第21回毎月短歌・3月の自選部門 作品一覧

第21回毎月短歌・3月の自選部門に投稿いただいた短歌作品の一覧です(表示順はランダムです)

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しあわせは小さくなってく石鹼がひきかえに生むふたりぶんの泡(まる弥

悲しみが朝のまどろみにほどけても血になって巡ることを願う(伊藤アニマ

埋み火のような想いにふたをしてなのにこんなに夕日があかい(睡密堂

三月の鳥の即死の降る花の名前に神の綴りを探す(宇祖田都子

楽しみは八ヶ月後に母になる 乳房吸う子とあやすあなたと(稲子

僕よりも十三センチ背の低い母から僕は産まれたんだね(須藤純貴

清らかな空気を胸に送り込む手段としての深いため息(ピロ

春の雪 誰の為でもない花冠 降ってしまうよそういう雪だよ(川瀬十萠子

暴かない優しさだってあると知れサンバイザーじゃ消せない夕陽(りのん

パソコンを教えてくれた伯父はなお生死不明でまた春が来る(奈路 侃

体内にいくつも海を抱えてて違うリズムで満ち潮になる(ただの みい

行けたらいくみたいに死ねたら死ぬと言うあなたの跡を追っている (雨宮雨霧

車窓うつ点描の雨なぞっては星座をつくる 目的地まで(いろど(Irod’)

