第19回毎月短歌・1月の自選部門 作品一覧

第19回毎月短歌・1月の自選部門に投稿いただいた短歌作品の一覧です(表示順はランダムです)

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悲しみを そう悲しみを 注いだら 命になりますか 私のフラスコ(里香

「やめてやる」奥歯に仕込んだその毒のなんと甘美でうららかなこと(別木れすり

つかねばと、餅をつかねばと死ぬ前に形にしたい愛がある祖父(パイン井

防具だと信じて纏う個性さえ呪いとなって手放せもせず(葉澄葉

トロッコを切り替えないで運命のレールに乗ってお前を殺す(三好しほ

百グラム単位でいえば私より高級そうな肉を食べたい(にいたかりんご

言の葉のひれはためかせぼくたちは息継ぎできる場所を探した(六日野あやめ

人間は可燃性ではないことを惜しみながらライターを点けてる(雨野水月

掃除機のゴミ捨てるときの顔してる食べ尽くした鍋挟んでふたり(おもらし

食べてきたもので体はできていて心は砕けた夢でできてる(木ノ宮むじな

飛行機がおんなじとこで曲がるからあそこら辺が空の角だな(きいろい

マユ元気? こっちは雪だよとりあえず先に内臓だけは送るね(宇祖田都子

「熱いから気をつけてねと」お茶渡す母の口癖、今は私の(よいまね

鱗より切り身の色にサーモンと名付けた人を呼ぶ降霊会(新井宗彦

口元を締めて紅ひく夕暮れの空から色を取り出すように(藤原ほとり

たくさんの山あるけれど私たち無事に昨日を乗り越えられた(青色紺色

明日って明るい日って書くんだねそう決めたのはきっと願いだ(山野たみ

愛という概念を皆追い求む愛とは生のプログラミング(海沢ひかり

脱走の一年生が校庭の真ん中で太陽を動かす(琴里梨央

この部屋の本のすべてを焼き尽くしあたしがきみの図書室になる(宇佐田灰加

お祈りを繰り返されて、されすぎて いっそ起業し神になろうか(別木れすり

落としても割れてくれない食器には命としての自覚が足りない(谷 たにし

寄る辺なく漂う小舟水尾を引き 北極星がずっと見ていた(新井田歌子

すごろくのスタートはみなを平らかに シルバニア村にまじる恐竜(碧乃そら

感情と言葉は君の武器だから生きれるようにと祈るよ僕は(実森詩音

シュトーレン祈りのように食べつくす脳にながれるこどもの時間(石村まい

卵なら甘く焼かれる 日曜の特に冷たいシーツに包まる(みぎひと

ああいつか滅ぶのだろう迷わずに子が選び取る恐竜柄も(あひる隊長

あと何世繰り返しても俺は今日ぐらいに君に出会って終わる(

そばすする音がしたから振り向いた 宇宙に人が吸い込まれてた(竜泉寺成田

ピクルスがピクル酢だって思ってた頃外国語は音楽だった(小仲翠太

北国をふるさとに持つ友人のゆっくりあがる言の音階(ZENMI

桃色になりたいねって話してるペリカンはまだ海を知らない(Rhythm

弁別の言葉を持たぬごく淡い何かの滲む「またね」のトーン(鯖虎

どうしても好きが溢れてしまうから土手の作りが甘いのだろう(さに。

普通とは誰かの夢であることも知ってほしいな知ってほしいよ(織部ゆい

やはりもう終わりにしての通信に晴れのデヱトは散歩になりぬ(鯖虎

本能が生き場所求めホトトギス鳴かぬ者から飛び立って行く(じもぶん

東京で茶髪になったリッちゃんもリッちゃんと呼べば笑ってくれた(石綱青衣

飛行機の翼の仕組みを信じてる信じてるけど手を握っていい?(しみず

心にも記憶をさせておきたくてわざと傷つきかさぶた作る(桐谷やまと

わたくしは大人であるからライナスの毛布はなくて淋しさがある(ゆひ

見ないふり聞こえないふりしてごめんわたしのなかの小さなわたし(月夜の雨

つま先を立ててようやく手に取った本が私のスタートライン(織部ゆい

「「「「人生は意外と悪くない」なんてことはない」わけない」かも?」わからん(百壁ネロ

明日へと向かう帆船を降りた時生まれ変わった私がそこに(山野たみ

どうしてもあなたの前で言えぬから「愛してるよ」と低くつぶやく(春永睦月

道端の吸い殻にすら揺すられるいまは遠い人の残り香(さんそ

