第18回毎月短歌・自選部門 詠草一覧

第18回毎月短歌・自選部門に投稿いただいた短歌作品の一覧です


思春期がまた来たようなかおをしてライブハウスは再開をする(わかば)

死が近いのか遠いのか分からない蝉は七日で落ちるというのに(ホワイトアスパラ

馬鹿だから気付かなかった乗る前にきみの夢はきみの夢きみの(

一日で行きたい場所がなくなった死んでから二日目の幽霊(雨野水月

蔓と棘からんで燃える薔薇の庭いつか娘を産むのはこわい(夏谷くらら

唇にさっきのチョコが付いていて絶対今日はしたい口づけ(藤瀬こうたろー

「もう一度、少女時代に戻りたい?」ううん。面倒。このままでいい(さに。

心無い木こりの話じゃない、今はあなたの木立の話をしてる。(えふぇ

ドアノブをつかんだときにやさしさを忘れた分だけの静電気(りゅーせい

妻になり母になっても合言葉みたいに旧姓呼ぶあたしたち(桜咲

たぷたぷのくらげのようにたゆたって明日のことは明日でいいよ(にいたかりんご

皇帝と呼ばれるきみも微睡んで しばし辺りは静謐になる(白川楼瑠

飛べないと誰がきめたの。風船を首にまいた駝鳥《ダチョウ》の夢想(りんか

ナイフより言葉が刺さる不条理に気付かないふりだけが上手いね(箭田儀一

少女とも女性ともつかぬ十九が見てた荒波 まだ海は青(漁火いさな

やわらかなロウソクのひかりのなかに二人の思い出が煌めいて(はざくらめい

短歌とは胸に燈りを灯すもの ときにナイフを突きつけるもの(Rhythm

出ていった君は戻らないハマスホイの絵画のようなドアの陰影(アサコル

寝落ちたら布団をかける優しさをみんな誰に学んだのだろう(さに。

まぁ百年後にはみんな骨だから あなたもとても愛おしい骨(ぽりぐらふ

ゆりかごに微睡むようなやさしさに触れた気がして絵本を閉じる(まちのあき

陽キャにはわからないよな電飾をつけられた木の気持ちなんてさ(白鳥

億通りありし命の終はりから吽を引けたら幸せだらう(鯖虎

両腕をひろげたほどの水槽のうつぼは先週から同じ位置(水川怜

息を止め海の底へと落ちていく吐息は泡に自分は骨に(雨宮雨霧

張り裂ける砕ける壊れる崩れてく破壊のあとはこんなにきれい(アサコル

一冊の歌集の海に入ったら自由に泳ぐ魚になった(りんか

友達の嘘を見抜けるようになって体感温度が10は下がった(とかげまろぅ

くだらない約束しよう雪の日に雪見だいふく買って食べるとか(白鳥

死にたいと嘆く少女は今もいて手を取りながら今日を生きてる(葉澄葉

見上げれば月がちいさくわらってる流れる星も宇宙(そら)のポイ捨て(きいろい

一人ずつメトロノームを持っていて振れる速さは人それぞれで(山野たみ

ヴァージンを隠して歩く暗闇に咲く花ありき 私と寝たい?(朝路千景)

