第18回毎月短歌・自由詠部門に投稿いただいた短歌作品の一覧です
大空に飛び出してゆく見ていてねそこには型も枠もないのよ(山野たみ)
唇にさっきのチョコが付いていて絶対今日はしたい口づけ(藤瀬こうたろー)
おまえらのせいで おまえらのせいでと助けた亀に詰られている(えふぇ)
傷付けも癒しもできるあの人の窓辺に育つアボカドの種(まちのあき)
玉ねぎのなかにはたぶん海がある涙がそこに寄せられるから(村川愉季)
「お前しかいないのに立ち止まってるお前は」赤信号がうるさい(雨野水月)
改札に笛を吹かれて僕たちはペナルティとしてホームに向かう(村川愉季)
研磨した羊皮紙の上を滑らせて爪先に残る粉末のこと(Sand Pawns)
コンビニに高いヒールを履いて行く 取捨選択をするたび老いて(宇佐田灰加)
冷え切った部屋にカバンを投げ入れて私の港へ錨を下ろす(かなもん)
永遠になんかならなくてもいいと想える愛に辿り着きたい(空虚 シガイ)
耳垢をふうと飛ばせば分身が給湯室へ駆けだしてゆく(六日野あやめ)
将来の夢を聞かれて「お嫁さん」べつにいいでしょ、多様性でしょ(伴 更紗)
ぼくたちも肖像画だし 額縁の届く範囲で愛しあおうよ(ぽりぐらふ)
手を引いた花占いの結末をぼくは未来と呼ぶことにした(真野修介)
“Where is my happiness?”と聞こえたよ、君の生きる理由になりたい(北乃銀猫)
歌にばかりしていてごめんでも君を歌にしないと前に進めない(とかげまろぅ)
結ばれたままで冷たくなる鉄にずるいずるいと涙を延ばす(はじめてのたんか)
もし私ゾンビになっても脂濃い人は食べない胃がもたれるし(北野白熊)
キスにまで同意書がいるなんて野暮だねと唇重ね呟く(さに。)
『この先は立ち入り禁止』の札のある階段の上はたぶん楽園(宇井モナミ)
逆光で顔の見えない人生に灯台として太陽を呼ぶ(りんか)
「おいしいね」幸せになる合言葉おでんのおだしのようにしみる(青色紺色)
アイス屋で君はキャラメル選ぶから私も今日はキャメルのコート(紅生姜天ひやむぎっ)
いつだって流されやすい君だから眠る時さえ手を離せずに(北野白熊)
たましいの片割れ千々に分かたれて本のかたちとなったのだろう(せんぱい)
待つことをそっと運命づけられて風に芯から冷える音信(おとずれ)(納戸青)
純喫茶 皆が頼む クリームソーダフォトジェニックの 為の青色(逡巡)
16時これは何飯なんだろう僕は彼氏になれたのだろうか(谷 たにし)
霧の中 乱反射する面影に焼き尽くされても 死なぬと決めた(ムラサメシンコ)
気付かないことも時には幸いと天は瞳を零したもうた(戸田静)
人類がみずうみと名づける前のみずうみみたいにいつかなれるよ(ぽりぐらふ)
ジャムを塗るときだけきみが口ずさむことはきみにも内緒にしてる(てと)
やさしさは省かれながらそこにあるカット野菜を使うみたいに(真朱)
嫌いになる理由を絞り出してみてそれは愛した理由だと知る(れいこ)
「柔軟な視点を持って」と言われても頭も体も骨も硬いし(灯志)
眠れない寂しい夜中に限って月の光がやけに眩しい(りゅーせい)
どう見える? 人や世界の美しさ星亡き夜を吸い込んだ目で(ムラサメシンコ)
満員の電車にリュックを抱え込む妊婦体験中の人々(白鳥)
ほんとうに愛しているのに鞄からポケットティッシュがあふれてしまう(宇佐田灰加)
ハンドルを取られ砂利道だと気付く 儘ならぬのが恋なのですか(美鷹周)
優しさは月の揺り籠一つまみの嘘《愛》をまぶしておやすみなさい(アサコル)
蓋つきのうつわを開けて、ため息がもれだすような仕事の合間(土屋サヤカ)
味見してみる?ってケーキを突き刺したフォークに突き殺されてもいいや(菜々瀬ふく)
その地図を辿ればそこは楽園で、なんてことはなくここが楽園(雨)
相席をしている猫があくびして季節をひとつ進めてる冬(ゆひ)
冬空にきっぱりと咲く白椿なにもかも許さなくてもいい(月夜の雨)
