第23回毎月短歌・5月の自選部門 作品一覧

第23回毎月短歌・5月の自選部門に投稿いただいた短歌作品の一覧です(表示順はランダムです)

[選評結果一覧など「毎月短歌コミュニティ」でいちはやくまとめられています。参加はこちらから]


ずぶ濡れで歩いていくよこの傘は一人で差すには大きいからね(春永睦月

「しあわせになることこそが復讐だ」などと言うけどなどと言うから(月夜の雨

ほんものがない火星では密造の海がひそかに出回るという(村田真央

紀伊國屋書店2階で待ち合わせ歩速ゆるめて文庫の森へ(青色紺色

青空にニセアカシアが揺れているお前の明日はそこにあるよと(春永睦月

眠れない夜に一匹どうですか温もりだけの透明な猫(白鳥

傘立てにふたつ寄せれば応へざることばを互ひにそつとしまへり(箭田儀一

ふるさとの訛りで笑ふ介護士が月の出までは隣にをりぬ(箭田儀一

ほしあかりを摘みつつ歌う ひあぶりにふさわしい呼吸にはまだ足りない(えふぇ

断りもなく触れていたぬくもりもきっと手放す、呼吸のように(月影晃

ひと通り戯れたあと差し出した餌付けみたいな酒と鯖缶(さに。

フリスクをしゃかしゃかくれる先輩はそれで組織をよくしたつもり(村崎残滓

ふうわりと見つめてひらく芍薬よ 抱擁 それはどうしても恋(サ行

法的にアウトな男ほど爪を綺麗に整えていたりする(琴里梨央

雨の日の車の音は少しだけ波打ち際を含む気がする(辰野音子

真っ白なキャンバスに色重ねては黒に近付く心の深く(雨宮雨霧

気が付けば景色は緑に変わってて僕らは一体何色だろう(藤瀬こうたろー

見送った地下鉄の風ああ私ふられたなりの髪をしている(北野白熊

孵化を待つたまごを選び「さびしい」を大事に胸に温めている(萎竹

眠れない夜に羊も寝静まり未遂で終わったキスを数えた(宇井モナミ

巻き込まぬために優しく突き放すように傘をさす君がキライ(空虚 シガイ

浴槽で目覚めた日から「つめたい」と「あたたかい」の違いがわからない(村崎残滓

ショーマストゴーオン ふいに焼け落ちる劇場いつか花野になれば(畳川鷺々

あなたという未開封のやわらかさ 壊れたいとき壊れていいよ(

つかれたね、ワニワニパニック0点でたてつづけにワニなでつづけるの(しみず

吾が手から石鹸までも逃げてゆき鏡に映る顔がカエサル(岡田道一

蒸し暑い爬虫類館淀む水ワニのあくびとカメの鍛錬(紅生姜天ひやむぎっ

羊水の柔さは羊 僕たちはだから羊を数えて眠る(Umi.

