第16回毎月短歌・自選部門に投稿いただいた短歌作品の一覧です
注文いいですか?ドリアと珈琲と愛ください、全部ホットで(骨盤矯正)
そうだけど家族がいるということに安堵する日もあるよスカラベ(もくめ)
友達の猫が見ている部屋の角友達家族は見えないらしい(うめこ)
夏よりも広くなりたる青空を秋桜たち広がりて受く(水沢穂波)
現実という向かい風でくしゃくしゃになる一反木綿こと私(半)
あなたはもみじと思うだけでしょうわたしは走馬灯になるもみじ(汐)
浴槽を真っ暗にする結局はアサリと同じ方法になる(アゲとチクワ)
恋をしてよかったことがひとつだけあるとするなら恋をしたこと(ゆひ)
階段を雪崩のように降りる人東京駅で死にたくなった(香取ななや)
ほどいてはまた結んでをくりかえす新入社員のまぶしいネクタイ(水の眠り)
手折っても手折っても咲く花野終わらないことは恐ろしいこと(川瀬 凪)
ひと肌に冷ました筈の牛乳を火傷の舌で啜る恋情(雨)
綿毛だけ残る頭がたんぽぽに見えたのでついフッと息吹く(フクギの森)
約束がたくさんあるのがうれしくて木曜日からはみでる身体(宇佐田灰加)
霞たつ 秋の夜長の 雲間より 時漏ゆる星 輝き遠く(中村黄独)
通り雨だったんだよと言いきかせあなたと買った傘を乾かす(桜咲)
落ち込んでタイムラインを見てみればみんながそうで季節の変わり目(奈々生ん)
抱いてはならない祈りだ 庭の草を踏み潰してから家へと入る(みつき美希)
なんとなく生きてきた俺 赤色のビニール切れた3Dメガネ(奈々生ん)
点滴の管に空気の泡があり死ぬかもしれぬと覚悟を決めた(うめこ)
われわれは宇宙の外も知らなくて神さまは宇宙のことも知らずに死んだ(みちか)
残された温度があって、空っぽで、「そこ」にいたのに、ただ冷めていく。(さんそ)
乾燥でひびの入った唇を狙ってボケる後輩野郎(奈々生ん)
片方のピアス落とした耳に触れ熊も追いかけては来ぬ小道(宇井モナミ)
ふわふわときみにつつまれあさぼらけ あさきゆめみるまさゆめねがう(雪未完)
改札の向こうから来る手のひらが 会いたかったともうはしゃいでる(わたこ)
未来から逃げたい夜はコーヒーにミルク浮かべて君を描いてる(0世)
菓子ならばいくらでもやるいたずらに僕の心を盗るな 悪魔め(睡密堂)
果ての果て 青より深い藍色を手にするときに立っているのは(佐竹紫円)
記念日の暦の余白は曇り空いまにも雨が降り出しそうな(夜長月優雨)
ルマンドは枯れ葉のようにくずれおちふいに別れを予感する午後(メタのおわり)
この粒がわたしのおまもりヒーローはお酒に溶けて血を駆け巡る(みちか)
副作用としてある食欲、自販機にピーチネクター二本光って(白湯。)
母さんと喧嘩したのでコンビニで高いアイスでも買ってやろうか(とかげまろぅ)
スイテングースイテングーと啼く鳥がいたっていいよここも森だよ(ぐりこ)
目に見えぬオオカミ吠える月よりも確かな、なかない薬をください(山田 種)
おどけたさ廊下に置かれた僕の席みんな笑いを求めてたから(町本真衣)
シャボン玉で星々を作った弾けるまではここに宇宙があった(半)
爆音の戦争映画を観た後で見開きページみたいな空だ(白鳥)
縦軸を対数にして才能の圧倒的な差を誤魔化した(海老珊瑚)
あの日の夕焼け紅茶色願いごとなんでも叶うサバランサバラン(古井 朔)
「啜れない」髪を押さえる女子の横、シュシュで結わえて豪快に食らう(よいまね)
飢えや孤独から生まれる芸術にばかり魅せられてごめんねママ(百瀬圭)
目を閉じてうたを歌った 人類が僕だけになった土砂降りの中(橘 古都)
ご褒美で母にもらった図書カード家を手放す時に見つかり(あだむ)
残薬の数をかぞえる毎日に「死への日数みたい」と思う(底)
灰かぶり少女の夢は薔薇色のあなたの頬にふれたかったの(水也)
雨の日は自分のためにその羽根を休めて欲しい私の天使(れいこ)
出逢いたい人にどうして出逢えるか宿題として死後に持ち込む(れいこ)
捨てた恋の思い出だけが光っててたどり着く先 Not found(りんか)
耳朶に穴を開けない選択を それも勇気だねと言った君(わたこ)
犯されるわたしを犯す後背位だれの愛でもいいのほんとは(仁藤えみ)
四畳間埃まみれの床の上積み上げられた成功未遂(あだむ)
はだれ雪割れた空気にずっしりとサンドバッグのごとコーラ缶(つじり)
とりにくのホワイトシチューはほかほかでほっぺの中の血の味がする(月夜の雨)
公僕の要らぬプライド民のためワーカホリックこの国の果て(フクギの森)
咳き込めば昼も夜かもわからずにひとりの部屋でただ痰絡む(間之口葵一)
友達と言ってもらえて慣れてきたわたししばらく火曜日になる(真朱)
コールドスリープは夜にはじめること縦列駐車のようにやさしく(畳川鷺々)
振り向いた笑顔の先を教えてよ信号機は黄、信号機は黄(仁藤えみ)
クリームの山を倒した褒賞のフォークで割れる栗の鉱石(しろねり)
パンプスを高く飛ばして明日こそ晴れるかどうか占ってみる(カワシマサチヨ)
夏だった秋の空から光降り冬のなりかけ 背筋を伸ばす(香取ななや)
山脈〈やまなみ〉がサーモグラフィーめいて秋、きみとじゃなくてもいけるよ地獄(白湯。)
PTPシート 簡単に開いていくビンゴのごとく掌にあり(白湯。)
秋風に途切れた電話あなたとはまたねで終わるさよならだった(りのん)
青春ぽいことをしようかハチ公にアンとジョージで集まりますか(わかば)
雨も降り晴れてもいるこの変な空 狐の嫁入りっていうんだって(ましゃこ)
ぼたぼたと落ちた涙の成分をSiriに尋ねてみてはいるけど(雨)
東京へ向かう車内で振り向けば集合写真みたいな家族(奈々生ん)
低温でゆっくり火傷をしたように気づかなかった傷ついたこと(水の眠り)
カメラロールの夕日のなかの森高の渡良瀬橋のなまあたたかさ(畳川鷺々)
ぬちゃぬちゃと左隣の先輩が氷を噛み砕いて飲んでる(雨野水月)
シビアさを嘲笑(わら)う硬貨のように月夜はせいぜい夢をみなさい(納戸青)
王子様!マジでわたしがシンデレラ!入らないのは浮腫んでるだけ!(綾野つづみ)
日時計が狂ったままの公園で昼寝を済ました陽炎の伸び(つじり)
乗り換えし在来線の駅通路なまり聞こゆる吾も独りごち(吾意羅)
金色の栞がほしい ただ一人頁を繰るためだけの西日だ(納戸青)
秋の実はひときわ赤くぷちぷちと羨望ばかり数えてしまう(マノチハル)
あの人が私をふったのはなぜか 猫の言語に訳し答えよ(よしなに)