「このままでよろしいですか?」人生を問われるように氷結を買う(あひる隊長

段ボール滑り降りてく土手の原 いまから私タイムリープす(しじみ

自転車の速度を上げる今日もまたさみしい夜に捕まらぬよう(花林なずな

生まれゆくことの憂いか 生命のねむる卵はなみだのかたち(メタのおわり

朝焼けにひかる海風なびく裾 身体中には潮に泣く傷✲(

発言にピンクマーカー引き過ぎて君の本音を見出せずにいる(さに。

ふた切れの鮭を包んで焼く夜の銀紙なしに話せないこと(夏谷くらら

数学の参考書から逃げ出した先の『斜陽』をまだ覚えてる(鈴木美波

都合よく光って見える手のひらの皺も星座も血液型も(インアン

真夜中のキッチンでしか生きられないあの青のこと、話したかった(メタのおわり

何者かになりたい人の情念のごと立ちのぼる酒蒸しの湯気 (水の眠り

お湯の箱収まる私落ちてきた滴は響いて 明日は仕事(あんの屋

「す・き」だけで済ませたくない指文字をきみの知らない手話に託す(戸田静

だれもいなくラーメンばかり食べてしまう今もう一度子どもを産みたい(パイン井

月よ、お前カカオの香りを知ってるかい 金貨は溶ける ミルクと銀匙(野田ひかる

荒天に飛び立つ 口腔を出れば燃えて戻れぬ火の鳥の子よ(川瀬十萠子

星座では繕えなかった恋でした 夢占いで「蜘蛛」の字を引く(納戸青

もう君も誰も彼もどうでもいい 私一人のためにないてる(のじぇ

なんでだろ泣きたい夜に限ってさ君が愉快に踊るから 笑う(水柿菜か

夕焼けを窓のすべてでギラつかす高層ビルは光のゴジラ(六日野あやめ

貪れば貪るほどに渇きゆくやさしい嘘は塩のみずうみ(りのん

大皿を包むためだけ生きのびた新聞紙に平らかな平成(睡密堂

天覆う薄雲透かす曙光浴び 真白き大地淡く輝き(新井田歌子

うれしさの単位は〝輪《りん》〟で花束を抱えあなたに会いに行きたい(あきの つき

やめないであなたの歌が好きだから やめないよこの歌が届くまで(はざくらめい

空き瓶もシーグラスへと流転するすり減ってなおきれいでいたい(早春

人の記憶を呑み込んだ白灰が紡いだ過去を纏う囲炉裏火(史記

天使にも序列はあってきっともうみんな笑える場所なんてない(りのん

譜面からはみ出すようなあの歌に平らな胸も波立ってゆく(山口絢子

君のより多めに塩をふっておく私が先に死ねばいいのに(北野白熊

選ばれるより届けと放つ紙飛行機は彼方へ綴る手紙(戸田静

頑張れたとガッツポーズをするように帰りのバスでにぎる吊り革(アゲとチクワ

雪だるま朝陽にやすらぐように溶けこんなにもやわらかな絶命(メタのおわり

やってみてわかることだってありますし銀河にピアス穴ぶち空ける(マノチハル

口に出すすべての文字に濁点が足されてしまう小寒の朝(桜井弓月

冬の夜バンホーテンのココア練るきみの小さな告白のあと(青野 朔

世界は君とわたしだけでできてないことに気づかない罪があった(綿鍋和智子

今朝のこと忘れてないよ怒ってない思い出にして木箱に仕舞う(北乃銀猫

犬を飼う資格を有していないためPCパーツと夜の散歩へ(しみず

涅槃指 剥がれ落ちたネイルから生まれるわたしセカンド・エディジョン(三好しほ

いちピースだけ捨てられたパズルでも合格点には届いていたよ(綿鍋和智子

泡沫となりゆく運命(さだめ)を嘆いては貴方へ手向けた硝煙の跡(夜星いさな

五千円のランチになった恋の遺品 あとは下水にとけていくだけ(おもらし

黄昏を眺め立ち居る足裏の先に誰かの朝日があって(灯志

朝だってなぜかわかるねこの写真なぜわかるのかわからないけど(富井嫉妬

火加減をずっと強火にするような恋しか知らないメシマズの私(佐為

短めで あとお任せで お願いします 失恋あとの私の人生(里香

お気に入りの赤いニットをほどいてあの人の小指に巻き付けたい(りゅーせい

盃を傾け眺む星月夜 光り澄み澄み流るる滴(新井田歌子

晴れた日に金魚が突然いなくなる憧れの空に溶けたのだろう(琴里梨央

ジョウビタキ 常に火を焚く鳥として胸に橙色のともしび(せんぱい