ビー玉を飲み込みかけたあの日から意識しだした死が付き纏う(うめこ

誰の手も温かくあれ今日だけは グラスハープの音 瞬いた(納戸青

渋滞の原因事故で人一人死んでるらしい 「海たのしみだね」(村川愉季

月光にてざわりがある夜だって僕らの明日は変わらずにある(水也

真夜中にブルーライトを浴びながら行う歪な光合成(空虚 シガイ

なんでって君は怒ると思うけど怖がりなまま生きていってよ(菜々瀬ふく

全米が泣いた映画で泣けなくて弾けなかったコーンが固い(奥 かすみ

ただいまと言える相手もいないまま猫の動画を眺める深夜(箭田儀一

クリスマスの菓子だと聞けば大人しく慈しむように待てる子どもら(川瀬十萠子

下にこそある幸せをどんぐりや赤い葉っぱと一緒に拾う(山口絢子

♧♡♤ 全員が勝てるルールはつまらないだけ(村川愉季

たいくつな人たちばかり寄りあってあかるい雪原でするかくれんぼ(畳川鷺々

両方の手で花束を持ったままどうやって改札を通ろう(汐留ライス

これからも友達だよとわらってたポインセチアが寒がりと知る(きいろい

最後まで母を支えたレンタルの介護ベッドが部屋を出ていく(木ノ宮むじな

気づいたら(付箋だらけになっていて)高層ビルの建ち並ぶ街(まつのせいじ

ほぐされていないパセリが樹のようで香る木陰で詩集をめくる(畳川鷺々

包丁がにっちもさっちもいかなくて罠に嵌まった冬至、黄昏(うめこ

一人行く 砂漠の夜の 砂嵐 孤独に匂いはあるのだろうか(紅生姜天ひやむぎっ

出来るだけ早く大人になったのに間に合わなかった君の唇(れいこ

ことばにはならないものが多すぎてきみは四角に空を切り取る(月夜の雨

生きてって押しつけちゃった感情が重かったよね ゆるさないでね(てと

「5分だけ待って」ときみはつぶやいていつも少しの時空に消える(真朱

幸せを2つサンタに貰うためストッキングを吊り下げておく(朝曇

清き朝辿る記憶は針の穴身捩り光る一点目指し(たな

手に入れることは容易いクリスマス何も持たないことに比べて(インアン

チョコパイでしか癒せない傷もありファミリーパックもひとりで食べる(琴里梨央

記念日は大安よりもすらすらとふたりが言える日付にしよう(青色紺色

納税の義務を果たしただけなのにトリートメントが枯れてしまった(村川愉季

波風を立てたい訳じゃないだけどふらふらしてる君を見てると(北乃銀猫

こんなとき居てくれたらと誰かではなくてあなたを浮かべて思う(宮緖かよ

眠れないわけではなくてただちょっと羊が少し暴れていまして(ぽりぐらふ

浴槽もアタシも干からびていくの今日もお風呂にお湯は張らない(アサコル

正しさでできた世界を出るための紙飛行機を正しく折った(てと

再生紙みたいになれなくてもいい私は私のまま死にたい(空虚 シガイ

神聖な絵画になるかもしれないね私たちの最後の晩餐(ツキミサキ

傷だって光を纏う術になるピアスホールが残る耳たぶ(りのん

ひとりではできないことを知っていて屍運ぶアリの大群(海沢ひかり

すきとおるつめたいゆめにかえるときたましいはただひらかれている(せんぱい

この赤さは星が燃えてる証拠です※身体に恒星を飼っています(しみず

「もし生まれ変わるとしたらなにがいい?」(二度と生まれたくないな)「猫!」(にいたかりんご

どす黒い記憶の蓋はすぐに開く マーマレードの蓋は開かない(桜井弓月

台無しはみずみずしさのある言葉 少し行ったら砂漠のある土地(土屋サヤカ

天職はどこにいますか会えますか好きになれたら両思いですか(奥 かすみ

伸ばしても触れないならもう月をきみだと思う 今日もおやすみ (宮緖かよ

長所だと褒められ見やるその部分どうも自分の持ち手っぽいな(朝曇

自分から降りた舞台のことばかり考える退屈なシアター(はじめてのたんか

Oui madame 砂糖は時に失敗を覆い隠してくれるものです(空虚 シガイ

いつの日か永遠に目をとじるとき歓喜の歌よ響け、フロイデ!(桜井弓月

短歌とは泣きたい人の横顔を静かに駆ける青い流星(朝路千景)

