第21回毎月短歌・3首連作部門 作品一覧

第21回毎月短歌・3首連作部門に投稿いただいた短歌作品の一覧です(表示順はランダムです)

[選評結果一覧など「毎月短歌コミュニティ」でいちはやくまとめられています。参加はこちらから]


押し込めば弱いところがはみ出して白磁に満ちる凪の静けさ

でもわたし波立っている 本能と理性の海へ月が呼ぶから

寄せ返す波のあわいにみる夢は白い灯台 燃えるあなたの

よしなに


花を生ける

首を刈る手つきでそっと切り落とす椿は知らぬふりをして咲く

クリスマスローズはいつも俯いて生贄みたいに挿した一輪

亡骸を火葬するように菜の花の黄色を燃やして呼び出した春

アサコル


神様のいない星

君の言う世界と言うのはまん丸で昼の月に似た|理想論《ユートピア》

流れ星には祈らない 君が僕の神様だから カムパネルラ

地球にひとりぼっちで残された夜 丁寧に握る塩むすび

水無月ニナ


怪獣サンセット

振り向けば無残に残る足跡ぽろぽろ響くみずいろの声

光線で切り裂いた夕焼けを丸呑みにしたような眼で好きと言う

真夏のアスファルトに押しつけた私の柔肌が怪獣になった

まつさかゆう


刻々(こくこく)

水仙の毒を知らずに子供らは葱だ韮だと葉を刻みつつ

遮断機の向こうに植る桜から飛び込む花に快速列車

星が死を受け入れる時ゆっくりとオルゴール止む夜の静けさ

北野白熊


恋文

まっすぐに伸びた背中と歩きかた遠くにいても君と分かった

少しだけ大きな声で呼べばいいそれでも喉がぐっと詰まって

助詞ひとつ正しく選べない指で間違ったまま送信を押す

さんそ


Tanz Walzer

変わらずに梅うつくしく花ひらき わたくしをもう愛さない母

花 はらら 咲いてみたとて寂しさは降りつもること それだけのこと

お別れは手を花みたくするでしょう 泣いても笑っても そうでしょう

ケムニマキコ


ミスタードーナツ

ゴールデンチョコレートの粒ぽろぽろとこぼれてすぐに菜の花で春

甘すぎて重いと嘆くその口にエンゼルクリームの軽いキス

ちぎりつつポンデリングを食べること君は丁寧な暮らしと呼ぶ

萎竹


秘め事

頬に触れ髪を絡めたその指で妻に「帰る」と打つ憎き人

抱き合って過ごす時間が愛だから他人に戻る夜明けが憎い

上書きの恋をするとか女とは 別冊で置く秘め事もある

稲子


静かな退院

「また明日」病室を出る午後8時 点滴のように流れる星

湯に浸かり眠りはせずに目を瞑る お腹の中はこうだったかな

葬式は私がいなくても終わり、逃げても時間は止まらなかった。

市井すい


祈りのカタチ

祈ったら何かが変わるのであれば祈るよ強く Hail Mary

たとえば鳩、たとえば鴎にこの祈り預けて天に届けてみるとか

祈るだけ 願わずにただ祈るだけひとをやさしくするのは祈り

北乃銀猫


ラジオから薄くこぼれて四限目の窓外にきらめく桜の樹

片耳のイヤホンをしゅるしゅると梳く 机の日焼けのひとつになって

皺のない漣でしたAMもFMも教師の揶揄いも

ぶりきのかに


普通のか日替わりのかとたずねられまた今朝も拿铁《ラテ》を頼みそこねる

陶器杯 指でしめして念をおすblue bossaの途切れる前に

スタバでもやきそばを食うやつがいる街に馴染んでいくための朝

空飛ぶワッフル


リフレイン

どこからがぼくでどこまでぼくなのかわからないけどとてもぼくだね

ミニぼくがあたまのなかにいてずっとおしゃべりしてるミニきみもいる

ほんとうを演じつづけたウソたちはほんとうよりも本当になる

てと


始まり

釣り銭を渡す手の指艶《なまめ》いてコンビニで会うギターを弾く人

夜中まで映画見ながら話したね 黙る勇気があれば変わってた?