本年も旧年と書く年賀状 ポストの先の未来の君へ(折戸みおこ)
図書室の本を花束のよに抱え微笑う彼女が花束だった(菜々瀬ふく)
声すべて鮮明に再生される見慣れぬ後頭部でも恩師だ(真野修介)
ジャッジすることの重さを動力に砂を掻きつづけるペンデュラム(インアン)
日が昇り露天の湯気から見つめる先朱い水平線(じゅげむ)
歯磨きをしたばっかりのわたくしに微笑みかけるエアリアル(チーズ)(叭居)
澱んでる部屋の空気を出してやる私の代わりに散歩してきて(ume)
あの人の手を知っている髪はもういない何度も生まれ変わって(宮緖かよ)
表情を剥いだ分だけ文末に付く大袈裟な「!」(雨野水月)
マフラーを編む祖母の背にふりそそぐ陽射しのなんとやわらかなこと(水柿菜か)
どうやって生きるかなんて教科書に書いてはいない物理は特に(汐留ライス)
割り箸と命はひとしいものとなる影の中にで踊っているとき(はじめてのたんか)
吹きだしたことばで傷つけ傷ついて子はまたひとつニキビを潰す(奥 かすみ)
食パンを卵焼き器で焼くような追伸が来てまわれ右する(きいろい)
お風呂場を詰まらす長い黒髪は君が出てってからそこにある(鯖虎)
愛せなかった事を詫びるようチョコレートそのどれもの異なる形(川瀬十萠子)
ランチ時マダムの組に挟まれて、おひとりさまの鮭のタルタル(桜井弓月)
両親の老いを感じる銀色に輝く髪が波打つ様よ(あだむ)
あの人が私をふったのはなぜか 猫の言語に訳し答えよ(よしなに)
順風満帆という言葉が大嫌いだけど会釈はするさ(谷下弱弱)
白熱灯で滲むボクのこころも満月に照らされるきみには敵わず(そば@短歌)
蜂蜜とシングルモルトを溶かし込んだ紅茶に今夜は生かされている(Rhythm)
ほんとうに大事なことは何ひとつ言わぬ体が呼吸《いき》をしている(木ノ宮むじな)
会いたい、で終わると重くなるかもと語尾に「ね」をつけ無難なラリー(さに。)
猫なのか人の子なのかその声の境は揺れて夕暮れの色(琴里梨央)
寄せる波 引力のような君の笑み眼裏《まなうら》にたたみひらく喜び(りんか)
悲しみは藍色の雨しとしととしとしとと降る花びらのごと(アサコル)
雛だったきみはようやくその背なに翼があると気づき翔けだす(小仲翠太)
あいうえお全部習っても無駄だからエグいとヤバいで会話しようか(三月)
心して好きなこと教えてあげるは全て捧げるという宣言(たな)
白線が三本だけの信号をそれでも待つきみきみ待つわたし(きいろい)
一歩ずつ前へと進む兵《つわもの》の先端部分ときんときんの(畳川鷺々)
つぼみから花咲かせようというならばわたしの詩作も花の一部か(田中薄氷)
夕焼けのノー残業デー回り道 知らないスーパーで唐揚げ買って(紅生姜天ひやむぎっ)
砕けたる飴の葬列くろぐろと渡る公園 子らの靴底(鯖虎)
憎いより悲しいが勝ってしまうことまつげの沈む海があること(琴里梨央)
ふまじめにまじめに生きていくために噛みしだかれるガムのあること(村崎残滓)
電話口「そうだね」とだけ言うきみに救われたんだ 母を看取る日(海沢ひかり)
街灯が 冬の行く先 指し示す深夜高速 梟の羽(逡巡)
空を抱くわたしはわたしきみといる私は誰と誰かが言った(水也)
悲しみのハートマークにタップして来たるべき日の御守りとする(白鳥)
布団から伸びる手握るもう少し寝てていいよとうながしたくて(あだむ)
世が世なら文通も可能なのだろう雪見だいふくの裏の兎と(とかげまろぅ)
短歌とは まいごになったいっぴきのくじらが呟くふるさとの歌(漁火いさな)
遠寺に燕雀がおり、オセロのごと黒が飛び立ち、白舞い戻り(わかば)
ほんとうに死にたいんですほんとうに風がやさしい浜辺なんです(六日野あやめ)
見つめ合う 関係を少し進めませんか 愛になりたい あなたとふたり(水柿菜か)
虚無感に襲われ走るどこまでも心臓の鼓動あぁ生きている(谷下弱弱)
大雨の車の中に一瞬の無音を響かせる高架下(梅鶏)