母さんは母さんだった何度でも裏切ったって傷つけたって(白鳥

六畳に独り転がる鯨あり何吹くでなく裾はだけをる(鯖虎

毎日を余白のために生きていくどうかあなたは南極でいて(白鳥

泣かなくていいよ来年また咲くし うちらからすりゃチルしてるだけ(よいまね

言葉などきっと無意味と知る夜にオオミズアオの翅の水色(宇井モナミ

指先に触れたい爪のかたちとか柔らかさとか確かめてみたい(宮緖かよ

産道を抜けて光に包まれるためにゆだねた暗闇のこと(よしなに

繭のように眠りたいんだ雨乞いの司祭が空を見上げていても(虚光

頭まで湯船につかる目をあけて眠る魚は泣かないだろう(みぎひと

この星におりた鬼たちやさしくて実は豆などこわくないのだ(椿泰文

今飲んだ水と一昨日飲んだ白湯 共に唾液になって呑まれる(村川愉季

忘れずに書き出したのに留守番をさせてしまったお買い物メモ(青色紺色

あの頃の相互リンクは脱ぎ捨てたままになってる上履きみたい(きいろい

さりさりと春を呼ぶよに降り続く前奏曲のような雨だれ(アサコル

生まれくることをみずから決めてないすべてのいのちの額にキスを(綿鍋和智子

手を繋ぐ時の温度が好きだった指の先まで愛されていた(桐谷やまと

火の中に入(い)る蛾の最期の瞬きを目を逸らさずに見つめてるわれ(藤瀬こうたろー

日記には嘘はないけど書かないでおいた思いの分だけ余白(琴里梨央

船が着く 港の春だ春霞 波切り不動の花となりたし(

人間は弱いものだが皆花さ 桜咲くころ宴としよう(

夜の風 いつかあなたに逢うために 木の葉ゆらして雨にも濡れて(

トーストにバターを溶かす手のままでスマホの通知をそっと無視する(箭田儀一

薔薇色の糸でコートを繕えば擦り切れるほど美しい冬(つし

まだそこに居るかのようにいつまでも時間を止める父の本棚(花林なずな

本当にすべてを攫った波に浮く死がぼくたちをじっと見ている(てと

まよひでたあなたのかげからくるしくて意外と寒いね春の半月(古井 朔

色のない世界に宛てた手紙にも返事が届く また遊んでね(水也

春色の薄いコートを身にまとい手を振る君を迎えに行くよ(須藤純貴

背表紙が定義している内容を外れて飛んで行く先は空(Sand Pawns

オルガンの一音を鍵として開く公民館の聖夜のライブ(小野小乃々

母親になれたらどんな子育てをしたのかと思うエリザベスカラー(稲子

君じゃない誰かが死んで君じゃないことに喜ぶなまぬるい夢(岡田道一

好きにキス夢から覚めてお姫様 推しより王子という運命(京本らき

すぐ横で眠るあなたを起こさずにうどんを作る生理前夜(水柿菜か

焼き物の少女が微笑みかけるからそっとしまった母のブローチ(まほう野まほう

「声だけでいいから聞かせてほしい」とは、随分上から言ってくれるね(四辻

早生まれの人たちだけが持っている波で作ったやさしいチャーハン(サ行

お互いをあたためようと集まった枯葉 このあとやかれましょうね(葉和遊

ひとひらの花弁も花の群れたるも惹かれてやまぬ桜の色香(北乃銀猫

人間を恐れることもまだ知らず一心に地をつつく子雀(桜井弓月

光 ただ そこに存在してるのに、あなたが神を創ってしまう(真朱

つながった手はいつまでの期限つき離れる熱が爪をいろどる(水也