檻の向こうスマホ掲げる人間を品定めするゴリラと目が合う(桜咲)
黄に染まるイチョウ並木を吾子とゆく二人の帰り待つ茶碗蒸し(一筆居士)
穴がある何もないのに穴はある周りがあるから穴でいられる(反逆あひる)
すこしづつ下弦の月はうすくなり欠片はとけて消えゆくチェルシー(古井 朔)
「何か飲む?」「これ読んでみる」本のことばかりだきみは僕の部屋でも(奥 かすみ)
港町彩る高速 橋の灯を 共に眺めたあの娘は何処(森風輝)
幾度にも 星は流れる 惹かれ落ち あなたの夢の 追いかけるため(中村黄独)
店員にそろそろあだ名をつけられそう おんなじおにぎり毎日買うから(千陽)
主旋律《メロディー》になるはずだった恋が今、君とあの子の間奏になる(美鷹周)
鍵盤へ置いた指から声として羽ばたく音をあなたへ 聴いて(中村 杏)
魔法とか神様とかを信じてたあんたが死んで何が神だよ(杏仁豆腐)
「夜ごみを出しちゃだめだよ」なごやかに自治会長に告げられる朝(もくめ)
あなたはまさに月の弓 流し目で奴ら、わたしを徒に射る(汐)
最果ての駅に佇む幻の少女のように夏は去りゆく(叭居)
きみに降る灰色の雪 どうか、どうかきみの道に光りを(雨)
上空は晴れていますかこの雲がきみには白く見えていますか(反逆あひる)
星とてぞ同じところにゐられねば 人、去に行くは止められぬなり(吾意羅)
「うん」だけの返信 わたしはきっと今日置いていかれる夢を見ちゃうね(菜々瀬ふく)
あやふやな境界線でいいという国のひとたちだけで生きてく(真朱)
湯灌《ゆかん》の儀 腕の細さに真白さにすべての重荷下ろしたと知る(山口絢子)
今日もまたモヤモヤ残る仕事終え引きずらないよう悩む献立(さに。)
お互いに花の名前が入ってるね、講義抜け出し語ることかよ(わかば)
金色の獣のように里山を駆け抜けてゆくすすきの穂波(くらたか湖春)
ぼくたちも大人なんだし部屋に合う花瓶をひとつ見つけにいこう(みぎひと)
コーヒーにミルクを注ぐ 地獄でもあなたと出会う地獄でよかった(ぽりぐらふ)
どんぶりへ店主の前でだしぬけにキンモクセイを淹れたら怒る?(返す刀)
今もまだ、ずっと走っているだろう 友の背なかに道は続いて(楼瑠)
ほわぷかと泳ぐ金魚は水槽が世界のすべてと思い込まされ(りんか)
しじま 楓とあなただけ 涙雨 ああ 散った 夜に融けるわたし(汐)
一輪の闇夜に咲ける赤き花もの言はねど我を励ませり(吾意羅)
悩みごと消えて実家へ行くときに迎えてくれる坂はゆるやか(青色紺色)
金魚鉢真ん中を丸く泳いで全てを知った顔をしている(半)
午前二時夜の額に口付けて「大丈夫」と言う、おやすみなさい(10)
君が僕の名を呼んだ数、死後、僕の地獄にも同じ数花が降る(10)
地球という広場で暮らす生き物のあいだに線は引かれていない(ゆひ)
年末の帰省ついでに寄る店の中華そばには葱が盛られて(杏仁豆腐)
まっすぐに押せないハンコ 守れない約束をするあなたみたいね(てと)
単身の賃貸物件検索し眠れぬ夜は現実逃避(うめこ)
アイライン跳ね上げてみせてよ泳いでみせてよ朝日の端まで(小竹笹)
夜、ここは寂しくうれしい丘でいて窓それぞれを見つめたくなる(ねこ〜)
秋と本に書いてはあれどこれからは二季制になり死語になるかも(ましゃこ)
月にもし海があったら、ふわふわとクラゲは毒を捨てただろうか(りゅーせい)
きらめきの燃え殻を棄てるため拾う ひと粒、またひと粒と、秋(しろねり)
台風が忘れていった水溜まりめいて私に遺された本(りのん)
からっぽの両手に何かを持ちたくて がらくたばかり集める今日も(底)
透明なペン先染まる橙路 帰宅部のきみ、なぞる様にと(間之口葵一)
昼の月。青空に浮く白い月。すっぴんの月。呼ばれない月。(りゅーせい)
原付の背中が幾度もふりかえる大嫌いって言っていたのに(小野小乃々)
名を呼ぶとまっすぐ駆けてくる犬のたぶん魚雷に近いスピード(海老珊瑚)
別れたら二度と降りない駅にあるパン屋も君のものになるのか(猫背の犬)
得意げにツナ缶ランプ作る父 朝はサラダか停電の夜(一筆居士)
あ、そうです主には婦人をしています4割くらいが別のものです(反逆あひる)
ふわふわのなまあたたかいパンを買うレジで指にいた砂糖をなめる(畳川鷺々)
加速せず次の言葉を待っているフロントガラスに月を見ながら(椿泰文)
口紅の小さな筒にしまいこむ触れず終わったキスの逡巡(りのん)
笑ってるきみの中身はくたくたで煮詰まる前に食べてあげたい(宮緖かよ)
くらやみの地平で風に震える光をこちらのくらやみで見る(しろねり)
ふと仰ぐ今宵の月は金色でふいに思い出した顔がある(佐竹紫円)
歩けぬとほろほろ泣く子知らぬ間に蟻を踏むのが恐いと言って(菜々瀬ふく)
ステージのきみを天使と決めつけて祈りのポーズであかりを灯す(みちか)
夢の国、と君が言いきるところにて消されていない君の目頭切開ライン(みちか)
深呼吸ひとつエプロン身につけて主婦の私は透明になる(美鷹周)
今日のおやつは世界の平和と希望です。食べたらなくなりますよ(松本福広)
「ひどいね」と言う君に相槌打った僕がひどいと思ったのは雨(北乃銀猫)
独りだとふと気が付いた教室で今は何だか晴れがうるさい(美鷹周)
我が家では主婦に対して従夫だと秋の晴れ間に座布団を干す(一筆居士)
絶望はいつもリアルで幸福は少し盛られてネットを彷徨う(村人ちゃん)
はぐれ雲みたいなひとを好きになる青い空にはなれないくせに(くらたか湖春)
うつくしい例句のように紅葉が常緑の木へ降る昼さがり(山口絢子)
手段選ばず自らを正義という 歴史から悪と断じられ(松本福広)
誤読から始まる手紙携えて理解及ばぬタイムラインへ(サンか)
百年後火星の子らが憧れるこの星でしかできないカタチ(みぎひと)
色の無いこの時期にしか行かぬ町 金木犀が風を箒に(香取ななや)
暗闇で狙撃をされた後もずっとあいつのシャツは光り続けた(汐留ライス)
タイヤ痕残る蟷螂に添えられし丸くちいさな名も知らぬ花(叭居)
神席で推し拝むこと おそらくはエステやサプリより効果的(青色紺色)
秋霖に銀木犀のしめやかな骸の白の香りこぼれて(よしなに)
曇のち雷雨みたいな母娘《おやこ》です カッパ脱いだら笑顔が咲いて(りんか)
うちに来て幸せくれた猫たちは生き方もまた教えてくれた(青色紺色)
下の名を不意に呼ばれて跳ね上がるこんな気持ちがはじまりだった(くらたか湖春)
ぽっかりと麦茶の場所がなくなって冷蔵庫から夏が去ってく(水の眠り)