遠浅の眠りの果てで聞いていた飛び立ってゆく羽音 あなたの(よしなに

食べ終えてごちそうさまもハモるのにおなじ家には帰らないひと(きいろい

もうそろそろ眠らなくては明日《あす》つらい思った頃に陽が昇りだす(北乃銀猫

あっ月を お持ち帰りでストローはいいです挿しておいてください(きいろい

はじめから傘を持ってる人たちの聞く雨音の美しき韻律(月夜の雨

線香を私の父へ焚く君と毎日ここで家族になりゆく(ひのき あさみ

母さんはわたくしなどをわたくしは納豆うどんなどを産みます(仁科篠

世間体の呪いが解ける木漏れ日で陽に溶けていく無職のわたし(乃木ひかり

お互いに口内炎をみせあって祝日のない月の伴走(はるかぜ

音もなくプリンの蓋の裏にいる微々たるプリン かつてない雪(右手のハンマー

一人きり餅つくウサギを仰ぎ行く月面のつもりコンビニへ一人(たな

傘を持たずに受けている五月雨を誰かの涙と思えば僕も、(佐竹紫円

正しさが正義ではないラムレーズン噛めば遠くに光射す丘(えふぇ

この世には愛ばかりあるはずなんだそっと差し出す右手はひかり(ツキミサキ

青春の単位はページ喜びの単位は粒か滴だと思う(白鳥

ぽちゃんとかちゃぷちゃぷだとか少数になったときだけかわい子ぶる水(竜泉寺成田

ひとつずつ胸の釦をはずすから見ててこんなに紫陽花たわわ(よしなに

透明な子らの血潮を巡らせて母の日のカーネーション綺麗(10

デパートのEarly Summer Collection私の恋も並べてほしい(空虚 シガイ

来世にも僕の居場所はありますか君の隣で生きられますか(雨宮雨霧

◯にたいとLINE送るも既読のみこれが優しさなんだと思う(ホワイトアスパラ

天井のライトを見てる揺れている温水プールの底のしずけさ(せんぱい

低音がメロディをとる楽しさを表す単位をつくってほしい(Rhythm

今夜またあなたがミントの丘を来るいちばん涼しいひつじのかおで(夏谷くらら

ジャズ聴いて珈琲啜る昼下がり煙草の白煙すーっと伸びる(篠崎蓮

いつか死ぬこと棚に上げてる僕たちは線香花火を儚がる(Umi.

わたしだけのからだであったことはなく、ずっとまぶしいじゃあじいぎゅうにゅう(ケムニマキコ

「未来」って君が言うたび一斤の食パン思い浮かべてしまう(宇祖田都子

エジプトの阪神ファンは優勝が決まるとナイル川に飛びこむ(汐留ライス

初恋のひとは既に逝きたるを知る 同窓会は色を失った(よいしょ上手の高木さん

長いことここに住んではいるけれど暮らしていないそんな気がする(北乃銀猫

姓名がただの記号になっていく産婦人科の待合室は(てと

チョコレイト、グリコ、タンタン廃線のレールの枕木鳴らして歩く(春永睦月

にじゅうろくちょうさんぜんおくのせっけっきゅうたぎれど はくうのかなた(青兎

人生を巨大なパフェとするならば底に溜まったチョコはご褒美(ume

忘れ得ぬ人がいること 黒点に触れてそこだけいたんでいたい(納戸青

「パスワードが一致しません」指がまだ忘れていないきみのbirthday(真朱

若き日に恋い煩いし音楽家《かのひと》に贈りしLILIUM《しらゆり》の棘は抜けぬままに(よいしょ上手の高木さん

天秤は僕の愛側に傾いたきっとあなたも嘘をついてる(春雷)