君が触れる全てに魔法をかけましたもう私しか目に入らない(れいこ)
健康のサブスクを買う感覚でサプリメントを集めていった(柳葉智史)
押すドアを引いてしまうのが恋なのかいつも手間取る僕らの距離は(箭田儀一)
ドアの外つめたい風の吹く街を行き交うひとにそれぞれの熱(睡密堂)
気が塞ぐニュースすべてに蓋をしてサンキャッチャーは西日と踊る(てん)
水たまり避けて跳ねればふたりして同じリズムの足音になる(箭田儀一)
【quake】とチョークで刻み担任は解説するこんな晴れた日に(空虚 シガイ)
カラフルな蛇をたくさん飼っているはさみとのりを覚えたての子(ume)
縁のない表舞台に憧れてただそれだけに終わる一日(いちかわ ゆうた)
一線を超えないゲームのはずだったかもめかもめでまわり続ける、(雨)
牡丹雪 肌に落ちては水になるあなたも同じ顔をしてない(水の眠り)
「お揃い」と伝える勇気がなく そっと「君が好きそうだから」と渡した(漁火いさな)
川岸の岩で孤高の白鷺は川底睨み忍び足する(桜井弓月)
鬼もそう、母から生まれ鬼になり鬼生んだから母になるのね(夏谷くらら)
一人きり閉店作業を終え下ろす夜と朝とを断ち切るシャッター(宇井モナミ)
優しさの部分を摂取したいから今日も今日とてバファリンをのむ(うめこ)
毎日はつまり誰かの誕生日つまり誰かの命日である(わかば)
ろうそくの炎が消えるときの音 さみしいだけじゃなかった、きっと(月夜の雨)
太陽と書いてあなたとルビをふる真冬の花の信仰として(よしなに)
風呂の湯を両手で掬い鉄砲に湯は弧を描きまた湯に戻る(ツキミサキ)
好きだから好きと言えない十二月あたたかい夜をただ願った(りゅーせい)
太陽がいない間の星月夜 別の世界を生きてもいいよ(真朱)
その意見弱賛成でどうだろう肌に優しくしっとり馴染む(海沢ひかり)
会いたいね 会いたくないね 道なのに標識もなく分かれてしまう(夏谷くらら)
すずらんはしずかにゆれて甘えると甘やかされるは違うと嘔吐く(インアン)
何もかもほしいよ虚構の城だって真実じゃないキスもちょうだい(三月)
孫たちを忘れて逝ったじーちゃんはとても綺麗な顔をしていた(佐藤硲)
潮騒だけが響く時 鈍色のバス停と見る霞む夕焼け(灯志)
そうやって捨ててきたのね原石は磨いてこその光と知らず(宮緖かよ)
最初から足湯だとわかっていたらこんなところで服は脱がない(汐留ライス)
永訣の知らせを告げる朝がきてそれでも人が動き出す街(藤瀬こうたろー)
しばらくは大丈夫だと思ってて、汚れてごめん水切りラック(うめこ)
真夜中に入れる灯油はとくとくと流れていって燃える前の火(柳葉智史)
青カビにまみれたみかん排除したその手を洗いM-1《えむわん》を観る(小久保柚香)
あと五日時間はすこし減っていく中で自分と向き合っていく(いちかわ ゆうた)
巨大なる奇想は定型(郵便)にはじかれながら孤独にひかる(畳川鷺々)
どうにもこうにも腑に落ちないのに白髪の光る三十路も半ば(てん)
一体の獣を二人の人間に戻すひかりに混じる青色(てと)
産声を4月にあげた赤んぼがお利口さんと褒めそやされる(木ノ宮むじな)
嗚呼きみはブロッコリーのそぎ落とすまえの塊、炎と言った(白川楼瑠)
染色体XXたちに告ぐ 腰を冷やしてはいけません(睡密堂)
君と僕 埋まらない溝そのままに埋めなくていいたまに話そう(山野たみ)
嘘つきのはじまりはどこ虹の果て泣いている子と月がささやく(水也)
紫陽花を逆さまにして閉じこめた雨を弾いたひかりの日々が(水の眠り)
指先にほのかに残るぬくもりは会えない夜に溶けだしてゆく(佐竹紫円)
あの頃は輝いていた 口にしてしまった僕も過去形である(奥 かすみ)
チクタクとワニに追われるネバーランドの海賊のごとわが正月は(碧乃そら)
五十年氷温貯蔵されていた言葉取り出し皿に並べる(ツキミサキ)
カットした髪がケープをするすると滑り床に溜まる毛虫(棚果)
ほらここに縦線できた手を取って腹筋の溝触らせてみる(北乃銀猫)