泣く兆しのほのかにあっていろいろな青ばかり並ぶ画集を選ぶ(琴里梨央

飛行機雲がひつじ雲に突っ込んでいってもこもこもこもこもこ(

まっすぐにしか進めない駒だから一択だった君といること(山口絢子

仏花だけ残るスーパーやけ酒の話し相手に買った白菊(別木れすり

白鳥の隊列指して竜という子の目に落ちるひとひらの雪(ルミナ

この熱を憶えていてと言うように頬ずりをする子猫のやわさ(アサコル

初めてのワルツみたいにぎこちなく祝辞の拍手がずれる祝宴(箭田儀一

空港の周りに集まる子らの声 飛行機きたよ!待ち人は来ず(紅生姜天ひやむぎっ

寂しさを寂しさと言わず詠みたくて一人見上げる真夜中の空(アサコル

誰からの手紙でしょうか 押し花の栞はどちらに届けましょうか(Rhythm

人間の弱さだろうか墓場まで持っていけない最後の告白(ツキミサキ

午後ティーを朝に飲むのは重罪です 禁錮二時間、僕の隣に(伴 更紗

プロメテウス、焼き林檎半分こしようどうして泣きそうな顔してるの(しみず

こんな日はドレミファそっと目をとじてドシラソららら宇宙でねむる(サ行

ごめんねのうまい言い方を考えてメモ帳アプリをただ埋め尽くす(あだむ

茹で時間5分のあいだに話そうよ明日のこととか、昨日はごめん(みぎひと

はるばると塗り込められて目の前にサント=マリー=ド=ラ=メールの砂(せんぱい

青空のシゴデキ感が眩しくて夜空に愚痴をこぼしたくなる(さに。

卵白をツノが立つまで泡立てる喜怒哀楽を忘れぬために(ZENMI

水滴が海にしとしと降るようにやがてぼくらもそらに還って(灯志

久々のふるさとなればそのままに大音量のテレビを見てる(藤原ほとり

足跡にきれいな花が咲くというあなたの真似を私もしたい(山野たみ

家族ってあなたと私の本棚がすっかり混ざってしまうこと(てん

諦めに似た凪がある音もなく大人ばかりの夜間救急(マノチハル

静寂であるほど耳の奥に住むあなたの声がうるさい、うれしい(宮緖かよ

プラスチック容器でできた世の中に浮かぶ月だけほんとうだった(月夜の雨

雪虫も私も同じ大きさのたましいでしょう 溶けてしまえば(よしなに

西に向かい東に向かい北に向かい南に向かいふりだしのまま(竜泉寺成田

大丈夫?聞いた私が悪かった 逃げ道のない問い方だよね(実森詩音

夢でなら会える気がする黒子とか細かいとこを省略すれば(村川愉季

鉱石がすきなあなたがそばにおく艶めく化石を埋めもどした(たな

どうしても泣いていたくて生まれてもいないこいぬの最期を看取る(短歌パンダ

気づかないふりしてただけお風呂場のピンクのよごれ この嫉妬心(奥 かすみ

鍋の〆悩んでしまい一時間とっくに冷めた具材と心(雨宮雨霧

繰り返し洗った白衣はくたくたで叶った夢は生活になる(村川愉季

わたしたち料理の途中 粗熱の取れた頃からほんとうの愛(真朱

サランヘヨ ジュテームティアモ我爱你 イッヒリーベディッヒちゃんと食べてる?(サ行

じゃあどこに存在するの君の目に映ることすらできぬ私は(宮緖かよ

ふわふわと日記のように歌を詠む今年もそんな風でいいかな(青色紺色

私たちアリスインワンダーランドおんなじ地獄を日々過ごそうね(三好しほ

パフェの底 コーンフレークを一番に食べちゃう僕の恋の駆け引き(鯛焼きコ

想像をして楽しんでその終わり少しだけ泣く 空高く澄む(川瀬十萠子

山道で鶴を助けてからずっとソワソワしてる独り身の兄(汐留ライス

初めての言葉がパパやママでなく「とうふ」であった子の世界線(ゆひ

弱き虫壁にぶつかりまたしても前だけ見ては進めぬものを(ゆき

実家とは餅の形が違っても澄まし仕立ての湯気を手渡す(インアン

背中見て励んでるけど憧れの君も現在進行形で(織部ゆい

ガンガンと響く頭痛が軽やかに手を引くのです 死ぬのはまだ、と(水柿菜か

カフェオレが冷める早さに似ていたね流した涙が乾くまでに(箭田儀一

世の中の常識なんて分からんしスーツの頭からパフェ浴びたい(菜々瀬ふく

ドラゴンの節くれだった手にふれて孤独がどこから来たかを知る(小竹笹

いびきかく夫見つめて殺意わくその息の根も止めてやろうか(葉澄葉