今はもうだれを匿うこともなく秋の陽を抱く電話ボックス(メタのおわり)
きみだって飲んだくれたい夜もある。腐っても鯛、堕ちても天使(よいまね)
ライフイズ何?駅前で透明になって帰ると家は優しい(山田 種)
はじめての街に私は拒まれて押せないままの「つぎ、とまります」(Rhythm)
会える日とその翌日はやっちゃいます ラジオ体操第三者「踊る」(村人ちゃん)
寄り添った二人と一匹の骨が柔く光って終末の朝(幽霊)
公園の子供らの声に呼応する小鈴のように揺れる金柑(小仲翠太)
花柄のシャツの内側植えつけた「男らしさ」が太い根を張る(0世)
一枚の葉から始まる落葉のようにあなたは指を離した(まちのあき)
絶妙に重なりそうにズレてゆく、エンターキー、の、めくるページの(中村 杏)
算数で限界だったけど0と1で作られた信号は好き(よいまね)
空うかぶ 弓張月よ どこを射る かがやく星を あとに引かせて(中村黄独)
先輩が熱唱している隙を見て顔近づけて交わす密談(綾野つづみ)
見上げれば我も果てなき可能性とうもろこしは宇宙からきた(ぐりこ)
許さぬと呪い私怨の毒を飲み致死に至らぬ無限の地獄(フクギの森)
太陽よ触れてくれるな掌の赤に 静脈の青に触れてくれ、月《ルナ》(Sand Pawns)
コスモスの花びらの数8枚で「すき」で始まり「きらい」で終わる(れいこ)
いち、に、さん かかとを鳴らすおまじない好きな速度で歩いていいよ(永沼 花楓)
こたえても届かなければ透明でそれならいっそ風になりたい(さんそ)
あたらしい鏡のような秋空よ水まんじゅうは今日最終日(小野小乃々)
届かない葡萄はきっと不味いはず誤魔化せたからまだ生きている(ツキミサキ)
慰めの言葉はなくてただ君とうどんをすする音だけがある(山口絢子)
おめでとう生きてるだけでおめでとう庭では雀がうるさいほどに(琴里梨央)
分かっててわざと見送る終電車どうしようかと二人笑顔に(森風輝)
涙って海だと思う。しょっぱいしつま先だってぬらしたがるし。(よしなに)
泡沫のようだと思う人生とかライブ終わりのサイリウムとか(とかげまろぅ)
婦人科と産科を分けた病棟で白百合になり開かれている(川瀬 凪)
憧れを焚べて骨にし穴を掘る 機体が肉に変わったような(傘糊)
ねえ私を選んでよ きっとあなたのかわいい女神になるよ だから(半)
月が綺麗、死んでもいいわ、でもわたし、あなたのこころに生きてみたいな(骨盤矯正)
ラスボスの名前を呼ぶなパピプペポキラキラネームで闇堕ちした(松本福広)
ああ、いいな。ショートケーキのイチゴはさ、正しい席が用意されてて(美鷹周)
ランダムに地面に穴があいていてヒューンヒューンと落ちていく人(月夜の雨)
冒頭で突き付けられる 本作はフィクションです の生暖かさ(空虚 シガイ)
泣きそうなときにパン屋が香るから十年くらいこの街にいる(あひる隊長)
流れ星拾い集めてたくさんの願い叶えばどれほどいいか(雨宮雨霧)
すきまからあしたが漏れるカーテンがちょっとあいてるような三日月(くらたか湖春)
いくら丼ストップ言わずに三日経ち肩の位置まで赤い粒々(綾野つづみ)
落ちた葉が焦げつくように枯れていて秋の野道はすこしカステラ(宇佐田灰加)
色彩を手放しながら秋は暮れ取り残された空のイーゼル(神楽ゆいり)
行数を稼ぐ仕事に揉まれない脚と羽根がほしい 今夜は餃子(戸田静)
少しだけ大人にさせてしまったな吾子に持たせる鍵が冷たい(梅鶏)
くたびれた上履きを見た祖母が手にわたしの足のサイズを書いた(てと)
抱きしめた声、熱、痛みその全て今となっては夢の泡《あぶく》だ(やまやま)
大切がひとつ、ひとつと増えていく どうせいつかは灰になるのに(底)
少しずつ麻酔が切れる青春の終わりは鈍い痛みとともに(あきの つき)
空蟬の命のページとじられた7日ばかりの儚い記憶(神楽ゆいり)
目の奥をのぞかれ焦がれてしまいそうこれは新手の放火でしょうか(奥 かすみ)
親切にする選択を無視できない 私は自分に嫌われたくない(千代染ひすみ)
優しさの裏には痛みが伴って厳かにバファリンを飲んだ夜(アサコル)
さっきまで空にいたんだ真っ白な雲の産着で眠るみどりご(水川怜)
触角のように伸ばした両の手で捕獲されゆく秋、茜色(奥 かすみ)
自分から閉じこめられてわたしたち風にもなるし星座にもなる(白湯。)
化け物のように氷を齧るのに蜜柑のすじは全部取るのね(睡密堂)
キャンバスに好きに絵の具を載せたなら それは絵画であなたは画家だよ(水柿菜か)
どうせまた何も答えてくれないし痛いくらいに月を見上げる(宮緖かよ)
東京靴流通センターの名残りで流れる寿司も靴めいている(しみず)
旅先でファミチキ食べるたぶんいま君に会いたいいつもの街で(みぎひと)
さよならのバリエーションを聞いている改札口できみを待ちつつ(あひる隊長)
家を出て鍵閉めたかな不安だな確認してもやっぱり不安(雨宮雨霧)
「助けられなくてごめん」の1言が救ってくれた私の心(さんそ)
二人して落下していく夕方に溶かしてほしい帰り道など(ZENMI)
先生の趣味全開の歯医者ではまだ黒ギャルが働いている(村川愉季)
いつだって相談してよ 深夜までやってるラーメン屋だと思って(八乃一輝)
結晶になれば涙もこの胸に積もるのでしょう 雪の温度で(よしなに)
カポカポとゆれる鞄に走る吾子あおい上着や空高く伸び(黒那根 湊)
くもの巣を蜘蛛はさくさく編み広げ星のひかりを受け取る準備(夜長月優雨)
景色など存在しない地下鉄でその横顔をお茶菓子とする(村人ちゃん)
ことばすらにじんでよめなくなったけどきみのえがおはまだわかる(黒那根 湊)
腰まで伸びやかに流れていた黒髪を笑って切った処女(むすめ)の終わり()
女坂男坂より緩やかと聞いていたのに山あり谷あり(ツキミサキ)
私より幸せそうなあの人も私のように悩むのですか(はざくらめい)
ささやかな喪失感と朝が来た 戻らぬ昨日があるということ(晄晞)
かわいい人 薄いヴェールが似合う人 私の隣が似合っていた人(晄晞)
倒れても野菊見事な曇天を背に投票所へ坂をのぼって(納戸青)
ぶんぶんと尾を振る犬が近づいて撫でろ撫でろと足にすり寄る(Nock)
10月の空気に混ぜるシロップだ橙色の星の赤ちゃん(さんそ)
熱がただ熱であるとは思われず善し悪し・色があるという錯誤(Sand Pawns)
サバンナの風を感じてしまうんだルイボスティに群がるきりん(楼瑠)
お試しでみたく気軽に口づける君だけが君なのに私は(村川愉季)
