第19回毎月短歌・連作部門に投稿いただいた短歌作品の一覧です(表示順はランダムです)
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3 2 0 1
座れたらどこでもいいよ じゃあサイゼ?※正しい方の 適当でいい
いつも5個目までわかったとこで来るちょっと崩れた3201(ティラミスクラシコ)
夕方がはやいね 夜みたいじゃんね 18時ってまだ遊べるね
本当はバイバイなんて無いのにな またねの連続だよね卍ウチら卍は
とか言ってひとりになって独りじゃん人間みんな、みんな死ぬまで
今日特に世界終わりの暮れ方だ 向かいの家も無くなってるし
冬空は散りばめられた星だけで、星間とかで揉めたりするの?
脈絡もないのにきみを思い出す 最もまではいかない悪だ
夜があるから夜が好きわたしにはなにもないってわからせて、闇
幾日のひとりぼっちを包んでる冷たい色をした夜だけが
(三好しほ)
まちがいさがし
木漏れ日をいちいちまぶしがる朝のにおいがふかふかしているパン屋
教わったとおりの路地未満を抜けて流行りのビリヤニ店へ向かった
道を間違え続けたらワイパーの払った雨が手に乗った ような
正門の鍵を失くしてすみませんしっかりしないで生きていきます
勝手口ばかり開いてしまうから代わりに発見されたの鬼が
高鳴りは問いに変わってどうしたら?キッチンにひと籠の菊芋
雨宿り 結局マリーゴールドの種は物置から起きません
正月の片隅に眠るカレンダー、そこにいる二十年を思った
グレーチングの影ゆらめいて足元のトンネル続きますどこまでを
ばらばらと光のたまを降らせつつ青鷺あんなに羽ばたくなんて
(塩本抄)
光る看板
働かせられた体がコンビニの働いている看板に向く
居酒屋の光る看板には虫の死があり僕をじっと見ている
☆4の弁護士事務所の看板は皺さえ光るおそらく永遠《とわ》に
光らない看板だって意味はある 読めないけれどなんか四角い
玄関でほんのり光る名字には星という字があって、それだけ
(てと)
負けヒロイン
わたしにもそうなのでしょうライターの火種をかばう丸いゆびさき
おとといのLINEを何度もかじってる毛布のさなぎの中のあおむし
鍵はもう見つかってたけどもう少し一緒にいたくてガチャガチャしてた
(亜麻布みゆ)
worship
枯れ果てた花は静かに天井を仰ぐ花瓶は乾いたままで
風のない部屋でゆったり揺れているカーテン越しにきみと目が合う
懐かしいムスクのかおり おばけにも匂いがあるって知らなかったよ
大好きなドーナッツだよ好きな方選んでいいよ、いいんだよほら
忘れてたきみが寒がりだったこと毛布のなかに入っておいで
眠ったら二度と会えない気がするしもう少しだけ話を聞いて
過去形にしたくないこと過去形にしなきゃいけないこと過去形に
あまりにも清潔な朝 懐かしい匂いの残る毛布を抱く
お揃いで買ったグラスにきみに似た花を一輪 祈りはひかり
(あきの つき)
スーパーやさしい
学び舎が薄れゆくほど君のこと抱きしめたくて故郷へ急ぐ
龍野西インター過ぎてこれからはあきらめた数だけ増えていく
君のためサービスエリア停まるたびコートを代えて煙草を吸うよ
逢うために、もしくはブルースのせいで鳴る4インチほどの心臓
死ぬことが怖くて免許取らなくてごめんね駆け落ちはできないの
バス停は近付く君が待ってるか疑うわけじゃないけど疑う
何もかも筋書きどおりいくみたいで君は待っていた久しぶりだね
