄いね」も知らない耳にみんなと同じお昼のチャイム

顔ダニのただ皮脂を食うエリートかそうでないかを問うこともなく

しあわせな家族を照らす満月が俺のパンツも照らしてくれる

鯖虎


リ・ハビリテーション

「最近は笑えるようになりました」葉書の文字の整然として

ドーナツの甘い輪郭 コーヒーでその空白をないものとする

神様にもらったんだと銃を撃つ輩に怯えきみは泣いてた

木ノ宮むじな


ちかちか

今月もちかちかしてる電飾はなにを知らせているのかなって

半分も効かないときがあるんだしやさしさなんているのかなって

セルフレジうるさいなって。口を出さないってひとのちからだなって

白雨冬子


ばいばい二〇二四

ゆで卵爆発させて掃除するときの気持ちで過ごす年末

片付けど片付けど本が出てくる おまえ今までここにいたのか

綴じたまま出さなきゃ踏ん切りが付かなくなるプリントの裏 ばいばい

せんぱい


部屋にいるもの

外し忘れたクリスマスリース しめ飾りの顔してめでたくしてる

部屋の角頭を寄せて暗い顔 使われてないLOWYAのライト

龍模したガラス細工が出っぱなし 蛇に似てるしまだこのままで

灯志


五感

もうだめって時にでてくる電柱に頬が触れれば冷たさ何もない

ほぐそうと指は回路の両端をつまんでぴんと張りつめさせる

電線と目が合う階で誰かしら力を込めて呼吸している

土屋サヤカ


肺呼吸

5本の指の骨を持つシャチ 私たちきっと共通点があるはず

スナメリは背びれを欲しがったりしない 私は私にしかなれない

深海に沈む鯨の肋骨が育んでいる営みもある

美鷹周


音もなく

恋みたいと思って逃げた日のわたし偉かったよね 高砂を見る

音もなく襲なる庭の雪だった彼女に届けられない歌は

その生の一部にもなれなくていい晴れる霧のよに消えてゆきたい

菜々瀬ふく


この夜と非連続なひかりをさがして

買われなくなったたばこの買われなくなったりゆうを言うみぼうじん

硝子屋に朝日、みたいなやり方で死んでいったという殉教者

はつなつの海の根もとに見えてくる死後の恋敵を狙い撃つ

吉野夏雨


home

投げかける否定疑問のそれぞれに見え隠れするダレカタスケテ

水死体ごっこと称しバスタブに浮かぶ君には見える月光

断ち切れぬ鎖のごとく体内を縦横無尽に巡る血液

カワシマサチヨ


俺の手

もぎたての檸檬は黄色い手榴弾大統領に投げつけてやる

死にたてのトマト頬張る俺の手は果汁滴る殺人現場

溺れてるミミズを掬ったあの日から俺の左手なんかかわいい

崎島スジオ


『北風と太陽』

太陽は特別なことはしてなくていつも通りに笑ってただけ

北風は冷たい冷たい言われては心が寒くてしかたなかった

言い過ぎと言いなさすぎはよく似てるひとり後悔している姿

ツキミサキ


おい(練習)