もう死にたいでもスターウォーズが終わってない僕のエンドロールに入れたい(阿部梅吉

渋滞に人は見えない ちりちりと細胞分裂を繰り返す(短歌パンダ

1曲をカイロみたいに握りしめ聴いては揉んでいるバス停で(マノチハル

歯車はあなたの好きな夕顔の蔓に捕らわれただきしむだけ(

いとしいと毛布をかけて世界から隠してあげる 夜のしじまに(鯛焼きコ

鱈の身は崩れていくほろりほろり仕事にはもう行けないだろう(早春

初めてのヘアドネーション 初めてのベリーショート 北風嬉し(紅生姜天ひやむぎっ

合格を祈って埋めた5円玉重信像に届くと信じ(あだむ

「ニャア」と鳴く猫に「なあに?」とすぐ答え互いの言葉で会話する午後(よいまね

踊ろうよ 呪うように祈るように 愛にも世にも 溶け込めないから(ムラサメシンコ

ケトルさえ響くリビング2℃低く1日だけのふりかけご飯(瑞波草

ひとりだけ防音室に入っててまだ味の濃い黄昏飲むのみ(瑞波草

責めるよな事はせずとも只背中《せな》を撫でれば溢るる花ぼろぼろと(川瀬十萠子

真夜中とミルクと砂糖をかき混ぜて飲んでみようか世界まるごと(南千里

好きなんて言えませんから大人はね笑顔で対抗バズーカ飛ばす(南千里

心から吹雪を一つ取り出して美味しくなあれいちごシロップ(南千里

苦も幸もおなじ画数なのだからきみは選べるどこでも咲ける(山際潜

【募集】映写機を回して東から西へと空を流すアルバイト(佐為

「掃除の時間になりました」全校生徒が起動するルンバ(兼平 細菌

曲がり角右折して右折して右折するみたいな人生してる(一文字零

振り向けば分岐路だった あの道を行った私も幸せであれ(ume

「生きなさい」無情に響く鐘あらば銀河の塵と成り果てたまえ(戸田静

新年の狭間でそばを茹でている湯気の向こうのゆく年くる年(アサコル

妊活はもう辞めたんだと言う友がカキンとzippoを鳴らす新年(木ノ宮むじな

距離感を詰める速度が分からずに「さん」付けのまま春を迎える(茶葉

地獄から這い出るツアー詐欺られてやたら明るい銭湯にいる(まちのあき

真夜中の寝息の檻に閉ざされてそうよわたしが母さんなのよ(まちのあき

すこしだけやさしいきもち昼と夜の隙間だけ照らす金星(たな

コトコトと小豆を煮てる穏やかな時間流れる正月二日(よいまね

サーカスの滅亡後にはピエロ絶え野生の王国広がる版図(じもぶん

雨が降るのを受け止めるまでが義務 傘を差すかは私の自由(空虚 シガイ

ポリティカル・コレクトネスが求められ女神は神に書き換えられる(白鳥

弁当のあまい玉子が大嫌い 先生、母は実の母です(ぐりこ

「東京で雪」のテロップ 東京も雪もあなたの類語で困る(あひる隊長

人の数だけある正義ただしさを振りかざすときあなたは凶器(美鷹周

「言うなれば和製真田広之」と誰かを褒めた人思い出す(新井宗彦

このままでホントにいいの神様がある日突然UNOって言うよ(アゲとチクワ

せり なずな めんどう ごとを たのまれる ときだけ ちゃんと よばれるなまえ(えふぇ

泣きながらうどん啜った夜がある上手く笑えぬ朝もまた来る(ルミナ

つよいのであなたのことも守れるしあずきバーだって噛み砕けるぞ(伴 更紗

深夜二時、星になる きみと手をつなぐ ゆびのさきからとろとろとける(野田ひかる

あの夏は綿毛のように遠のいたきっとしらない場所で寝ている(史記

わだかまる熱 空を裂く雷鳴のあとすずやかにわたしはねむる(水也

今日あなたが死ぬまでは恋でした今はなんと呼べばよいのですか (でち)

恐竜とホットココアを飲んでいる さむかったろう つらかったろう(村崎残滓

冬の浜 白き静謐 虚空の音 ただそこに在る 透明な未来(淡路すあま

鯨ってまるで星だね ものすごく遠くで動いている尾びれ(宇祖田都子

割れぬよう夜空を溶かした金魚鉢 水底掬った言の葉浮かべて(夜星いさな

思うたび記憶の底に沈みゆく供養されない短歌の吾子ら(葉澄葉

誕生日だって言えずに暮れる日のお疲れさまが帰路の飴玉(小野小乃々

終電に押し潰された夜送る今日の縫い跡朝がふやかす(でち)