スーパーやさしい君が放つスーパーやさしさ時なんか止まればいい
(栗原 馴)
涙
寂しくて流す涙は飴になる君との日々はミントキャンディー
悲しくて流す涙は透明で零れた後の行方は見えず
嬉しくて流す涙は虹作り君と私を繋ぐ架け橋
悔しくて流す涙は手で拭い誰にも見えぬ結晶となる
悼みつつ流す涙は雲となり天国の君が踏みしめるはず
カントリーロード第二章
ふるさとは治安がだいぶ終わってて自転車はタイヤから盗られる
図書館もスターバックスもない町でみんなボウリングが上手くなる
東京である必要は何もなくここでなければどこでもよかった
この町の出口であった駅の前を今は車で通りすぎてく
風景が何も変わっていない道同じ月日を経たはずなのに
「父危篤」そう言われたから来たはずが居間でその父が寿司を食べてる
説明が何もないまま父は言う「おまえは鹿と結婚しなさい」
「お父さん悪魔と契約したらしいのよ」なぜその説明で受け入れた母よ
今すぐにこの町をもう一度出よう色々手遅れになる前に
ふるさとは何も変わってないようで中身はすっかりおかしくなってた
玄関を飛び出し車に駆け寄ればすでにタイヤが盗まれている
(汐留ライス)
春一番にはまだ早い
「この人と付き合うことになったから」いつから私保険だったの
やさしさははりぼてだった人肌の缶コーヒーの甘みが嫌い
憎まれる覚悟はできてないんだね今更聞いた私の長所
さよならは言わないでおく君はもう気持ち悪さを抱えて生きて
積もるなら積もってしまえ凍るなら凍ってしまえ融けた風花
君といた町を捨てても君でない人の仕草に傷ついていて
思い出は自動再生擦り切れてかすれてわからなくなるまでは
冬の陽は白く冷たく慰めを撥ね返しては不意にほどける
足元に光こぼれて振り向けば周回遅れの立春が咲く
(りのん)
組合員より
日雇いで七面鳥の腹を割り人の秘密を吹き込む仕事
劇場の椅子の下には逃げ出したポップコーンの集落がある
隣人が当局の目を掻い潜り匿っているジャイアントモア
鈍色の安全靴で踏みしめる彼が住んでた団地の遺跡
梅田にてオカンが吼えて回り出す虎は逃げ出しバターが採れる
皆さまの声を大切にしておりますテナーが不足しています
(てん)
水鳥のクミンシード
脳裏からカレーが香る水鳥のクミンシードが夕焼けてゆく
肩こりにまず与えよと言うようにカレーの具材の重みをかける
やろうかのきみの遅れた一声をかきけすように焼ける豚バラ
玉ねぎの皮に水玉お気持ちの果てにすべては飴色になる
もとめてたカレーもこれはこれでいいみたいなカレーだっただろうし
大丈夫だよって言うね目玉焼きそっとひっくり返すみたいに
これいつのだっけカレーにあたたかく灯りつづける人参の赤
四日目のカレーを食べる四年目の煮崩れているきみとの冬に
(白雨冬子)
断片
スーパーの半額シールの鮮やかさ 四百九十円の精子
「ひとつだけ聞いてもいい?」と二丁目の店で出会った森開く人
ダブリンの清掃員は手にドラ猫 死骸 蛍光グリーンの目
人体はデザインされるAIに話しかける口調の人々
幼少のフーコーの頭撫でてから 金魚丸呑みして見せたいな
(ほしのひかり)
ねこだよね
狭い部屋きみを追い回し薬指たぶん骨折でもきみが好き
ねこだよね きみの前世はたぶんねこ 気ままに生きるきみはねこだね
窓辺にてガラスを抜けたぬくもりに抱かれながらねこは溶けてる
ねこってね、たぶん中には人間が入ってるんだ おとうさんに似てる
君ってさねこに似てると言われない?そのシャイなとこ。ほらねこだよね?