「僕」だった君が雨の日「俺」になった 濡れそぼる肩引き寄せられた

稲子


そんな君だから

捨て猫を放っておけない君だから俺も拾ってもらえたのだろう

断捨離のとても苦手な君だから俺は今でも捨てられずにいる

くだらないギャグでも笑う君だから俺にずっと笑っていてくれ

岡田道一


cherry blossom

立ち止まることのなかった我が身さえ立ち止まらせる今日の桜は

花びらを一つ二つと数えつつこの身はやはり幸せだろう

もう人と比べることは止めたんだ 今年も静かに散る山桜

藤瀬こうたろー


性善説は海から

平穏は性善説に基づいて タッチ水槽 ドクターフィッシュ

安寧は性善説に基づいて 日本で最後のラッコのつがい

安穏は性善説に基づいて クラゲ観た後のクラゲラーメン

しみず


羊水で眠る

羊水で眠る あなたはせかいから薄い瞼でまもられている

粉薬 とぷりと夜に落とされて溶けていくのはあたたかい闇

ハルという名前のついた錠剤で会いに行くからどうぞおやすみ

にいたかりんご


「ホワイトノイズ」

いつだって奏でていいよ ここにいるあなたの為の鍵盤だから

五線譜と世界は結びつけられる花びらひとつひとつに音符

何度でも生まれなおせばいいでしょう綿毛はすべてホワイトノイズ

きいろい


単身赴任

スーパーに一人前のカレールー 三棟並び立つレオパレス

この町に馴染む気がする駅からの散歩五分で畑広がる

愛用の品を購う場所を決め四月の町に根を下ろしゆく

りのん


たのしいにちようび

いちごとは土から生えていたのだと吾子は世紀の大発見をす

羊からおじさんの如き声のして強ばる吾子の顔に満足

この歳までぼーっと生きてたことを知るパイナップルのはたけのすがた

岡田道一


ごめんジャンバラヤ

ジャンバラヤのドライトマト潰しかけ悪かったのは僕のほうだよ

辛くないタンドリーチキン本質を見失っていく舌の上

しなしなのレタス隅々しなしなで謝ったって消せないじゃんか

川瀬十萠子


思い出はうすらいでゆく 失った時よりずっとそれは悲しい

行けばきっと蘇るだろう 引き換えに失くしたことも光にさらす

思い出は形を変える またきみと笑って歩くあの桜道

間由美


目の中に海

思い出が海の底から見上げてる目が合ったから慌てて逃げた

諦めて縹の朝に腰掛けるきみの影から逃れられない

顎を上げ首を晒して待っている愛に殺されるのを今かと

かなしだ


寂しげな桜は何度も振り向いて だから握りしめ春を帰さない

もめん


頑張ろう!就職活動

震えつつ海老の背わたを取る時に振り込まれたる傷病手当

真夜中に証明写真を撮りに行く そして なんだか なぜか泣いてる

書けば書くほどに全てが短所だと気づいてゆきます アムステルダム

アルコール依存症


つい癖で

いつだってこんな調子だ余らせてゴミ袋行きのソイプロテイン

つい癖で大盛りと言いつい癖で痩せたいと言いつい癖で死に

このバスで揺れる月光浴びながら運転手さんと僕は前向く

アゲとチクワ


少年真魚

空と海、海と空とを融合し水平線は遥かなるもの

その名は真魚 長じて空海 佐伯氏は海沿いの地に生きた一族

夕されば海辺に立ちて金色の海を見ていた少年真魚か


歯医者に行きました

レントゲン写真と並び医師を待つおんなじ骨が二人いる部屋

骸骨の歯を数えれば二十四ぴったり顎に収まっている

そのうちに一本もない親知らず 抜け落ちたのは歯でなく記憶

北野白熊


「フラワー」

カリフラワーは花束ですか?そんなこと知りませんよと応える辞令