黒雲母一枚一枚剥がす様に誰かが、落ちてゆく、群れから(六日野あやめ

早咲きの桜の蜜を吸いに来たメジロのように君を吸いたい(森風輝

桜月散る散る満ちる薫り立ち世界の終わりに花はきらめき(つくだとしお

心臓をかばってゆがむ必然の左乳房をつぶして生きる(よしなに

深呼吸すれば春の酸素受け取った赤血球身体をめぐる(

我々は夜が明けると今日になり、いつも明日を忘れてしまう。(実森詩音

走るのは痛みを追い越すためだからやさしい曲は聴けないんだった(虚光

孤独には慣れているから冷めかけたココアがしみる。きみのせいだよ(Rhythm

サンダルで濡れないほどの水溜り すくえぬ命にどこか似ていて(エビ山

一度だけ漂うの」約束をして閉じたきりの、翡翠の眼です(ぶりきのかに

どこからも切れる袋は切れなくて繋いだ手ほどたやすく切れる(睡密堂

どうしても外にはみ出るカスタード隠しきれない秘密は甘い(月夜の雨

恋になる手前で炎弱めればうまく作れる半熟卵(茶葉

幼生が尻尾をなくしていくように私はポニーテールをやめた(北野白熊

施して神になれるし仏にもなってるけれど友達じゃない(鯖虎

はじけきる記憶を宝箱に詰めいつかの春に死ぬ気がしてる(綿鍋和智子

雨じゃなく雪にもなれずこれからもきみを困らせてしまうみぞれ(真朱

愛されるべきだと中身を詰められたシュークリームが胸焼けになる(中村祐希

泡沫をねむそうに読む すこしだけ すこしだけ春 かえっておいで(畳川鷺々

虫一匹殺さないような顔をして鳩サブレーは頭からいく(汐留ライス

弁当のうさぎりんごに跳び方をあえて教えてあげない花園(石綱青衣

詩にならない女がいいよと言う君が誰かの扶養に入る区役所(はじめてのたんか

花束を電話で予約しただけで別れがぐんと近づいてくる(アゲとチクワ

窓際でアイスコーヒーからころと鳴らす 今日から弥生三月(桜咲

星のよな小石や貝を反復で波が洗うよ摩耗水底(たな

名前付けぬいぐるみ抱き眠ってた頃の優しさなくさない君(織部ゆい

新鮮なシーラカンスはいるのかな? いるか、うちのじいちゃん元気だし(佐為

神様は「忘れないようちょっとだけつらい別れにしたよ」と言った(星見奏多

友達を作らなくてもよいように桜に心を寄せなくてもよい(奈路 侃

好きな花ゆびおりあげてゆくうちに歳を重ねていたい ロータス(納戸青

飼い主の手から離れたふうせんは世界を吸い取る駒込ピペット(きいろい

宝物も箱もさいしょはがらくたであなたがそれをそうしたんだよ(bow.

階段がプリーツみたいに広がって螺旋 回転 こちら踊り場(市井すい

好きなだけ打ち鳴らしていいティンパニをあなたのために用意しました(仁科篠

関係を絶やさぬ為のおともだちそれでも側にいてほしくなる(静麗

一枚の花弁をきみが人生の栞にしてる区切りのために(桐谷やまと

渡すのはバトンじゃないよ君にただ受け取ってほしい祈りと呼ぶもの(みぎひと

おれたちは光を求め死んでいく蛍光灯の中の永遠(にいたかりんご

「何か来る」みたいな顔を見せるから雲の切れ間の宇宙がみえる(白川楼瑠

何者にもなれない僕に三月の空は光をくれて戸惑う(藤瀬こうたろー

転生に連れてゆきたい思出もスマホと共に風化するだけ(吉井ヨッシー

可愛いいいことが起こる予兆ではなくて今この虹に出会えたことこそ(Umi.