(水柿菜か)
ハイスクール動物園
私たち、僕たち受験戦争を生き抜きました よし!髪染めよ
少女らはゲームのように露出魔をスマホに収めゲラゲラ笑う
目立とうと他所のクラスに爆竹を投げた田中はまだ停学中
体育の後の花園 教室にそれぞれ咲かすまぼろしの花
早退を図って炙る体温計 小鳥の声で最期を告げる
階段の陰で拉げた風船に眠れる億のプレ命たち
(北野白熊)
キッチンにて
きゅっきゅっと鳴るまで洗う消したい夜 ぬらりと光る一隅残り
一人立つまだ目覚めないキッチンで卵を混ぜる 音が響く
約束のフレンチトースト黄金に 土曜の朝は少し眩しい
(しじみ)
仏壇を蹴る
泣きじゃくる僕の手を引く握力で母の愛した創価学会
学校に行けない僕の耳鳴りは南無妙法蓮華経の嵐
いくつもの親指合わせ横顔に夕陽差し込む母の題目
僕を産んで損した母は「法華経を信じる人は冬だ」と言った
僕が死ねばあなたの物語の中で南無妙法蓮華経が弾む
「死ね」と言われ「死ね」と叫んで窓ガラス突き刺さる人差し指に花
かきむしる指を包んだ先生が「お母さんが好きなのね」と言った
俺の死を誰にも知られたくはない俺は絶対春になるんだ
この街の南無妙法蓮華経までスタンドにブチ込めバレンティン
信仰を愛する足でこの足で俺のすべてで仏壇を蹴る
(松たかコンヌ)
五感で伝える
オムライス無理に漢字で書くからさ大が犬だよ、そうなんだけど
激辛は苦手紅茶はストレートたけのこ>きのこ君のまにまに
お布団やセーター、この腕、君を包むすべてをシャボンの匂いに染めて
君の好きな歌をうたって寝入りばなかなしい夢はぜんぶ消し去る
背にふれた控えめな指の愛しさがいじわるをちょっと長引かせてる
(伴 更紗)
下北沢へ
眠気との戦い続く研修の夜も絵を描く芸術魂
腰痛めやっと分かった健康が最上級の幸せだったと
送信が出来ていないでいたせいでその日の思い届かずにいる
風吹かば日射強しの夏の日の林間キャンプ思い出したり
この先の不安に花を咲かせようかと思ったらまずは行動
夢に見た海の向こうの世界すらまだ我が足は踏み入れてなく
ちょっぴりと下北沢に憧れを抱いて僕は堺の自宅
この度は憧れている東京は下北沢へ行く夢見たい
(いちかわ ゆうた)
ミディアム以上ウェルダン未満
声高にマイムマイムで囲むのは全く逆でマイムは水で
理科室で火の根元を手で掴めたの それから自分だけを信じる
鍋底の熱が引くのを待つように3pシュートを放つ
利己的な遺伝子を否定せんとして飛んで火に入る童貞の虫
石橋を叩きすぎない火遊びを ミディアム以上ウェルダン未満
マッチングアプリで出会う人たちのコンロがどうしてガス火であろう
誓います 元栓を閉め忘れずに行ってきますを毎日言う、と
焼くよりも煮るための火になってゆくコンロも俺のやさしさまでも
ゆっくりと溶けるキャンドルを眺める そういうことに燃やすテロメア
(はじめてのたんか)
曲線
コロコロと公園の子らの笑い声おいかけるようゆれる金柑
追い風をまたつかまえて真っ白な帆船のごとくきみは駆け出す
カムチャツカ、メキシコ…、指を地図帳に這わせて感じた地球の曲線
泳げないルフィが海に出るように僕は登れぬ山を目指すよ
頼りたくなったらおいで 鈴なりの金柑よろりと副え木にもたれる
(小仲翠太)
willとbe going to〜
来週の予定という名の黒幕に支配をされる週のはじまり
休日の朝の電車はタイムマシン少し未来のきみに会うから
