第18回毎月短歌・連作部門 作品一覧

第18回毎月短歌・連作部門に投稿いただいた短歌作品の一覧です(表示順はランダムです)


やさしいせかい

ほんのりと色づく宵にプレゼント 一番星が(ボクが来たよ)と

闇、増して空き缶ひとつ転がれば空《そら》に反響 独演会に

ベッドでも頭に浮かび指をおる三十一文字の音 やさしいことば

明日《あす》は仕事と睡魔を呼んで目を閉じた先にひろがるわたしだけの夜《よ》

くるまって眠りに落ちればもういいと 羽布団の向き回転してる

朝が目を覚ましたときにカーテンの隙から伝う まあるい温度

徒歩5分 駅までの道に影つくる陽はいつでもいるわたしのそばに

りんか


隙間

折りたたみ傘の骨がひとつ曲がり正しさにも隙間はあると

コインランドリーで乾くシーツの白さだけ信じられる夜

木の枝にぶら下がりたいと言う君をまた正論で制してしまう

電車内の広告に目を落としながら読まない文字で埋める空白

ウォーターサーバーの水が尽きる音 ひとつの会話を終わらせる朝

マグカップに少し欠けた口当たりも君と似ていて捨てられない

スーパーの袋に入りきらぬ白菜のように収まらない私

箭田儀一


訃報

朝方に連絡あった弟の交通事故の訃報であった

終末期チューブに命繋がれてとぎれとぎれの訃報であった

え、うそじゃん好きなアーティストだったのにネット越し訃報であった

田中薄氷


あまりに個人的な

限りなくとうめいになり身ひとつで飛び込むことをゆるす海原

中庭のメタセコイヤの足元で下を向きただ花を探した

この町は海から遠いけど雨が降る前潮の香りで満ちる

ずっと笑顔で吠えてきた犬あの林の中を駆けていた犬

手に馴染むやわさになったブッカーのかかる文庫の小鳥を抱く

人のない図書室の隅ブラインドから漏れている陽ざしのかたち

『雪国』が光を帯びていただけのことで笑ったあのころのこと

ようやっと水面に顔を出してみて白々と照る月だけがある

感傷と名を付けるにはあまりにも 個人に根差しすぎた記憶だ

せんぱい


狂詩曲エジプト

ナイルさえ四千年の時と砂は彼方へ運び去ってしまった

あの頃のギザには街があったんだ ここは静かな墓じゃないんだ

果てしなく砂に吹かれてスフィンクスはライオン岩に還るまで待つ

砂も塵も駱駝遣いの呼び声も風に巻かれて石に溶けゆく

尖塔の祈りの声に誘われた小鳩はどこへ帰るのだろう

雑踏と喧騒だけの市場にて、心を埋めるものを探した

金色の朝日に街は包まれてファラオは今も夢をみている

Rhythm


エンジョイ人生

宝くじ当たるみたいに稲妻に打たれて死にたい(爪先立ちで)

