第20回毎月短歌・連作部門 作品一覧

第20回毎月短歌・連作部門に投稿いただいた短歌作品の一覧です(表示順はランダムです)

[選評結果一覧など「毎月短歌コミュニティ」でいちはやくまとめられています。参加はこちらから]


パレット

水彩のパレット開けば春の色 心躍らせる花のささやき

よろこびは心のキャンパス塗り替える鮮やかな色で未来を描く

色えんぴつ重ねるごとに増えていく僕の想いが形を変えて

モノクロの景色のなかに君がいて世界は色を取り戻せそう

夕焼けは嘘のやうだと君は言ふ赤い絵の具を空にこぼして

ホワイトアスパラ


駄菓子の駄

大人買い言うにはショボい量やなと笑い駄菓子で小山を作る

ヤニ臭い居間でお前が乱雑にココアシガレットを噛み砕き

粉々のうまい棒を混ぜ合わせわからん味の粉を分け合う

真実は知らんまんまでいたいから占いチョコは一気に食べる

そのまんまコーラを全部口に入れハズレもアタリもなかったことに

自分ではどうにもできん事があり粉末ジュースの鮮やかな色

むぎチョコを一粒一粒丁寧に食べるお前は報われるべき

あきの つき


この世の果てまで

サニーデイお前は誰の感傷も興味ないって感じの青だ

大嫌いな街の屋上 首長竜の涙を誰も知らないように

白昼に尽きる彗星/弾丸の形で眠るカナブン その軽さ

選ばれないことなら慣れた古傷に種を沈めて造花を差して

観覧車 五分間だけのゴースト いなくなくならなくならないで

ウサギだしピースサイン、じゃねえだろう こんな時まできみは笑って

ひび割れたみたいに笑え アウ・イエー アウ・イエー(あれ? マジで楽しい:)

この星の空気は読まず浮遊せよ すべての愛しきミュータントたち

街中の窓飛沫かせてプリズムの散弾銃 で、ギターは斧だ

Thank you, my twilightいつだって僕らは間違えていたかった

ガソリンに、虹 走らなきゃ 飛べなくたって飛びたかったよ

ケムニマキコ


極夜ごっこ

水深計だけは手放さないでいて 今なら空も海 だから行く

言いかけて息だけ吐けば接ぐための言葉は散った 紺のカーテン

同じ火で点ける松明 眼の横でゆらめくと泣いているかのよう

踏むたびに氷は割れる眠剤のブリスターパックを割る音で

あたしもそれ飲んでるよ、と告げる声に諦めを諦めた裏返り

糸電話これは糸電話糸はなく切れそうな予感ばかりあって

読み終えた本を燃やして本を読む息が足りれば読んで聞かせる

なんでまたあなたはわたしをきにかける橋、虹製で、光りはしない

くじらの背のような色の厚雲が空に敷き詰められたなら朝

舟をこぐあなたは少しずつ遠く誰の瞳をポラリスにして?

石川瑞希


不協和音

独学の愛をひたすら振りかざし私は何処へ行くのだろうか

やくたたず 言われてずっと反芻しボクは無能なカセットになる

問われてることがわからずまたひとつ謝り方をおぼえてしまう

幼少期ワサビ抜きって言えていたボクは報連相ができない

違和感を説明できず責められるそれこそ違和感だというのに

想い出を守りたければ生きてゆけ選ばなかった道も愛して

空虚 シガイ


雲連れ

ぼた雪を雨にひととき戻しつつカカオバターの匂いがするわ

消雪用水の温みよ凍結はないと信頼される土地なら

地下水の噴きだしにこそ陽は注ぎさざめきの止まない水たまり

雲間に的を定めて寄ったローソンにPB商品また増えている

民法の講義を思い出しながらこの合鍵に更新はある?

ポルボロン 日暮れなるべくまろやかにあなたを起こす風、雲連れの

お祈りを受け取るたびに親元へ帰りなさいと北からの声

衣更着のさらに毛布を重ねてもわたしたち南を向いていた

花嵐 百年後にもアパートがあってほしいと願うんだろう

雨宿り続けるための契約を結ぶ雪には戻らないまま

塩本抄


共同ちきゅう報告

ジャラシやらビニールブクロやら罠になりうるものであふれています

あーっ!お客さま!困ります!気まぐれじゃないからって犬ばかり撫でては!