誤認して誤認されつつぼくたちの春はもっとキモくてよかった(畳川鷺々

怪獣の卵でつくったパンケーキ 母怪獣の前で食べます(nya

近影を想う先には昼の月梅に隠れることもできずに(みぞれ 雪

大木に落とした枝で文字を彫る「そんぞくさつはしてはいけない」(nya

苔庭に霧をまぶせば陽光が差して辺りに溢れるダイヤ(すずきみなみ

この恋はいろはにほへと散りました されどあなたに逢いたくて咲く(サ行

切り取った四角から見た青空は深く遠くて迷子になった(

伝えたいことが蛹のままで春 準備中とは便利な言葉(青野 朔

固い重い扉を開けて来たんでしょう春のほうから望まれたから(青野 朔

事後なのにさらに裸にされている きみが静かに本棚見てる(てん

子の抱く闇を知りたい夕焼けがひかり食みゆく夜がはじまる(小野小乃々

レンチンで爆発しちゃったウインナー火傷する口らんぼうなくらし(別木れすり

少しずつ花弁を落とし公園の椿は春に脱がされてゆく(すずきみなみ

スカートを四十二回折って穿く そうして輝夜は月に帰った(佐為

千年経てばみんな化石 わたしとびきりポップな服を着ておく(水無月ニナ

鯨幕《げいまく》のコントラストの濃ゆき夏通夜に異形の客集まりて(てん

子供らのペンの持ち方個性あり みんなちがってみんなよくない(岡田道一

ヴォーカルの女性の眠らせるような低音を聴いて好きになった(

通院の帰りは本屋さんに寄り僕が僕だけに処方するんだ(アゲとチクワ

風俗へ赴く姉の唇が生まれたままに近づきつつある(nya

両脚を肩幅に開き手を上にあげる 閉経を待ち侘びながら(えふぇ

飢え、呻き、病、ワクチン、2つの目。今これが吾とアフリカの距離。(エビ山

洗濯機ぐゎんぐゎん回す悲しみはすすぎ洗いでだいたい落ちる(白鳥

咲いたならいつかは枯れてしまうからひとひらだけは栞にしたよ(須藤純貴

星を抱くその清らかささえあればきっとまだ諦めなくていい(佐竹紫円

ここにいる僕を無視して急行が通過していくときの突風(雨野水月

対岸を生きるあなたも私だと気付かず石を投げ続けていた(別木れすり

まだ全然死ぬ気ないけどこの短歌だけは残るよ俺が消えても(百壁ネロ

深海魚が何か叫んでいる きっと悲しいのかな可哀想だな(雨野水月

何一つ無駄にはしたく無いのだと貰ったレシートさえも捨てない(さんそ

平仮名のちに点々のニュアンスを噛み締めているこれも毎日(せんぱい

歌声は色とりどりの花になり旅立ちの日に束ねて贈る(萎竹

結晶の姿を知って雪解けが痛い きみとは友だちでいる(てと

裏切った予想の死体積み上げてあとはロックにでも生きてみる(空虚 シガイ

夕暮れにさよならなんて泣きながら夢に出てまで言うことじゃない(まつさかゆう

神様のように言葉を祀ってた開いたこともないブリタニカ(汐留ライス

土手っ腹デカい風穴あけられて山にもきっと痛覚はある(さんそ

気を抜けば指も思考も止められてあなたの声は油断ならない(宮緖かよ

イヤホンの中は海 波 繰り返し繰りかえしくりかえ(雨野水月

あたしの自転車の後ろの席は歩き疲れたカラスの止まり木(四辻

わたしには読めない時計が掛けてあるあなたの部屋の夕陽の角度(畳川鷺々

一年の憂いを全部包み込み解けてなくなれ 三月の雪(桜咲

不凍湖のようなあなたの桟橋に舫われているだけの月でも(よしなに

木漏れ日は翻訳できず国内の秘密のひかりとっておこうね(実森詩音

いろいろなものから卒業したけれどいちばんしたいところで留年(北乃銀猫

スカートをつまんで駅の階段を上るときに鳴るドレミのレ(青野 朔

苦しみの先が夜明けと言うのなら一生夜であなたと踊る(にいたかりんご

ブランコをえらい勢いで漕ぐ女がいた 深夜二時だった 春(四辻

その人は座席に残された落ち葉をそっと拾ってポッケに入れた(ただの みい

かばんの底に弁当がある 北国のバスでたたんでいる足の上(ぶりきのかに

道端に白く降るのは雪でなくもうこんなにも梅の花びら(桜井弓月

寺に生うる三百余歳の木々たちが見守る道を朝夕歩く(ピロ

ここからは別のせかいのお話で鍵の音すら悲鳴みたいに(白川楼瑠

私たち全然違って全部いい カレーを迷わず2種盛りにする(萎竹

死神を引退したら一輪の桜とながい話がしたい(村崎残滓

虹色のケーキはいいね個性とか呼ばれてみんなに可愛がられて(いろど(Irod’)

滅亡の予言は当たるまで続くステゴサウルスの朗らかな余生(えふぇ

眼を閉じてひなたの匂いを吸う胸にミス・サリヴァンがやってくる(川瀬十萠子

ミルクには少し魔法がかかってて死にたい夜にうっすらと膜(にいたかりんご

母の味6割くらい引き継いで我が家の味になるちらし寿司(青色紺色

此処にある春はあなたが買ってきて私が生けた他愛ない春(梅鶏

芽吹いてく色んな姿見つけては止まったままの君を思うの(

芽吹き、花、春、春、春のパレードに黙るしかない押しつぶされて(山野たみ

有給に「何で?」と聞くな自由だろ 自由の「銃」の部分で撃つぞ(佐為

バイバイと別れた後に振り返る目と目があって同じなんだと(海沢ひかり

君だから彼らがついてくるのだろう 俺赤ピクミン、全員燃えろ(青柳 暁音

寄り添って家に帰ろう僕たちと袋のなかのミスタードーナツ(村川愉季

そこに居て撫でてくれるの雲間から伸びる陽射しはきみの手のひら(宮緖かよ

だれよりも清く正しいひとだった 白い絵の具は最初になくなる(まる弥

右胸の硬き腫瘍を守るがに抱き温める左掌(ピロ

菜の花となばなの違いとか君が教えてくれた雨の日曜(桜咲

玲瓏とひかる背骨に手を添えて頬からゆっくり溶かしてゆけば(叭居

昔からセコマは身近にあったけど北の大地は到達できず(永沼 花楓

ちょっとだけ私の世界を変えたのはいちご大福と君の香水(まつさかゆう

跳ね上がる心臓はひゅるり虹を超え火星でタコと友だちになる(叭居

あいまいなことばっかりの世の中で空は確かに私に青い(木ノ宮むじな

ほんとうの愛をどうして見分けるの?模造品ではカニカマが好き(インアン

さっきまで陽だまりにいた君の背は春の依り代 抱きしめてみる(ぐりこ

犬は冬 世界に少しふわふわが増えてそのぶん天国になる(村川愉季

ビル窓を泳ぐ夕暮れドレミファソ「ラ」の音だけが夜を着ている(いろど(Irod’)

爪痕は未だに残りあの日々が確かにあったことのしるしに(せんぱい

収骨の箸から零れる星屑のようなあなたの喉仏(Umi.