1話ぶん先を生きてるあのひとの恋が気になるドラマの予告
選ばれる気がするきみと行く海がGoogleフォトのベスト写真に
チケットの眠るスマホが連れてゆく花が咲くころ行くミュージカル
willとbe going to〜進むしかできない今を信じて進む
(真朱)
ほかのすべてのやさしいものたち
いいえ、空のにおいをもっと嗅ぎたくてキリンの首は伸びたんですよ
魚には魚の言語 月のある晩には月の泡をつぶやく
セキレイのまっすぐすぎる尾の羽を物差しとしてこの星がある
氷河期にみんなが死んでからワニは熱帯で泣くようになったの
この色がサーモンピンクというわけを鮭たちはみな知らないままで
人類はホモ・サピエンスしかいない ほかのみんなはやさしすぎたよ
(石綱青衣)
呪いに生まれた
親に頬張られて大人になったひとの頬はうまく笑えているか
なぜ私の葬式で泣けるよう育ってくれなかったのと骨壺
愛された友人いわく「無償(タダ)よりこわいものはない」てめえどの口が
よく笑い よく泣き叫び よく怒鳴り よく暴れ回る五十路の母よ
母方の祖母の長生きの秘訣は「はよう死にたいわ」と嘆くこと
「あの人の子どもですって」小さな背 焼き爛れた烙印が重い
結婚はしません 子どものわたしを撫でるための私の指です
(春鰊)
わたしを抱える
玉ねぎのネットを指で突きやぶる貞淑な妻を装いながら
あぁ冬のせいにしようよ重ねても心が渇く速度がはやい
白を着て演じる清楚を軽蔑し見抜いてほしいわたしの穢れ
(はるかぜ)
週末
火曜日の夢を見ながら火曜日の目覚めでだんだん土曜の寝起き
イーブイ、と思う バジルのソースならバジルのパスタになる純粋さ
ユビキタス ピザのクーポンがポストに入っていてピザの安い街
形から入って形から出てきた ぜんぜんすり減ってないナイキ靴
前にカーペットを洗ったときにはぜんぜん嫌いじゃなかった人
バブよりも十円安いバブに似た森の(森とは?)香りの錠剤
おかあさん 今日の夕飯は昨日の夕飯と同じだよ おかあさん
ずんだもんが公営団地の解説をする間にも空は白んで
そういえばおやすみなさいを何年も言っていないと思ってねむる
いっせーの、せー! で今後の話とかいったん無しにしてみませんか
(維々てんき)
ぐる ぐる ゆらり
膝を抱き横になるときほぼ猫の湯たんぽだけが熱をもってる
パッキンがなくなっちゃってしゅしゅしゅうと湯たんぽが鳴く すこしこぼれる
水の音が絶えず聴こえる渦巻ける怒濤慈雨とも化せるかたちの
水鏡 アオダイショウがうねらせる銀の鱗に目を奪われて
きらよりはさらりとしてるしなやかな筋肉をもつ蛇のからだは
おずおずと触れる逃れる昔からこれは一方的なふれあい
うっすらとつめたいようなあたたかな重みが抜けていった手のひら
ぴーひゃらり笛の調子がうねるときいっしょにゆれた蛇もわたしも
ターバンを巻いて腕組むおじさんのランプの魔人もヘビなのかもな
筋肉のかたまりなので中空で首をもたげて あれになりたい
膝裏に鉄棒かけてぶら下がり揺れ腹筋がだいぶ減ってた
逆上がりなんとかできるまだできる 平日夜の冷えた公園
空にまだへびつかい座は現れず 蠍が昇る夏を待とうね
(せんぱい)
旅する影法師
晴天と息ぴったしの相棒と白黒違い揃いの帽子
かくれんぼしながら歩く林道の木洩れ日まだら模様の私
月光に薄らぐ意識寝袋の外で片方手だけ繋いで
(辰野音子)
鈴を集めて
本当は飛べる翼がある事を知らずに今日もペンギンの群れ
