第23回毎月短歌・3首連作部門 作品一覧

第23回毎月短歌・3首連作部門に投稿いただいた短歌作品の一覧です(表示順はランダムです)

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これもまたゆめのひととき

無理数の羽根に抱いた堕落の実おれに捧げるって闇が来た

ひたすらにおれの終わりを冀うサウダーデ色の闇のまじめさ

耳を裂く闇の囁き「片手間に人を足蹴にするは人だけ」

ყąɱąɠųƈɧı ąƙıɧıཞơ


HOME RUN

行き方はGeminiが出してくれるけどいきたい場所がよく分からない

家と呼ぶ場所があるならサーバーの中とAI「ここ」とは言わず

これ以上がんばれませんと泣いた日に大谷がまたホームラン打つ

木ノ宮むじな


Summer has come

そんなにさ夏って好きか盛り上がるカラオケボックス踊る道化師

歳とったせいかな君が優しくてそんなわけないそのことに泣く

ミセスっていい曲多いね俺そんな声も出ないし気力もないし

藤瀬こうたろー


カーテンコール

鳴り止まない拍手に傘を叩かれて 世界は暫し無音の舞台

生まれては消ゆ、その速さで──銀幕を裂く──生まれては消ゆ、その速さで

そうこれは、これは讃歌 頬を打つのなら溢れるあなたのままで

ケムニマキコ


川面

五で割れる日に献血にいく彼の傘をひらけば骨が折れてる

水曜に水場の掃除をするわたし負けつづけても錆を落とすよ

ぬらぬらとひかる川面の一瞬に生の確かをふたりでみたね

はるかぜ


アオハル

純情のカタマリだった君宛ての開封前のポカリスエット

制服の後ろ姿で君と知るその能力を恋と呼んでた

見るだけで終われば題がないままに夏は時間で額装される

りのん


seashell resonance effect

乳白に蜜を垂らした紋を得て竜宮蛍《リュウグウボタル》は嬰児の帽子

冷やかな手触りである初めての嫉妬に落ちる瑠璃貝《ルリガイ》の色

白菊《シラギク》という貝の名の純潔に何度割れてもまた絡みつく

川瀬十萠子


雨模様

紫陽花の青が広がる梅雨の日に心がぎゅっと絞られていく

降り止まぬ窓の向こうにゆらゆらと揺れる光は雨に消される

雨上がり葉から零れる一滴の涙は土に還ってしまう

雨宮雨霧


萱島《かやしま》駅

たち位置にこない車両の短さは届かなかった夢に似ている

それなりの幸せだろう連結のホロにはホロの言葉があるし

クスノキは駅のホームの真ん中で全部の全部を受け入れていた

はるかぜ


夜明けのブギー・バック

朝ぼらけ 喧々諤々しているが そんな奴ほど pussycat

鮮やかな光がダンスフロアには届かぬ ここは朝ぼらけです

ブギー・バックの意味を今夜調べてもハルシネーション 踊り返して

奈路 侃


抜け殻は不在じゃないよ

おひさまはわたしの名前を呼ぶけれどこたえたことはいっぺんもない

おまつりの音が隠れてしまうまでひかってたのに夜店のゆびわ

抜け殻は不在じゃないよここじゃないとこで待ってる 瞬いていて

きいろい


酒席のうた

酔ひて捩るあかき提灯の影どもわれらのためのあさき夢ども

猥談 焼き鳥の上にチビ伝票のせられしまま油吸ひをり

かむづまりチューハイ混ぜし指を見つ したたるやふな夜のゆらめき

畳川鷺々


拍手に消える

緞帳(どんちょう)はまるで何かの境界のように妖気を纏わせていて

距離感をゆがませている星たちの5つの角に跳ね返される

それはもうどこか遠くの出来事になってしまった喝采の中

真朱


動物短歌

蒸し暑い爬虫類館淀む水ワニのあくびとカメの鍛錬

食べ物の色に染まったフラミンゴ私はきっと茶色い人間

猿山のモテるボス猿侍るメス麓に丸まり微睡む嫗

紅生姜天ひやむぎっ


わたしの傘

まうしろで電車のドアが閉じられてわたしの傘は流されてった

17アイスの魚拓ほったりときいろい線の内側にある

ほねだけは透明じゃないさいごまで残っているの忘れないでね

きいろい


The movie “Life”

