第20回毎月短歌・3首連作部門に投稿いただいた短歌作品の一覧です(表示順はランダムです)
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星の子ども
原曲は春らしリードオルガンのふいごのやうな産ぶ声の鳴る
ぱちぱちとまばたく吾子をそっと抱く 星の卵を孵すみたいに
棘の手を亡母にゆだねて春銀河さざめく星の子供のように
(小野小乃々)
無題
希望して生まれたわけではないなどと口を尖らせ子燕の言
さんざんな目に遭ったから怖くない 氷河期世代の無敵の背中
熱っぽさ、だるさ、いつまで続くのか 気怠さだけが生きる実感
(祥)
端っこで生きていきましょ
正面の特等席は遠慮して奥から大好きビームを飛ばす
さあねって開きなおって生きるには心臓の毛がだいぶ足りない
いつだって真ん中に咲く君のこと縁取る緑で生きていきましょ
(山口絢子)
冬の、わたしの音を探して
春遠し わたしの通奏低音を見失ったまま叩く鍵盤
かじかんだ運指のなかに今だけのうたが震えているらしいこと
滑らせるプラスチックのつめたくて遠い質感 冬の小道へ
(畳川鷺々)
つばめよつはめ
晴れた日もどしゃ降りの日も負けた日も待ち遠しかったあなたの言葉
魂と身体の境は溶け混ざりそうしてみんなのつばめになった
僕たちも順に旅立つその時は追いかけるだろう先往くつばめ
(早春)
自意識
ありきたりだがそれなりに愛されたい ラジオネームは「中央公園」
LINE名が「を」だと知ってしばらくはそのことばかり考えていた
「あたしってヴィーガン用のマヨみたいな人でしょう?」って どう答えよう
([おもらし](https://x.com/mugino _omorashi ))
蚕
吐き紡ぐ矛盾の繭をほどくため茹でられ中身茹でられて死ぬ
25℃(ど)家畜昆虫一生に1.5km(キロメートル)の空(くう)
桑の香に夢うつつなる二月(ふたつき)は明日生まれる者の二月(ふたつき)
(ほしのひかり)
回遊
生きるために食うってほんとスプーンを掴んで離さないか細い手
気づいた 汚れたおむつ替えるときのにおいが曽祖母と同じ死の
呼びかけて帰ってこなくてもひとりじゃないってこと夕暮れは伝播する
(栗原馴)
「歌」
全て必要な遠回りだった 僕が今日この歌を詠むための
歌を詠もう 今ここにある一瞬を冷凍保存するために
雪解けを迎えた歌がその先で誰かの背もたれになればいい
(Umi.)
母
下校して
入院したと
聞かされる
母は40
私は4年
半年の
入院を経て
母が今日
帰ってくるよと
聞かされた
やったー!と
喜び姉を
困らせた
死んで帰って
来るのも知らずに
(くまきょ)
水族館で溺れ死ぬ
ここでなら気分で溺死できるはず嵐は来ない凪の水槽
君じゃないひととふたりで来たときはそっと手繋ぎ波間を縫った
欲しい愛 与えられる愛 屈折が視界歪ませ何も見えない
(北乃銀猫)
恋愛ごっこ
永遠に同じ手出してあいこしよパーとパーなら手を繋ごうよ
愛なんてオセロのように変わりゆく全てのコマを君にあげよう
しりとりは「好き」「キス」をただ繰り返す狙うは僕のゴール「結婚」
(海沢ひかり)
ショコラティエ通信
先日のものが試作で本日のものが本命チョコになります
箱の中 もし音がしたら打楽器になったハートを詰めたせいです
常温で保管できます、もし今のままがいいなら なかったことに
(奥 かすみ)
声
電話から「私、誰なんでしょうか?」と聞いたことある気がする声が
階段を足音が駆け降りて行く声だけ追いかける「置いていくな」と