シンデレラ溶けたガラスが身を焦がすカボチャの馬車はスープにしずむ(黒那根 湊)
人類が生まれるよりも昔から徹子の部屋は始まっていた(汐留ライス)
いいよ、って言うはずだから避難場所指定しておくきみの心に(真朱)
毒リンゴかじった姿見た魔女は愚かな者めクスッと笑う(雨宮雨霧)
てかさ、今生きてるだけで天才じゃん?努力とかより息してえらい(箭田儀一)
うすぐらいスヌーズスヌーズゆめにいたいスヌーズスヌーズ細切れの朝(宇佐田灰加)
好きじゃないバンドの歌詞を君じゃない女が歌っていてよかった(村川愉季)
黙ってて タイムマシンで一昨年の私に会って信頼得てきて(奈々生ん)
ふるさとに残りし記憶の欠片たち優しい甘さで包むマシュマロ(古井 朔)
もし0が発見されていなければ僕らいちからやり直せたかな(反逆あひる)
やあ、ここは あなたにとって無駄なものだけ光らせているコンビニです(みつき美希)
鳥たちが頭上を飛んで僕はまたスーツ姿で取り残される(藤瀬こうたろー)
我儘な君とパスタを食べている 去る時間ごと巻き取りながら(高木香)
綺麗だから好きなわけじゃなくコーヒーの染みで理知をデザインする(香椎柳)
正円を描くプラチナなぞってくわれ金輪際触れられぬ指(綿鍋和智子)
三つめの惑星水は満ちたれど戦を止める術(すべ)を知らない(椿泰文)
「大人」には裏口入学したようなもので サビ抜きひとつください(八乃一輝)
靴下を履くのが嫌い だってわたしすべてのものに触れてたいから(水柿菜か)
アイスコーヒーの氷のカランがつらい午後居場所が溶けて無くなるように(山田 種)
ねえ世界、恋じゃないと隣を歩くことも許されないのですか(小竹笹)
その夜は画家に恋する夢をみた窓いっぱいに満天の星(茶葉)
ああそうか秋が来たってことなんだ。扇風機の首くたんとしてさ(りんか)
埋み火を匿ひし灰木枯らしに燃え上がるとも君はあらぬに(吾意羅)
和訳せず英語のままで理解するように読みゆく葛原妙子(小野小乃々)
晴れたまま降る雨きみが笑うときそれが痛みと気づけなかった(あひる隊長)
落ちる落ちるアリスのように異世界へ行けるのならば何度でも、ほら(北乃銀猫)
距離感が掴めずにいる あの星は何年前に瞬いただろう(アサコル)
もう全部知ってることはくだらない(良かった君を知らないままで)(はじめてのたんか)
小磯良平の書く足首で走り回っていたいつか(返す刀)
叶わないとわかっていながら好きでいる 思わせぶりな貴方に敵わない(水柿菜か)
心身のありとあらゆるしんどさを 「風邪」の二文字で片付ける朝(さに。)
間の悪い下手な会話の切れはしを縫ってあなたと一枚になる(山口絢子)
キッチンでお湯を沸かしてラーメンに注いでしまう夜中の自分(雨宮雨霧)
でも時が経って崩れたデザートもパーフェクトって呼んで食べるよ(高木香)
気がつけばコンビニにいて気がつけばピッとかざしてパン頬張って(さに。)
引き出物カタログなにも欲しくない強いて言うならあなたが欲しい(村川愉季)
真夜中にバター削ればひとかけの月を盗んだような背徳(メタのおわり)
色褪せた夢を鞄に詰め込んで背筋を伸ばすAM8:00(永沼 花楓)
泡、それが宇宙の比喩となった日に霊長類がひさぐ花束(高木香)
今はまだ遠くの晴れた空見つめ生きてるんだと赤い手を見る(ツキミサキ)
シャンプーをしたか忘れたもう一度洗っておく好きとも言っておく(村人ちゃん)
文字になるホタテはどんな気持ちかな前の席だけチョークの降る朝(はじめてのたんか)
なんでなの?あなたの微分不可能な気持ちに縋りたくて積分(0世)
きょうという夜が閉じてくおだやかな眠りがみなに降りますように(せんぱい)
胃に落ちる温度が嗚咽を引き出して 今日もおはようがうまく言えない(三月)
コーヒーが飲めぬ私を笑ったね グリーンピースよけてるくせに(北野白熊)
焼きいもを割って2人で半分こ優しい甘さに温もるこころ(Nock)
赤い糸タップひとつで断ち切れる情報社会の朗らかな闇(やまやま)
晴れと出るまで何度でも飛ばしてた遠足前の夕暮れの靴(宇井モナミ)
コンビニの大盛りパスタを二つ買う本気で死にたいと願った夜(とかげまろぅ)
馬鹿デカい岩が頭上に浮いていて綺麗と言えば愛の告白(高木香)
ヘルメットを脱いで南の東京を向くと遠雷がよく見えた。(返す刀)
ただ声が聞きたくなってたまらずに履歴の中の君を見つける(静麗)
金輪際実を結ばない木に水をやり続けてるひとを笑うな(睡密堂)
あれは俺がアリスだった頃の話 聞いてくれ 俺はアリスだった(桶森あわ)
この世界がもっとユニークならせめて 虹の根元を作りたかった(底)
通勤をしている人の傍に大量の缶を捨てる我あり(桶森あわ)
カレンダーめくる行為を知ったからきっと数多(あまた)の輪廻をめぐる(納戸青)
灰色の僕の心を灯すのはあの日聴いてたきみの歌声(Nock)
この恋は土に埋めると微笑んだわたし獲れるわアカデミー賞(永沼 花楓)
この紙は投票箱で石となり我らの手中で石器へと化す(千代染ひすみ)
自販機に補充してゆく秋冬をせっせと運ぶ2トントラック(カワシマサチヨ)
あの時は言えなかった「痛い」って今もひそかに痛いんだ(黒那根 湊)
愛情の不労所得は出来なくて自己紹介の歪なひまわり(仁藤えみ)
今日だけはあの日もらったネックレス見せつけてやりたい気分なの(桜咲)
背もたれが無い椅子だけの喫茶店天使が羽を伸ばせるように(空虚 シガイ)
雨音を叩きつけてはそれきりで扉のように開かない朝(Sand Pawns)
『僕の子が生まれたときの朝を見たい』 つぶやけば陽に染まるリプライ(橘 古都)
パパの影とても濃いだろ?こうなっちゃだめだぞ心を殺すとこうなる(別木れすり)
気短な居合の達人が披露 ルービックキューブ賽の目斬り(松本福広)
改札を抜けて落ち合う久しぶり半休取った金曜日の夜(森風輝)
20代なりたい自分になる方法 例題をみて反例もみる(水の眠り)
オレ抜きで君が味わう毎日が、ごく薄味でありますように(りゅーせい)
地震後はまず落ち着いて穏やかに猫を抱き上げゆらゆら揺らせ(よいまね)
白亜紀と変わらぬ声で鳴くカエル宇宙の闇に青きこの星(椿泰文)
ここはもう二匹の羊がいる世界君は処置済み僕はノーマル(Kirio)
二人しておなじリズムで啜ってる夜中のひみつのカップヌードル(みつき美希)
ストロングゼロ嘔吐物ぐちゃぐちゃになった履歴書 いろはすの蓋(三月)
観る薬食べる薬に聴く薬 心は外から付け足されるもの(しみず)