おれたちを見殺しにする前提の『きみを嫌いな奴はクズだよ』

詩の紙の死を神にするHater、(なあ?)Tik Tokでみんな充分

なんのために月やら風になっていく木下龍也たちの夕暮れ

松たかコンヌ


Now loading…

暗転 次の景色を少しずつ読み込みながら瞬く車窓

網棚を普通に使っているきみをわたしは普通に怖いと思う

みちみちと体温ひしめく地下鉄で汗が混ざって誰もがひとり

宇佐田灰加


fairy tale

蛇足とは龍へと変わる第一歩 好きの理由を語っていいか

めでたしの続きをきみと綴るなら二巻ではなく番外編を

約束が永遠を編む ヒロインはいつでもきみでいつまでもきみ

りのん


あなにおちる

駆け出した先にぽっかりマンホール/アリスになれないことは知ってる

優しくて大好きなひと私には優しくなくていいからいって

穴だらけ埋められないままのテスト紙飛行機は青春乗せて

水也


オリオンの檻

天からのギフトボックス印鑑を探してる間に帰っていった

音もなく夜に心は折れてあと何度折れたら月まで届く

振り上げた拳は神に哀れまれ今も輝く夜空の星に

朝曇


夜のバス停

ゆっくりと夜ののみどをすべりおり半島の腑へたどりつきたり

ぬんまりとこけしのように笑い立つたったひとつの夜のバス停

子の前で老婆の役を演じては金星一つ配る道すがら

ひらいあかる


容赦なく冬

永訣の知らせを告げる朝がきてそれでも人が動き出す街

最近は訃報に接して思うんだ いずれあちらでまた会いましょう

人の気持ち忖度せずに吹きつける冬の風って

なんとなく好き

藤瀬こうたろー


かがやく望み

おさなごの聖歌の響く夜が来てひと欠片ずつエゴを手放す

方角を見誤っては座礁する船を導く君は北極星(ポラリス)

あの時に助けてもらった猫ですと来世はきみの恋人になる

山口絢子


浅い眠り

観測者として半径無限の仮想の球面を見上げる

夜の底は深海に似てホウライエソは泳いでいまいか

夜は白み身の怠さに呻く再稼働には足らぬ浅い眠り

玉川数


恋の温度

コーヒーにお湯を注いでいるような好きってことかなきみとの会話

今ぼくは無重力内極彩色快適温度ちょっと早口

溶けないで結晶のまま雪雲の向こうのきみへ届いてほしい

ムラサメシンコ


きょうの献立

早足のわたしをついと追い越した夕焼け空にかきたまスープ

白菜はじぶんのことを話さない話せないならそれでもいいよ

週末の天気予報を背景に小龍包が爆破する夜

きいろい


スカイツリーは見なかった

入口はいつもキラキラすみだ水族館にはネオンテトラがいる

ソラマチで買ったアイスがおいしくてひとりでも来る理由になるね

押上の改札口は地下だからスカイツリーは見ずに別れた

汐留ライス


自我の目覚め

時として切るに切れない血縁は有り難くもあり苦しくもあり

母が持つ見えぬ鎖に繋がれて無自覚だった自我がなかった

部屋を持つ我が身を守る境界を別人格を示して愛す

山野たみ


君は星

遠く見ゆ星の輝き眩しくて尾を引き向かう僕は彗星

目を奪う君の引力に寄せられて大気圏にて燃えて尽きそう

君の持つ衛星軌道に手を伸ばし月になって踊ってみたい

灯志


睨む

いざとい恋仮想の棋譜で睨み合いわたしの王の逃げ場がないね

過去の恋を二次元の蛇が睨んでるrepeat after me 君の世界

girl’sバー仮想のヘビが睨み合いそして注がれるキャストドリンク

(わかば)