昨日までなかったはずの壁のひび奥から「広げてくれ」と声がする
(新井宗彦)
RE:
龍の手は何を掴むかはじまりを告げる光の奔流の中
黄金を背に翔ぶ鳥のシルエット影が主役の時だってある
荒波にもがきながらも仰ぎ見る今日には今日の空の変遷
(りのん)
生き延びて
着物縫う母と二人で生きてきた内職だってバカにされても
和裁する人を優雅と言うけれど生業にしていくのは辛い
在宅で睡眠削り仕事する母の頑張り側で見てきた
(谷まのん)
なんどもめぐる
一月がぬるりと車線変更しバックミラーから消え去った。また。
身から出た瓦礫が沼を突き抜けて猛光のなか地へと降り立つ
信じたい。怠惰は春の季語。窒素へばりつく塊(からだ)起こしさえすれば
(非鋭理反)
潮騒
青い窓 ここに座っているだけで 青い海 いま反射としての
レコードに残されていた潮騒があなたを砂のいきものにする
どうせなら手の鳴る方へいきましょう 生まれたばかりの衝動燃えて
(白川侑)
パルフェ
さっきまできみに触れてて優しい手、パルフェの構図を崩さずにいる
桜散りきみに届かぬ恋ひとつ 桜のように触れれるものなら
書き直ししない日記の美しさ 常緑樹とて風に揺れたり
(わかば)
あぱつの隣人
春隣あーぱつあぱつ金色の鎖を下げたおじさんの妖精
昼下がりあーぱつあぱつ新聞と宗教ばかり訪ねくるなよ
夕間暮れあーぱつあぱつ妖精の抜け殻だけが漂う汚部屋
(まちのあき)
冬の花
手のひらの冷たいきみが風邪の日のわたしの熱いでこにやさしい
冬に咲く花だと思う花びらのように冷たいきみの手のひら
放された金魚のようにきみの手を見上げる春にさらわれないで
(白雨冬子)
Almost separeted
おかえりとしゃもじ片手に笑うから言うべきことをまた言い出せず
にんじんがカレーに入らなくなってもう遅いよとスプーンを噛む
あの店にひとりで入る日があれば街を離れる覚悟をできた
(あだむ)
太陽のアンチ
起床即号泣起床即号泣えーえんに布団から出たくない(えーん)
太陽のアンチしてます真昼間のオフィスでありえないほど暗い
コンビニは灯台すなぁ わあ今日もレジでバイトを口説く店長
(ケムニマキコ)
焼きたてのパン
幸福を香りにすれば焼き立てのパンはひとつの基準値となる
バケットをそのまま齧ってみたくって多分わたしはつよさがほしい
わたしにも届く救いがあるのなら仕事帰りのパン屋の灯り
(にいたかりんご)
R(連歌)指定
韻踏みたい禁句みたいなリリックをギミック最大でヒリつく界隈
歌詠みの刻むラップは万端かワンパンな短歌に乱打のクラップ
あしびきの山鳥の尾の長い夜をぼくら祈るか?よふかしのうた
(汐留ライス)
空を飛ぶ
水面が空をうつして空ふたつ 鯉は泳ぐかそれとも飛ぶか
飛魚は空に焦がれて海のなかいつか飛べるとひろげてく 羽
風船にふきこむ春をおさめては舞ってく桜とともに飛ぼうか
(りんか)
きら、きら
日曜日テレビ画面は窓になるプリキュアもまた少女らを見て
自らもかがやきになり床を這ひ青き線路の行く先を見ゆ
一瞬の隙みて駆けて行く吾子をほどかれぬよう腕(かいな)に抱(いだ)く
(さんそ)
two in one
ぼくたちも大人なんだし部屋に合う花瓶をひとつ見つけにいこう
スーパーでさばいたことのないイカを見つめたキミを思い浮かべる
ストックにキミが並べたハミガキ粉その分だけの朝が来ること
(みぎひと)
落下した夜
浮遊する足もとなんて見えないよ 桜の吹雪たよりに飛んで
夕暮れに呼ぶ影があるまぼろしの幼いころの声を振り切る