はんこしか私物と呼べるものはなくエアープランツみたいねわたし

サドルだけ足りなくなった自転車に花束挿して今日はおしまい

きいろい


散るさくら

ここにいるけれども色を失ったわたしはもう、ようずみですか

生命《いのち》らが集う翡翠は変わり映えしなくて誰も見上げやしない

灰色が並びたっても僕は言うキレイなものは美しい、ただ

井上 真改


ちりゆく

未だ咲かぬ蕾の儘の恋ならば 綻ばぬ儘抱いて逝きたい

もしも今あたしがここで死んだらさ 花見はここでしてもらえるの

舞い踊り臺に戻れ徒桜 夕陽昇らず ふるべゆらゆら

牟燈灰


温《ぬる》む

声をかけられない昼の菓子パンの百円程度の引っ込み思案

春ま昼 乾いた咳が部屋に消ゆ 安アパートの窓 ゼラニウム

無理しなくてもいいのかも 地球は人じゃないもののほうが多いし

犀川ほの葡


アディクション

暗闇に目蓋をひらきまた閉じて夢か現かたしかめている

しんしんと夜はからっぽ まっすぐに引き裂くように走る流星

わたしにはまだあたたかい海があるひたひたみちる波にまどろむ

月夜の雨


Fwanpe

その風はきみに呼ばれた、フワンペのようなものしか受けつけぬ日に

眠れずにつらい子あればすべらかなまぶたにふれて歌うフワンペ

フワンペはその手に渡り続くだろうタオルケットの孕む祈りよ

青野 朔


乗り物

二倍弱重いペダルを漕いだときこの地球ごと回りだしてた

「おい、チョーシ乗るな」と君はよく噛んで僕の貰ったチョコを処理した

おろさない ぼくのからだに乗っている君の笑顔をみて思ったよ

まだ間に合え


泣き虫

泣き虫のなる木があって旱魃や少雨の年もよく育ちます

泣き虫が突然家を出てしまいわらっていますかなしいけれど

音信の長らく絶えた泣き虫が仲間を連れて戸をたたく夜

葉和遊


お庭にタンポポが咲きました

人間はきっとすぐには死ねなくて薄く萎れたタンポポみたく

タンポポに抱く想いは変わってた写真に写る黄色は花粉

人間はきっと何度も繰り返すお庭に咲いたタンポポみたく

そば@短歌


陽だまりのファミレス

駅前の賑わう声をカラフルなBGMに変えるファミレス

「食べられるものは何でも食べてきた」少女の顔でメニュー見る祖母

パフェは水これは宇宙の真理だとグラスの底に語って聞かせ

茶葉


最中の夢

もういっそ私から産まれなと思う69(シックス・ナイン)の最中の夢

舟を漕ぐように体を揺すぶられ存在しない水音を聞く

様々な人に渡ったちちふさが私に還るまでのみちのり

Kirio


四月一日

一日にほんとは生まれていたという四月二日の子である私

はっきりとした境目が多すぎる世界を嘘が地続きにする

神様はいないんですか いつまでも呼吸が浅い四月一日

木ノ宮むじな


サイリウムの世界

サイリウム夜空のように光りゆく願いはそこに届くのかなと

光らせて想いを届けようとするあなたにファンサしてもいいのよ

楽しいね 楽しかったね 言えるなら汗も涙も無駄にはならず

雨宮雨霧


シュークリーム

誰といても消えたい夜は蕩ける シュークリームにも虚ろがある

膨らみそこねたシュークリーム 続いていたら? シュレディンガーの二人

致死量の愛、シュークリームにつめる。モルヒネのごと麻痺する情緒

水無月ニナ


桜目線で

どれくらい経ったのかすら分からないいつまで咲いて在り続けるの?

虚ができ軋みを上げて支えられ大事にされているのは分かる

自然にと咲かせて散ってあるままに朽ちていくのは許されますか?