こ、しごと

やりたいことなどすぐにはわからない粛々とゆくレールの上を

やりたくて始めたわけじゃなかったの手に馴染む筆仕事になった

やりたかっただけだったのいつかまで隣りにいると思わなかった

水也


懐古懐古のシューゲイザー

金網に閉じ込められた鶏たちがバトルロワイアル始めるチャイム

ブチ切れて放送室をジャックした山田のギターで死ぬスピーカー

同窓会【不参加】に丸 思い出はフィクションくらいがちょうどいいしね

北野白熊


雪曇り

溜め息をシュレダーにて粉々にしてもボリュームアップするだけ

膨らんでいく溜め息は雪雲に変える浪漫もない灰色の

降る雪よこの手のひらのぬくもりでいいならおいで とかしてあげる

宮緖かよ


生きる、活動する

傷つけて傷つかぬなら心など要らないそれはキョウキと呼べる

風だって私の頬を傷つける何もしないで生きてはゆけぬ

右足と左足とを動かせば歩いて行ける道はあるから

海沢ひかり


棒が来ない 柚子を添えて

後回しずっとしてきた諸々がホールドしきれなくてこぼれる

恥ずかしい過去は消せずに積み上がるねえ誰かわたしを棒で殴って

埋まらない一列分のスペースがずっと続いてもう終わってる

汐留ライス


東京

東京

迷宮にハマったみたい同じこと思い巡らす夜の首都高

品川の駅は港区 誰の真似したってきみはきみでしかない

頼らない信用しない癖ぜんぶ都会生まれのせいにしている

真朱


残香

遠雷の音 感情につける名が増えたらペトリコールの匂い

替えがないものは怖くて閉じられたビニール傘を滑る水滴

ひとりでも生きていけると呪《まじな》いのように呟く止むな雨、雨

あきの つき


生きるということ

言いなりになっていたなら荒れもせずけれど私がどこにも居ない

茶碗蒸し器を変えて具も変えて闇の歴史の上書きをした

大丈夫泣くも笑うも通過点あしたのためにご飯を食べる

山野たみ


ショッピングモールにて

スロープを登るエンジン唸り上げみんな大人になったと笑う

あの人もこの人も手に掲げ持つ欲しい物など何もなくても

入り口で待っていたよと顔上げるように佇むジュース自販機

茶葉


戦果報告

ただいまの声音で分かる勝敗は明かされるまで聞かないでおく

「ねぇマミー、点取っちった」唐揚げがバチンと弾ける戦果報告

子どもらとコーラで乾杯した夜になんで私は泣いたんだろう

木ノ宮むじな


暮らす

おそろいのニット帽子を買いましょう 二度と迷子にならないために

立ち漕ぎの高校生に抜かれつつ今夜も鍋にしようと思う

洗っては干すを何度もくり返し肌着のような相棒となる

山口絢子


動物園景

オットセイ、豊かな身体のすみずみに油が採れる流線形の

悟ったように黒い目の洞のカンガルー地球のことを考えていた

網の外から覗き見る足の節、折りたたむフラミンゴの花束

白川楼瑠


Canis lupus familiaris

あなたから愛を受け取るアンテナを立ててふりふりお犬が通る

多数派に隠れて過ごす俺と犬おーるふぉーわんわんふぉーおーる

ふらふらと歩いていたら吠えられてあれは可愛くない犬ですね

朝曇


冬の庭

斧一つ松を薪《たきぎ》にする祖父の序章のような終章が鳴る

看取りなどひとのことばよ薔薇のただ風に傾き土となるまで

会いたくて会いたくて架ける水の橋 錆びたじょうろをたもとにしては

夏谷くらら


深夜片隅ベランダ学部

夜のベランダは寒い! 冷たい! 秘密基地 常用漢字は結露しちゃった

感覚が溺れたので比喩をうたってる 羨ましいわたしの、あなたの片隅

穏やかなあなたの世界、とか、人生が 輝きますように ように!