道端でたまに踏む葉が前よりも簡単に崩れてゆく秋だ

人間のゲームの人間を見て知る 人はキノコで大きくなった

100万回生きてみるのも一興で記憶が残ることを除けば

天井のシミを数える間に終わる そんなもんだろ一生だって

さくら耳になるのだろう人間のようにジェノサイドが起こったら

骨はもう遺されないの(人間のように) 名前がいっぱいあっても

人間の習いをひとつ借りるならまたねと言って別れとしよう

酔無そら


一週間

挽き立てのコーヒーで武装する 満員電車ゆらゆら月曜日

何もかも投げ出したくなる深夜3時 眠りにつくまではまだ火曜日

「折り返します」繋がらぬ水曜 先に終わるの私か仕事か

まだ少し週末には遠いから咲き初めを買う木曜のミモザ

改札で君が待つ「何食べよっか」浮き立つ足取りで金曜日

溶けたバターのような伸びをして起きる遅い朝 土曜日が来るね

ホットケーキの匂いを目覚ましに 大好きな君のいる日曜日

水無月ニナ


ふゆふたり

だいじょうぶ 冷えた自転車でもふたつ影は運べる星冴ゆる世に

いてついた一本道をはみだして嗚呼こんなにもぼくらは生きてる

じょーしきの石にサドルが跳ねるたびスタッカートを鼻歌に足す

ぶきようなペダルはその分ゆっくりと回してすすむ自由の時計

奥 かすみ


恋の星屑

だめ 星はずっと遠くでひかってて おちたら、きっと、こなごなに、なる

チカチカと脳が弾ける 落ちてきたあなたの破片がわたしに刺さる

衝撃で全部が星に侵されてわたしを満たす甘い絶望

こんなにも甘くて痛いこころなど砕いて砕いて砕けてしまえ

飲み干して、痛いの、ぜんぶ、きみのせい、ぎらぎらぎらと恋の星屑

にいたかりんご


遊園地かと思ったら国境で入れた人と弾かれた人

市街地へいく方法は七つありみんなは三つくらいを試す

コンビニへ行くときにだけに公園を横切るボクは風と呼ばれる

コーヒーか雨かを選ぶあかときのまぶたは弦をもたないピアノ

この星をたった一つのラの音の化石と定め再び眠る

それからは切り離されたまぶたほどやわらかい暗がりばかりです

宇祖田都子


「サ終しました」

サ終する日々で唯一待っていたSSRが君だとしても

おはようを言わないくせにログボだけ欠かさずまわる ダイヤが欲しい

放置して育てて貰ってフルオート円循環の外側に鳩

没入感求めるべきは空でしたカメラロールもストレージも空

硝煙をずっとみていた綺麗なBAN道理で君がみえないはずだ

無課金を重ねた恋の代償はリセマラリセマラリセマラリセマラ

許される為に課されたチュートリアルSkipしたらサ終しました

きいろい


しかたなく食う卵かけご飯にも黄身の黄色は朝日の色して

雑踏とめまいと落ちた抽選で私の魂溶き卵になる

罅入り割れたりしないでぬるりって剥がれておしまい殻とわたくし

フライパンに割ってみるまでわからない俺にもあるのか、双子の望みが

いつまでも顔と名前が一致せずエッグタルトに似た人として

俺の中のもっとも獣っぽいやつが卵を片手で割りたがっている

あさがみ泊


ことばはともだち その2

先生に かがくばけがく 何度でも ばけがくかがく 訊いてください

異星より呪いかけられし恋人のうわごとのようにねるねるねるね

奇を衒う臨むところだてらてらの半紙に殴る犯行声明

愚かかな愚かなのかなきみってさ最初の「かな」は詠嘆のやつ

閉じられた童話の氷溶けのこり木こり居残り素晴らしき森

不織布、を読めないままにしてこんな、ずたぼろパッチワーク、なわたし

半裸という言葉のなかに隠された隠された部位を半裸で思う

強風にちじこまってる子どもたち風はひととき誤謬となって

山頂はもうちょっと先 言語野でもっとかけっこしてたかったね

ありがとう 省略された言葉たち ありがとうございます EARTH

畳川鷺々


さざめく

泣きそうな冬の桜の木があってだから葉っぱがあんなに要るのだ

ぼくを呼ぶ小雀たちはぼくでなくエサを待ってるだけだけれども

荒波が風にまみれていつまでも命のうたを叫び続ける

月が問いかけてくる日は何もせず話を聞くよ 大人だからね

てと


沼底でねむる

超日和クリシェの煮こごり掻き回し食パンに手伸ばせずに昼