暗くなる空へ落ちてく花びらが口に入ったにがいばかりだ
(水也)
Luca
翼には詩情があって持つ筆の重さで光を追いつづけてる
知恵の実は苦い 鎧をぬいだとき瞳を塗りつぶすトリカブト
Luca 星がゆく 物語をたどるたびなくしたものを抱きしめていた
(納戸青)
はじまりの朝
永遠を信じられない夜にさえ星の光は地球へ届く
太陽は束の間空を虹にして口紅をひくように朝焼け
青空に富士の山肌浮かびたち今日は見えそう風のシュプール
(りのん)
プリズム
もう終わりだねと誰かがつぶやく そう始まりの終わり終わりの始まりだよ
その闇を埋め尽くすほどの光を今、きみに向かって届ける流星
プリズムを通した世界はスペクトル完璧な虹など何処にもないんだよ
(古井 朔)
揺蕩う
野菜室の隅に置いてたじゃがいもの芽を抉った まだ好きだった
芯の無いトイレットペーパーを買う傷つかないで済む恋がいい
西のこと左だと言う君がいて少しは騙されてもいいかな
(箭田儀一)
かみをきる
もうずっと必死に助けを求めてる声を無視する神ならばKILL
伸ばせって言われ続けたこの髪を親と一緒に切り捨ててやる
軽やかに生きると決めたその日から紙衣《かみこ》を着てる(祈りともいう)
(てと)
だんご
弟よ誇れ下から後ろから泣く顔だけは見せず長男
行く道を敷いた端から散らかして進め振り向く暇などなくて
兄たちの影を歩んで丸く征く串に刺さってあんだんご だんご
(や。)
I’m lovin’it
国などの調査が拾えぬ属性の老若男女が集まっている
この街でフィレオフィッシュを食べている人は大体同じ民族
冷蔵庫奥で寝ている紅白を混ぜてオーロラI’m lovin’it
(瑞波草)
Palm reading
白い魔女 婚礼の日に手を取って「寂しくなくはならない」と告げた
よく似てた右と左の手のひらのしわとしわとが合わなくなって
黒い魔女「リコンヨビグン」と呟いた「あんた死ぬまで働くよ」とも
(青野 朔)
はるいろ
少年は両手のひらにわた雪をやさしくすくふ 兄になるのだ
みどり児のにほひは春のにほひだと小指をつよく握られて知る
春に咲く花だと思ふたなごころ三つ編み揺らす隣のあの子も
(碧乃そら)
日の出前に、この世界から
日本一早い日の出を見せるよりペントバルビタールをおくれよ
死んじゃダメなんて冷たく言えないよでも生きていてほしい、ごめんね
つらいなら逃げればいいって言ってたね、この世界から逃げるねバーイ
(桜井弓月)
猫
五時半にきみがカリカリねだるから
不本意ながらいつも早起き
うるさいな大人の猫は鳴かないの
万年仔猫を叱ってなごむ
鼻でキス我を見つめてしなる猫
何を企むその目の奥で
(蒔岡 るね)
二物接続試験
切なくて、冬とか言った舌の根が乾かぬ内にすたみな太郎
永遠の美とか語った舌の根が乾かぬ内に詠う淡雪
文学じゃないと難じた舌の根が乾かぬ内に「PV 増やす」
(鯖虎)
銀河鉄道の向こう側
夢をみて見ているだけのわたしなど消えてしまえば星になれるの
運命と呼べよぼくらが出会ったの 星も花もいらない願いだ
きみの手をとるわけなくて白い花纏うくちなし残り香のあと
(水也)
地球征服
節電と書かれた紙を役員が朝からずっと印刷してる
やっと春 夏 梅雨 真夏 台風 あ また夏が来て 暖冬ですね
ぎょっとするような景色の神様は私たちです地球征服
(瑞波草)
色情
桃色の後ろめたさも戸惑いも踏みにじられて滴る果汁
きっとまた忘れてしまう見せあった緋色の花を土に還せば
染められてしまえば二度と帰れない金魚も脚をひらく夕暮れ