『明けの明星』の名を背負う食パンは三割引きでも凛として(小竹笹

鍋の中ほろろ崩れる鱈の身が箸をすり抜け踊るのをとる(せんぱい

語るには短い時間しかなくて僕らひたすら略語を使う(睡密堂

in tempo《インテンポ》繰り返す日々だったのに貴方のせいで揺れるメロディ(美鷹周

呼び方のない関係でいましょうね楽しいときは踊りましょうね(あきの つき

あっさりと消化しそうな思い出を しがんでしがんで生き抜いている(百壁ネロ

神様が遅延証明くれるならまた通いたい三年がある(奥 かすみ

葬式をしてくれるなら盛大にどんちゃんどんちゃん騒いでほしい(にいたかりんご

水面にスーラが転生したような逆さに揺れる街の点描(小仲翠太

春の日に心とけゆくその時をいまか今かと待ち焦がれている(ホワイトアスパラ

これはもうまぐれじゃないねわたしたち2回も一緒に蟹を食べたし(おもらし

いまここで言うのが美徳だから言う「好き」に喜ぶ馬鹿でいれたら(りゅーせい

図書室はミネルヴァの森 いつの日もわたしをそっと包んでくれた(佐竹紫円

足跡の青さは納戸に入れたけどそろそろ時効か干乾ししようか(瑞波草

天国に着けそうですかタンポポの綿毛になって飛べそうですか(まちのあき

「知り合って ごめんなさいね 迷惑をおかけしました …忘れません」。(里香

生返事にあふれる日々のだし巻きの余生のような黄色がきれい(石村まい

人生が過ぎった日から少しずつ夢が傘とかリンスに変わる(村川愉季

天泣の空 わたしたちひとりだし取り外したい薬指から(水也

ギャルだって恐竜だって悩まない うちらもべつに悩まなくていい(村崎残滓

ポレポレと進んでみれば低速で揺るがないのがすごいと分かる(インアン

上様と初めて書かれた領収書 ポニーテールをちょんまげにする(水の眠り

遺体遺棄 凍てつく夜のパーティーに馴染めなかったわたしときみの(畳川鷺々

部屋は雨 絵本のなかにもぐりこみ優しいことばを雨傘にした(月夜の雨

朝風がピュウと私を縮こめる陽だまりはあと十五メートル(鈴木美波

蜘蛛の巣の縦糸の上だけ歩く手を離さずにいてほしいんだ(北乃銀猫

アルビノの話をしてた公園は白 手には缶のポタージュスープ(ツキミサキ

生きていてくれさえすればと祈ったね 揚がりすぎたる凧の糸引く(青野 朔

午前四時鈍行列車すら止まるこのまま死ぬまで起きていようか(一文字零

美しく歳を重ねてゆく人のほどく白髪(はくはつ)銀河のように(山口絢子

枯れたって花はいつでも美しい人間よりも争いよりも (雨宮雨霧

透かしても溢れてくるのは余白だけ かつて私が信じた瞳(夜星いさな

シーモンキー絶滅させてごめんなさい夜空に放ってあげればよかった(きいろい

木々のない星で生まれたきみの手を取って教える、これが木漏れ日(あきの つき

のり弁の白身フライの正体を知ることもなしのり弁ゆえに(梅鶏

ヒトでない飛行士の遺体あるというニュースが小さく報じられた夏(椿泰文

自宅にてぽつんと一人咳をしてさみしい時間過ごしてる僕(いちかわ ゆうた

あなたとは短編映画のようでした。繰り返しみることのできない(りんか

あの人に似合うと言われ前髪がどんどん短くなってく呪い(わたこ

あなたにはなんでも話したくなるの。ねぇ、海よ、今日は五時に起きたよ(漁火いさな

クロックムッシュ/マダム夫妻が馴れ初めを教えてくれた日曜の朝(石綱青衣

このままがいい と言うより 今以外怖くて何も君に言えない(麻数

嫉妬する欠けたあなたが大好きよ だって月は欠けてこそでしょう?(

中火って何度から何度までですか どこまでしたら恋人ですか(はじめてのたんか

別れ際ふり向くほうに賭けていて逆光のなか目を凝らしてた(てん

来世でも白き帆船なのだろうファンデーションをぴんと張る朝(夏谷くらら

地獄には一〇八色の赤がある例えばぬるい胎盤の赤(よしなに

口揃えやりたいことを今やれと皆言う私千年生きるわ(あんの屋

認めれば痛みは増してしまうから、なかったことにしてしまう傷(真朱

「これからも一緒にいて」の一言を手の体温に訳して握る(一文字零

声 歩幅 癖 君由来の全てが好きだから地球滅亡しろよ(漁火いさな

出発は夜更けにしよう健全な秘密も持とう朝日も見よう(みぎひと