つきあかりゆれる夜空の下に咲く地上の星を甘くやどして(水也)
早朝の地震だった「おやすみ」って明日がくること疑わないで(町本真衣)
愛のめざめが文字ということもある するりと滑り降りゆくはらい(しろねり)
神様は瞼の裏にいる だから人は祈るとき眼を瞑るのだろう(晄晞)
指の腹摘んだ枝毛を裂くように確かにあなたが選んだ未来(やまやま)
ワンルーム壁に背を向け眠ること仕切りの向こうに確かな鼓動(やまやま)
何者かになりたい人が言う「普通がいいよ」みたいなトーンだね(百瀬圭)
海を待っている間に歳をとるその間海はやわらかくなる(しろねり)
迫り来る車を徒歩で避けるときカラスは飛ぶのが億劫である(水沢穂波)
お見舞いの帰りに見えた虹を消す祖母が天へと召されぬように(あだむ)
北風がピーピュー以外の音を出すことを知らない私たち(ZENMI)
罫線みたいな蜘蛛が歩いてた 誰かの一夜漬けが失せてく(八乃一輝)
「先に行く」隣の葉っぱがそう言って踏まれた音の美しさったら(ゆひ)
雨の日にふくらむタイプの髪の毛かわいいでしょうかわいいでしょう(香取ななや)
この道はどこかで絶える とりあえず棚に上げよう今日も歩こう(雨野水月)
隣屋が毀たれ脇のモルタルをさらす真白きBARパルテノン(小野小乃々)
アドバイスが人の技なら追っていた兎を見逃すのも技術(戸田静)
電話には出ませんという新人のLINEの語尾につかない絵文字(宇井モナミ)
花束を渡した日から冬先は君が産まれた季節になった(村川愉季)
煙突の家には暖炉もきっとありどうせ幸福なのだと思う(海老珊瑚)
そろそろ皮を剥かなくちゃいけなくなってきたじゃがいもの新が取れて(半)
破傷風啓発ドラマの指先の些細な傷の血の昏きこと(水沢穂波)
生きるため詰め込んでいるおにぎりの一粒ずつが胃液に絡む(仁藤えみ)
湯気包むパスタの鍋に塩を足す少し言葉が足りない今日も(箭田儀一)
からだ中の穴という穴から這い出ていけよ私のウジ虫たちよ(雨野水月)
図書館の七類の書架音楽の棚に小さいおじさんがいる(別木れすり)
晴れ晴れとした気持ちにはなれなくて満員電車の椅子取りゲーム(藤瀬こうたろー)
パトラッシュ、なんだかとても眠いんだ代わりに会社で怒られてきてよ(汐留ライス)
たい焼きは少しとぼけた顔をして裏が見えないほどの粒あん(夜長月優雨)
鳥渡る 時が解決するなんておためごかしはもうやめようか(もくめ)
マッチからたばこに移る火のようにうきよを渡り 鯔背に生きたい(汐)
水色が水の色ではないように思案の末に親友と呼ぶ(あきの つき)
シスターは祈った 鶴の降り立つがごとく十指を静かに閉じて(橘 古都)
星屑を飲み込むようにとりどりの薬を飲み込む真夜中の儀式(アサコル)
特快をひとつ見送り各停で 夢の時間を長くしている(青色紺色)
座ったら寝てしまうから立っているみたいな声のイントロが好き(まちのあき)
ふるさとのバスの中にて懐かしき言葉の海に漂っている(藤瀬こうたろー)
恥ずかしい記憶が今夜どしゃぶりであなたの傘へ入れてもらった(山口絢子)
ビチグソの綺麗な部分をキャンパスにぶちまければほらもののあわれ(アサコル)
目鼻口 合法的に見つめたい 似顔絵大会開催します(村人ちゃん)
ああいいないつか悲しい恋をして歌人に歌にされてみたいな(杏仁豆腐)
いま起きた星の呼吸が風としてわたしを撫でる頃には眠る(てと)
蚊遣り火の落ちし灰棄て煙りたち夏を偲べる神無月なり(吾意羅)
トーストに少し多めのバター塗り予定も無くてそれもまた良し(箭田儀一)
欠けてゆく月は輝くひとかけら落とす 泣けない人にむかって(短歌パンダ)
苦すぎる欠片を集めくるくるとくるんで焼いて食《は》むクルミパイ(古井 朔)
靴下の穴からのぞく指すらもはらぺこあおむしみたいで愛しい(菜々瀬ふく)
さっきからイワンのばかの代題を考えている 名案がない(短歌パンダ)
赤白の帽子が話す帰り道 耳元に落ちるぐらいの声で(楼瑠)
諦念を夜景と呼んだ東京でウェディングフォトを撮ろうと思う(はじめてのたんか)
笙の音がぷわぁと花を開かせてわたしは月明かりに溶け出す(鯖虎)
薄明かり それでもひかりが見えたならまっすぐにゆけ、迷わずにゆけ(佐竹紫円)
納豆に刻んだ葱を入れてみるこんなところに実家があった(アゲとチクワ)
あゝあれは特権だったブランチも食べずにパジャマでじゃれあってた頃(小仲翠太)
りんごがね落ちてくんだよ 重力じゃなくて自らの意思を持って(水柿菜か)
風の匂い、温度、感触、空の色やっと来た来た秋と君の手(雪未完)
ただ波が寄せては返す情景を神様はなぜ作ったのだろう(Q)
馥郁たる言の葉で描く地図遺し名画を見し眼は星になりぬる(叭居)
ベチバーの香り馴染んだ皮膚破り愛がひそかに根を張っていく(10)
水底《みなそこ》の街の踊り手しなやかに 腰の細さが際立つ男子《おのこ》(妄想機械零零號)
待つことを愛せる朝にホームにていくらか高い水を手に持つ(はじめてのたんか)
「鮮やかな」と書くとノートをひとりでに回遊し始めるなまざかな(マノチハル)
雨が降る時の気配に似てる人だから超えなきゃ虹は見えない(空虚 シガイ)
境界を引くとここまで夏でしたひこうき雲は淡くかすんで(睡密堂)
三才の散歩落ち葉を踏み鳴らし右に左に犬もついてく(町本真衣)
ダメだって思っちゃダメだよ思ったらハキダメみたいな沼にしずむよ(小仲翠太)
人生でJRでしか会わなかった人は今頃笑顔だろうか(わかば)
ほしいのはあなただけです永遠になってくださいゆるしたいから(水也)
虫の音が松虫に変わる初秋を七日前から知ってた蝉は(橘 古都)
あの頃に住んでた街を追い越して寄れない大人になる水曜日(綿鍋和智子)
キスのため眼鏡はずせばやわらかくほどけゆきたる世界の輪郭(メタのおわり)
本当に素敵な人に素敵しか伝えなくても目黒川に春(わかば)
目にごみが入っただけさ 君のため君なんかのため泣くわけないじゃん(桜咲)
やり遂げた君と僕との境界はなんであろうか花を手向ける(Kirio)
樹々の間をさえずりながら飛んでゆく野鳥のように歌えたならば(中村 杏)
記憶までなかったことにはできないのカーソル合わぬ左矢印(やまやま)
百年後電子の海辺で私達同窓会を開きましょうね(しみず)
私の成分表の順番は不安、日本語、愛、水、砂糖(千代染ひすみ)
うそうそと嘘をつくほど重くなるトランクとうそうそ時をいく(夜長月優雨)
子の音は値上げしていて音を上げる根も葉もないと猫は寝るだけ(傘糊)