死神にキスするためのjポップ 歯がぶつかった痛みで死にたい

ペンギンを抱いて死にたい 南極へ黒い下着をつけてフライト

暗闇がはじける雲に色が照る 花火の燃えかすに当たって死にたい

単純な言葉を探して彷徨った森で毒キノコ食べて死にたい

天気がいい 風が気持ちいい 人が好き なんでもいいから今すぐ死にたい

三月


Far Away

執着かどうかは知らず生きてゆくための呼吸を忘れはしない

秋の樹が枯葉を放つようにして泣いてしまえば涼やかな胸

冬なのにまだ降らぬ雪 頂点へ至るグラフに無数の点を

睡眠をEnter(ルビ:キー)に預けただけなのに薄く嫌われはじめています

色のない声を選んだつもりだが レースカーテン 気づいていいよ

降りかかる雪は素肌に溶かされて寄り添うことは消失だった

条件を変えて計算してみても何度も出合うみたいな出会い

遠くまで やがて涙は激流の大河となってわたしを運ぶ

中村 杏


余命五十億年

告白を告白で打ち返す君 マリーゴールド枯れゆく冬に

大丈夫、知らないだけで誰にでも余命はあるし五十年とか

別れ道どっちに行くかじゃんけんで決める君には敵わないけど

この間調べたんだよこの星の余命は残り五十億年

永遠ってどこにあるんだこの星も限りがあって命があって

イカロスをいま発つ光 君たちに見て欲しかった水の惑星

北野白熊


キス小話

キスしたい息が繋がるあの瞬間僕らは玻璃の楼閣にいる

君の瞳に啄むように唇をあてて僕しか見えなくさせたい

キスひとつキスもうひとつこれでもう僕は世界を手にした気分

ボディブロー喰らったように動けないはじめて君がしてくれたキス

シャングリラふたりの熱が混ざり合う僕らの邪魔は誰もできない

北乃銀猫


電波星

特別かどうか知らない鐘の音が絶対になるまでのお話

おおきくて愛のない愛救えない球体じゃない星にうまれて

ずたずたの全能感で着飾って笑いものになる準備はできた?

いいこね 知らない星のオーパーツやさしくのみこんで おくすり

ビリビリに遅刻してきた青よりももっと恥ずかしく誇らしい春

火の鳥は暗くて弱い鳥のままひとつの宇宙を救ってみせた

再演は期待できない 耳の奥、目蓋のうらにきらきらのバグ

ってわけで今年のひかりグランプリ優勝はきみの眼光でした

みたことのない嘘ばかり手にひろげ教えてさいごの星の煌めき

お話はここでおしまい 言葉にはできない未来で待ちあわせ  ね

畳川鷺々


星から逃げる

あの頃の教室みたい右側のきみと乾杯するカウンター

日本史は苦手だったね覚えてるクラスメイトを交互に挙げて

唐揚げは皿の真ん中ひとつだけ口に出来ずにいる忘れもの

過去形で生かされている好きという気持ちもみんなみんな過去形

きみの手のハイライトよりはらはらと灰はこぼれてもう戻らない

好きな子の名前を口にするような顔で聞くなよ「どうする?」なんて

滅びゆく星からそっと逃げ出せば落ち葉がかさりと鳴る帰りみち

くらたか湖春


素材のままでいたかったのに

素材のままでいたかったのに

「良い意味で」良くない意味にしてしまう人がいるから付け足すパセリ

やわらかな出会いは熱を帯びているロイヤルミルクティーの世界で

角張ったバターのまままでいたいのにホットケーキに乗せられ溶ける

さくらんぼ 浮かれて撮ったキラキラのソーダは白く濁りはじめて

オリジナルメニューを作らない店の食品サンプルみたいなデート

飲みたくもないのにおかわりするコーヒー、ループする曲、あなたに戻る

着飾ったプリンアラモード クリームの壁越しならば言えるさよなら

真朱


睨む

いざとい恋仮想の棋譜で睨み合いわたしの王の逃げ場がないね

過去の恋を二次元の蛇が睨んでるrepeat after me 君の世界

girl’sバー仮想のヘビが睨み合いそして注がれるキャストドリンク

カーナビのおんなの人の声のよう 夢の中でも笑わぬ君が

(わかば)


winter

冬と書けばツリーに揺れるリボンとか窓に流れる雪に似ている

真夜中のレースカーテン越しに見る凍みる街灯光れる舗装

黒布の上で氷を削ったらできるだろうか星と満月

ふゆと書けばどこもかしこも丸くってふとんに沈むねこに似ている

長毛のねこに埋もれて眠りたい蚤になりたい悪さはしない

おやすみの前のミルクに膜が張る今日の涙はベールの向こう

冬だから誰でもいいと甘え来るきみと二度目のあたたかいふゆ

りのん


遊戯強制終了

ボルメテウス・ホワイト・ドラゴン あの人を思い出させず墓地に送って

「誰と来たの」って聞くから素直に答えたら二人の遊戯強制終了☠☠☠☠☠

待ち合わせした世界線間違えて待ってるばかりで会えない二人

家を出る前にトイレを掃除して They say だから嫌われている

朝イチで謝らなくちゃと思ってて全部忘れてがめおべあ(泣き)