満月を独り占めするわがためのホールケーキと思う秋の夜半(小野小乃々

もしかしてさめない夢のなかにいてわたあめの雲 幸福だって(水也

曲がり角パンが落ちてる食べかけの恋がおそらく散ったのだろう(ゆひ

おまえから顔が見えない逆光の角度で笑う泣いてないって(

5分後に世界が終わるというのにカップ麺が4分のやつだ(汐留ライス

特別に教えてあげる あのハトもみかんも俺もお前なんだよ(竜泉寺成田

乱暴な羽ばたきだった 傘の雪バサバサおとしてくぐる改札(藤原ほとり

地獄には行かないつもりで天国の下見に来てる泣けるほど、青(奥村美影

待つ背中君添いくれぬ涼しさよ冷たいなんて舌が痛くて(ゆき

微睡んできみが寝返りうつたびに 左の小指やさしく引かれ(サ行

いつだってピンクが好きと言える子は心がとても強い子だった(桐谷やまと

発《は》つ言葉「心に響いた」そう言ってまだ私の手冷めてないうち(ゆき

金星に届きそうなの 空蝉の閉じた眼の果て残り香にして(納戸青

正解の生き方はどれ吊り革の白い丸から覗いた夕陽(宇井モナミ

ちりぢりの生命線のわたしでも明日の準備をちゃんとして寝る(てん

じゃあ青い冬の星座のかなしみをだれが引き受けられるというの(石村まい

きみが知るぼくもわたしが知るぼくもたぶん架空の生き物だろう(てと

木漏れ日は銃弾 撃ち抜かれて僕はトムとジェリーのチーズみたいだ(村田真央

手に入らないと知ってて馬鹿げてる恋は踊って心は跳ねて(にいたかりんご

恋もまた雪なのでしょう 溶けてゆくようにあなたにそっと触れては(りんか

金魚って冬のあいだはやわらかなパステルカラーな気がしませんか(宇佐田灰加

人間に生まれたときに抜け落ちた羽舞い踊る冬の星空(春永睦月

映えなんてどうでもいいよ今をただ生き抜くためにパフェを食べたい (奥村美影

浴衣着た君に心臓撃ち抜かれ僕は射的の景品だった(雨宮雨霧

図書室の児童書の背がひび割れる子どもに羽化を教えるように(アゲとチクワ

この部屋に水族館の呼び水として布製のペンギンは立つ(りのん

あさなぎに身を浸したい 純粋は底の知れない場所だったよね(納戸青

ひとすくい てのひらのなかのさみしさがわたしを人間たらしめている(菜々瀬ふく

作業着のインナーカラーを美しく着たい着物の伊達衿みたいに(水川怜

母よりも大事なひとがいるらしい 寝たふりで聞く夜半の遠雷(北野白熊

What’s little girls made of? おまえへの恨みつらみでできているよ(

身投げしたはずのまっくろな河でいつまでたってもクロールしている(石綱青衣

深雪にキツネの足跡 誰も気づいていなくても君は生きてた(桜井弓月

椅子がある ゆっくり休めと言うようにまた立ち上がれと言うようにわ(おいしいほうじちゃ

借り手なき古典と二人旅に出る人それぞれの賑やかな孤独 (でち)

遅延した電車を待っているときに今夜はキスをしようと決めた(りゅーせい

誰のため泣いているかも分からなくなってようやく止まった涙(茶葉

人類に明日がこない場合でも水が流れることがあります。(富井嫉妬

生きている気がする日ならたまにある それがあるから生きていられる(百壁ネロ

もう鳴らないスマホがひとつあなたとの思い出ごとSIMカード抜く(水柿菜か

目には目を埴輪の目にも填める目を死者の代わりに奪った目玉(じもぶん

燃やしなさいただ付帯するだけの荷を火がないのなら暖は取れない(綿鍋和智子

ジャム瓶を力まず開ける両腕で行かないでくれと掴んでくるな(はじめてのたんか

息子から白いナイキのプレゼントわたしを手放すカモメの翼(水の眠り

ハッピーかどうかは歌う前からもう知ってた君のいるバースデー(阿部梅吉

すこしだけやさしいきもち昼と夜の隙間だけてらす金星(たな

恐竜の骨の一本だけ欠けて この子はきっとアダムなんだね(村田真央

どれほどの時間をかけてもわからないあなたはまるでティラノサウルス(あだむ

どこまでも完璧主義のこの街には蹴飛ばすあき缶すら落ちてない(小仲翠太

知らぬ間に立たされていた滑走路 飛べるなら飛びたいよ私も(雨野水月

西口に恋をしている東口 乗客達は往復書簡(ume

冬空に溶かしてしまい消したくて白色に混ぜつぶやく弱音(

飲み込んだ言葉は泡にくるまれてアフロディーテの犬歯となりき(朝路千景)