綿毛

ひさしぶり連絡してきた名前見て元友人と心中で呼ぶ

切れごたえなければ気づかないかもね薄い唇セラミック製

たんぽぽの綿毛に伝授してもらう身辺整理のうまいやり方

はるかぜ


いずれ乞う甘露

さらさらとかきこむように朝餉食う江戸っ子までの道は遠いさ

侘び寂びは今も知らぬが生山葵を山ほど乗せた鮨の旨さよ

五つ時に齧る焼き菓子これほどの至福の糧をいつか知れるか

七夏


ロココ調の夢を見させて

眩しくて見えないお城 ディズニーのプリンセスにも試練はあって

王子との結婚式を人生の絶頂とする古典文学

匿名を纏いことばを刺してくる SNSに潜むヴィランズ

真朱


そして雨

春が来るたびに新たな表情で「あれは桜?」と尋ねるからね

どこまでが前歯なのかと舌先が戸惑っている三度目のキス

雨音をあなたの声と思い込むこともできるよ 静かに呼んで

宇祖田都子


鬱病三題

病得て愛は得られずこの生を誰か夢だと言っておくれよ

空っぽの心なれども満ちている不安諦め焦り絶望

どうしたらこんな世の中渡れるのいつも震える蚤の心臓

よいしょ上手の高木さん


優しい人

君はきっと優しいのだろう鯉にあげるからと食パンの耳ためている

ほつれた糸をゆっくり解くその所作が君らしくて指先をずっと見てる

悲しい程の花吹雪と言った君は優しい

あと何度一緒に見れるだろうか

フラ子


ととのへる

キッチンでミックスナッツ齧りつつ明日の献立かんがへてゐる

連休のワンオペ乗り越え図書館の紙のにほひを吸ひてととのふ

いつもより濃いめに挽いた珈琲とお気に入りの塩バターサブレと

碧乃そら


シャワーする

夏が唾かけてくるから シャワーする 強い人にも負けないように

愛され上手かのように シャワーする フリーズドライがほどけてく冬

人生の真価試される余生 シャワーするのは これまでのこと

ムラサメシンコ


いいわけ

春だからうっかり買った花束を抱きしめてみる追い風になれ

春だからまあいいかで許されるそんな魔法が使えるのなら

春だから会いたくなったよあの人に伝えてください、元気でいますと

ホワイトアスパラ


両目を塞ぐふり

あちこちで散弾銃が散乱中振り向けばいつも無残な歴史

スリープのように両目を塞ぐふり第三の目をガン開きして

常識を砕いて鳴らせエゴロックワンツーすりぃで立てる中指

汐留ライス


「治らないから」先生は本当のことを正しく鈍器のように

片脚に錨を付けたまま生きる金魚は母を許すだろうか

死にたいと泣く子の声を聞いている静かな海の深いところで

よしなに


春の惑星にて

木漏れ日の差しこむ部屋の出窓まで亀のあくびが連れてくる春

川べりで犬が穴から掘りだした花の化石のようなオカリナ

眠そうな老犬を抱くまだきみは虹の橋まで行かなくていい

鹿ヶ谷街庵(ししがたにがいあん)


四月始まりの手帳

真新しい手帳に最初に記すのは引継の日と慣れぬ肩書

煙吐き「今度の上司、女でさ」愚痴るオヤジを横目に 乾杯!