私たぶん地球最後の日もエアコンつけると思う 気持ちよく死ぬ(萎竹

.jpgで抉った街の空白に今頼りない新芽が萌える(短歌パンダ

スタバ前はやく来すぎてそわそわし人魚の髪を三つ編みにする(サ行

生前に棺を選ぶ心地してわたしのための花瓶を選ぶ(よしなに

白い仔馬を引き取ってペガサスとユニコーンとに分けてく業者(てん

散る桜君の面影探しても音なき風はあの頃のまま(篠崎蓮

水温で性が決まるというワニの31、2度みたいに君は(木ノ宮むじな

双子座は並んで泣いた心臓に星がなくても互いが好きで(川瀬十萠子

知らなくていい痛みほど忘れ得ぬ不条理さえも知りたくなかった(白黎海

それぞれのゆるしのライン飛びまわるときのかたちで伏せられた本(せんぱい

見送りの形骸化したバードキス最近変わったアフターシェーブ(紅生姜天ひやむぎっ

傷跡をファスナーのごとく開いては浸潤具合を確かめる烏夜(古井 朔

喉枯らし入るコンビニ火星水だけしかなくて躊躇してみる(たな

どんぶりに金魚を放つ泳げればどこだっていい、あした辞めるよ(くらたか湖春

葉脈を透かして月を眺め見る若葉の形に月は削れり(つくだとしお

全身に抒情を纏う旅人と東京モード学園のビル(金井水月

晴れたので水たまりから並行世界の君に会いにいきます(四辻

サンダルが真っ直ぐ天を差したので明日こそ世界の終りでしょう(四辻

母の日にわたしに花を買ってみるカーネーションはほんとはきれい(月夜の雨

さびしいと祖母のこぼした言の葉をいつかわれらの養分にする(匂蕃茉莉

短歌が、日記のようになっていて死に目配せした令和3年(奈路 侃

眠れない夜にぽつんとひとりきり思い出すのはきみの体温(静麗

淼淼《びょうびょう》たる記憶の海に絶え間なく通り過ぎゆくイルカの大群(古井 朔

人生のゴールに共にいてください。※現地集合ぎりぎり可です。(村田真央

昨晩のキスに似ている香りだけいちごの紅茶を無糖で淹れる(りのん

氷食症三十一年目を迎え咳をするとき粉雪すこし(村崎残滓

限定のチャットルームに二人きりこの世の秘密語る朝まで(さに。

背徳だわかっているよいるけれど午前零時のフレンチクルーラー(つくだとしお

あたらしい家が建ちますぼくたちが埋めた金魚をかみさまにして(まる弥

おだやかにすこやかに暮らしておりますあなたの視野の外に出られて(ყąɱąɠųƈɧı ąƙıɧıཞơ

僕たちの知らないことが起こってる工事現場のフェンスの向こう(ツキミサキ

つり革をつかむ手首に星四つ、なまえをもたない星座、あなたの(久我山景色

情熱はまだありますか?きみの目の奥に眠った星の尾ひれに(真朱

はらわたを絞る嫗のしわぶきにコロナの「おれはまだいるぜ」を聞く(ყąɱąɠųƈɧı ąƙıɧıཞơ

新月の湖畔を揺らすまちあわせ オペラケーキに匙を沈めて(しみず

心臓を持たぬ雲丹にも母の血が流れるであろう親となる時(まほう野まほう

BDSのターゲットではないけれど、躊躇ってしまうスターバックス(奈路 侃

異国語が急に聞き取れたみたいに君のさみしさに打たれ五月雨(10

靴紐がほどけたことで救われた命の揺れを蝶は視ていた(畳川鷺々

人間のすべてに備えつけられた眠るという静かな停戦(水無月ニナ

焼きあげたホットケーキの真ん中で溶けるバターを見てるのが好き(hiroyuki

業平の辞世に凪の要素なしよっしゃ死ぬまでうろたえてヨシ!(ყąɱąɠųƈɧı ąƙıɧıཞơ

炊きたてのご飯をギュッと握ったら泣きながらでも食べられるから(桐谷やまと

漢字なら可愛いとはしゃぐ姪っ子が指で撫でてたトゲのない雲丹(まつさかゆう

超巨大迷子センター夜の街 誰かの迎えをみんな待ってる(にいたかりんご

うまれないように冷やしているたまごみんな抱えて生きていますね(綿鍋和智子

花束を用意だけするきみにもしあげるとしても消えるものがいい(竜泉寺成田

乳房を差し出す夜の深淵で母が私を産んだ意味を知る(ひのき あさみ

ほんとはねアタシは猫じゃなかったのみんなのためにフリをしてたの(北乃銀猫

こいびとに なりたそうにきみをみるから ▶はい にカーソル合わせてください(稗田 白湯.