荒川と同じ角度で加速する夕日まみれの助手席にいて(インアン

バスに乗りどこか遠くへ旅をして見知らぬ土地の生活を知る(佐倉

あの時に背中をタッチされたままそのままずっと鬼のままでいる(きいろい

平凡を壊さず生きる苦しみを知らないほうが幸せでしょう?(はざくらめい

心だけ遠くにあってさわれない真冬の空のひそかなる星(月夜の雨

いつの日か私も拾われるために軟骨唐揚げ挟む割り箸(綿鍋和智子

あなたにもみて欲しくって保存した動画はハトの求愛ダンス(うめこ

取っておきのバスソルト入れ浸るときの体の中でおじさんが鳴く(水の眠り

なにもかも頼られそうになった時しっかり者の仮面すてるわ(青色紺色

教室の花瓶の花は先生が怒り鎮めるための口実(たな

この社会 支えてくれる 君の呼び歯車じゃなく 潤いがいい(そば@短歌

ガソリンを二千円分注ぎながら星は花の香であれと祈った(えふぇ

地獄にも確か大きな釜があり地獄うどんを静かに啜る(茶葉

カーテンを閉め熱で臥す午後三時、広がる闇は夜よりも濃し(桜井弓月

濃い碧 水の底にはたこ仕掛け 夕時あなたと一緒に見た波(しゅ

どうしても消化できない思い出も三十一の 音で食そう(そば@短歌

勇ましい私の首にふさわしい花瓶を見つけて、活けるがいいわ(別木れすり

バスが来ることに安堵と落胆を 世界征服は今日も失敗(三月

ルービックキューブを回す いい子、いい子、壁面に映るこの子はいい子(月夜の雨

できるなら戻りたいねあの空は逃げ水の向こう側で眠る(

ため息の成分からはさびしさと微量の空が検出された(よしなに

五羽のカモ池の光を横切って遠きサックス秋を広げる(椿泰文

刺すつもり殺すつもりの言葉です 忘れられずに苦しんで「すき」(睡密堂

ワクチンを打てば心が壊れるゾいとしいひとALL YOU NEED IS LOVE。。。。。(松たかコンヌ

君のこと愛してみたい 死を願うこんな呪いを背負っておいて(六日野あやめ

薄氷を傘でつつけばひび割れる戻らぬものと知りながら割る(琴里梨央

君の居ぬ机に花瓶置かれると冷たい風が首筋に触れ(雨宮雨霧

カラフルな蛇をたくさん飼っているはさみとのりを覚えたての子(ume

まどろみの中で聴こえる汽笛の音に耳を澄まして布団に潜る(しゅ

電飾がわたしを責める夜なのに割引のシュークリームはやさしい(碧乃そら

死にたいというよりは飛びたいという気持ちが強い 跳ねる炒飯(雨野水月

「冷えるね」という君の手をとれないで並んで歩くクリスマスの日(折戸みおこ

通販の商品みたいな紹介でとても(都合が)いいと言われた(山口絢子

傘なしの 晴れ予報の雨降りもあなたの隣 心は晴れり(そば@短歌

幸せに暮らしましたでくくられるその後の長い波乱万丈(汐留ライス

プレアデス星団さえも舌を巻く金平糖を机にひとつ(あだむ

「本日のアミューズです」というくらいふいに軽めのキスがうれしい(真朱

生き方がまだ分からない十四時のキッズプールのようなまどろみ(六日野あやめ

産声のような光で散る星の最期を眺むこの誘蛾灯(北野白熊

付いてきた影を招待するように心のドアの鍵を捨てれば(

もういちど振り返ったらあなたまだ反則級の笑顔で見てた(青色紺色

お揃いの傷がばらばらに癒えていく 優しいふりはやっぱり無駄か(三月

この子らはみんな同じ母を持つ いくらをひと匙すくって食べる(宇佐田灰加

星、月、夜全て掴んだこの僕を朝日が包み溶かして昇る(灯志

スキップのできないことを笑いあいメタセコイアの木影をあるく(みぎひと

君の手のかたちをずっと探してた、ような気がする 陽だまりをゆく(佐竹紫円

両腕をひろげてきみは鳥でなく水平線になってしまった(夏谷くらら

去年までママの背中にいた君の重さ忘れた青い自転車(さに。

あと何度ねじを締めればいいだろう序奏ばかりが鳴るオルゴール(夏谷くらら

ああひとりぼっちなんだな零下二度どこへもいけるひとりぼっちで(綿鍋和智子

目印も派手な飾りもないけれど失くしちゃいけない人だと思った(山口絢子

ふるさとを品川ナンバーで走る俺にできるせめてもの意地さ(あだむ

どこかには『しんじつのあい』があるという 宇宙(そら)にも風が吹いてるらしい(灯志

電球を取り替えながら少しだけ違う明日を期待している(奥 かすみ

心臓を削り落としてつくってく甘い香りのきみのたべもの(水也

ネクタイに熨斗紙をかける店員の指先もまた父を思いぬ(宇井モナミ

古くなる女はいない それぞれの海に忘れてアップデートする(水の眠り

コンビニにのど飴がある人間はどこまで壊れてゆくのだろう(はじめてのたんか