(よしなに)
水であるから
窒息をすればするほど透けてゆくいちばん熱い氷があなた
たましいも等しく元素いずれみなグラスハープの声帯になる
柔らかいティーカップになるふたりとも吐息ひからす真冬の朝は
(夏谷くらら)
星
流れ星 ラッキーひとつ引き連れて金のエンゼル堕天していく
オリオン座おまえさえいれば空ぜんぶ知った気になれる そこを動くな。
ハート打つには一光年ほど遠く 控えめな星文末にひとり
(あさがみ泊)
永遠の燕
屋根のない球場だから四季はなくとも降りたてるつばめのしっぽ
SWALLOWきみのない春も嚥下し追いかける白球は
南方の風でつばめはやってくる半旗はためく外苑の森
(綿鍋和智子)
おしゃべり
自転車のスイミーぱっと割れるとき半身のままで続くおしゃべり
嘘をつくコツはほんとを混ぜることメロンソーダのソーダはほんと
赤すぎるポストが街に馴染んでくたぶん明日は晴れると思う
(北野白熊)
はなばたけ
はなばたけ 聞こえた声をたどれずに花瓶の口を空にかかげる
お姫様抱っこみたいに手に取った床に落ちてるペロペロキャンディ
かわいいにパジャマを着せて月製の積み木の上の冠になる
([大塚正幸](https://x.com/ 4Zl5wF1Ynr78127))
はじめてのパン屋さん短歌
焼けました!パン屋さんの一声を厨房で聞く新たな幸せ
フランスパンチャバタフォカッチャリュスティック 世界のパンを知った顔する
惣菜パンバターを少し塗りすぎたバイト初日の美味しいやらかし
(こまえり)
夫婦
内緒だが油まみれの台所 平気な君に安堵したんだ
両輪でつかず離れず支え合う そんな夫婦になりませんか
逝くときは木馬に乗って振り返る あなたとの日々幸せでした
(稲子)
「両生類」
赦された膜のなかではおぷおぷとおたまじゃくしが夢をみている
生きている途中で脚が生えてくるそこじゃないんだ今じゃないんだ
片側は春にゆずってそっと立つ歌いはじめる為の寂寞
(きいろい)
コンビニへ行こう
果物と手首はおなじ薄氷 研いだ刃の春はハロハロ
チョコレートと嫉妬はおなじ胸焼けの冬にとろけるフォンダンショコラ
垂乳根のマザーなめらかプリンパフェ空想としてある秋の月
(まちのあき)
絡まる心
蜘蛛の巣がからまってゆくこの身では陽射しでさえも濁ってみえて
病んでゆく病んでゆくようなこの森で誰がわたしを救うのだろう
生と死の狭間で生きるわたしへと糸を垂らしてたらして糸を
(りんか)
玉ねぎ
玉ねぎを少し多めに微塵切りする主婦でもなく母でもなく
「お母さん、泣き虫なんだから」と笑う子らと笑って謝るよう泣く
くつくつと煮込んでとけて最初から入ってなかったような玉ねぎ
(小仲翠太)
不完全完全メシ
朝はまずコーンフレークかきこんでパンより栄養あるらしいし
PCの前で眺める栄養表示日々はこんなにコンビニエンス
帰宅後は日清さんが頼りです完全なのにすり減るなにか
(てん)
預言の書
強欲なロボットにより人類が搾取されてる二一〇〇年
死ぬことがエンタメになるAIは人が死ぬのを羨んでいる
一面の砂漠にポツンといにしえの遊泳禁止の看板がある
(白鳥)
ドコノコノキノコ
ドコノコノキノコ おゆうぎ会で西、じっと見てたの 夜が怖くて
ぶたないで/マジック/マッシュ/ワンルーム/5歳/口淫/母/万華鏡
詩はPSYCHE 怒りはRAPE 毒キノコ スーパーマリオ 連れ子は供物
(松たかコンヌ)
雪と君と、今年の冬
いつまでも雪が降る度はしゃぐ君雪の結晶みたいな君の瞳
この辺は降り積もるには少なくて山の白さに負けない君の