一同に集められにし会議室 顕示と遠慮が森の騒めき
意を決しパス下さいと手を挙げる脆いボールを次に繋げる
総括で泣いてしまう人もいて他人《ひと》には言えぬダムのありけり
出る杭に成らねば響かぬ音がある鈴を集めて鐘鳴らす杭
会議後の名刺交換名残惜し吾は三人の子供の母なり
(川瀬十萠子)
僕が消えても
窮屈だ せめて死んだらあの海に投げて自由を僕にください
消えたいと口では簡単に言うのに湯船で息を止めさえしない
神様の時計は常に正しくて僕が死んでも狂いはしない
寿命まできっとまっすぐ咲いたまま僕が死んでも花は枯れない
手を伸ばし僕が死んでもdiligent 星は休まず光り続ける
苦しんで僕が死んでもカルピスは味を変えない色も変えない
でもここで僕が死んだら君は泣く君が泣いたら僕は悲しい
泣きながら君は無力を嘆くだろう君のせいじゃない。君はやさしい
諦める 君を泣かせるくらいなら生きることを諦めることを
期待などしていなかった約束を信じて生きてくれている君
最後までそばで守ると言ったから君が死ぬまで僕は死ねない
行かないで 君が死んだら僕が泣く花の色にも気付けなくなる
星さえも君が死んだら意味がない好きな色さえ忘れてしまう
気付かないふりをしたのは僕だった光にずっと照らされていた
地球など僕らが踊るステージにすぎない。夜の終わりが見える
君とならどの石ころも星に見え、サドルの裏とベルの赤錆
君が絶望しないための理由になりたい。君がしてくれたように
(りゅーせい)
恋愛讃歌
盲目も恋であるなら神聖で 恋は全ての免罪符だと
多数派《マジョリティ》 友より重いイチジクをぐつくつ煮込む煮込んで捨てる
黄色の爪 人恋しいが恋知らずこのままずっと一人なのかな
恋なんて知らずにいてよ僕たちはずっと友だち指輪もあげる
死如きで途切れないはずの友情だから一緒の墓に入りたい
友情も恋の前では無力だと会えなくなった君に会いたい
恋という衝動よりも劣るからバウムクーヘンかじって泣いた
凹凸が人とは違うところにあっていらないピースでしかない
愛したいと愛されたいを天秤にかけてみるけど釣り合わないね
合宿でひとりぼっちで先に寝る恋を知らない故の閉め出し
誰も愛せないわけではないんです恋が我がもの顔で歩いて
恋愛が分からなくても僕たちは人を愛することができます
(傘糊)
行きつけの本屋
行きつけの本屋が閉まる 青天の霹靂、霹靂、ずっと鳴り止まぬ
行きつけの本屋が閉まる 三十年以上通った道の冷たさ
行きつけの本屋が閉まる 店員の「いらっしゃいませ」静けさ帯びて
行きつけの本屋が閉まる スケジュール帳しか買えぬケチな我が身
行きつけの本屋が閉まる 膨大な本の行く末案じる部外者
行きつけの本屋が閉まる 逃げるように店を後にする悲しい夕陽
(アサコル)
ひみつの連絡帳
駅名を指でたどった地図帳のなかで世界はわたしのものに
ひめごとの苔を素足でこそぎとるプール掃除の六年生は
ひめちゃんが置き去りにした朝顔がだれより風を待ってる5月
分銅に指紋をつけるわるいことすべてわたしが背負ってあげる
呼吸さえうるさい夜の理科室にインゲンマメの発芽する音
メトロ帽いらないよその学校の二番ホームでしか会えない子
赤リュック違う車両に乗ったきりずっと見つからないかくれ鬼
ひめちゃんに置いていかれた上履きが下駄箱のすみ黒ずんでいる
連絡帳に書けないことが増えた気がする5年生になってから
校庭に飛び出す赤のペンケース羽もないのになんで飛ばすの?