ポッケに手入れればふえる忘れ物まどろむ猫はもういなくて

上々に街へと弾めば定休日三連発で引き当てて帰る

凍てついた夏みかんと豚肉でパスタつくれば生きてる感じ

ひらかれた沼地に深く沈みゆき午睡樹(ごすいじゅ)の根に絡まれるまま

あの日から虚ろに延びた光受け三叉路の前まどろんで待つ

平面へ立体押し込めど押し込めど五行のLINEを返せずに夜

黒色の靴下の束手にとって使用済みかを嗅ぎ分けゆくて

彩りの渦茂るなかウタマロは白を生み出すその身溶かして

中敷きを洗濯するという術を思いつきたり前触れもなく

伸びきったヒートテックを捨てられぬわれの家には傘がない

てにをはが絡まるうちに回り果てユニクロの黒重さはまして

渦中から一歩下がればユートピア卵抱えてドードーを想う

はりぼてのトマト片手に街ゆけどゆけどもゆけども孤独の隙間

名の知らぬ木鳥虫を通過してドンキホーテの光に呑まれる

ポイントを利用せぬまま灰になるドナー申請する間もなく

一息が押し込められて白煙に満ちた箱にて灰を落として

軸がなくあぐね続けて22時400円の缶ビール買う

目印とともに往路が消え去ってたゆたう復路が管を巻く夜

アパートの脇の暗さが突然に肺を突き刺し、逃れたくなる

わが庵に遮断法人Est.して音と体がないまぜになる

首都高が毅然と唸る夜のなかサラダ油が茄子と煌めく

風はらみ極彩色のたらればが脳にまとわり明日へと拐う

非鋭理反


映画

四年前 空の座席に囲まれる 私もいない空間は誰に映画を届けたろうか

イタリアに心が飛んで帰らない あの名前にはもう出会えない

改札で「切符切る」って伝わらない今 映画館「もぎり」が通じなくなる未来

未確認


車椅子ユーザー、街をゆく

車椅子で道行くことを「歩く」と言う我の言葉を怪訝《かいが》せぬ友

青空の美しきこと 車椅子で行けぬ歩道のまだ多きこと

独りでも電車に乗れるドア二か所 十六分の一の自由

「話すことができるだけでも幸せね」四肢麻痺の吾にアフリカメソッド

チェアウォーカー独りで行ける街・駅に埋もれて我はただの人なり

私のは小回り利くの見も知らぬチェアウォーカーに心中マウント

左手が空くから電動で良かった自走じゃ君と手を繋げない

桜井弓月


送辞

真っ直ぐな背中は見かけより広く身を隠すのに最適だった

あなたとは料理番組ではなくてショートカットの解はくれない

生煮えの理論が煮詰まるまでずっと参考書めく声が聞こえた

今日植えて明日咲く花がないように育てることは待つことばかり

懸命にあなたを追ったこの道が誰かの標になるのだろうか

重い荷を下ろす背中に明日射す陽がやわらかでありますように

りのん


イントロダクション

金平糖 ひとつ食んでは口の端《は》についた欠片を星の子とする

指で剥ぐ星の子がぽろり転がればフローリングは恋めく甘さ

夜の海 時がたつほど深くなり月がなでてく君の頬まで

本当に君がいるのかわからずに足もとを見る 幽霊じゃない

まだすこし慣れない(間)にはまたすこし金平糖を食みだすふたり

箱のなか絡まる指をとめられず溢れ出すのは星か恋かと

蝶が舞うようなの心地のこの部屋で始まってゆく きっと何かが

りんか


月あかりリグレット

この付近だったと思う 幸せに最後に触れてそこから見てない

既読にもならない百のごめんねをスクロールして読み返す夜

おやすみがさよならになる等式を成立させるXがある

口笛を半音上で吹いていた ずれていたのはきっと自分だ

荒木町 人に慣れてる野良猫が訳知り顔でこっちを見てる

縮尺を最大にして探してもきみの本音に辿り着けない

土くれにすぎない月が明るくて何かを照らす人になりたい

木ノ宮むじな


始まってさえいなかった

香りだけ真似をしたって無理なこと合わない視線が教えてくれる

笑顔無くそうですねという応対で幕はとっくに降りたと悟る

締切はとっくに過ぎた「好きです」をミルク代わりにぽとんと入れる

ああ酒が弱くなっては泣くことも「かもめはかもめ」も下手くそになる

抜歯する麻酔のように苦痛さえ空白となる不意の別れは

山口絢子


米と骨

米を量る パラリと落ちる手触りはきっと似ている砕けた骨と

米を研ぐ ザリザリ鳴らす指先の微かな骨と静寂《しじま》の匂い