懐かしい母校が映る図書券を捨てられないまま財布の中に(Nock)
茶を点てる感覚で作るハイボール、氷の音も楽しいステア(よいまね)
きみがゆく渡り廊下を窓越しにイタリア映画のように観ていた(畳川鷺々)
真昼間に見るモナ・リザのごと居間で微笑む 特集・死後の手続き(ねこ〜)
図書館で何度も借りる本があり愛の形はひとつじゃなくて(あきの つき)
キンキラ言っても仕方ないもんな布ひらめかせて踊る脳内(せんぱい)
最果ての枯野に泉のひとつあり私というもの不確かで好き(山田 種)
あたらしきことをいっそうおもしろくキタニタツヤも踊るんやから(香椎柳)
気の利いた言の葉浮かばず沈黙す枯れ木みたいに賑わしている(ゆ)
金木犀かぎを失くしたあの家をうずめるように星を降らせる(月夜の雨)
真夏日が居座ろうともすじ雲を薄く伸ばして空は十月(桜井弓月)
その「i(あい)」が逆さになって「!(感嘆符)」 便利な記号 今日も誤魔化す(漁火いさな)
触れた手がちぎれるように冷たくてそれでもあなたを抱きしめたくて(骨盤矯正)
銀河系の尺度でみれば吾も君もショート動画の人生をゆく(宇井モナミ)
君と飲む 日をば思いて 盃に 降りたる雨の 水をただ飲む(中村黄独)
秋がまだ熱を帯びては冷めぬからきみと頬張る愛すがあまい(骨盤矯正)
冬の日に春に繋がる窓としてシロツメクサ咲く刺繍枠(川瀬 凪)
来る来る世界は廻る花花君も強く熱く一夜に抱かれた花()
雨、あめ、あめ、ガラスの外は雨まみれわたし今からコーヒー淹れる(月夜の雨)
ある星が小さな咳をするように瞬いたのをちゃんと見ていた(もくめ)
あおむけてもすぐ右を向く嬰児の頭の形を母は案じる(りのん)
秋と本読む私の手のひらに 落ち葉たゆたい閉じて栞に(ましゃこ)
陽当たりの良すぎる部屋にきみがいて ぼくの棺桶にもたれて眠る(三月)
どうせなら、わたあめみたいにふわふわの 夢とか愛にまみれて死にたい(千陽)
この町の夜空は赤く明るくて星は見えないまあそんなもん(町本真衣)
本当は神様なんていないのに誰かのせいにしたい日がある(箭田儀一)
泣きそうな君の表情ではなくて冷たく晴れたあの日の東京(藤瀬こうたろー)
好きは好き 理由を説明できなくてランドセルは赤色だった(菜々瀬ふく)
天使業隙間時間に焼きいもを手ずから渡す副業をする(別木れすり)
友達の声で鬱の暴風をうける帆を張りおやすみ、明日(あんの屋)
かなしみをたべさせ青にそめた鳥 手をさしだせばあなたへ渡そう(みつき美希)
落葉の最期の声を聞くように桜並木をゆっくり歩く(宮緖かよ)
トーストの耳をかじればさふさふと落ち葉のさわぐ冬の石段(カワシマサチヨ)
青空の余白は白と想ってた君は笑って青だと言った(空虚 シガイ)
種もなく皮ごと食べるマスカット生殖しない我の赤秋(睡密堂)
はやばやと介護ベッドは引き取られ週の真ん中だけが晴れた日(ZENMI)
戦争をしたい奴らはまとまって火星に行けよパンツいっちょで(桜井弓月)
読めるけど書けない漢字があるように辿り着けない正しさもある(あきの つき)
かしゃり鳴るカメラ向けども滲む月壊れてんだよ心のレンズ(香椎柳)
鰹節よせめて死後でよかったか生きて心を削られるより(桜井弓月)
振り向け、引き返せ、立ち止まれ ひかりは前から差すとは限らない(小竹笹)
友だちにおすすめすればもう一話 音信不通でも届いてる(楼瑠)
舞踏会 そんなのなかった 最初から 灰よろこんで 灰よろこんで(桶森あわ)
花の咲くようにこぼれる笑みだった煙に乗って空でも咲いて(水也)
尻尾まであんが詰まってたとしても重たいなんて思わないから(アゲとチクワ)
真夜中のテンションでならあなたにも本音を言っていい気がしてる(宮緖かよ)
きみじゃないひとといるのにきみいろの風がこころを撫でる、今でも(骨盤矯正)
彼の人は宵に現れ明けに去る望月に似て疼きを残し(一筆居士)
守れない約束だって無いよりはきっとマシだよ生きて来られた(れいこ)
もう何も思い残すことないと終活始めた小さな背中(雪未完)
焦がれているこころを隠す色として完璧すぎる銀杏並木は(奥 かすみ)
子は眠り 炭酸水の産声は廊下に響き 氷は踊る(桶森あわ)
透明な檻だと思う水曜の雨にのたうつ人魚のように(よしなに)
歌う君「あなたとはもう、別れたい」ファミマの入店音に合わせて(汐留ライス)
都会でもノイズキャンセルイヤホンで血潮コポコポ流れ静もる(妄想機械零零號)
汚れやすい駅の通路磨く人の横を通る悪人のごとし(雪未完)
海と空 ふたつの青に身を染めてトビウオ、君はさびしくないの?(ぐりこ)
“High above, high above the 落ちてゆく 落ちてゆく僕 の上空の顔”(水沢穂波)
弱り目に祟り目続くスパイラル竜巻となり空を引き裂く(フクギの森)
「またね」だけの別れ 街のネオンが風穴くぐる 音は風になる(傘糊)
くだらないそう切り捨てて一枚になった手札は大事じゃなくて(千代染ひすみ)
絹ごしの豆腐をそっと掬うよう君のことばを受けるてのひら(佐竹紫円)
指先でわき目もふらずに線を引くのは誰かを指差さぬため(小竹笹)
悲しみの数だけ優しくなれるなら僕は性格悪いままでいい(白鳥)
見飽きてるはずのラメとかカラーとか捨てられないの欲しがったから(水也)
星の数ほどのいい歌見上げてるわたしを照らす月をください(Rhythm)
音を立て転がる枯れ葉追いかける風に飛ばされ空を舞うまで(雨宮雨霧)
Spotify シャッフル再生 僕の気持ちにリンクする天才かよ(はざくらめい)
隠しごと多いと人は孤立するどこか似ている秘密と孤独(北乃銀猫)
白くって柔らかいとこ触れてみた僕がいちばん好きな食パン(ツキミサキ)
からんころん、口に含んだ飴が鳴く 苦しませぬよう奥歯で噛んだ(千陽)
ベルーガの額をなでてねむりたいあのふくよかなまどろみの白(せんぱい)
あなたへの想いが薄くなっていく まるで氷を入れたみたいに(宮緖かよ)
帰宅して部屋の扉を開けてみた きっと泥棒 今帰ったね(ましゃこ)
こわばった肢体も肉の塊で 私の品性疑ってみて(三月)
コスモスは泣いて笑って懐かしい声のようだね 一面に君(納戸青)
甘くやさしく匂わせてそっけなく心を奪うきみは金木犀(雪未完)
曇りでも傘を持ってく君なのに隣で寝落ちするとか 今夜(一筆居士)
「じゃあウチが関西弁をうつしたる。」自信家なのに小さな声で。(りゅーせい)
背伸びしてフレンチなんてバカみたいラーメンでいいラーメンがいい(綾野つづみ)