君と僕 最後のボタンを掛け違い近寄るほどに離れる心(つくだとしお

ことごとく外れる勘は健在でまたもレジにて長く待ちおり(山口絢子

テーブルを拭けども拭けども梅の花叱れない僕きみはおすまし(北乃銀猫

ぼくの愛の仕草は鳥とおんなじできみの寝床を整えること(たな

夢ならば どれほどよかった でしょうという 歌詞が目頭 刺す夢見月(茶々

朝ぼらけ田んぼの道に白鷺がパリコレのごとしゃなりと歩む(睡密堂

全国のヒーロー集結したような三十三間堂の仏像(ツキミサキ

白い息吐いてた冬は暖かく芽吹く春には心が冷える(山野たみ

新しい定期の文字は浮きあがる東京駅の屋根の尖塔(椿泰文

人生の編集点として薔薇をください此処で切ってください(しみず

幻痛は毎夜のように飛び交って愛された日々の傷跡うずく(つくだとしお

人生のifとなって消えていった期間限定ドーナツ、さよなら(メタのおわり

午前二時 町にひかりの雨が降りきみと逃げ込む唯一のコンビニ(まる弥

切り替わるシーンとシーンの間には暮らしがあってたまに爪切り(ほしのひかり

風にさえ好かれる君の黒髪に太陽はただ光を注ぐ(海沢ひかり

編むうちに黒ずんでいく白レース 君には手垢をつけずにいたい(中村祐希

さっきまで手に持っていたかなしみがなくなってあれからずっとない(葉和遊

魂に刻み込むから来世でもどうかあなたに逢えますように(織部ゆい

口にするものから次々高騰し無口になって食むハムサンド(小仲翠太

こいびとのパラシュート折るときみたい A3を折るときのあなたは(白川楼瑠

永遠と永久はどう違うって君のいつかと約束くらい(りのん

海岸を歩いていつかしたいこと語り合うから人魚にされる(

忘れられたガラケーたちが住まうガラパゴス諸島がどこかにある(

求愛をしてる孔雀をケツ側で見守るようだ息子の恋は(木ノ宮むじな

泣き虫のなる木があって旱魃や少雨の年もよく育ちます(葉和遊

手のひらは不思議なかたちつなぐのにちょうどいいかたちをしているね(みぎひと

今日もまた気分の波に踊らされ疲れ果てたる病なるかな(よいしょ上手の高木さん

紙魚は知る人の不幸は蜜の味イヤミスばかりを食って、穿って(別木れすり

もう誰も見向きもしない葉桜の柔きみどりに愛しさ感ず(よいまね

足跡としてのみ今はひかりだす 月のかけらの混ざる砂浜(bow.

たましひの形はきっとまるくって、満ちては欠けるほとんど欠けてる(古井 朔

背表紙でわかるあなたは新聞のレイアウトと同じ性格(エビ山

真っ白なスカート揺らし駆けてくるあなたも春の風景になる(花林なずな

吾子はまた得意気に砂利を持ってきて宝石の意味を教えてくれる(岡田道一

ため息は糸雨に縫われていつまでもグレーの空に消えられずにいる(ムラサメシンコ

ぱっくりとひび割れ赤い指先がやわいわたしにつけた擦り傷(さんそ

散り落ちて水面漂う我を見るやさしいその目に思いを寄せる(よいまね

百万遍君の名前を唱えれば鍾乳洞に生まれる形(宇祖田都子

真夜中に木々がしぃーんと集まってこれからのこと話し合ってる(たな

降る雨が ビニール傘を薄紅の水玉模様に染め上げる 春(時雨

木星のホルンのソロを聴くように春のあくびはなんだか甘い(川瀬十萠子

陽だまりをだれより早く陣取って地主のような野良猫の背(水の眠り

泣きながら宝石になるはずだった愛しさを抱き締めては眠る(美鷹周

絶対をひたむきに追いかける君のその若さが羨ましくて(ただの みい

正しさの地層だろうか 真っ白な食器ばかりを重ねゆく母(メタのおわり

きみのそのたらこみたいなくちびるもむさぼれないや痛風だから(竜泉寺成田

『スタインウェイだったころを思い出せない板切れのためのプレイリスト』(

いつだって裏切っていたその思い自分のことを見ないフリして(

間に合ってよかった短歌詠み始め馬場あき子さんの選のあるうち(椿泰文

戦場(いくさば)のまんなかきみのポッケからあらたな花があふれだす、春(六日野あやめ

うぐいすの声に目覚めしつぼみかなほころぶ花に風そよぐ朝(村田千和子)