はさまれて死んじゃいそうな校門にはさまれている校舎とわたし
出られないロッカーのなか漏れてくるおれんじ色に濃すぎる夕日
ママが来るのを待つ二時の保健室153個目の壁の穴
にげぐせ、と先生は言うだれよりもうまく折り鶴折れるわたしに
支え棒ぬいた朝顔こぼれだす植木鉢から恨みのように
アルコールランプで焼いたカルメ焼き鞄の中でこなごなになる
熱もないのに休むリビングで徹子が泣いたわたしも泣いた
(六日野あやめ)
虚無という名の
ゴミ箱に生き様捨ててきた時にトルソーが着るピンク眩しく
一時間とった休みでカフェにゆき氷点下のごとソファーに座る
カフェで飲む、仕事をサボり珈琲を、移ろう時はスロー モー ション
窓の外 透明なクラゲ増えてゆく雲のいたずら、如雨露の銀糸
紛れ込むように泳ぐはクマノミか 個性しかない傘、上下する
マスターが豆を挽く音ザリリザリ会話がすこし増えた気がした
コーヒーに映ってる顔が白んでる 照明だけのせいではなくて
虚無という姿なきものに覆われるように私はテーブルに伏す
駱駝のこぶに乗っているようグラり揺れ世界が私を置き去りにした
夜がくる サボりの時間も終わりだと言うように月、笑い出してる
煙突が煙も吐かず建っている夜に浮かぶは白い亡霊
(りんか)
青果
・一首目
人類よ
優しくあれよ
みないつか 坂で
りんごを転がすのだし
・二首目
偏頭痛を顔に出さずに一日を終えはっさくの薄皮を剥く
・三首目
みんなごめん、あたしは強い
リュックには大根という刀もあるし
・四首目
うぬぼれやのきみの話はややくどく
「それでつまり?」とレモンを搾る
・五首目
おあいてに苺を譲るのではなく
おいしいをわかちあうのが愛
(村崎残滓)
うろの入り口
ヒーターとテレビの前の祖父の席ひとつを空けておせちを開く
染みのある襖とハンディ掃除機が隣り合わせで暮らすお座敷
送りたてのカードは歌う春夏秋冬のカードのタワーの前で
アラサーの孫にもお年玉渡す祖母に返せるものがないんだ
若かりし頃の仕事のお話がすぐに馴れ初め話になって
冬の木のうろの入り口の応接間 寝惚けたピアノがぽおんと欠伸
祖父はもうわたしを憶えていないだろう祖母と母だけ忘れずにいて
気を抜けば亀になるから頸椎を意識して聴くさよならのこと
あのひとにお菓子を贈るわたし、今お寿司を包む祖母そっくりだ
握る手はちいさく冷やくなっていてまたねは約束よりも宣誓
(菜々瀬ふく)
透明な日々
透明な日々をぴたりと輪郭に重ね過ごすの 悟られぬよう
相続で取った戸籍謄本の余白に君の名前を添えたい
これはそう諾成契約なんだろう それでも確かな縁(よすが)が欲しいの
世界には見えない二人 明日からも君との日々は「語りえぬもの」
映画ではいつも悲劇で終わる恋 それでも僕は幸せだから
三駅の距離は無言で過ぎていく繋いだ指はコートで隠す
透き通る恋だとしてもドロドロもするの 所詮は恋なのだから
街、職場、学校、そこにあるはずの確かな温度 透明な日々
(そうま)
わずかな恋
指が細い君のこと、好きだったんだ爪までツラさでできてるようで
ビーフストロガノフを食べられる店探して行った あったかかったね
あっけないオワリで泣いた少しだけ そもそもハジマリはあったっけ
文庫買う レジで見た指 記憶庫の中からツラさ滲み出てきた
ブックカバー外し折り目をつけロシア料理の本の栞にしよう
(北乃銀猫)
夢のひとかけ
妊活はもう辞めたんだと言う友がカキンとzippo鳴らす新年
食べてきたもので体はできていて心は砕けた夢でできてる
太陽の出てくるとこを捕まえに東に行こうきっと巣がある
遠雷のような子どもの笑い声 排卵誘発剤の喉ごし
縒《よ》り合ってただ一本の糸になる強くなるたびできた擦り傷
ねじれすらしないふたりの段違い平行棒のような遺伝子
本物か代用魚かを気にしてる君がぷちっとイクラ頬張る
将来の夢とか書かす人たちがみんな飲んでる苦い珈琲
過去と未来 重みを測る天秤が過去に傾く分銅がある
(木ノ宮むじな)
握り拳のその中に
今日からはグーがパーにも勝つという
みんなグリコで仲良く進め