コンサータ鼻から吸ってチャリを漕ぐ君のところへぶっとびカード

どの順で謝りゃいいかわかんねえ言葉が踊ってキレてるLINE

ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン返さなきゃ盗んだ少年の日の思い出

ガメオベア、スネオヘアーらの共犯者 月の果てまで逃げ切ってくれ

☠☠☠☠がめおべあ☠☠☠☠読まない文字ってさみしいね でも行間を遺言にして

松たかコンヌ


冬に怯える

たましいが冬に怯えている 鋏 ラムレーズンをつまんで食べる

透きとおる空から雪が降りてきて道がまばらに汚れていった

冷えこんだ街はますます煌めいて恋するように落っこちる星

もういいよもういいよって囁いて地球が逆さになるまで眠る

悲しみを勝手に奪っていかないであなたはあなたの地獄で生きて

地下鉄の流れを止めて目を閉じてミトコンドリア・イブを殺して

まろやかに冬を削っていきながら明日に向かって落ちる太陽

強張った身体をほどけば雨になる 排気口から漏れて明るむ

大丈夫、大丈夫ってきらきらの片道切符をたくさん配る

宇佐田灰加


蛇と獏

書き初めが苦手だったな他人様に見せられる言葉なんてなくてさ

抱負なら「死なない」でいい喜びにきみは好かれているから平気

そう言ってきみの抱負がこの僕のさいはひであることを知ってる

うたたねの前の一瞬きみの瞳は遠く宇宙を旅してまわる

炬燵から出てお茶を淹れるスピードできみに十一連敗中だ

ぬくぬくの夢だけみててそうでないものはわたしが食べてあげるよ

本当は蛇のよにきみに抱きついてぎううと離したくはないんだ

言いたくて言えないことも雪のよに襲ねてともに生きていこうよ

菜々瀬ふく


ぼくの神様

朝すごく冷たい水をお供えの花にもあげる ごめん寒いね

みんないう神様なんていないって みえなくなったらいちゃいけないの?

ぼくはまだ漢字があまりわからない 信仰?シンコウ?もどれないこと?

押し入れで声をころして泣くときもだれかがみてる やさしい暗闇

たわいなく蹴られる石を見つめてた そこにいたんだぼくの神様

根古野文々


善人と書かれた服

善人と書かれた服を着てる人普通の人には見えない虚しさ

絶対的正義なんてものはない角度を変えればきっとただの悪

人が嫌がることを進んでしますきっと苦しいどちらの意味も

止めてって何度言っても通じないこれが正義であってたまるか

日本語が通じぬ日本人もいるそんな人さえ生きている地球《ほし》

アサコル


冬寂(とうじゃく)

ふるさとへ向かう増殖鉄道の窓を横切るメタ鶴の群れ

ウィンターミュートが遠くのお山から聞こえてこれは冬の訪れ

づぉうさんエンテンペケリが長いのねそうよ象さんとは違うのよ

十数年ぶりの実家は変わらずに膨張と収縮を繰り返す

軒下に大根とウィンターミュート並べて干して雪に備える

テレビでは再放送の欽ちゃんとウィンターミュートの仮装大賞

店頭にプラスチックのしめ縄とエンテンペケリのウィンターミュート

両親は耳からガスを出しながら猿は逃げたと何度も言った

雪の夜、村を襲ったづぉうさんはウィンターミュートが滅ぼしました

汐留ライス


今昔物語、求

消し去って何もかもねぇなくしてよ跡形もなくそして掬って

消えなくて消えないのなら閉じ込めてそれで済むなら。(簡単だった)