不浄する夜は月を乞う蛾になって羽ばたきたくも身は腐り堕ちる(伊藤アニマ

ベランダでたばこを吹かす君の背は強がることが大人だと云う(雨宮雨霧

石は石ただ転がっただけなのに宝石にされてゆるせなかった(夏谷くらら

軽いから星になれた泡たちの命は夏の海に浮かんだ(市井すい

かけうどん小をたべたらキミからの手紙を読んでメソメソしよう(沙々木キハム

桜散り向日葵垂れて雪が降る季節のように君が過ぎ行く(傘糊

今出会う本だったなと思えたら神様っているんだと思う(萎竹

うららといふことばそのもの蒼天をいろどる春の彼岸のひかり(叭居

蛍光の線が引かれた古本で顔も知らないいのちを読んだ(竜泉寺成田

透明な祈りが枷になることを知らずに何度重ねただろう(茶葉

舞い降りた花びらはみな風に乗りまた集まりて満開となる(まほう野まほう

甘くなる街の風を頬に感じ春の訪い霞む空にも(森風輝

ハモニカと同じ手つきで食べているサンドイッチは春を囁く(瑞波草

倦むときは浮かない曲に身を鎮め深海のさかな胸をつつけ(伊藤アニマ

スーパーに行った夫をスマホから遠隔操作してる夕暮れ(北野白熊

また少し想像上の私との距離があく春また歳をとる(木ノ宮むじな

ひとなみに貯金はあるし裏山に元カレたちも埋まっているし(沙々木キハム

鳥たちがみんな祈りであればよいそのまま絶滅すればなおよい(Sand Pawns

会う前に富士山麓の水を買う 邪な心を薄める用(つし

想いなど気づかぬままに笑うひとアイスの溶ける速度が憎い(箭田儀一

あまい声「羽化するね」って先輩が紺のブレザーぬいで卒業(サ行

思い切り振りたいときがあったのになんでヒトからしっぽが消えたの(柾木理花

コンビニの窓にうつった寝ぐせごと春のひかりにまるごと洗う(箭田儀一

人生の向かい風にも荒らされぬ前髪を持つあの子ロリータ(てん

わかるよって君がさわったところからこぼれ続けるピース・オブ・ハート(石綱青衣

少しだけ自分を褒めてあげたくて街で小さな花束を買う(花林なずな

涙目も不調も鬱も花粉とか黄砂のせいにする春が好き(さに。

永遠にロマンスだけを見ていたいオタマジャクシとカエルの間(瑞波草

抱いて寝る?あなたからの「ありがとう」枕の下に入れて眠るね (みぞれ 雪

今朝もまた自転車マークを5、6台ひき逃げしながら仕事に向かう(小仲翠太

シンナーじゃなきゃ溶けねえとイキりをる絵の具につんと垂らす水滴(鯖虎

ミシン目に沿った仮縫い解くよう形造ったあなたと別れ(月影晃

かろやかにDNAの撚りを解くように春風きみがまぶしい(インアン

「例えば」を縫って繋げた帆を張って五次元宇宙船長となる(辰野音子

はるのこゑ雪解《ゆきげ》ながるるせせらぎを聴きてゆうるりほどけるたんぽぽ(碧乃そら

暇というぽっかりあいた穴の中本を読むのにちょうどいい場所(ツキミサキ

朝起きて夜寝るなんて決めたのは誰だ 自由を取り戻せ、春(百壁ネロ

この恋は心の底に閉じ込めていつも通りに笑えてるかな (雨宮雨霧

花粒子に くちゅん と応える可愛さであなたを知った 逢えてよかった(

穏やかな人になりたい 子を宿す子宮のようなあたたかな闇(アサコル

太陽や月にも顔を描く君は全宇宙から守られている(琴里梨央

嘘に嘘 重ねる君の真実は落ちた紅葉《もみじ》をかきわけた先(稲子

ルミエールみたいな軽さがほしいってペンギンみたいな夢をみている(Rhythm

針穴に糸通す時思い出すしつけ糸のような祖母の縫い跡(まほう野まほう

透写紙に雪をかさねて視る初夏の北海道をあなたとめぐる(小野小乃々

手に本を抱え行き交うそれぞれに約束めいた灯火をもつ(せんぱい

もう傍にいてはくれない白米を宝石商のように研ぐ朝(瑞波草

役割を全うするの泣かないで私は避雷針なのだから(織部ゆい

スポーツを死ぬまで嫌いだっていい手の鳴らなくてもゆきたい方へ(えふぇ

「失恋」を「しつこい」と読む君だった どこのどいつが読みを教えた(青柳 暁音

音のない夜はゆっくり目を閉じて私の声を聞く 慰める(すずきみなみ

年輪はどのように増えてゆくのだろう大浴場の湯気に目を伏す(夏谷くらら

春 ぜんぶ捨ててしまって満開の菜の花畑にふたり飛び込む(あきの つき

どんな声なら君に好きだと言えるだろう。52ヘルツで鳴くクジラ。(水無月ニナ

そのシミはいいのあなたが陽の下を歩いてるって証明だから(りのん

風化していってしまった宝石の名残はずっと遠くにしかない(Sand Pawns

勇者の剣装備できない職業で今日も家族を養っている(宇井モナミ

手作りのクッションカバー色あせて何回目かの春がまた来る(青色紺色

「青い春」とはいうけれどあのころの春はまったく桃色だった(竜泉寺成田

旧姓はみじかい魔法 居酒屋の席をあの日の学食にする(あひる隊長

水槽の中よりお前らのほうが息がしづらそうで(Umi.