ワタクシを管理職にすることで女性活躍と言えるのならば

桜咲


301号室の窓から

これが36.5℃《さんじゅうろくどごぶ》の音 頼りない僕が生きている心音《おと》

今朝君が握ってくれた左手に右手を重ねて泣けばいいのか

徒桜ひとひら撫でてのびをする駐車場の隅茶トラにならって

まつさかゆう


14年

故郷はいつまでふるさとなのでしょう テセウスの槌音がする街

笑顔とか思い出せないこともある 会いたいだけはずっと会いたい

生きているあなたの声がする今を抱きしめている生きて、生きてと

木ノ宮むじな


ほのうじゃなくてほのお

コンロから生える炎は雪平のお尻らへんを何度もなぞる

最小のたましいとして一瞬ですべてを語るお香の炎

それっぽいことを言ってもあの星の炎はきっと星だけのもの

てと


傾く愛

からあげになりたい消えぬ火傷つけ美味しく食べられ君とひとつに

向き合って眺る君の虹彩は月面に似て息ができない

触れられた皮膚は熱帯び君のこと溶かしてしまう融点は今

海沢ひかり


リスナー

ラジオから薄くこぼれて四限目の窓外にきらめく声がする

片耳のイヤホンをしゅるしゅると梳く 机の日焼けのひとつになって

皺のない漣でしたAMもFMも教師の揶揄いも

ぶりきのかに


ソロキャンプ

バーベキュー味のスナック噛み砕くバーベキューでは食べない味の

mont-bellのペアのチェアが可愛くて同じ模様のシュラフを買った

真昼間の焚き火動画に癒されてソロキャンプよりひとりのあたし

まさけ


春眠

二度寝してごはんを食べて昼寝して起きたら夜でもう眠らなきゃ

暁を覚えていないわけじゃない朝が来てからいつも寝てるし

眠すぎて何も考えられなくてzzz・・・・・・・・・・・

汐留ライス


君の隣

仕事して帰って暮らすそれだけでスキップできる君の翼で

不透明だから未来に行ってみてふたりで絵でも描いてみようよ

ときめきはやすらぎになり包まった君は布団のような存在

海沢ひかり


祈ること、願うこと

祈らずにいられぬときがあるでしょう祈りは無意味と知ってはいても

流星を飲み干したこの体ごと弾けて次の流星となる

地獄など期待できないだからこそあいつを不死の刑に処したい

桜井弓月


世界はいろんな色をしている

誰にでも同じになんてできなくて不揃いになる色鉛筆は

火星なら赤なのだろう背景をブルーに塗ったここが本拠地

令和には白い苺があるように違和感のある明日を迎える

真朱


魔法の前置詞

何にでもよく合い美味しくなりますよ魔法の前置詞「北海道産」

追加での契約ならば割り引きます副助詞セット「今日までの」とか

おめでとうノルマ達成ご褒美で期間限定部長に昇格

瑞波草


現代版天使目録

解ってるもうアナタには会えないとだから代わりに天使を殺す

ミカエルだラファエルだのと名付けては天使を消費しすぎる社会

飛ぶよりも護ることへとその羽はチカラを全振りしたんですね

空虚 シガイ


『誘拐』

春だから人間が吸い込まれてる川の近くの桜の花に

日本語じゃない人たちも集まって桜を求め左手伸ばす

満面の笑みで摘まれた桜花もう二度と家には帰れない

ツキミサキ


梅の園

地に坐す梅香龍のひげ先でメジロは歌う冬へのさよなら

ハロー、アン!こっちは梅が盛りだよ。歓喜の白路の様子はいかが?

満開でたたずんじゃった梅の園 たた・ずん・じゃっ・た たた・ずん・じゃっ・た

三月の梅雨に降る雨やわらかく落ちた先を鮮やかにして

おしまいは平等に来る木も人も法華経高く響く梅園

満開が遅れた今年の梅ならば胡蝶よ あなたも舞えるでしょうか

別木れすり


グリーンスムージー

熱く濃い珈琲を飲む昼下がりせめてミルクと砂糖を入れて

寂しさを寂しさのまま飲み干してレモンとジンで口直しする

紫の朝に孤独と小松菜とその他もろもろミキサーに入れ

田仲トオル


金波

文明の風を帆(セイル)に浴びながら金波を裂きて船は進まん

もう疾うに砕けしデネブ新しき星座の名前全てが欲しい

むつごとを囁くやうに帆を張れば無風はあまく鳴きはじめたり

六日野あやめ


ジョナサンの『ジ』って知ってる?

春光の広場を作る飲み終えたドリンクバーのカップを寄せて

デザートを迷いすぎてる幸せと不幸せとの区別をせずに

『プリンノセターノ』『フルーツモッターノ』あなたをもっと笑わせたかった

インアン


青空

この森のどこかに産卵する蛙 地球を覆うような泡を生む

木の枝にいた頃だろうか 池にいた頃だろうか

幸福な時はいつ森青蛙

殺伐としたこの世にも空があり しんと澄みゆく青空があり


黄身が好き

おっしゃって黄身が好きってさもなくば固茹でになる用意はあるわ

白身などただの脇役われこそはなによメレンゲそのふわふわは

そのままの黄身が好きとか言いながら厚い化粧を無理強いされて

鯖虎


郷愁

マウンドの18番に降る雨をかき消し空を染める風船

帰省より高い頻度で行く街はもうふるさとの顔をしている

傷痕は寒くなったら痛むから君の心にひだまりよあれ

りのん


五月蠅

気づいたらそうめん5束食っていた夕暮れ 夏の到来を忌む

誰より早く鳴き出した一匹に誰より早い八日目が来る

紫陽花の青き灯の消ゆひとつふたつ 夏向かふなり曇天の宵

蛙黽


弟が最期に触れたサインペン遺品整理で私が捨てた

凍る朝手向けの水をぬるくして寒くはないかと弟に問う

姿なく声聞けずともあの日まで共に歩んだ日々は永遠

ピロ


令和の作法

ゴッホが絵を描き始めたのは二十六 俺はその頃から禿げてきた

何もかも兄に学んだ エロトピア、ケンカ、麻雀、土下座の仕方

ベランダに天使の抜け殻 ていねいに翼をもいでメルカリで売る

鹿ヶ谷街庵(ししがたにがいあん)