奥底に閉じ込めたから鍵もなくて彷徨うばかり代償とでも言わんばかりだ

溶かしてと溶かさないでが両方が在るから潰れそうなの

そんなでも足掻きたいから藻搔いてる不恰好でも抱きしめたいよ


トーキョーINN

鋭角の多い街ですヤスリとか絆創膏はたくさんいます

ただいまの仮面をつけて東京の夜景見つめる着陸準備

追い抜きのためのレーンは空いている立ってスマホを注視する群れ

海外は可能か聞かれ頷いて実を啄んだ鳥が蒔く種

遠回りしたい日もあり内外《うちそと》を間違えて乗る山手線

贈りものですかと尋ねる店員に笑顔はなくて5分咲きの花

カサついてしょうがないから水分に課金しているキスとか含め

別れたくなれば別れりゃいいよねと言ってた時が私にもある

花吹雪そのひとひらにやがてなる 私はきみのホームでいたい

木ノ宮むじな


密やかな行い

ひそひそと内緒話に目を伏せる頬にあたった綿雪の音

飼育小屋の兎の脚を捕まえるぐらいにはある野蛮な自覚

途切れがちな白線のみを見つめつつ歩いた先にあるゴミ捨て場

捨てられたモニター越しに映される塗りつけられた未来ごとゴミ

水という水を流しておく校庭が海になるための作戦

失敗は失敗を呼ぶ灰色の砂地ブランコ仲間ができる

砂を掘る埋める掘り出すまた埋める宝さがしはつづく海まで

まちのあき


魔法の暮らし

ダイバーがコップのフチに座ってる泣きたいときのソーダの海辺

ベランダでダンスしている鳥たちに教えてもらう愛のやり方

鳥が歌い草木が踊り風が舞い明るい空が星におやすみ

映画なら時をかけてる教室にときどき帰る忘れ物をして

ピュアじゃなきゃ乗れない雲があることを思い出すときピュアがこぼれる

透明なコップに水があることを教えてくれる涙があった

いつまでも線香花火が落ちなくて弱い魔法の暮らしが続く

ゆひ


ランダムの罠

ランダムなグッズ封入銀袋 まんまとハマる課金の罠に

だとしてもまだ見ぬ罠にどきどきと寒空の下並ぶ、幸せ

グッズ列いざ目前ですいませんこれで終了これこそ罠か

やっとこさ手にしたグッズ開封しまた同じやつまた同じ罠

コンプリをしてもせずとも楽しくてまた罠にハマりたいと願う

さに。


手ざわり

朝に飲む薬が1から4に増え先輩だから先に飲む1

冷えきった鍋を火にかける二日目に母とおんなじ味になるお雑煮

たぶんここらへん開けたらクレラップ あるね妹の家の棚ん中

うちの子は煙が出るのを見たことがないかもしれないない気がします

ミルフィーユはがして食べる友達の光に透ける産毛を見ていた

肌の上ダウンを着れば生きている私の熱が私を包む

転んだら猫の視界とアスファルトみえるよみちが道が見えるよ

そんりさそうこ


♀(メス・VENUS)

生まれつき宮を宿した体には女神の言葉でできた法律

さわったら柔らかいから十字架をそっと抱くのはわたしのしごと

金星がひとりで燦(も)えている訳をさとる 化粧を覚えた頃に

貝殻をひろうサキュバス 黒髪を褒めてくれたのわすれられない

極夜には君の言葉を置いていく オーロラになって、きれいだなんて

いつまでも悲鳴が届かないのならソドムとゴモラ呼び寄せる月

今生で燃やしつくした内臓をいつか慈愛のまなざしで解く

納戸青


車椅子ユーザーとテクノロジー

エレベーター何基並べど一基しか車椅子用ボタンがない謎

車椅子用のボタンが付いているエレベーターだけなかなか来ない

有人のレジで感じぬ障害を突き付けてくるセルフレジかな

自販機も顔認証の時代となチェアウォーカーも写りますか?