春の夜に境界線を踏み越えて もしこれが過ちだとしても(佐竹紫円

先生は桜の中で留年し卒業生を拍手でおくる(水の眠り

正解を決めてしまえば楽だろう桜は雨が降れば散るもの(アサコル

はしゃぐ時一人称が『俺』になるあなたが知らせる春の訪れ(あをい

産声をあげろ 今まで生きてきた場所が日本の全てじゃないよ(あをい

郷愁を感じないほど美しく街も心も染め上げろ春(あをい

「手榴弾あり〼」と書かれた町のなんの救いのない世界線(水の眠り

飄々としてるあなたが珍しく昂っているわたしのせいで(水柿菜か

産まない、と産めない人に言えぬ午後 それぞれぶんのドーナツに穴(つし

北生まれ東京育ち 雪よりもそれを降らせる冷たさのこと(ぶりきのかに

あの頃は確かにそこにあったもの 平らな石で春波を切る(藤瀬こうたろー

鳩ならばみんな知ってるパン屑は寂しいひとしか撒いてくれない(きいろい

「恋煩い」の「was lie」の部分 君の行くトゥルーエンドに混ざれずにいる(青柳 暁音

kiss  ふたり寄る辺ない海湛えては満ちることなど望まなかった(納戸青

ダンスフロアーで目覚めるような朝が来る 曠野のようなダンスフロアー(

まだぼくが新鮮なうちに会いにきて酒をのんだらすこし泣いてね(沙々木キハム

泣きながらシュークリームほおばる 死にたい生きたい普通になりたい(水無月ニナ

二人きりレジャーシートで留守番の横顔だけが花見の記憶(桐谷やまと

段葛 春の嵐が桜の片吹き付けてきて私を染める(時雨

あまりにもしらを切るのが下手なので亀といっしょに泳がせておく(山口絢子

「死に際の生きる意思こそ珍味です」音声ガイド笑う踊り食い(ほしのひかり

えび天のしっぽも食べてしまうけどナイフは柄を向けて渡す人(汐留ライス

筆箱の隅で何かを飼っていた時折消しカスなぞを食わせて(琴里梨央

春光に翳す手のひら昨日から今日今日から明日が来ることは(海沢ひかり

坂道をびゅんびゅん下るほっぺたに純度高めの春風が吹く(茶葉

意味もなく紙縒りを作る指の腹私はもっと器用なはずだ(中村祐希

忘れたい思い出なのに嗅覚が海馬にべっとり糊付けをする(ツキミサキ

わたしを置き去りにして遠く遠く北極星と重なるこころ(まつさかゆう

穴あきの不完全さは好きですよ あまーいだけのクリームじゃなく(南千里

バターまでもう少しかなジェル状に伸びた猫らをまたいで通る(宇井モナミ

わけもなくおめでとうって言われたいおとなの上に降る花吹雪(あひる隊長

君のこと早合点しておてつきし解答権があの子に移る(さに。

春色っておしなべて呪いです桜並木が狂いそうに笑うから(ゼロの紙

日常は薄味でいい ごくたまに記憶に残るスパイスを振る(山口絢子

狂えない暮らしに狂いそうになる やかんの叫びが響く早朝(メタのおわり

人間はあまりに弱い生き物で夜中に泣くしラーメンも食う(百壁ネロ

人間はたぶんけっこう欲張りで「満たされたい」と思っていたい(美鷹周

誤読した歌詞を覚えて私たちだけの世界ができちゃった春(北野白熊

神様をじぶんでえらび住まわせるじぶんでえらぶとこがポイント(綿鍋和智子

思い出すかぎりの君を組み立てるパズルの中のどこまでも春(あひる隊長

泣き虫な君って何だ泣かせたのてめえじゃねえか返せよ涙(さに。

タイガー・アイ輪になり踊る爛々々「勝ちまくり!モテまくり!」を祈願して(しみず