生きてればたまに奇跡が起こるけど たぶんおそらくそれは必然(ホワイトアスパラ

グッモーニン完璧な冬きのうより澄んだ青空地球のすっぴん(みぎひと

知らぬ歌聴いて菓子食む大晦日テレビ画面はキラキラしてる(山野たみ

こびりつく嫉妬を「刺激」言い換えて心のしこり踏み台にして(あだむ

もう会わないあなたとずっと生きるためあなたのことを詠んでいる冬(六日野あやめ

除夜の鐘届かぬ夜更け耳元で君の寝息は歌となりゆく(宇井モナミ

ピクニック行きたい今すぐ行ったことないもんこのまま行かずに死ねない(別木れすり

憧れのあなたの過去を追いかけて下北沢で食べる炒飯(ツキミサキ

惚けてる どうか醒まして 恋の熱 また甘えてる 恋した氷雨に(

生き抜いた一年でした真夜中のコンビニの灯《ひ》とおなじ明るさ(碧乃そら

その影を右足でそっと踏んでみる あなたはこんなに近くて、とおい(佐竹紫円

寝坊した 君の言い訳 鼻を掻き 俺の前世は きっとふくろう(紅生姜天ひやむぎっ

毎日が楽しくなるのが恋ならばいまでも恋をしてるよ僕は(北乃銀猫

暁に冴えた水平線の果て 終わりなき恋路 その覚悟(

冷たさは痛さとわかる しんしんとわたしの中に錠剤の白(よしなに

傷痕に針を落とせば流れ出すノイズの混ざった哀《あい》のバラード(ツキミサキ

角という角が小指を狙ってるフラッシュモブのような街角(まつのせいじ

甲子園二日目にして土を摘む少年たちのこれからのこと(はじめてのたんか

君が触れる全てに魔法をかけましたもう私しか目に入らない(れいこ

土曜日は七日経ったらやってきて気になる彼がレジに立ってる(佐倉

お辞儀中ちょっと揺らして念の為生きていますとほのめかしとく(朝曇

変化することを恐れているせいで今さら年賀状も出せない(茶葉

悲しい、と言えば悲しい顔になるドールメイクは死ねない造花(まちのあき

幸せになれたんだなぁ夕焼けがとてもきれいできれいと思う(山野たみ

私にも精子のときがあったのに どうしてですか男のひとは(よしなに

ときどきは取り出してみるやわらかな私のなかの少女の部分(美鷹周

知りたがりしりあがり気味に訊いてくる死にたがる人のことばの癖は(春永睦月

早番の君の起床は6時半 6時40分の布団の冷たさ(紅生姜天ひやむぎっ

透けてゆく真昼間の月おいでなさいわたしのコーヒーカップでおやすみ(菜々瀬ふく

本日は空があんまり青いので有給休暇いただきますね(桜咲

宛名書き最後に江って書いていて今日はどこかの渚になります(藤瀬こうたろー

永訣の知らせを告げる朝がきてそれでも人が動き出す街(藤瀬こうたろー

いつか観た映画のおもしろくなさを語ってあなたと共犯になる(ぽりぐらふ

ゾーリンゲン 砥石で言葉を研いでいる師走の風に負けないように(春永睦月

壁の檻から放たれて子供らは枯れミルフィーユ崩して駆ける(北野白熊

生きていることを許されたいけれど蛹のままで蝶になれない(にいたかりんご

「ありんこの叫び声だ」と雪を踏むお前のいない冬の耳鳴り(松たかコンヌ

無意識に体を預けて立っていた ぶるんっ 冷蔵庫からのエール(インアン

若者はすべて共有して暮らし見慣れなくとも暖炉を世話する(土屋サヤカ

嫌いだと言ってくれたらよかったな綺麗なままの真紅のピック(とかげまろぅ

ハンバーガー四つを載せて帰省するカーラジオからクリスマスソング(椿泰文

かわいいと食欲は紙一重なら蛇になってキミを丸呑みに(

ここからは大人だと引いた白線は汗の香りに混じって消えた(とかげまろぅ

氷河期に行ってみたいな生き物が存在しないひとりの場所に(佐倉

渦を巻く排水溝を眺めてるブラジルの朝は清らかであれ(菜々瀬ふく

もういいよ それは諦めだったのか かくれんぼの始まりだったのか(

海だったかれら汀を夢にみて等軸晶系である岩塩(綿鍋和智子

雨の夜もあなたの声で街灯が点けば流星群のただ中(りのん

やわらかく透ける冬瓜スープからささくれに効く薬をもらう(水の眠り

色褪せたアルバムに何も感じない 味の剥がれたガム噛むように(千陽

休校の小学校にて時計らは動いていたのか動きだしたのか(わかば)

分からないままでもいいよあの星の名を知らずとも光は届く(あきの つき

いつの間にか日暮れがこんなに早くって雑木林の上に三日月(まさむね

社用車をへこませてきた支部長に「磔刑っすね」と新人が言う(畳川鷺々

閉じられた瞳はなにを見ているの?わたしとちがう夜が映るの?(佐竹紫円

少子化で母校の心臓とまるとき僕らは直視出来るだろうか(わかば)