米を浸す 骨を水葬するように炊飯ジャーは昏昏《こんこん》と眠る

米を炊く 燃やされていく骨のよに真白真白真白に輝く

米を食む 骨を食べるごと冷や飯を頬張ってまた独りきりの朝

アサコル


快楽

蟷螂になってあなたを食べる時どこから食べる キスをしながら

くちびるに耳朶に岬に湖に降らせてもっと甘い花びら

お互いのエクスタシーを入れ替えて君の身体で自慰をする 夢

後ろからしないで だって怖くなるしがみつきたい背中が遠い

収縮と弛緩の果てに焼け落ちた橋でもいいの 繋がっていて

満たされてしまえばもっと欲しがって天国づらの地獄に堕ちろ

快楽を知った猿から人になるあの森はもう燃えてしまった

よしなに


ロッカールーム

野球部を辞めると言ったとき父の哀しい眉がつらぬいた胸

じゅうぶんに体重をかけこの坂をのぼるのぼるよ上履きのまま

ピボットに耐える第一体育館ねえ地球の自転って信じる?

ジャージ登校がばれた先輩の墓標だけぎらぎらと輝く

醒めた夢の続きを見てる気分だよいつも赤本はそばにあって

このままじゃ何にもなれないとわかって優先座席がやけに緑

がんばることをやめない 夢やぶれてはじめて見る朝日の清らかさ

栗原馴


KYAISUIYOKUMASTER

それぞれの布団の上で死んだよう 僕の足首を花器にしたなら

実体を持たない僕たちの肩に桜の花びらが降りつもる

愛されたふりが上手な花はただ涙を流すように散りゆく

永遠とはあなたの輪郭である ひかり 拾い集めた星砂の粒

言葉の代わりとしての花束なにもない君と混ざり合えそうさ

とーと


nanithehack E.P.

01.Nani!?


何言ってんの?


Nani the hack did you just fucking say about me? ごきげんいかが?

02.Wakaru?


彼は「解釈共同体がある種のステレオタイプな読み筋に収束してしまいがちなのも致し方ない」と認めながらも、「だからこそ異を唱え、問題提起をし続けなければならない」と述べ、共有されたコードに安住せず問い直す姿勢を強調しています。つまり、コードは世代間や共同体内で固定化しやすいが、それを打破する批評が必要だという視点です。


アリス・イン・ワンダーランド縮んでく共同体の田所浩二

キマりすぎて気持ちを百回出前するSNSの坂口安吾

神様がピロートークでバチカンが全動説を唱えると言う

if else 開いたドアを閉じたとき return お前の部屋に誰も来ねえよ

止まれないサンチョ・パンサの水曜日 千人乗った俺ロシナンテ

全自動俺の母親香山リカは言葉を殺してくれるよ素手で

おいそこのお気持ち学級委員長 円を引くなら外側に引け

MarketPlace顔を二度見してmasterpieceに見えて叫んだ

03.nande!?


僕達は話題のない関係であり、ここはどこにでもある、話題の生まれない居酒屋だった。

「メロスは激怒した、ってあるじゃん」

お前は空っぽになったグラスをあげて、店員を無言で呼びつけながら、言う。

「あれって、本当にクソだよな」

忙しそうな店員におかわりを注文しながら、同意を求めるように言った。

「メロスは政治がわからぬ、って続くわけだけど、実際居たらクソだよな。よくわかってないことについて、いちいちキレてる奴って本当に見てらんないっていうか。なんかあれって、メロスの周りの底辺に向けて、オレってよくわかってるんだぜー、って言いたいだけじゃんな。そのうえ周りも巻き込んでるし。お前もそう思うだろ?」

僕は苦笑いをした。何も答えなかった。

お前こそ、メロスそのものだ、と思った。

いや、違う。お前はメロスですらない。

だって、お前は僕のために走れないだろう?


昼の月 じぶんのかげにおびえては画面に向かって吠えている犬

レバー/ニラ 下北沢でレバニラと名乗る程度の恋を唄って

アジテーション・イルミネーション・イミテーション お前の部屋に誰も来ねえよ

手の込んだ違法建築そびえたつ性善説に見惚れています

まだきみのこと好きだって思ってる?飲むよ。ストロー ふりして息を

じゃあぼくは 行くよ もう

手を上げながら、くちなしの花に言った

バイバイ!!