天虫我


寄生天国

声高にいのちを叫ぶ人達はタンパク質の区別が出来る

だが唾は呑み込んでおく感情もアミラーゼも私のものだから

遺伝子はあざとく演じさせたがるハリガネムシはカマキリが好き

インアン


ホームにて

地が揺れる 貨物列車が通過する 運転手は前だけを見ている

白線の内側にいる確実なものはこれしか今はないから

影は次々ずれてゆく過ぎてゆくものは追わない目を閉じるだけ

琴里梨央


ひと魅る月

平等に ひとりひとりを魅る君に

ひとはあなたを 月と呼んだ

月は言う 愛しく想う君のこと

見る観るじゃなく、魅るということ

そうやってきみが言うから ボクはまた

まぶたを閉じて 今日も眠るの

そば@短歌


例えるならば、

花、君は触れることなく仄暗き明るさを身に帯びたる人魚

雨、無知の滴るコンクリートから伸びくる手暗礁に呼ばれて

雷、割れた花瓶の底に湧く海の波間に漏れる灼光がある

まちのあき


ワインのばか

正面から見つめてみたいまごころだ 君の肩には降り積もる雪

いつまでも1080pじゃ足りないロックの4K を飲み干したい

僕らまた人間だったねいい音がする骨食べたら美味しそうな肉たち

とーと


3学期

空っぽの教室のぞく各々の思い出聞ける明日に備えて

新年の挨拶言えぬあの子見て昔の我を頭に浮かべ

担任を受け持つ我を見られずに退く恩師のネクタイ締める

あだむ


三月のベンチ

幻の茶色のローソン通りすぎ自慢の文句を考えている

好きそうなベンチに座って本を読む栞代わりの春の陽だまり

ただ君に見せたいだけの風景がカメラロールで街の賑わい

川瀬十萠子


優しさは悲しみでもある

優しさは悲しみでもある野良猫に餌をあげてる老婆のように

優しさは悲しみでもある溶けかけの雪だるまに手を合わせる貴方

優しさは悲しみでもある星達の最期を想って見上げる夜空

アサコル


ていねいな暮らし

停まるバス停まらないバス通り過ぎ夕陽がしみる遠いわが町

ていねいな暮らしと言って丁寧にカップラーメンしずかに開ける

御社ではなくて貴社だと言うんだよ 夜汽車の中でお祈りを読む

水の眠り


火祭

顔のない男達にも握力の強弱 マイム・マイムの夜に

半紙には書けない文字を丸めてはアンダースローで燃(も)すどんど焼き

蝋燭は用意したけど藁人形を編むのは怠い だから生かした

村崎残滓


ほんとうに?

しばらくは愛情という暫定できみはわたしの友達未満

違いがね、わからないんだと友達は愛情だけで人を殴った

愛情に擬態をしてるごめんねと言えないんだよ言えないんだよ

三月


寛解を待つ

服薬を済ませわたしがたちのぼるまで目を閉じるわれオフィーリア

「死にたい」は叫びでなくていつからか溜め息として零れるように

生きているかぎり治ることのない病 人生って言うんじゃないの、それ

六日野あやめ


なんちゃってバリアフリー

入れてもベビーシートに阻まれて鍵が掛けれぬ”みんなのトイレ”

「車椅子で入れる店」にカウントする二足歩行者、しない当事者

チェアウォーカー独りで街を行くことを想定してない”バリアフリー”