バースデークーポンよりもあなたから何でもいいから一言ほしい(宮緖かよ

終電で睫毛に光を乗せているおまえらみんなさよならの子ども(メタのおわり

紫蘇の葉を刻んでいるが紫蘇の葉を刻みたいと思っている訳ではない(仁科篠

やさしいとやさしそうとは遠すぎて傘をなくした 十字路に雨(くらたか湖春

常備薬みたいに孤独を飲んでいるときどき毒でしかないね君は(10

〈短い愛〉のハンドサインを見せられる 〈それでもいい〉とゆっくり思う(

「本当に消去しますか?」意思のない質問にすら心は揺らぐ(北野白熊

貴公子のかなしさで仰ぐ青葉には義眼にも似たあかるさがある(納戸青

パンダって言われなければ気付かない大丈夫だよ一緒にいこう(きいろい

愛された夜も愛されない夜も等しく私を焼いた暁光(にいたかりんご

リフレッシュルームの壁には人工のこもれび、び、び、び、あらゆる嘘が(はるかぜ

臓物を取り出しそっとカルピスに浸してぼくのからだに戻す(てと

ゆくゆくは波に洗われ丸くなる割れた硝子も十四のきみも(睡密堂

簡単な野菜炒めなんてねえよ>私の本音発表ドラゴン(インアン

正しさに酒を呑ませてぐだぐだに一緒になろうよねえ立派だ(照屋衣

ビリの子が幾多の拍手に迎えられ三位のおれが仰ぐ青空(藤瀬こうたろー

あの歌の歌詞にならって君のこと君って呼ぶねくりかえし呼ぶね(短歌パンダ

ふと胸にぐさりと刺さる時がある部屋から漏れる笑い声とか(谷まのん

消火器の表面をよく読んだあとやって来たエレベーターに乗る(仁科篠

月面へ降り立つようにゆっくりとすごい値段の花瓶を運ぶ(汐留ライス

禁じ手で逃げるしかないとき、それを咎める正義を私は持たない(Rhythm

モノクロの学校にいて誰も来ない渡り廊下の赤い消火器(みぎひと

親よりも恋人よりも私よりもGoogleはきっと私に詳しい(ねずみ

私って鉛筆より鉛筆削りなのかもしれないとふと思うな(照屋衣

シャンプーは指のすきまをこぼれ落ち生活はすこし手に余ります(メタのおわり

複数の生命で生成されている それが私とあなたに伝える(

血液も十二星座も信じない心臓の音だけがほんとう(睡密堂

真っ白な紫陽花を見て何色に染まらなくてもいいと気づいた(桐谷やまと

六月を予感させない風になり懐中時計を巻き戻してみる(奈路 侃

母さんが見たUFOが本当にUFOだったという可能性(琴里梨央

不忍の池に月面雨音か白兎の蓮を愛でつ駆けるか(鯖虎

おごそかな狐薊の風媒にぼくの自白が混じってしまう  (青兎

あの夏に返せなかった文庫本 インクと埃に染みた香水(稗田 白湯.