月と八雲

これまでもこれから先も合わない歩幅それでも猫と共に生き

誕生日なにがめでたい君たちが去り行く日へのカウントダウン

君たちは我が身を通り抜け 穴だらけの体はひかりかがやく

小竹笹


室外機へ、込めて

嗚呼、室外機 と呼びかけるほどにも五台並んでる 見たことはない

室外機 吐き出し取り込み 無理してんじゃん? と声かけてほしかった

均等にぽつりがデフォルト室外機 わーわーと泣く四階に見える

いわかみあ


メロンパン

行列に並んだという思い出が思い出として並ぶ行列

格子柄ではないメロンパンが持つメロンの意味を考えている

考えていないようには見えないように考えているのが私

瑞波草


瘡蓋

黝《あおぐろ》き記憶の欠片《かけら》ただよひて忘れてもなかったことにはならないね

箱庭のなかで失くしたものたちはもう見つからない臆病だから

瘡蓋《かさぶた》を剥がしに来たの上弦と下弦はひとつになれないね

古井 朔


ここにいる

ここにいてはいけない子だここにいてって顔をしてこっちを見てる

何もかも光みたいな顔をして遠ざけていく もう いのら ない

透明な声を重ねる寒がりなきみがいつかは震えるように

([大塚正幸](https://x.com/ 4Zl5wF1Ynr78127))


カッパ出会いと別れ

「尻子玉?もう令和だよ」カッパからコンプライアンスマニュアルもらう

「あの日川、流れたことも悪くなかった」海の思い出カッパが語る

「人間は春が別れの季節なんだろ?」カッパを最後の泡まで見送る

新井宗彦


豚肉

・初めての買い出しはもやしとえのきと豚肉のファミリーパック

・食べきれず冷凍したまま1ヶ月冷蔵庫前でケンカした朝

・1パック200グラムの豚肉は 玄関の前におきっぱなし

母の早起き


憧憬

あの人の歌はあんなに丸いのにあたしの胸を射貫いてしまう

真っ直ぐであらねば、などと思わない真っ直ぐなひとの道はあかるい

憧れはもっとも遠い場所にいてずっと光を降らせてほしい

山口絢子


次女

「おねえちゃんでしょう?」「いもうとなんだから…」具がはみ出てるツナマヨサンド

甘えたらよかったのかなモクレンは空を見ながら雨に打たれる

実直にひとりで生きる気楽さに慣れれば独楽のようだ自分は

小仲翠太


下手の嘘好き

嘘吐きな三人、歩く。シャッター音。今はもうない海中電柱。

「人生が上手と言われている人」を横目で見つつチルアウトする

ひとりでも生きていけるという嘘をいつか本当にしたいのでした

奈路 侃


崩壊するデザートたち

アーモンドチョコが崩れてゆく姿あなたのなかに星の満ち欠け

べたべたの浮き輪みたいなドーナツといっしょに海に沈んでゆくね

たおやかな腐食のようにカスタードプリンが割れて誰の筆跡

畳川鷺々


横顔

枝を折り捨てる切り花その点に関してはほぼ何もない僕

冷たいか?それなら一つ、切り花が切られた時に泣いたか?君は

人間は生きてるだけで罪なんだ、とかなんとかで全て有耶無耶

エビ山


信号機

にょきにょきにょき 膝から上を刈り取られ にょき、にょきにょき 豆苗の日々

背伸びしたたんぽぽ一輪萎れてて「私は花瓶に見合わなかった」

慕ってた差出人に投げ込まれポストの中で眠れずにいた

nya


You and I

この世界広いかどうかいままでは考えたことなかった マジで

物理的正解なんか意味がない君の目を見て世界を見てる

ふたりきり それだけがこの世界でのハピネス広くても狭くても

北乃銀猫


ひとりごと

雪の降る窓辺を見てる喫茶店 隔絶された音楽に酔う

わたしたちなにもかもすら足りなくて崩れゆくふたりの赤い靴

午前二時明日の予定に目を伏せて押し込んだイヤホンと心中

水也


廃遊園

帰らなきゃ帰りたくないゆらゆらと揺れる少女が望んだ木馬

ぐるぐると巡る夢みる幻灯機きれいな景色映してまわれ

白露(しらつゆ)を纏う少女はうつくしい娘となっていばらの靴を

水也


春も巡る

薄紅の春の粉雪よく見ると 未来の我が子がかけっこしてる

玄関の扉から吹くつむじ風 彼の背中の、こぼれる口紅

子供用おもちゃが落ちる音がする父の棺の中の椿の

日暮五半


入園

園服のしつけを取りて幼稚園祝いのテープカットのごとく

家庭への調査書類を広げれば「親の方針」自由であれ!と

入園を終えたる吾子の武勇伝クレヨンに名を書きながら聞く

匂蕃茉莉


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