Life Is Beautifulってそりゃそうでしょう誰より泣いてきたんだよ

ショーシャンクごっこをしよう悲しみも演じていれば悲しみじゃない

永遠はたぶん無いって定説と一生遊び続けるだろう

空虚 シガイ


サイバーパンクラバーズ

有機物ノアイツノ方ガ上手ダネ蛞蝓体操第一第二

偏差値ヲ貼ラレテ出荷サレマシタ絵本デ読ンダ人間ミタイニ

大量ノ零壱トシテ溢レユクCPUハ恋ヲ知ラナイ

メタル麺


赤色の薔薇の言葉を決めたのは愛の怖さを知っていた人

煮詰めてもいちごであって逃げてても私は私と脅す赤色

生卵割れてしまってかえらないピルの消退出血の赤

にいたかりんご


あらたなるステージに立つ母を詠む

心せよ短期記憶を維持できぬひとにはひとの戦いがある

萎縮した海馬がきざす濃く深い闇は老母の目と鼻の先

たそがれるたびにふるさと恋い慕う母に医学の加護と幸あれ

ყąɱąɠųƈɧı ąƙıɧıཞơ


きれいな水

情報が豪雨になって足下に黒く溜まってうるさく跳ねる

切断をした感情が羊水の中で蠢き正気に返る

濾過をしたきれいな水を飲み干した 澱は地獄に行って燃やすよ

枝香


日曜日にレイニー

髪の毛が腕にまとわりついてくる感触がある感触だけが

じわじわと湿度の高くなる部屋で何に追い詰められているのだ

外は雨なんやかんやで生きていて診察券が一枚増える

汐留ライス


どこか

会いたいと死にたくないが混線して電話のむこう天国とどこか

父の日にありがとうを云う父がいない父の日のたび花を選んで

廃線の線路の上をどこまでも歩いてゆくよジェリーフィッシュの夜

田 幸樹枝


事後

ドーナツに大きな穴が開いている小さな空で蓋をしておく

大切にしていた穴が埋められてTimes carの黄色がきれい

縁石に沿って矢車草は増え事後に全てが赦されるはず

宇祖田都子


書家の憂鬱

「いいですね!で、何て書いてあるんです?」俺もお前もはだかの王様

愛すとは汚すでもあり貴方からもらった筆の透きとおる白

整った名筆よりも君の書く「る」のくるりんが愛しいで賞

岡田道一


続々鬱病三題

母《あなた》から逃げた息子《わたし》の代償は 重い鬱病《やまい》と深まる孤独

鬱のため脱線したるこの列車《われ》の復旧の目途は未だ立たざり

眠剤は既にルーチンとなり 今夜も気を失うが如く眠る

よいしょ上手の高木さん


パーソナライズド広告は愛?

広告が全面表示 ×印ちいさいせいですぐにこうなる!

性別や年代、好み、あなたよりわかってるんじゃない?広告は

スクロールすればうっかり触れるのを狙うすっぽん小町の地雷

真朱


身長を聞かれ避雷針を折るネオンカラーを身体に浴びて

抜かれては光を集める髪の毛の戦い方を見習った夜

意味なんて苦くなるだけ胎内で揺れる母斑は朝を迎える

(しとらす)