恋だって思っていたの羽化をして伸ばした翅が色づくまでは(りのん

別皿にクロックムッシュとマダムとは盛られて互いは冷めた関係(宇井モナミ

のぞみって字面を部屋で夢想する 望とも書く希とも書く(hiroyuki

「ドーナツを食うんだ」そう言うことでしか愛を示せぬ哀しき獣(別木れすり

復讐は日柄が悪いし改めて後日こちらが伺い申す(じもぶん

口パクでゆっくり「ウニ」と言ってみてあなたのことを試したくなる(サ行

小さい≪ちさい≫ころ鉛筆≪えんぺつ≫めっちゃ舐めたんで今もなまりがぬけませんねん(とんだ一杯食わせ者

おなじほどやけどをあなたに負わせたいきもちでわたし百年生きた(綿鍋和智子

太陽を食んだ唇《くち》へと触れてから、ばらが燃えてる音 ︎︎こんなにも(久我山景色

来世では会わずにいましょう目を閉じて木香薔薇のアーチを抜ける(琴里梨央

シャブくってガン牌キメる怪物がごろごろ出てくる麻雀マンガ(じもぶん

どの粒も夕陽をたたえ八朔の寄り添うようにさみしい密度(ケムニマキコ

両耳に蓋をしまして脳みそをメロディ漬けにしたら食べ頃(辰野音子

泣きたい夜専用の香水を身に纏えばうまれる静かな泉(佐竹紫円

朔月や綿のはなしべひらくころふたたび会えるわたくしの君(白黎海

人生で初めて生卵を割った時の手つきでしよう自殺を(金井水月

どのくらい油を注げばあなたから恋の炎はあがるでしょうか(宮緖かよ

星だって輝いてるのは夜だけで僕には僕のそのときがある(みぎひと

まるでスローモーションみたいなまばたきのたびにあなたにフォーカスをする(萎竹

この灰のどの粒だろう永遠の愛を誓ったはずの唇(ケムニマキコ

大切な言葉は不意に消えるから歌の小箱へたたんで入れる(山口絢子

毎日はとても単純 あなたの夜にはあなたの月が隠れています(

数えたらスプーンの数だけ足りなくてそういう傷つき方をしたこと(川瀬十萠子

怪獣になればあなたを美しいままで噛まずに飲み込むだろう(白川楼瑠

長男は指を吸わせて「吸いよる」と吾に見せたり兄の目をして(梅鶏

不意に泣く痛いの痛いの飛んでけと飛ばした誰かの痛みに触れて(宇井モナミ

「おめでとう、お幸せに」を打った後 片思い捨てる不燃ごみの日(岡田道一

あの人にとってわたしは野良猫で撫でたら家に帰るんだろう(にいたかりんご

鰻より穴子の方が好きだった双子のように似た二人でも(谷まのん

愛に愛という名をつけた人らも愛の向こうで生まれたはずだ(水無月ニナ

カレンダー1日早く進めればおれだけの街おれだけの空(竜泉寺成田

せんえんを靴底にかくし永遠を探すわたしのいちばん愚か(はるかぜ

生活は楽しむためにあるのだと暦の中の白蝶が舞う(

なんで今別れ話を切り出すの 月面でする話じゃ無いよ(さに。

あなたしか見ていなかった 眼裏に収まりきらず溢れるほどに(嶌靄

色褪せた手のひらサイズのぬいぐるみなんだか軽い 一人分だけ(乃木ひかり

土曜日が待てど暮らせど雨なのは好き嫌いをした罰でしょうか?(まつさかゆう

窓に這う雨それぞれに一瞬を生きて諸行無常を伝える(まほう野まほう

あくびしたワニの歯間で寝るくらい脆いわたしを抱きしめてよ(まつさかゆう

「あ」と打って予測変換「ありがとう」出てきたきみに花丸あげる(桐谷やまと

だましても心が痛むことはなく喉に焼き付く甘いシロップ(雨宮雨霧

雨は午後には上がるらしいブルーってたまに浸るのにちょうどいい色(佐竹紫円

芍薬を二百六本抱きしめてうつくしい人に成り代わりたい(別木れすり

あの人は花鳥風月なにもかも足りすぎていて触れなかった(空虚 シガイ

想像で切腹をするおへそよりちょっと左に夕焼けを飼う(てと

よいこともよくないことも葉桜に上書きされて人は忘れる(山口絢子

つやつやの自信を持って身一つでショートケーキの天辺に乗れ(辰野音子

カウンター横に置かれた水槽でメニューのように泳ぐ魚ら(村川愉季

取材には応じませんという顔で上向く犬の目に映る空(藤瀬こうたろー

できるだけ優しくありたい欠片でも自分を好きでいられるように(ume

柔らかにバナナはナイフを受け入れて私のための嘘に似ていた(川瀬十萠子

アトラスの軌道をなぞり指先はテーブルを離れゆく また会える(まる弥

水の色みたいな会話 終わりまで見透す老いたふたりの魚(ムラサメシンコ

うぱうぱとなかないウーパールーパーがうっかりうぱとなけたら似合う(じもぶん

点と点結べば直線になるでしょ そんな感じで星座を生もうよ(しみず

雨だったことがあるのね睡蓮を胎内にふれてきたようなにおいで(夏谷くらら

「すてきです」だけをおたがい言い合って銀河の果てへ続くしりとり(村田真央

ドーナツとアリジゴクの巣を間違えたアリの舌打ちみたいなくしゃみ(宇祖田都子

並べれば足りないことが明らかなカードでずっと占っている(宇祖田都子

あゝ彼を見てはいけないもう羽が生えています、と初夏のホームで(メタのおわり

忘れずにいられるコツはありますかクーポン券の有効期限(青色紺色

じょうずだね、嘘が、悲劇の扱いが、レンジの中で冷めたカフェオレ(tanaka azusa

くちびるが触れたら終わり もう嘘が見えないほどの目眩く白(ムラサメシンコ

途中まで一緒に帰るあの子とも別れる時がだんだん迫る(谷まのん