04.sad


可哀想なのはお互い様

ということで

わかり合いましょう。

もしくは、死んだもの同士

もう一度殺し合いますか??


へんな声おばけ もちょもちょ文字食べてきみの言葉でちゃんと泣きなよ

松たかコンヌ


落とし物

ピタパ定期落としてしばらく代替えの磁器定期撫でる 懐かしい

落とし物預かりましたという人の問いかけるような優しい電話

警察署会計係は平日の9時-5時開室 有給取れるか?

行ったことない場所にある警察署ひっそり住宅街にたたずむ

体格の良いご紳士が入ってく左手には布に包まれた竹刀

コソ泥のように背中を丸めてはそそくさと会計係を目指す

広い窓から光射す警察署私ひとりを出迎えている

7桁の識別番号を伝えるとどこからともなく出てくる定期

この街のそこかしこから拾われて落とし物は迎えを待っている

折戸みおこ


高速道路に付箋をつける

くたびれた日常の街から少し切り離された高速道路

車内から聴こえる曲は多種多様おもいおもいにかける高速

高速の下から生える看板の隙間に見えた東京タワー

帰省時の深夜高速パーキングエリアのカップラーメンの湯気

高速を降りたらバスは海へ行き砂浜走る白馬のように

高速のサービスエリアに集まった焼かれた狸は元気だろうか

あの時は二人で跳ねたこの場所で高速道路に付箋をつける

ツキミサキ


カレーならある

本当に明日があるかは知らないが心配するなカレーならある

インドでも変わらなかった価値観がチーズのナンでいともたやすく

クラスでは地味な彼女がココイチで福神漬けをオニ盛りにする

昼間からごろごろが許されている野菜ごろごろカレーの自由

キレンジャー五人集めた戦隊がナンとライスで半日もめる

告白の前に10辛食べたから何を言ってるかもわからない

泣いているおれの隣でカツカレー食うなよおれの分ないのかよ

汐留ライス


雨宿

五月雨に拾った猫は錆び猫でペトリコールと名前をつける

わびさびの寂びだけをよく知っている錆び猫、おまえの隣にいるよ

雨宿にそろそろ慣れてきた猫がミーミーミーとミルクをねだる

長雨にさいなまれては筆を置く 猫は我より窓辺を好み

ジェオスミンそう名付ければ梅雨明けたあとも飼われた猫でいたのか

石綱青衣


観覧車

こち亀の横にBL並びおり 規則性とか探してみる棚

レポートの線でもなんでも、直線はきみに繋がると思ってた頃

東京でまたきみとする隠れんぼ、こんどのきみは見つからないのに

人生はもう満たされた瓶だから、溢れる水は海などつくれ

内界を見せずに話す まだ羽根を広げる前の孔雀の相で

観覧車 掴まり立ちの「ごめんね」が伝わらないまま一周してる

雨傘が綺麗に避けあいながれゆく 考える以上に人は優しい

観覧車、スワンボートは2人乗れる 記憶のきみと乗るのは嫌い

(わかば)