でたらめなセックスばかりしてるからでたらめなこんにちは赤ちゃん(畳川鷺々

無言にてドンと出された卵焼きたぶん僕へのイエローカード(奥 かすみ

ラッシーの未知さ あかるさ さわやかさ せめてお洒落な負け方をしよう(パイン井

人の輪の孤独を逃れ図書室で深い呼吸を許される午後(桜井弓月

人生の被害者役をやめましたわたしはわたしを救ってあげたい(山際潜

鍋敷きとして踏まれてる卒アルよ大金持ちにはなれなかったよ(はじめてのたんか

まばたきのたびに塗られる顔料で街はだんだん春の空色(短歌パンダ

十人が十色であるならあと二人さそってあの子のクレパスになる(宇井モナミ

ヘイ、キティ 彼が元気か見てきてよ 四国に上陸するというなら(六日野あやめ

元カノがまだいる予測変換で言葉は時を戻したがるよ(箭田儀一

果物の香りに似た花の香りに似た紅茶 凍えてるのは心(えふぇ

玉乗りもできない火の輪もくぐれない綱渡りならいつもやってる(北乃銀猫

赤ちゃんのようにみんなに囲まれたい犬は眼(まなこ)で抱負を語る(椿泰文

ありがとう昨日の私、ちょうどいい助走は今日の私の味方(佐竹紫円

君は言う いってらっしゃいより先に「ひかりのはやさでかえってきてね」(美鷹周

初めてのクレカで買ったこれまでで一番重たい茶色のコート(白鳥

ゆっくりと両手で本を閉じた子の祈りが鳥になりますように(よしなに

治るまで剥がさないでと絆創膏巻きつけた淡い束縛として(宇井モナミ

しっちゃかとめっちゃかならばしっちゃかの方がちょっぴり猟奇的だよ(村田真央

苦しくても片想いする蝋燭はあなたの恋を照らすのでしょう(ムラサメシンコ

かなしみはスノードームの中の雪 今、足を止めるわけにいかない(えふぇ

孝行がへたな気がして悔いた日の夜は果実酢お湯割りにする(青色紺色

わたくしの化石が崩れ去る頃にあなたは琥珀になるのでしょうね(宇佐田灰加

ひとり自転に逆らって歩くこの夜をずっと終わらせないために(佐為

バトン待つような右手に左手を 任せたよ私のアンカーさん(白鳥

祈るかたちに手をつなぐ真夜中の孤独をいまは忘れていたい(佐竹紫円

生と死の半額シールを貼りながらテイク・オーバー・ゾーンの鮮魚(松たかコンヌ

くちびるに歌 足元に花 空に光 こぼれれば新しい春(ぐりこ

わたしいま、月にいますよ 地球儀で指せない愛で刺してゴー☆ジャス(松たかコンヌ

目的は分からず列車待っているその時何を思うだろうか(いちかわ ゆうた

あの子のはもっと短い、花みたい ださい制服のスカートをきる(野田ひかる

九九覚え助詞も覚えた学校で恋を教わる君の笑顔で(桐谷やまと

ポケットに人肌ほどの言の葉を忍ばせすぐに会いに行きたい(茶葉

タバコ買う青年の顔誇らしくカウンターに出す緑の免許(紅生姜天ひやむぎっ

ブレーキを踏めば死ねない ペダルから足を離せばブラックホール(雨野水月

余韻だけの人生なのさシケモクとボロいコートが火を噴いている(ムラサメシンコ

傷ついた手首を「ねこ」と悲しげに誤魔化すひとからしあわせになれ(村崎残滓

にわとりの骨を齧っているときの犬の眼の 犬の 犬の 退化(畳川鷺々

東雲の空 夜はもう色を保てずに朝日に徐々にほどけて(

ときめきが欲しいときみは言ったっけ まるでコーヒー頼むみたいに(Rhythm

唇を摘んだ指で滑らすの寝ている君にばれないように(

コンパスがなくてもきれいな円を描く田中は出世するんだろうな(てと

午前四時、一人でないと知るまでのあと数時間「夜は明けてるよ」(実森詩音

チョコ色のダウンジャケットの蛹から羽化したヒトの白と青痣(鯖虎

過去と未来 重みを測る天秤が過去に傾く分銅がある(木ノ宮むじな

でも過去にできない傷もあるでしょう私はそれを愛したいんだ(空虚 シガイ

永遠を誓うかわりに元カノの数が増えない呪いをかける(伴 更紗

発声が涙を呼んでしまうから息の仕方も忘れてしまった(さんそ