クリックで食事も本も届く世のテクノロジーで縮まる格差

セルフ化の波は健常者だけ乗せテクノロジーで広がる格差

見えづらい手も届かない使えないATMに爆弾仕込め

セルフではないガススタを探しては町を追われてさまよえば冬

桜井弓月


旅の始まり

赤い手帳とひきかえに空を飛び たどり着いたは まほろばの国

スーツケースの車輪だけが 馴染みない夜の街に頼もしくひびく

こびりつく自己という名の意識まで はがしにかかる 言葉連弾

表情に にじんでいないもてなしが おびえた口を なめらかにする

帰宅の途 棒になった脚をさすり 滑走路から飛びたつ旅愁

久方の風呂に疲れをとかしつつ もう つぎの世界を夢見てる

ゆうぴょん


人のいろんな

神なんかいないと言っていたくせにすぐにオーマイガーと言う人

砂浜で失くした時計 まだ人と同じ時間で生きてるのかな

ひゃくなんじゅう円でこんなにあったかいコーヒー 人のぬくもりなんて

ナポリタンの化石 古着は人生の匂いがすればするほど安い

人間の形になっているだけの布って感じのホテルのパジャマ

資料集ばっかり見てた 銀魂に出てくる人の白黒写真

フォロワーが多い友人は見えないお金を稼いで生きてるという

いらっしゃいませをめちゃくちゃ平滑化して唱えてるアパレルの人

寝てるとき人はほとんど死んでいる←バツ(起きてるときもそうなので)

one for one  優先席で寝てるふりしている人のメゾン・マルジェラ

維々てんき


生きてるうちが花でしたねっ(怒)

姑はわれの草履がお気に入り泥だらけにしてまた泥つけて

姑は洗濯物を鑑賞し我の下着で井戸端会議

姑はきれいに食べた茶碗見て「卑しいなー」とわれをさげすむ

姑は「つましゅうなー」と言いながら自転車こいでパチンコに行く

「子ができた」と報告すれば怒りだす「子どもまでできてどうするじゃー」

来年の命のことは分からんと毎年言って九十八歳

この家はワシらが建てたワシのものいつでも出てけとついに追い出し

姑はおまはんよりも長生きと言ったが死んだありがとバイバイ

山野たみ


美しい鬱

東京の空は歪に切り取られベビーブルーの彩度が低い

真夜中の五十ルクスのリビングでフリックフラック雨に打たれる

気に入っているのかしらん先生は もう何度目の「心の骨折」

火曜午後三時肉屋にスウェットで(もしやあなたもうつ病ですか)