それはまるで直喩にしたら意味の死ぬ君なら書けた詩としての朝(綿鍋和智子)
満月で大安なのに失恋て、金木犀に泣いてもらお(たな)
人間は安いけどすぐ壊れるねロボット達の声の冷ややか(猫背の犬)
本当はとっくに用済みだったのに気が付かないでごめん 消灯(ぐりこ)
帰る場所無視して自作の孤独が肩に食い込むバックパッカー(百瀬圭)
君は猫の目を見て月みたいと言った綺麗ですねと言ってみようか(鯖虎)
今日鍋か、そういや苦手なAさんが失踪したって、うわ美味そうだ(別木れすり)
愛情の境界線を引けなくてファミチキだって店で揚げてる(アゲとチクワ)
二週ごと特に変わりはないです、と答える度に日々を均(なら)して(マノチハル)
晴天とわが網膜を貫いて彼岸花はつらつと咲く道(10)
パンケーキ返し 愛とは呪いだし 呪いが愛になることもある(ぽりぐらふ)
黎明をずっと待ってる 眠剤の瓶をカラコロ傾けながら(月夜の雨)
空想の中のハンカチ破れてて胸から出た糸触って堪える(あんの屋)
靴の音であなたが来たとわかるから恋は盲目でも大丈夫(杏仁豆腐)
あの時に救ってくれてありがとう 今でも私が恋する虚構(底)
給食でとなりの席とくっつけるみたいなピースであふれろ世界(アゲとチクワ)
漱石の隣に置いた図書カード『こころ』に換えたクリスマスイブ(あだむ)
幾重もの薄秋色が重なってようやく至る 秋のひかりだ(せんぱい)
月光を翻訳すればしんしんととわに終わらぬ呪詛なのだろう ダイ・インのひとの頬焼くアスファルト傘は炎のやうに増えないそれだけのことなのだからという顔の差額のような謝罪をどうも(穂崎円)
お互いの庭を掘り合う「スコップ」と「シャベル」の意味もチグハグなまま(しみず)
もし君が風になったらカーテンになったわたしを揺らしてください(ゆひ)
去り際に振り返ることを願うからエンドロールとどこか似ている(白鳥)
新しく一歩踏み出す記念日も さよならの日になる人もいて(青色紺色)
ドーナツの穴の部分を見てしまう 失ったものばかりが気になる(ぽりぐらふ)
例会をサボったときの身軽さで月を盗んで売り歩きたい(水沢穂波)
ほがらかにパフェスプーンで突き刺して少女は死ぬを連呼している(Kirio)
丸腰の心を銃で撃ち抜いて私が泣けば満足ですか?(美鷹周)
欠けているところを僕が埋めるから満月だって誰かに笑って(Q)
学校に行きたくないと泣く吾子の漢字ノートが毎日きれい(山田 種)
ひさびさに名前を三度唱えると果実の香りがします あなたの(短歌パンダ)
ぜんぶ嘘。なにもかもみなそういって捨てられた葉を拾う手のこと(Sand Pawns)
学ランのホックを外すやり方で枝豆食べる教え子と飲む(あだむ)
押し入れに鉄の鯨が住み着いてときどきシャツを伸ばしてくれる(マノチハル)
思い出す笑顔はどれもピンボケでたぶん一緒に笑ってたから(みぎひと)
だんだんと薄まっていく飲み物を所在なさげに啜るだけの僕(うめこ)
さっきの蚊も冬を越せないと察して刺すしかなかったんでしょうねぇ(戸田静)
交差するひとり、一匹出会う時、擦れた靴にも猫の手一つ(サンか)
我身から要らないものを剥ぎ取った最後に君を剥いで透明(れいこ)
救いとは 遠くて近く ありにけり 心の月を いま照らしませ(中村黄独)
どんな顔していただろう吐く息の白だけ残し飛び立つ君は(琴里梨央)
優しさが溢れる世界になりました 地震も平気 ゆりかごだから(桶森あわ)
友達を喜怒哀楽に振り分けて秋めく鏡を殴りつけてる(みちか)
夕食で報告しあう朝の虹みんなあのとき見上げていたんだ(みぎひと)
ハロウィンの日にいたずらに蘇るよく待ち合わせした場所のこと(奥 かすみ)
待たされてファミレスでつつくジェラートの痛みと等しく滑らかな椅子(つじり)
沈黙も心地良い仲に慣れた頃フランス映画の密度が上がる(川瀬 凪)
公園の砂場で穴掘り トンネルを作ってあの子と手を繋いだこと(水柿菜か)
ベジタブルファースト咀嚼したらもう気付いてしまう月のない夜(仁藤えみ)
大谷は日々ホームラン打っている おれは一人で定食食ってる(藤瀬こうたろー)
あの夜に逃がしてやった終電がやっと恩返しに来た月夜(高木香)
中三の夏に通った図書館で魔法を知った新潮文庫(綾野つづみ)
バファリンを飲んでも効かない私だと特別なんだと思いたかった(返す刀)
渋谷の空を見上げて星がないとぼやいた道産子の喉仏(百瀬圭)
くまさんの左肩から右足の裏にわたって撫で狂い死ぬ(雨野水月)
トーナメント始まるまでは頼りなく細く頂上まで伸びる線(梅鶏)
家系図は茸のような形してあるいは顕微鏡のvirus《ヴァイラス》(妄想機械零零號)
花の降る金曜に飲む白ワイン月がグラスに注がれてゆく(杏仁豆腐)
餌として入れたメダカを食べられず共存しているウーパールーパー(うめこ)
サーバーがメンテされてる時間だけ人間として維持されている(雨野水月)
何もかも宝に変えてしまうからミニマリストは諦めている(白鳥)
書き損じの手紙を破る ほんとうに伝えたいのは、つたえたいのは、(佐竹紫円)
角砂糖 街にばら撒く計画はどうやら未遂に終わったらしい(白鳥)
じりじりと線香花火の振りをして安心させて堕ちていけたよ(雨)
光 ただ そこに存在してるのに、あなたが神を創ってしまう(真朱)
地に落ちた星屑たちは生きている金木犀という星の木で(千代染ひすみ)
宮城の静寂さとはウラハラに魂ゆらす日比谷野音が(フクギの森)
水銀灯照らされ光るギムレット忘れられえぬ初めての背伸び(森風輝)
怒り込めマッシュマッシュ芋マッシュ何食わぬ顔「お肉とどうぞ」(別木れすり)
つけ爪と樹脂と光でひた隠す内臓に似たこの感情を(低空浮遊)
え、うそだ、ご飯にシチューかけないの じゃあどうやってシチュー食べるの(千陽)
シャッターを押した瞬間世界から外れてしまったクロノスタシス(神楽ゆいり)
銀紙を剥がせばそこにまだ真白ききみのココロがかくれているかも(古井 朔)
「ニルヴァーナ?涅槃でしょ」ってドヤったら会話が全て解脱しました(水川怜)
残された時間がわかるわけもなく粛々とごはんを食べる日々(ツキミサキ)
はじまりの香りがします気に入りの喫茶店前の金木犀(香椎柳)
来世での「また会えたね」がデザートで今の孤独はすべて前菜(10)
身じろぎをすると憂鬱転びでて蛍光灯の中の沼地(あんの屋)
今もまだ何が大人かわからないだから半額にしてください(汐留ライス)
もうきみのいない寒さに慣れてきて今年はただの10月20日(宇佐田灰加)