おなじものだと思わせて僕たちは並んだ星を揃いでつける(水也

今はもう見えなくなった傷跡を無かったことにしなくていいよ(美鷹周

燃えつきるまでの光が降りそそぐ今夜あなたと生きていること(木ノ宮むじな

この水もいつか涸れると知りながら初期衝動は船を漕ぎだす(別木れすり

バスタブでぬくもれば四肢は溶け出してモネのごとくに淡い輪郭(琴里梨央

その声もその視線も受け留めきれず素数を数え気を紛らわす(北乃銀猫

旅立った役目を納めまたどこかひなたぼっこをご一緒したく(吉井ヨッシー

次に会う私のためと丁寧に畳んでおいたセーターを着る(宮緖かよ

すぐそこにいるのに触れることさえもできず ラムネの瓶をかざして(桜咲

満ち足りない気持ちは愛を求めている子供時代を夢見て今も(田中薄氷

雨を槍にしない話術 空きっ腹に夢見るケーキのフォルムを抱いて(まつのせいじ

木洩れ日にきみの睫毛のひとすじがお辞儀したこと忘れないから(Rhythm

手紙なら捨てやすいよと恋人がつぶやいた日をまた思い出す(箭田儀一

葉はすべて枯れていくかと思ってた。消えてくれないあなたの言葉(りゅーせい

享楽としがらみの杯かけあわせ忘年の宵鮮やかに〆(香椎柳

大阪のホテルにひとり置いてきたトリケラトプスの恨みだろうか(ume

体温を分かち合うように冬の夜身を寄せ合って眠るねことねこ(水柿菜か

燃えるでもなくただ積もる履歴欄ペケの一つで再生産す(戸田静

不幸ごと抱(いだ)き歩いて我は行く 幸せを信じ道を曲がる(水柿菜か

藍色の紙にさよならしたためて空へと還す冬のはじめに(春永睦月

神様が全てに宿るこの国じゃ君の涙も誰かの聖地(りのん

封筒を開けたときからこぼれてる文字があわてて手紙に帰る(ゆひ

恋愛の、好きとかそういうものじゃなく 居心地の良い あの人のそば(水柿菜か

クリスマス 夜景の綺麗なところへ連れ去るだけの力が欲しい(りゅーせい

めちゃくちゃに生きてやろうかコンビニの竹箸で食うペペロンチーノ(汐留ライス

何もかもおかしいときは過ぎてって箸はシンクへ転げていった(せんぱい

嫌いになる理由を絞り出してみてそれは愛した理由だと知る(れいこ

教室の窓を満たした朝焼けも夕焼けだって友達だった(茶葉

大きめに切られた方を差し出され素直に食べる弟として(梅鶏

結ばれた星さざめいて今夜なら橇の軌跡もとらえられそう(納戸青

「ねえ、きいて。たたいていいのは、たいこだけ。なげていいのは、ボールとキスね」(美鷹周

元気だと知らせてくれるそれだけでただそれだけで長調の色(あきの つき

くるくるとコピペの日々をかき混ぜるいつまで経っても溶けない砂糖(白鳥

湿り気を知らないままで塩のいる台所から海までの距離(土屋サヤカ

熊よけの鈴また来たかと山猿は杉の奥より我を見つめる(椿泰文

サリサリと人が自分を語る時クーピーみたいな音がした(戸田静

手のひらの爪痕だけは情動を悪ではないと教えてくれる(海沢ひかり

てふてふと呼ばれることに憧れた蝶はゆらりと過去へ飛んでく(りんか

いつかまた世界の真理を忘れたら発狂しようか今日みたいにさ(三月