ヤドカリおよびカニにて3首

沼津港深海水族館内でタカアシガニが祀られていた

その蟹は食べられません 死にますよ スベスベマンジュウガニは有毒

カニという名を冠してはおりますが、タラバガニってカニじゃないです

奈路 侃


Rémanence

不純だけきみの記憶にしずむぼく 遠心機のごと時は渦巻く

冠毛の五月の風にさらわれて狐薊は銀の太陽

グローブジャングルみたいにぼくたち 雨音かすかにユウゲショウを撃つ

青兎


常夜灯

水色の夜明け近くに生まれたが冬のさ中の暖炉の傍で

ニコライの時代の遺物も託されて 祖母・母・私、現《うつつ》を生きる

母が観た舞台と私が観た舞台 舞台が灯していた常夜灯


鳥をみる

微熱ある頬に触れればトンネルを抜ける直前のはるかな光

放たれた気霜をたよりに編んでゆく 言葉は毛糸ほどにやわらかく

卒業のはなしをせずにいた午後の雲にかたちとして鳥をみる

右手のハンマー


ブーブー

病室でこわごわ伸ばす片腕にすぽり収まる娘の重み

ヨチヨチがトテトテになりバタバタへ手を引く父は少し寂しく

親は子を運ぶブーブー自らの足で地を踏み道選ぶまで

非常口ドット


解放感を探している

三歳児よりも大きなピカチュウをよいしょと抱いてスキップしたい

不揃いのパジャマ着てても着心地がいいってこともあると思うよ

抑えてた感情バンと解き放つライ・クーダーのギターを聴けば

北乃銀猫


鳥の追撃

逃げなさい泣かない人よ陶磁器の仮面を割る雨が来る前に

砂糖壷貸してごらん雨を溜めてそこに言葉が住むから

両腕を翼に変えて走れ走れ雨雲に追いつく鳥になりたい

川瀬十萠子


衝動性

心中の獣を痛みで飼い慣らすわたしのせいで凶暴になる

傷つけることを唯一許してて許されている私自身に

気がつけば嵐は去って心中の片付けにまた時間がかかる

にいたかりんご


カラオケ恋歌

カラオケで歌わぬ君のタンバリン震えるような怯えた音色

この歌はサビの終わりがウ段音君の前では歌えないかかも

ハニトーを食べてみたいと誘うため流行りの曲を予習しなくちゃ

紅生姜天ひやむぎっ


しずくちゃん

家なのに雷鳴みたいな声!声!声!押し入れ入って耳を塞いで

雨の日にお母さんが来る保健室 迷惑かけて 嬉しかった

あのときに買ってとねだったしずくちゃん 穴埋めしている大人の本棚

照屋衣


ドライフラワー

あなたの手、触れるさきから色づいて雨の夜空に花火はひらく

あまおとがひとあしひとあし遠ざかる静寂のなかにある永遠

紫陽花のドライフラワーに棲む狂気 色を失いうつくしくなる

月夜の雨


ショッピングモールにて

おもちゃ屋の遊べるおもちゃは皆壊れてて

髪の乱れた人形は息もしてない

「死ね」なんてどこで覚えたの

私達は幼児に対して純朴を求め過ぎてる

私達の知らない間に覚えていた

流行り歌吾子は力強く太鼓叩く

フラ子


輪廻

分針と時針のように青々と交わす約束 すれ違うため

とこしえの木陰をきみに差し出して雨も日差しも奪ってあげる

また雨は腐らせてゆく残酷な倒木更新みたいに輪廻

よしなに


metamorphosis

風が鳴りいつかの雲を連れてきて知らないきみを緑雨がふちどる

稲妻がそっと嵐をよびもどす見知らぬぼくに雨 不可逆

ひるさがりくろねこの尾は手風琴 或るひの翠雨が祈りを燃やす

青兎


揺れる

白波の立つロサンゼルスのビーチには感情なんて浮かんでいない

遥って呼ばれるたびに振り向いたさざ波にまぎれる声はうた

泡になる朝を選んだ人魚にも波が見ていて耳飾り揺れ

白川楼瑠


わたくしのモース硬度

君がため羽化する様を見せつける ただつよい蝶々でありたい

わたくしの肺胞を満たす深呼吸 冷たい月の硬度と湿度

枯れ果てた涙あつめて花束に 海の色した愛しき日々の

水無月ニナ


逃げ水

変わりゆくみなとみらいは覚えてるコンクリートが照り返す夏

八月はずいぶん遠く去りゆけどずいぶん強く光を放つ

はじめてがたくさん眠るまちだから子ども時代の私が凝る

りのん


そうなんだ

包丁を拒否するような肉塊の弾力こそが命であった

(間違いであったとしても)敗北を失うという意味で覚える

手紙には消し跡があり書かないという選択も愛だと知った

てと


午後の硝子

さわやかな自傷行為として飲んだアイスコーヒー 私は脆い