気がつけば同じ速度になってた二人で歩くいつものはやさ(

夕食の冷凍餃子が美味しくて愛情は=手間じゃない(睡密堂

白い皿0.5点届かずに残り続けたまつりのあと 春(新井宗彦

緩やかに離陸しながら改札をくぐり抜けたら 予定変更(きいろい

言っている意味がわかりませんなんて深夜の道で言わないでsiri(ツキミサキ

知り合いをまとめてぜんぶ友人としているきみのふところが好き(真朱

永遠になんかならなくてもいいと想える愛に辿り着きたい(空虚 シガイ

面談の前に図書室で息を継ぐ密かに本も光合成する(青野 朔

「ご注文の出会いにセットでは別れがついてますけど?」「買います、何度も」(阿部梅吉

ピンクって色がなければ恋愛は必ず炎だったでしょうか(宇祖田都子

血の滲む努力と我慢で結ばれた運命を赤い糸と呼ぶ(はざくらめい

モノクロの景色切り取る瞬間に散る火花さえ君触れるのに(いづみ

デオキシスサイコキネシスゴース死す幽霊二度も死ねてお得だ(松たかコンヌ

星の無い夜に降る雪 星の骨 夢の無い夜の一瞬の夢(ルミナ

夜だけに聴こえる地球のあたたかな鼓動のような階下のいびき(菜々瀬ふく

「もういいよ」かくれんぼしたあの頃と同じ白さで花嫁は呼ぶ(北野白熊

旅なんて途中がいちばん楽しくて西遊記の結末も知らない(汐留ライス

道端の缶コーヒーから昨晩の誰かの悔いが染み出している(水川怜

正しさじゃなくて愛が足りなくて 毛を刈ればどのパンダもピンク(てと

廊下行く気配に声に峙てる心耳を奪う君は金糸雀(灯志

どの星があなたでせうか夢でまた聞くからどうか夜は隣に(朝路千景)

梟の眼《まなこ》は昏き鍵穴で過ぎぬるわれが這ひ出してくる(碧乃そら

気のせいでいいよおまえと出会わせてくれた神よりおまえがいいよ(

「温厚な草食竜」の歯をなぞる 反論しない者のおおきさ(夏谷くらら

月にいるうさぎは野うさぎだから 重力はあってもなくてもいい(ZENMI

ヒーローになりたかったな過去形になったときから救われる側(奥村美影

食卓で春支度するチューリップ ふくふくまるくふくふくまるく(あんの屋

新聞で伝えきれない真実が人の数だけ存在していた(花林なずな

冬晴れのレノン忌あの日高校で弾いたベースの重きビートよ(椿泰文

好きになるときは突然秋の朝キンモクセイがふいに香りぬ(小野小乃々

“期限付き平和”はまるで時限式爆弾のよう 時よ盈ちるな(小竹笹

「傷あり」の赤札の下で桃の実は慎ましげな顔で濃く馨る(叭居

実のならぬ胡桃もあって生み出せぬ私も生きていいと思える (宮緖かよ

境目をくっきりさせる寒い日に歩けば息も輪郭をもつ(ぐりこ

この海で誰かとあなたが別れたと波が知らせて荒れる前髪(谷 たにし

いいねしてくれた人みな抱きしめたい どうもありがとう また来てね(のじぇ

またひとつ重ねて深くなっていく罪は積み木によく似てるのに(さんそ

西の空を燃やして溶かして鉄の夜空を作る夕陽かな(

まだ誰も使っていない言葉で君に海の青さを伝えたい(鯛焼きコ

ゆりかもめ春を目掛けて飛んでゆく 私を故郷にしてはくれない(ume

変わりない? そっか良かった。わたしはね君と出会ってからさみしいよ(漁火いさな

試し書きされたペンから溢れ出た線のどれもがやさしい丸み(梅鶏

知らなくていいと貴方は言うけれど知らないままでいたくはないの(静麗

薄味が体に良いこと知りながらジャンクな言葉に縋りつく(はざくらめい

水引のように毛先が結ばれて今夜わたしは祝福となる(鈴木美波

凡庸な歌を沢山詠んでいこう 今際の際に寂しくないよに(のじぇ

ヒーローになれなくていい少しだけきみにやさしいわたしでいたい(花林なずな

祈りとは冬の月かげ縒り合はせきみのてぶくろ編み上ぐること(碧乃そら

手のひらに少し淡雪 こえかたち忘れつつある人に会いたい(朝路千景)


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