もういいや居ても立っても歩いてもいられないから横になります

わかってる吾子の寝息を聞くだけの仕事がこの世にないことくらい

南風、海を届けてくれないか 窓はいつでも開けておくから

コインランドリームジャンボジェットリーバイスのデニム売って暮らそう

何かしら変わるだろうかこの日々は前髪切れば便座くぐれば

過去なんて影なんだから行かなくちゃ光の方へ手の鳴る方へ

白鳥


自販機

あったか〜いの赤いしるしに誘われて蜜を探しに舞い降りる蝶

いかほどかコインを入れた分だけの温もりを吐く白い自販機

自販機のホットコーヒー取り出してコートにしまう冬の夜の夢

まほう野まほう


証明写真

一枚の写真で僕が僕であることを証明するフィロソフィー

心臓が左にあるので何事も中心線からそこそこズレる

傷害で退学をした佐藤さん 美白モードで消されるホクロ

もうずっとカウントダウンされていて選んだようで選ばされてる

見るたびに僕が僕ではないような気がするけれどそのままにした

てと


春がみた罪

薄紅の春が見たのは黒鍵を選んでたたく一夜の過ち

ひびく音すこし疲れていただけで眠っていればよかったはずの

繰り返す日々を探して振り返るあともう一歩踏み出せたなら

ふるい記憶のなかで咲く少女たち熱は加速し青く儚く

彼は誰の時は優しく夢を見せ目覚めの光いたみをいだく

揺れている名前もないの胸に咲く思いはひとは風になびいた

始まらずだから終わりもないのです桜ひとひらさよならもない

時の花燃え盛るほど過ぎてゆく時のかなしさはやすぎるつみ

水也


無人改札

寂しとさ寒さは似てて薄っすらと雪が積もった玉砂利を踏む

香水の匂いは思い出せんまま墓前でひとり線香を焚く

駄菓子屋も空き地になって思い出のなかにしかない景色が増える

忘れたいことも眩しい残像も残してくぐる無人改札

快速は止まらん駅でふたりよりひとりが似合う曲ばかり聴く

あきの つき


乱流

ぶつけてもぶつけてみても愛よりも似合う名前がないのは何で

人よりも人に言えない傷痕を潰さぬように抱き締めている

春まで持ち越したくないこの痛みユキワリソウの下に埋めてね

本物の時計を今は知らない子 気楽に針を巻き戻してる

人混みに入ってちゃんと人間が嫌いとわかりマスクをつける

空虚 シガイ


Unmanned Flight

空っぽも抱きしめられる花だったみたいに割れたコーヒーポット

おにぎりも決められなくて聴こえだすライフステージソングがつらい

逆上がりをあきらめた手はさしあたりあんまんなどを持つためにある

わかったからさっさと持ったあんまんを食べろよ口がかわいそうだろ

もう少し父といようか鳥が来る窓辺をもった家だったから

白雨冬子


嘘ばかりかこんで

切れかけた電球たちの女々しさで床につくのを急かされている

ダイニングテーブルがあるだけで今日を二人以上で生きた気がした

背伸びしなくていいようにコーヒーが自販機の最下段におりる

マイナンバーは何桁だっけmade by japan ただそれだけのことなの?

常連の盗っ人を呼びもう五回マツモトキヨシのカードをあげた

ざらざらになっていくんだ思い出はステージ4のラジオみたいな

一日が終わらないときランドリーが二十四時間まわる

コンビニで生活を買う朝焼けは優しく首を締め上げてきた

変わらない写真を撮ろう来春も造花に光の当たるところへ

はじめてのたんか


銀の砂浜

人魚しか産まない泡はたなびいて人が触れると地獄へおちる

人魚もう 浮上すること諦めてあなたの愛を亡きものとする

人魚みなロングヘアーと限らずにシングルカットでデビューを果たす

人魚の尾スクリュードライバーのワンショット酔わせて君をからめとる とる

人魚界食べたり呑んだり愛したり幻想ではなく理(ことわり)のこと

人魚だとしても尾びれを脱いであとサンダルで夏を全力で駈ける

人魚には涙があって海水に紛れて無視すんなって

人魚にもセイレーンの歌とどく夜一緒に堕ちてゆく海溝へ

人魚には人か魚の選択肢あったとしてもヴィーガンではない

人魚からはがれた鱗漂着し銀にかがやく砂浜になる

水の眠り


『甘い誘惑』

本棚に並べられてる本のふりしている魅惑のバームクーヘン

大量のレディボーデン抱きかかえひとりで食べてお腹を壊す

チョコレート溢れる噴水取り囲み何でも刺してチョコに沈める

白い船バニラホワイトアルフォート白色の海すべて飲み込む

中指と人差し指でシガールを挟んで見えない煙を吐いた

ツキミサキ


まっちゃんが消えた夜

老後資金気にする母は大晦日朝八時から清掃バイト

GUの床を磨いてきた母が廊下を拭いて網戸を洗う

アマプラでペルソナ観たいフリーレン観たい短歌を作って終わる

「大怪獣のあとしまつ」のあとしまつに大人がいっぱい並んでいるね

真っ白な肌の卓球部男子を殴るみたいな映画のレビュー

除夜の鐘消音にしろ受信料徴収の目印になるから

「おもろい」とみんな言ってたガキ使の腐臭ばかりがするテレビ欄

ガキ使を禁止されてた不名誉が勲章になるとは思わずに

松本も中居もいないテレビ欄来年もまた誰かが消える

消えるべくして消えていく人たちにさよなら言わず時代は変わる

六日野あやめ


寒中二〇二五

ただ白く舞い落ちるもの空からの手紙と思う年のはじまり

寒四郎寒九の雨が降るときは心の澱も漉されてゆくか

晴れを請い雨を恵みと呼ぶひとの受け継がれゆく想い うらはら

春永睦月


シャリほどの決意

縁語なら誰のだろうか風呂のカビ溜まりゆく皿薄いシャンプー

黒髪の排水口をせき止めて夜ふけに不意の足湯につかる

ゴミを出すわたしを見せてよいものか覗き穴越しの光る世界

陶芸の作家のように計画を立てたそばから破りまた練る

呼びたいと思う人の名呼びたいと思えぬ部屋と呼ばれないヒト

姿見はウソをつかぬと言う友はきっとわたしにウソをついてる

ひと肌の寿司のほどけるシャリほどの決意でジムと交わす契約

鯖虎


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