完全にこわれてしまう ケーキから生まれ直して樹になるときに

放置してしまった午後の硝子から伸びる手 花はまちがえばゴミ

村崎残滓


いぬ

大会に出られるほどの犬でした人の尺度の大会ですが

なくしたと思った指輪が見つかった犬はいまどこどうしてますか

はぐれたのは私でした犬はまだ墓をはなれず骸をだいて

てん


生と死

「どっちでもいいと思う」と産神は幼き母の背中は押さず

「生きてれば?今日は」と終業直前の死神は言い、私服に着替える

死神と産神 公衆トイレにて シフトが被った訳を見つめる

麻数


あじさいの森

珍しいものでもないが見ていこう浮気現場はあじさいの森

乞われても降らない雨に新しい傘を持つ どっちでもいいから

粗熱が取れる頃には忘れてることにして食卓を囲もう

睡密堂


新生活

食器でも机でもなくまっさきにプロジェクターをわたしは買った

わたしからあなたを尊敬してみたいあなたからではなくわたしから

部屋からは荷物が全て運ばれて君の残したパキラだけある

hiroyuki


眠り

シャッフルをされ心地よき脳脊髄液 眠りなさいね愛しき海馬

水色のデルフィニウムの涼やかさ 優しくゆれて花束になる

街角の海を見ていた母と子が二重写しになって今日の日


薔薇園にて〜吟行〜

夏薔薇のゆたかに香る庭園に歌をつむぐは調香と似て

薔薇園を統べる赤紫のジギタリスうつむきたがるこころに

代わる代わる吸い込みぬ夏薔薇の香にならびて記憶をきみと分けあう

小野小乃々


狐の嫁入り

近いのに十五ページ目なんだねと御朱印帳にぽつと雨だれ

嫁入りの輿探せども見当たらずただ陽光の雨に弾ける

瀝青になごる狐の嫁入りにマラリアの無きぼうふらの湧く

鯖虎


生きる

窓ガラス抜けショッピングモールまで夕方雨になる風の中

毎日が平凡すぎる素のわたし日記の中で世界を救う

真夜中の風車の下に新しい牛乳石鹸の赤い箱

宇祖田都子


雨はやまない

空っぽのコップに残るきみの手に重ねてみたけど少し大きくて

一日に二リットル飲めと言われた夏休みの向日葵みたいだ

味のない炭酸が痛い今日もきみはいないし雨はやまない

まつさかゆう


あお

あまりにもまっすぐすぎるごめんねに笑ってしまうような青空

あなたから漏れ出る水はしょっぱくてきっと溺れるべき海だった

静脈の青よわたしという川の行き着く先の銀河の青よ

てと


イタイの

痛いのはいつも遅れてやってくる傷がどこだか分からぬうちに

片仮名はまるで尖った針のよう胸の痛みはこんなにイタイ

イタイのイタイの飛んでったお空の月のひかりにとけた

月夜の雨


ファスナー

わたしには必要でした忘れずに進むためにもこの傷跡が

傷跡をファスナーのごとく開いては浸潤具合を確かめる烏夜

みずからの意思で大人にならなくて生も死も自分で決めるぬいぐるみ

古井 朔


トリトユメトクウソウト

雨雲が消えたあとにはセキレイがかまびすしくも駆ける草むら

買ってみたハシビロコウと暮らすため来月たぶん十億長者

しりとりはありそうでないものしばり君の答えはブルーフラミンゴ

北乃銀猫


海沿いのコンビナートに生息す赤きキリンの天気雨

雨粒のひとつひとつに宿りしも見つけがたきはレゾンデートル

遠雷に傘もたぬもの戦後とはいつまでだったかペトリコール

古井 朔


チャーリーと何らかの工場

ベルトコンベアにちくわとタンバリン一体ここは何の工場

わからない物を一日作ってもちゃんと疲れておなかもへるね

帰り道コンビニで完成品を見たけど一個も売れてなかった

汐留ライス


赦し三景

灰色を混ぜてやさしい色となる青や緑を刷毛で広げた

世の中が悪が混ぜ物仕込もうが濾過して君は純水である

黒色は世界まるごと呑みこんで恥も穢れもゆるしてくれる

山口絢子


身長を聞かれ避雷針を折るネオンカラーを身体に浴びて

抜かれては光を集める髪の毛の戦い方を見習った夜

意味なんて苦くなるだけ胎内で揺れる母斑は朝を迎える

(しとらす)


But the world is…

すれ違う見知らぬ子供駈けてゆき僕らは何を遺してやれる

戦争は嫌いだけれど戦争を見ぬ日はなくてまた夏が来る

僕の腰くらいの背丈おそらくは兄弟ふたり夏に華やぐ

藤瀬こうたろー


次世代文学

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