やわらかく夜を起こしてゆくようにつぎつぎ灯る窓のあたたか(メタのおわり)
やがてくる冬にも枯れたひまわりをかかげて続く愚者の行進(ぐりこ)
消えかけの湯気ごと喰らうかのごとくむっしむしと減りゆくケーキ(小竹笹)
雪虫はヤチダモに向け飛ぶらしい 意味があるのはこわいと思う(もくめ)
レッドブル缶の結露か数式は少し滲んで夜の始まる(とかげまろぅ)
妻に谷から突き落とされ「これは愛か?」答えはいずこ 悩む獅子(松本福広)
小さな背大きな世界見渡せば君が視界に入る嬉しさ(0世)
5%《パー》より濃いチューハイでふたをしてルンバとだってサンバを踊る(傘糊)
右側の外側だけが傾いたコンバース 残すわたしだけの跡(漁火いさな)
生きるだけ恥の厚みがましてゆく一回剥いで薬をぬりたい(水の眠り)
憎かった でも愛だった 鍵穴は気づけばあなたの形をしていた(ぽりぐらふ)
会いたくてたまらないのは秋のせいすぐに会えなくなりそうだから(空虚 シガイ)
糸井重里では見つけられない埋蔵金より価値ある秘密(ZENMI)
定型文のようにいかない恋だから書いた手紙をヤギに見せてる(りんか)
体温は36℃ 警告音 気が触れるまで80㎝(晄晞)
母の背に伸ばす手のひら親指と小指の距離はもっとも遠く(宇井モナミ)
傑作と駄作を分ける白線のこちら側までお下がりください(海老珊瑚)
ブランコを漕ぐ あなたまで届かないほどの力で何度でも漕ぐ(あひる隊長)
しんがりで敵意を防ぎし「笑」がいま務めを果たし草葉に斃る(反逆あひる)
かぎりなくやさしいあいはあいですか 何かシールが貼ってませんか(短歌パンダ)
世界から消えたい夜は、コーヒーを流して溶けて川になるだけ(0世)
弊社には金木犀はないですが十字路の先の風はあります(あんの屋)
愛未満無情以上のメニュー表 赤の他人が焼いたトースト(三月)
新曲に揺れる群衆の音はない波は一つの音楽になれる(あんの屋)
あかあかと腹を焼かれし大蛇が夕空ゆるり這えば秋風(叭居)
この世界二度と会えないことはない二度と会わないことはあっても(北乃銀猫)
オセロにて第三勢力「灰色」が陣地の全てを虹色にする(しみず)
落ちている空き缶拾いゴミ箱に入れてることを僕は知ってる(Nock)
満員の車両の窓がほんのりと湯気で曇れば冬のはじまり(カワシマサチヨ)
ふた月も前に消えた花火でした畦道で手を振る彼岸花(さんそ)
月うさぎ舐めた指先冷えきって傷口だけが広がっていく(雨)
これまでは無意味だけれどもういいの天使の輪っか映すコーヒー(綿鍋和智子)
(わたくしを忘れるためのスイッチを頬に仕込むわ)最後になでて(菜々瀬ふく)
宇宙一大きな手紙を書きなさいそれが宇宙というものでしょう(短歌パンダ)
応答せよ、こちらはゼブラゾーンにて安全地帯「白」にいる。どうぞ(てと)
アスファルトじっと見つめて青空に送れば影は光へ変わる(りのん)
憧れたひみつ道具はないけれど猫型ロボはファミレスにいる(北野白熊)
図書室にわけなく残る君もまた感じてるのか雨の気配を(鯖虎)
イイヒトと切り捨てたくせにアオハルはアオイロのまま取っておこうよ(小仲翠太)
教室の窓から見える煙突で 今日も誰かが煙になりぬ(わたこ)
鍵盤に降る雨粒を十本の指でなぞるよう弾くジムノペディ(小仲翠太)
焼き芋をはんぶんに折る折れたって芋は芋だしわたしはわたし(くらたか湖春)
すすき梅雨のやわい糸にえぐられる あなた、あなたと こもっていく熱(汐)
薫習が君のいない今を語るつけたエプロンそっと置く(黒那根 湊)
おっきくて白い鳥だよ おっきくて白い鳥だよ 少しだけ飛ぶ(つじり)
円盤を降りられぬまま回る目でループを抜けるif探す秋(ねこ〜)
いつかの日灰になったら飲み干してゆびきりげんまんありがとまたね(永沼 花楓)
折り鶴の青きピアスを作業所に購う髪を五センチ切りて(小野小乃々)
ばあちゃんは黄色の花の割烹着あたしの名前を呼んでくれる(町本真衣)
落書きのノートの隅の君の名を書いては消してまた書いてみる(箭田儀一)
ボストンでティーパーティーを夜に眠りを輪唱が止まない秋の(せんぱい)
努力さえすれば叶うと信じてた蝶にはなれぬ蛾の逞しさ(桜咲)
眠れずに僕らは月を取りにいく夜の長さを言い訳にして(月立耀)
円形の缶に佇む焼き菓子を 選んで食べる小さなしあわせ(千陽)
いぢわるな言葉に慣れたりしたくない洗濯物は晴れの日に干す(ZENMI)
きみの持つ明るさ足してわたしたち黄金《こがね》の色になるレモンティー(真朱)
腐食せし廃墟を包む蔦のごと吾の尽くを抱きしめる君(橘 古都)
午後二時のフレンチトーストにバターを使えるようになって寂しい(とかげまろぅ)
汗のにおい腐ったみたいな潮の匂いみちてあふれてる雨の日のバス(みつき美希)
もう一度会いたいもう一度触れたい頭の中はそればっかりで(北乃銀猫)
複雑な定理を解いて笑うんだ君の名前をつけたんだよって(永沼 花楓)
サブスクで薄れつつある歌詞カードあの子と分かち合う歓びを(香椎柳)
路線図を見上げて思う月曜のこの駅からの海までの距離(カワシマサチヨ)
左手とスカート揺らしるんるんと歩く人雨を弾いて去りぬ(香取ななや)
元々はひとつだったね魂の欠けた部分に触れ合えば雨(あきの つき)
わたくしは魔法使いで上長にCtrl+;《コントロールセミコロン》を授ける(八乃一輝)
少しだけ自分を変えて寂しさを何かに変えるハロウィンの夜(りゅーせい)
今日もまた数え切れない10φにボルトが通る ビルがまた建つ(八乃一輝)
わずかずつ歪められゆく放送の声がミッキーマウスになる日まで(畳川鷺々)
くちづけをする度壊れそうになるあなたのためのダムのいくつか(宇佐田灰加)
終戦 カートリッジはピストルと俺は彼女と墓に入ること(はじめてのたんか)
西へ行く電車をいくつも乗り継いでブーゲンビリアに会いにいきたい(Rhythm)
白亜紀の石だと思うこの嘘はひとりぼっちを護るお守り(川瀬 凪)
快速が通過した駅 自伝にも載らない今日を生きていくだけ(海老珊瑚)
マンスリー手帳四角を埋めきった文字十月と二枚の猶予(綿鍋和智子)
今死んでもきっと誰も悼まない見上げた先に月は見えない(アサコル)
鞄の字目に入る ここが大学であると自覚する Maison de FLEUR(晄晞)
たんぽぽのぽぽはどこから来たのだろう綿毛のような旅があったか(Kirio)
年月に月があること そうだった僕らの時は支配されてる(てと)
次世代短歌/毎月短歌