花(束で人を殴ったことのある奴だけが死後辿り着く)園だ(しみず

二学期が始まる前の子のように憂鬱になる春の始まり(山野たみ

朝もやはまだ眠たくて桜色 甘い紅茶を淹れてほしくて(Rhythm

冬ざむの去りて桜の時きたりパンの袋をきつめに閉じる(とんだ一杯食わせ者

沈丁花匂い始める夜の道だれの春にもならずに歩く(夏谷くらら

人魚姫 あなたのようにはなれないわ恋に殉じて泡になるなど(時雨

死ぬまでの鼓動の数は決まってる残りは全部アナタにあげる(空虚 シガイ

霞みゆく黄砂の帯に覆われた膨らむ蕾とレモンスカッシュ(古井 朔

明らかに寝起きの掠れた声なのに 起きてたと言う君が大好き(わたこ

長針のようにパッと見わからない速さで君を好きになってく(わたこ

さよならもはじめましてもないけれど 四月に下ろすパンプスがある(わたこ

私には向かないこともあるけれど曲げられるとき光るスプーン(ほしのひかり

ケーキってかなしい時も食べるんだ昼間の白い月をみながら(月夜の雨

水槽をぐるりと廻るジンベイも眠れぬ時は人を数える(辰野音子

あのひとが触れたところに鱗粉が残されていて春のまぼろし(石綱青衣

流星雨 星と星とがふれあってふるえる玻璃のとうめいな音(月夜の雨

赤い家だんだん壊れてくあたまブーゲンビリアぶーげんびりあ(宇祖田都子

ペン回し器用にできるあなたならわたしを乱すことも容易く(水柿菜か

幸福のまぼろしが舞う北からの風は冷たい孤独ではない(奈路 侃

耐え難い影があるならその影を生んだ光もきっとあるから(空虚 シガイ

透明なプラネタリウムを携える野にやわらかな雨のふるとき(ぐりこ

群れをなし光を征した白樺の湖(うみ)に沈んでしまった淋しさ(小仲翠太

きみのアイラインの先にcosmosが微熱を帯びてゆっくりと咲く(てと

沫雪のごとくうつすり白猫は角をまがりてかくり世へゆく(碧乃そら

手指であるからには手指のふしくれに沿ったかたちの引鉄を持つ(仁科篠

ありすぎるタッパーを捨てありすぎる思い出のあるこの街を出る(はじめてのたんか

ゆくさきの知れぬ青鷺わたしたち違えた線もつなぎ合わせて(水也

パンくずをはらう手つきである時は愛したひとの画を消していく(村崎残滓

惑星がもう九つじゃなくなったみたいにこの胸に空いた穴(佐竹紫円

貝殻を集める夢を見る貝殻と思ったものはなきがらでした(六日野あやめ

ふんわりとラップをかける手つきからラブレターだと気づいてほしい(村崎残滓

最果ては誰も見たことないはずで目的地などなくたっていい(美鷹周

十二年ルビーと呼んだ愛犬を留めるように指輪を選ぶ(辰野音子

あの歩道橋は手すりにポケモンのシールが貼ってある歩道橋(仁科篠

白昼夢 金魚は何も知らないで泡になった人魚と泳ぐ(市井すい

裏側で溶かされてゆく舌下錠 わたし、あなたのものになりたい(ぐりこ

庭先に甘き香りを振りまいて春の手を引く使者は白梅(桜井弓月

どこにでも行けるよきみはその動くGoogleマップの青い●だよ(真朱

ゆるりとした春風だにも散りてゆく白きひとひら最後のダンス(森風輝

Gentlemenと書かれたトイレの入り口をすんなり通る背中がかゆい(アゲとチクワ


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