桜井弓月


ロータリーにて

傘をさして逢いたい人が待っている死後の世界のロータリーにも

いちめんの曇天にさえほころびはあってうっすら明るい急所

一人また一人スマホをかざす虹 街は静かに優しさを増す

インアン


凍星

ゆめゆめ名付けようなど思わぬよう星の来し方星の在り方

見えずとも星は確かにそこにあるセックス必須の空に於いても

隣り合う恒星だからと軽率に番わないで ひとり凍星

別木れすり


お人形あそび

あいさつとお礼と謝罪を繰り返すだけのお仕事だけをしている

よく見れば60兆の細胞の塊きみはかわいい塊

息をするだけであなたを傷つけるわたしをどうか赦さないでね

てと


行方

なぜ声は君の名前になれるのか知りたくて呼ぶ瞬間がある

カーテンが揺れてふたりの部屋はいまどこを漂う帆船だろう

さよならの花束ばかり抱えてて愛されるってこんなに怖い

よるね


ロゼット

会いたいよ好きだともっと言いたいよ去年の冬は近かったのに

たおやかな茎かのごとく掴まれるそんな土曜は確かにあった

懐かしむことはないんだわかってる寮の廊下のペトリコロール

図書猫


完全犯罪クラブ

不規則にお話しします傷跡が何度閉じても開く理由を

出火した資料室から超人を数ヶ月間生かした末路

鼓動より幾分遅いピアノから潰れたマイナー音階が鳴る

土屋サヤカ


circulation

雪上に眠る少女は消えうせてくぼみの縁に残るかなしみ

突風にうなる電線 千切れないものは真上へ空へと昇る

見上げれば吐息のようにわれの眼に落ちてはとけるあたたかい雪

月夜の雨


過ぎ去ってくれ

心臓が跳ね上がるほどことばには力があってリフレインする

中継のようにあの日が再現し団子のように包まっている

目の前に過去が広がる背中には安らぎがあるきっと絶対

海沢ひかり


海と骨

どちらかが見る事になる肋骨によく似た貝を拾って捨てる

人間の目に似ていると言う人もいる 鯨を見ないまま死ぬ人生

そこからは打ち上げられた鯨骨の周りを二人で歩きまわった

川瀬十萠子


生息域

きみだけにいま聞かせたいガラパゴス諸島のひとつの島のお話

うっそぴょんとおどけたさきの唐突の鷺はこんなに白くおおきく

ぼくたちの場所を寿ぐ綺麗とは言えない水の匂いに充ちた

畳川鷺々


片恋炎(かたこいほのお)

眩しくて見てることすらできなくて触れたら火傷掴めば焦げる

どうすればこちらを向いてくれるだろう瞳は一途太陽を見る

苦しくてこの感情は汚くて僕だけのものにしたいだなんて

北乃銀猫


天使VERSUS悪魔

公園の砂場に落ちた天からの使いが春のかけらを手渡す

夕暮れに天使が悪魔のように泣き悪魔が天使のように微笑む

おまえがもし、世界を恨む日が来たら俺のせいだと叫べと悪魔

ゆひ


テキストロードムービー

絶望の荒野を進む第一歩 1ページ目の問1を解く

玄関で新聞の鐘鳴ったのにまだまだヴァージンロードは続く

朝7時初めて閉じたテキストを鞄に入れて届けに行こう

村川愉季


声(koe)

あなたとの思い出はまだ新鮮でなのに声が思い出せなくて

貴方とはこれでさよならのはずだったずっと心に棲みついてるの

声帯は震えているのに声が出ない あなたに愛を伝えたいのに

水柿菜か


新年

いちご燈ヘビが灯してまわる夜めぐすり差して小さくなって

あっそこにいたんだね月 聞こえてた?着替えてきたの?すごく金色

花火姫おおきな口で笑うから急いで風がたしなめました

そんりさそうこ


いつの日か時雨に絡む梅の香に

いつの日か時雨に絡む梅の香に深く沈んで知る恋の花

いつの日か時雨に絡む梅の香に研ぎ澄まし冴え込む野心

いつの日か時雨に絡む梅の香にその身を任せ見た春の妙


消滅

かけ違い記憶の糸の妖精がきみをだまして連れさる夕べ

路地裏の壁にかかれたスプレーが青黄赤と行手を阻む

戻ってよ戻ってよの声風に乗り野良猫通りにシンバル響く


グーチョキパー

人生は戦いなのか手をグーにして生まれ来た小さな命

しあわせでボケてるきみに目潰しのチョキ指紋で汚れる丸めがね

パーの手を重ね合わせて生きていくいつかそのまま灰へと還る

睡密堂


落とし穴部の青春

この石を博物館で見るだろうまだ名前のない別の星では

怪獣が飛んで行きます落とし穴掘った僕らの頭の上を

シャベルに雪四十七士の名が言える辞めたあいつをふと思い出す

新井宗彦


あたたかい白

煮沸せぬ人肌の湯を白湯と呼ぶ ただしいだけじゃ生きてゆけない

指先に擬態し終えて飛び立った絆創膏の翅のうらがわ

化かされる支度をしよう 会うたびにかすかににごる猫の両目に

夏谷くらら


おしょうがつ

黒豆のつややかな皮ひとつぶにことなき日々がつづけと願ふ

赤と白めでたくならぶ蒲鉾をひごひごひごと噛みしめて 朝

のの字がならぶ伊達巻はかさね巻きたるわが家の歴史

たけのまさ


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