今日からはグーがパーにも勝つという
ゲンコツこそが最後の理性
今日からはグーがパーにも勝つという
最初はグーで死ぬまでグーで
今日からはグーがパーにも勝つという
それでもキミはチョキをだすかな
(一筆居士)
前髪
切りすぎた前髪あなたに見せたくなくて
わざと遠回り帰路を延ばす
「ただいま」と前髪隠し君帰宅
流れる涙シャドウ滲ます
昨日より広くなった君のおでこが
愛おしくて 口付けをする
(月宮 奏)
シャッターチャンス
被写体の君が笑ったすぐあとの解れた顔が シャッターチャンス
花の中自然と化した髪と手と静音のまま シャッターチャンス
海辺にて足先で波かき分けてあげたスカート シャッターチャンス
夕暮れに河川敷から逆光のシルエットだけ シャッターチャンス
暗がりの蝋燭だけを頼りにし息を止めて シャッターチャンス
振り向いてレンズを睨む一瞬を1/1000 シャッターチャンス
手のひらで片目を隠し上目遣い隙間に光 シャッターチャンス
雨が降り傘を天へと突き出して祈りに似てる シャッターチャンス
夜の街ネオン揺らし閃光を操る君は シャッターチャンス
真っ白な背景に立ち真っ直ぐな瞳で勝負 シャッターチャンス
(海沢ひかり)
創泥記
創泥記
── はじまりの日に ──
立ち昇る煙の色は記録にはない。
・
土を煮る 湯に混ぜいれた体液の小さな色はそのままわたし
えいえんに硬くならない希死念慮こねてこねって未知を象る
・
あら、不出来。
爪の間に入りこむ微粒子レベルのただいまの声
泥の沼 ここで死ねたら dozaemon さよなら未来
・
いいや、死なない。
── 雪国に乾いた風が吹いている ──
達磨に容れた碧眼を見よ
・
雲泥の差だなどと言う人々の肌の色ほど違いはしない
・
冬土に子は棒切れで眼を描けり
土では駄目だ
泥に塗れよ
眼を啓け
なにも視えないままで舞え
やがてエンゼルフォ―ルは届く
・
翌朝の乾いた泥を指で掻く
( 隠されていた筐体の名は? )
・
悴んだ泥手で捲る先月の『短歌造形』
── 春待つ日々は ──
このあたし! あたしが担当しちゃいます! 元気いいです! 手もきれえです!
てゆうかさ、あんた短歌になにすんの。連作ってこれ馬鹿にしてんの?
その泥で汚れた体ぶらさげて短歌を汚すつもりでいるの?
愚かかな、愚かなのかな、きみってさ、最初の「かな」は詠嘆のやつ。
定型や歴史を軽く見てません? 自分の歌を泥で汚して。
その歌で短歌汚して、そしてまた自分を大事にできないんでしょ?
── 春泥はやさしくひかる ──
あたたかい肌の痒みを風は攫って。
・
お人形遊びしましょう 茶色いの、こちらはあなた もう片方の茶色いの、こちらもあなた たのしいね あなたとあなた 交換できる
・
またね、
って壊れて土に還っても消えるわけではない、ということ
明解に星の一部となることのさみしいようなうれしいような
── やがて来る終わりのために ──
雨は降る。
・
泥濘という語彙に揺れおり
・
泥の舟、泥の王様、泥の夢、こんな色にもわたしは宿る
泥の舟、
泥の王様、
泥の夢、
もちろん明日崩れるものの
・
五月雨をあつめて棄てる泥の川どの時空でもお会いしましょう
・
七音を置いてしまえばこの手記も土へと還る
(畳川鷺々)
低温火傷
淋しくてついてきたのね溶けること知っていながら、手袋に雪
ポケットに置いていかれたミニカイロ濡れてはならぬ泣いてはならぬ
ヒリついてはなれぬ痛み燃え盛ることなく消えた恋の跡形
オリオンをかたどる星がひとつだけ見えないように君が足りない
少しだけ色を残して瘡蓋は剥がれるだろう いつとも言わず
(宮緖かよ)
群れのうしろ
皮だけを剥いてころがされたレモン飽きてしまった神様の手で
はなびらのつもったうえに寝ころんだ恐竜の背の化石を燃やす
あたらしい水辺にゆくという群れのうしろにならないところでねむる
(空飛ぶワッフル)
時散り
流れゆく時の小川に追いすがり蔓を伸ばしてわたしはアカネ
進むなと萎びた蔦は秒針に絡まりほろほろ崩れていった
(汐)
映り込む
日を隠す雲がやたらと目についてわたしのここも曇ってますか?