皆さんが静かになるまで幾千の星がまたたき燃え尽きました(てん

夏 きみと抜け出すためのパーティーの招待状がポストに来ない(畳川鷺々

人間に割られることと引き換えに廃棄キャベツを食べているウニ(綿鍋和智子

放課後にひっそり語る帰宅部の秘密会議の題は「人生」(ひのき あさみ

緑の葉揺れるこんな晴れた日は洗濯物になって漂う(麻月

筆箱に隠した十二面ダイス うお座が一位になるまで投げる(Rhythm

消えた愛取り戻すことは無理なんだ 何度言ってる何を言ってる(つくだとしお

本当に言いたいことは呑みこんで少し強めに刺すパンケーキ(木ノ宮むじな

こわれやすいものだけ抱いて眠りたい今夜は棘のない薔薇でいて(夏谷くらら

補聴器を外すと静寂満ちてきて白湯のぬくみを聞いてゐる午後(箭田儀一

飽和してなお降る雨に閉じぬ眼に裂けた鹿の耳ほのかにゆれる(青兎

遠雷に傘もたぬもの戦後とはいつまでだったかペトリコール(古井 朔

水槽は金魚のかたちを覚えててねむれない日はひとりで遊ぶ(村川愉季

帰宅後に箱から出したケーキにはスキップをした痕跡がある(汐留ライス

ブルーよりもっと深くの心海に待ってる指とつながる指と(ムラサメシンコ

スパダリなワニの姿の宇宙人メロンソーダが飲みづらくて泣く(たな

朝が来ることが怖くて眠れないあなたは星の心にふれた(岡田道一

イヤホンを外す世界の音がするここで生きてる息をしている(おしいれのほや

じっとりと汗ばむ私に手を乗せるあなたがひんやりぬるくなってく(照屋衣

光ってるポメラニアンに無灯火でベルを鳴らしたHomo-arrogantia(鯖虎

「瞬足」を履いた現代社会追い「カツゾカツゾ」と下駄が息巻く(非常口ドット

私より長生きするはずだったのに居間のAIBOは亡骸となる(ねずみ

終わらない職場の愚痴を聞きながら取り続けている豚肉の灰汁(りのん

君たちがやっと静かになるまでにクジラはオパールになりました(水無月ニナ

失った愛の痛みのざんざんと身に降るまでは燦々として(白黎海

ニンゲンもひどい呼び名があればいい アホウドリだのニセアカシアだの(別木れすり

Googleを飲み込んだ鵜の喉震え要約されたアイを零して(鯖虎

ふ、と吹けばはかなく消える言の葉の地獄に触れた枯れぬ一葉(叭居

薔薇騎士のあなたのうなじから香る紅いいのちを計りかねてる(白川楼瑠

オーダーは何もない空仕立て屋は光沢のある黒を選んだ(ツキミサキ

世界地図みたいな水たまりがあり笑顔で蹂躙する子どもたち(白鳥

スカイフィッシュ生け捕りにしたい 幸せに私だってなってみたいけれど(えふぇ

永遠を定義するなり起動したきみを求める循環参照(まる弥

君と僕 確率の収束先はバッドエンドと知りつつも、なお(稗田 白湯.

優しさを疑う癖がなおらない 傷んだトマトも選ばれますか(ume

生きている間に見たい風景がまだまだあってたくさんあって(青色紺色

炎天下膝にめり込む石英の濁りの中にひそむきらめき(せんぱい

青白く光るスピカを教わってあなたに貰う石はもうない(木ノ宮むじな

時代が残して来た舟を今は曳いてゆく船がない溢れるほどの愛も潰えた(

やめたはずの煙草を頼まれた銘柄はかわってない私もかわってない(麻月

屋敷森取り払われてひと月経ちぬ またうぐいすの声聞けり初夏《しょか》(よいしょ上手の高木さん

この街のノイズの角を取りながら 太陽はまた西へと沈む(ねずみ

スターマイン終わったあとの一瞬にノイズを消せる職人がいる(真朱

p(ピアノ)とは弱くではなく優しくと二つの違ひを師に教へられ(匂蕃茉莉

選ばれることなどなくて十八の渋谷の街の雑踏の中(匂蕃茉莉

しまい忘れた扇風機みたいブロックし忘れたラインにメッセージ(麻月

ケーキ屋の1番端の左下秘密のサバラン大人のケーキ(紅生姜天ひやむぎっ

弄ばれることに憧れ踊る夜 世界樹に火をはなつ指先(白川楼瑠

かなしみと書かれたシールの裏紙は持ってて 僕は平たいからね(短歌パンダ

群れさせるためにイワシと住むマグロ 誰かの為にした結婚は(北野白熊

天使より悪魔のほうが綺麗だとあなたに逢ってから知りました(睡密堂

きみに会う改札口は狭すぎてあふれる愛をどうにかしてくれ(乃木ひかり

野の花を牛乳瓶に差して笑むこころをくれてありがとう母(山口絢子

ネモフィラは面ではなくて個であると我が子が摘みし一輪にて知る(まほう野まほう

焼骨を待つ間の雑談に笑ってる私がいる 夕立が来る(Umi.

鉛筆は削らなければ使えないことすら忘れて海岸にいる(四辻

タンポポをダンデライオンと呼んだ日は少し大人になった気分で(hiroyuki

飛び石をケンケンパッて飛んでいく春はわたしを捕まえられない(みぎひと

洗い髪、シャンプーの香がひらくよう、薄暑 ︎︎真夜中 ︎︎ばらの寝台(久我山景色

やわらかなアクアマリンに揺蕩った虹を跨いで向かう病室(村川愉季

とおくの星座をむすんでひらいてノスタルジーの非生産性(金井水月

昼休みビルの屋上青い空煙草、珈琲に永遠の相(篠崎蓮

成分を選べるならばやさしさはあなたに処方してもらいたい(宮緖かよ

茶道部の廃部が決まったその春に部長が初めて踏む畳縁(てん

じゃあねってきみは手を振る黒板をきれいに消していくように振る(くらたか湖春


次世代文学

上部へスクロール