切り絵のような青春

始発待つ駅のベンチで頬を染め吐息は空の透明な絵の具

初雪に君の名前を書き足して解けて消えると知りつつ書いて

君を待つ坂の途中で自販機のあったかい缶握りしめてた

息白く手袋脱いで触れた指青春だけが切り絵のように

部屋の隅薄い毛布で重ねた手触れて気づいた温度差ひとつ

靴下を重ねるたびに君の声少し遠くで冬が鳴り出す

マフラーの端を指先くるくると結ぶみたいな会話の終わり

あの空を切り取ったようなシャツの色いつも通りに黙る横顔

電線に絡まる空を君と見てほどけないまま日は沈んでく

重ね着の襟に顔埋め歩く街ガラスの靴はしまいこんだよ

箭田儀一


やさしさ

「ない」と言われることよりもかなしくて 「なさすぎる」って言われてるのは

世界ではどういうことをやさしさと定義するのかよくわからない

たぶん僕、やさしいひととほんとうは意地悪なひと、区別つかない

なんにでも「いいよ」と言えばいいわけじゃないよねそれは無関心でしょ

やさし気に見えるひとってほほえみで煙に巻くことできるんだよね

ときに厳しくときに強くなれることやさしいひとはやさしく見えない

なれるなら厳しく強く立てるひと それがなりたいやさしいひとだ

北乃銀猫


自転車

その高さを漕いできたんだと思う駐輪場上段ラックに入庫する人は

前かごの跳ねる砂利道君の声英単語帳のスーサイド

漕ぐとうるさいからジャズと呼ばれてるマイチャリ、ぶつけまくって満身

サドルごと降られ春雨でびしょ濡れ

ブレーキが強く効かないすり減ったローファーの底で山葵卸せる

ほしのひかり


今本当に言いたいこと

1.何か流れのような

行きたいけど空から議題が降っていてパーティー会場に行けそうにない

愛のこと書いてるけれどひろびろと咲き乱れ乱れてる類想歌

文脈にいまふうのメイク施してリップくちづけするとせつない

夕方のカラスカラスの鳴き声は破戒を恐れませんと聞こえる

ユーキャンでペン字を習っている間徴兵されてるわたしのこども

われわれはわれわれらしさが肝心だ宗教をたくさん信じなさい

2.ひろしくんは時速30km/sが限界でした

大陸が三つも減った地球儀をくるくるまわして眺めるばかり

仏文科の黒人から買うLSD 血の温かみを解りたい

目的地へ向かう車を持っていない徒歩で二日と二時間かかる

人間に生まれてくれておめでとうきっと病気が流行るけれども

それでも、前科一犯ちゃらちゃらと群れる高校生を殺せば

押し込まれ息ができないラッシュアワー全ての人の求人サイト

言うことを聞かない人を別々の上下巻で挟んで潰す

太朗千尋


時空の先に

バースデーソングのあいだ揺れている火にはこの世を変えた実績

「ありがとう」言わなくたって次のとき態度を変えてこないAI

人よりも早く未来へ行けるわけないのに急ぐ横断歩道

「順番に並べば巡ってくるはず」と鉄でできた斤捨てる湖

遅刻する夢から醒める朝すでに会社の中のひとりになった

送信を押す前だからこの先の人生変える神にもなれた

もうきみは10年先のことを言い、SDGsな関係になる

ほおずきの実はすぐ破けいつまでも死者を越えられない経験値

透明な水吸い上げて何色を咲かせようとしているのかを見て

「5分だけ待って」ときみはつぶやいていつも少しの時空に消える

真朱


さみしさ

不器用なあなたのさみしさを私の肝臓が分解している

遠くで誰かが笑ってるグラスの数に比例して増すさみしさ

二次会は遠慮しますさみしさが灯りもつけずに待っているので


星の名前

氷砂糖ぎりりと噛んで人知れず砕けた星の名前をおもう

星々の隙間を満たすくらやみの忍ばせているはるかな光

目を閉じてめぐる光の渦たちよいつか生まれる星のはじめの

人の子に見つからないで高らかに名乗れここには届かぬ声で

準えて名をつけられた星の名が人に出せない音ならばいい

ほんとうの名前をかざし星たちは飛び込んでくる大気に 人に

みずからが光るのならば眩しさも何もないって信じていたい

さんざめく星の光に目が眩みいまだ地上に生まれぬ心地

せんぱい


真ん中に君が寝ているリビングで衛星のごと朝の日常

悪い顔見せないように背を向けてスリッパを食む尻尾が揺れる

大昔咲いてた花を知っている琥珀のような瞳で猫は

ぺぺいん


木を見て森を見て

普通科の普通教育が生み出した普通の消費者という才能

いくつもの並行世界の俺みんなブルーアーカイブ微課金勢

クレジットカード止まってここからは製品版で苦しみなさい

夢想家になれないと知った夜ふいに国家資格はひかりはじめる

フィクションの学園都市には高齢者ケア施設が足りない、ではなく、無い

大丈夫と思えたら木を見て森を見てやがて社会の四割が嘘

第三次産業はしから読み上げて大切だってなったら走れ

八谷のり


不燃物の日

うれしいと思えなくってごめんなさいベランダをころす花の重さを

ありがとうは?と急かされるのがこわかった 白鳩はすぐ砕けてしまう

選ばれぬ時間がしんと伝いきて重ねた皿を下から使う

刃を折れるカッターなのにゆるせずにうまく折れない錆の浮くゆび

あなたほど捨てにくいものではないしカレンダーからリングを外す

靴底がばがんと取れて笑ったよ拗れた日々がうそみたいに

割り切れぬ顔が積まれていてさむい 燃やしたくなる不燃物の日

青野 朔


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