ぬばたまの夜に浮かびしオリオンが押し潰してくる並び歩きを
浴室の鏡に映る表情についたウロコがモザイクかけて
不機嫌が反射・増幅繰り返す今は不幸に進む両輪
合わせ鏡3、4回目に反射したわたしくらいはしあわせですか
(灯志)
いちど冷やして、そして燃やして
「小さくて丸いカケラを選んでねそしたら他は亀にあげてね」
あなたのことをなにもしらない無いはずの喉仏のお骨を拾う
イミテーションの魚泳がせる納骨堂白百合の香もきっと幻
遺骸崇める生者の熱は上昇し聖堂《Duomo》の天窓に雨を注がせず
この部屋にも光が射すっていうことを蓄光素材のオバケが告げる
夜の雪は朝の哀しみ呑みこんでだからこんなにしろいあかるい
この雪は積もらないね そうですね うなずきあった同じ郷の人
「死んでしまった過去の光だからさぁ、今更泣いてくれるな」と云う
冬鮭の遺族思ひて見る火加減ぱちりと爆ぜる生きるための脂
(しみず)
大東京
飲み過ぎた翌日お酒との決別を誓うが週末にはもう
おしゃれぶって買った炭酸水1ケース冷蔵庫の中に籠城
一目惚れした一輪挿しに挿した花はいまのところ一輪だけ
東京で仲良くなったのは結局田舎出身の人ばかり
結構好きだった子と深夜の阿佐ヶ谷をぶらぶらして鬼ごろし
(中野半袖)
自由と言えば自由
風船を離した小さな手のひらが空より大きく見えた気がした
手の甲に止まる小さな羽虫にも行き先くらいはあるのだろうか
スーパーの鮮魚コーナーに今日もまた捌かぬ魚 無言で泳ぐ
コンビニで棚の奥から選び出す一番冷たいペットボトルを
新発売と書かれた缶コーヒー 誰かのための味が増えてく
おにぎりの海苔を後から巻きながら自分の順序を直せる気がして
折りたたみ傘を忘れて帰る夜 濡れる自由にただ立ち尽くす
(箭田儀一)
サーカス
少年と大人の間をふらここで空を行き交う少年きよらか
Xの染色体をひしめかせ女ゆれつつ綱わたりたり
迷いなく悪夢断ち切れ短刀は真直ぐに林檎の心臓を刺す
百獣の王に火の輪をくぐらせどゆめゆめ人は神にはなれない
だれもだれも攫われなかった 夢をつれサーカス団は去ってしまった
(みつき美希)
たらればの海
もし私画家だったなら何枚も、全ての色であなたを描いた
もし私ピクシーショートにしてたなら泳げたかしら、スクリーンの中
もし私嫌いなピーマン最初から食べられたなら愛してなかった
もし私あの時言い返してたならまだ友達だったかな、無理か
もし私やり直せてもまた次の分岐点で詰んでる気がする
もし私子どものわたしに会えたなら伝える自意識からの逃げ方
「もし私」たらればの海入水する甘美な世界に焼き切れる脳
(別木れすり)
プリズムの檻
朝焼けに切り刻まれて咀嚼されぐっちゃぐちゃの夜まだ温かい
さようなら血を分け合った蚊を潰す祈りはいつも棺のかたち
ゴミ箱にショートケーキが落ちている塀の中にもある誕生日
相部屋でよかったクズの寝息でもニンゲンひとり分あたたかい
よかったなぁ名前を呼んで泣けるのは帰るところがある子だけやわ
しんしんと夜積もりゆくこめかみに銃口みたく壁押し当てて
十八年かけて壊した人生の瓦礫で作るステンドグラス
もうずっと諦めて諦めてあきらめてきたのにまた春が来る
さようならアクリルの川隔たれておかあさんって初めて呼んだ
起床即、号泣の日々こんなにも壊れたままでコンティニューです
(ケムニマキコ)