白目指し君を乗せてく山道を行けない事を君は知ってる
(瀧)
風船で幸せ
さて来週のサザエさんは?と訊ねられ 幸せ! 幸せ! 幸せ!と叫ぶ
風船で幸せになれたらいいな幸せになれなくてもいいな
幸せな人ってバカに見えるでしょだから不幸になりたくないの
(宇祖田都子)
おじさんとの距離
終電の一つ向こうの席が空き私と距離を空けるおじさん
クレープに1人で並ぶおじさんの心の傷を思う日がある
おじさんが勘違いさえしなければ割と好きだと言ってあげたい
(木ノ宮むじな)
甘さ控えめ
稲妻が由来であると知ってからきみと出会った日はエクレアの日
丁寧にきみと作ったマカロンは熱が足りずに割れてしまった
胃をホットケーキで埋める凹んでる心を埋める練習として
(てと)
なのです
それ王手なのです コムギ 俺、藤井 ぼくは羽生と申します レナ
沙都子にも子宮はあってダムだって誰かのために溢れるでしょう
夕方の冷蔵庫 蝉 さみしいよ 音色があるよ 嘘だ 嘘だよ
(松たかコンヌ)
女
紅をひく齢《よわい》九十の祖母はいま惚れた男の介護を受ける
たわたわと白き乳房に触れぬ君 私の何も分かっちゃいない
散り菊に我が身を重ね花火玉 終わりを悟る寂しさぽとり
(稲子)
ばあちゃんとマヨネーズ
卵と酢と油必死でかき混ぜるいつも優しいばあちゃんのため
出来るって絶対出来るマヨネーズNH◯でこないだ見たの
晩飯のサラダに謎の液体が…これはあの時…意外と美味い
野生喪失
食いちぎるサイズの肉をあらかじめ鋏で切って失う野生
生まれつき爪が弱くてすぐ割れてアイアンクローに付け替える自我
咆哮はシャウトに変わるNow on sale いいから聴けよ俺の魂
(ぐりこ)
よわさ
やさしくて誰かにやさしくしたくってたぶんあなたは寂しいんだね
外側がなんだとしてもわたしにはただ羊水のようにやさしい
まあいいよ そのやさしさで地獄へと落ちるのならば一緒にいこう
(にいたかりんご)
バスタイム
シャンプーのボトル空振る わたしから好きだと言わなければよかった
いつもより熱いシャワーを顔にあて、邪念、マスカラ、流れていって
海になるソルトをいれた浴槽にしずみ原始のすがたに還る
(おとうふ)
青春Rhapsody
図書委員の君がロックを聴くことが今日という日の収穫となる
あの頃は特別だった夜8時もうMステは観てないんだね
春ならば春だけの音があること そうビバルディは教えてくれた
(空虚 シガイ)
本日のお日柄
本日はお日柄もよく生き死にの凄まじいことを忘れましょう
ひとりでも生きていかねばならなくて頬切る春の残酷さたる
息ついてのぼる階段蟻の列ひたすら前に着いて行く性
(はるかぜ)
あまい2月のタイムカプセル
きみの声きみのしぐさに細胞のすべてがきゅんと踊って微熱
きみの言うことがいちいちツボだから相性が合うことにしました
(そのときのわたしの想い)渡せずにタイムカプセルになるチョコレイト
(真朱)
灰色の密林
立ち退きに抵抗をせしムクドリの糞と過激なシュプレヒコール
灰色のビルの密林服を着たサルの間をドバトの歩く
友も無き街でただただハシブトのカラスの吾を見つめて鳴きぬ
(鯖虎)
とりあえず、カラオケ行こ
「マシマロは関係ない♪」と踊る君 三月十四日 校舎裏にて
奥田民生も聴かない軽音部なんかにフラれたとこで「イタイしカユイよ」
君のイタイを「ずっと一緒にいたい」にして君のカユイを「ユカイ」にしてやる
(しみず)
春
バラ肉に塩や砂糖をなすりつけ「受粉」の二文字久々に使う