二日目のカレーの魔法にかけられて帰宅の足取り軽くなる(はざくらめい

しょうもない話のしょうもなさがケーキのいちごくらい尊くって(

あたたかいシーツの上を昨晩のつづきみたいにキャッチを探す(みぎひと

住みたての部屋の蛇口のてっぺんに傷をつけたのわたし生きてる(図書猫

幸せになっていいのに頑なになろうとしない権力者たち(ゆひ

子の喉の中腹の影にかなしむ羽化するのかよ男なんかに(たな

元々はひとつの星であることの証左 手と手を繋げば光る(あきの つき

ひたすらに冷えゆく星のあることが頼もしくなる夜もあること(せんぱい

脚立なら 「アンドロメダ」や「ペガサス」が欲しいモノタロウで頼める希望(しみず

布越しに 泣いた時間を 記憶するそこから先は 覚えてなくとも(しゅ

筆名を見ずとも分かる文体を指でたどればあなたに出会う(朝路千景)

吾と君は付かず離れず公園のベンチのような存在がいい(海沢ひかり

映画なら割愛される風景の中で生きてる今日のわたくし (ゆひ

「よくできる」ばかりの紙を火に焚べるあなたを照らす揺らぎの温度(木ノ宮むじな

マフラーに顔をうずめて鳰(かいつぶり) 浮き上がったら君に会いたい(納戸青

あの人をビー玉越しに壊しても意味などないと知りつつも、なお(葉澄葉

包丁の柄から伝わるゴマサバの命の分は生きていようか(鯖虎

カラオケで部屋を間違う私だし地獄のドアもそりゃ開けちゃうよ(北野白熊

ふるさとは人なんだろう生まれても育ってもない街に帰省す(睡密堂

二日目のカレーなどないレトルトは余らないきっちり一人分(睡密堂

雪の降る寒い夜の日君は居ぬ暖炉の前でひとりは寂し(雨宮雨霧

下書きも薪を焚べれば暖になる灰になるまで言葉を紡げ(ホワイトアスパラ

この秋を次の秋へとつなぐため銀杏の葉はまた散るのでしょうか(Rhythm

ジャラジャラと缶をまとめて捨てる時ちょっと神様にも祈ってる(鯖虎

短歌とは宇宙をぎゅっと握りしめ 三十一字に散りばめたもの(千陽

□わたしはロボットではありません ほんとうは人に触れたいキスしてみたい(白川楼瑠

超芸術トマソンぐらい愛してる蛇足にもこもこ靴下履かせる(しみず

冬のうたコードせつなく弾く指みつめた君のくちびる動く(香椎柳

土踏めば玉葱の香りして家人の為だけに植わる雛菊(川瀬十萠子

木枯らしがひと筆で描くかんむり 冬の時だけ北から下ろす(戸田静

バースデーソングのあいだ揺れている火にはこの世を変えた実績(真朱

木洩れ日も洩れたくて洩れてはいない 布団が被る布団はない(雨野水月

君の眼が捉える時間にもう僕が刹那もなくてだからせつない(灯志

キュンですとふざけてみてもいいけれどただ心配をされるだけだわ(静麗

僕たちを追いつめている僕たちをまずはゆっくり抱きしめてみる(てと

羊羹を切れば寄せ付けぬ闇があり義母と義父と夫と私(川瀬十萠子

穴開いたダサいパンツになお残るダサいなりにも紡いだ歴史(葉澄葉

神様に選別されているらしい自動ドアが開かない時は(ume


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