三月のにぶい別れだスーパーの菜の花天はしなしなだしさ
かすかなる走行音に振り向いてはじめて気がつく春とプリウス
(あさがみ泊)
痛み
慣れるとは失うことと知りながら巻き爪にまた舌を這わせる
君を突く脚を一本失えば幻肢痛から逃れられない
心の臓器だとすれば悲しみも喜びもまた痛みの鼓動
(よしなに)
歌詠みを生きる
歌詠みて魂ゆるがす言の葉を思いは高く未だ実らず
歌詠みは花鳥風月のみならず苦しみまでも詠むが本懐
歌詠みは読んで感じて詠みつくし言葉の果実を刈り取る農夫
(つくだとしお)
ひみつ道具はいらない
すれ違うことで生まれる物語 どこでもドアにつける錠前
ポケットをほんとはみんな持っている《愛》と気づいて言わないでいた
(好きでいて)「のび太さんなんて大嫌い」ぐらい言ってもブレないのび太
(真朱)
汚れた花
満開の桜を泥で汚しましょう貴方を独占してはダメですか
泥水に汚されていく向日葵よそれでも君はあいつが好きで
綻んだ小さな白薔薇泥水で汚してあげたいあの子のように
(アサコル)
春の雨
から回るペダルくるくる電動のバイクあやつる少女のジャージ
吸い殻があかりを灯す 見上げれば寒空 ここはさういふ街だ
あとさきもなく這いだしたマイマイが次々雨にうたれれば春
(空飛ぶワッフル)
春愁
隠したいことがどんどん増えてゆき心の底に沈む鉱石
曖昧な境い目きっとこの先はさみしい方の春の温もり
ほころぶとほろぶは似ててまだ固いうちに蕾を鋏で落とす
(あきの つき)
はたらくくるま(裏)
急いでる理由があるのだとしても霊柩車ではドリフトするな
後ろからバキュームカーを煽ったら道に中身をぶちまけられた
信号の両側で好きと叫び合うふたりを遮るバーニラバニラ
(汐留ライス)
さよならの明けない夜明け
さよならが暴風域を伴って感情線沿をゆっくりと
さよならが廊下の奥をうかがって人差し指がぼんやり灯る
さよならがまだ十分にあたたかい あれから夜が明けないせいね
(宇祖田都子)
充電が足りない
充電が足りない位笑ってた電源挿しにマック二階へ
桜しか咲かないはずのカラオケでしず心なくSTAY GOLD
花束を帯刀したら街を出る開国するの今日でよかった
(きいろい)
秘密
夢の中手招きをする君のこと追いかけていた抱きしめていた
君が嫌いと言った人は僕も嫌い大切なものふたりで盗んだ
この事は秘密だよって君は言うわかってる、そう、君は僕だよ
(ツキミサキ)
バナナケーキ
しあわせのかたちを探る日曜日バナナケーキはおひさまみたい
あら熱がさめるまであと何しよう足をぶらぶらさせているきみ
ふうわりと香りたつ湯気きりわけておかわりはひとまずいっこまで
(月夜の雨)
悲しみの花
悲しみは氷点下にある咲きながら凍った梅は泣くように散る
向日葵さえ真夏の熱に立ち枯れて気温41℃の青空
綻ばぬまま枯れていく満月の月下美人は俯いたまま
(アサコル)
友と会う
通知音覗いてみたら見覚えのある名前からメール着信
LINEすらしない友からしばらくの疎遠ののちにランチ誘われ
そういえばもう折り返し過ぎてるね後悔崩すランチに行こうか
(北乃銀猫)
何光年
毎朝の中途覚醒まだ君がいない地球で過ごす4時間
救いから距離の単位に変わっても君は私の光のままだ
残された足跡だけでスキップと分かるくらいの月面デート
(めめんと)
ゾピヵ日記
木漏れ日を持って帰ってきてしまう戻してあげて昏がくるまでに
昼さがり寝ぐるしそうな額には夢をあげようばくのじょうろで
君はそう、おもんぱかるの、ぱ、みたいだ ひとでのスープをふたりで飲もう
(白石ポピー)