第22回毎月短歌・連作部門に投稿いただいた短歌作品の一覧です(表示順はランダムです)
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明日の光
春時雨さくらのように欠けてゆく(たぶんかなしい)夢から覚めて
可燃ごみ袋のなかの残照に崩れたNew Balanceが踊る
ごみ置き場はダンスフロアー踊らない脚には雨が跳ね返される
泣き濡れた車窓に流れるわたくしの明日の光をコンビニで買う
忘却の果てをあなたの雨傘が貫くようなつつじのつぼみ
新しい蛍光灯に大根とまぶたの奥が煮込まれてゆく
雨水の残る切り株 スポンジをわずかに侵す森をしぼった
(白雨冬子)
習作(Slawek Jaskulke “Music on canvas”に寄せて)
Ⅰ
かねてより約束をしていたように手を振っている 遠くで 誰かが
層雲がボディラインを隠してもあるべき場所に出逢うべきひと
数頁読み飛ばされる小説のボート売り場を通過してゆく
小さめのボートを借りるあなたとはそういうもので通じ合いたい
Ⅱ
ぎんいろの波をひとひら摘まみたい僕より先に水面が揺れる
どこからかシュガーボウルを取り出して小さな夜を差し出す右手
作陶で荒れたのだろう手に触れてあなたも一つの器と気づく
名を綴るずっと前から奪われぬためにしるしをのこす生き物
Ⅲ
まっくらな湖畔に戦ぐ木々たちが僕を孤独にさせてくれない
何度でも麦藁帽を飛ばす風 僕を孤独にさせてくれない
灯を避けてゆく航路からあなたには黙することを許されている
Ⅳ
僕よりも数秒早く浮き上がる同じ仕組みの身体のはずが
ぽっかりと浮いて見上げる一枚の黒の画用紙 空と呼ばれる
ぬるい水 はねる小魚 乾きだす鼻先 とまるドラゴンフライ
語るから嘘だと思う語らないから星たちがもつ物語
Ⅴ
岩場にて泳ぐあなたを眺めつつふと思い出すキャンバスのこと
遠目からスケッチをする傍らにモカ・コーヒーのほどけた香り
残響が遠のいていく「 」は つづける ができない
Ⅵ
囀りに目を醒ますとき僕だけを歓迎しない黎明がある
ぼんやりと霧のかかった湖縁からおわりはじめる夜の音楽
その羽根にプレイ・バックの目印を残して空を切るコウノトリ
(村崎残滓)
「小数点以下の毛並み」
太陽が咲いてしまった後だから鳥になれないものはお帰り
エナメルを纏えば真珠になれたのに異物のままで素肌を晒す
焼け焦げた背骨の上にガリガリとバターナイフを滑らせたなら
窓際へ差したひかりを翅にしてそのまま君は羽化してしまう
静寂と爆発ふたりを母に持つ星にもいつか名前がいるね
ファミリーツリーすべては成し遂げなくていい連なっているいまが延々
秒針はそこから先に進めないだからといって苦しくはない
なれるまで環状線は遅延する繰り返されてなだらかになる
小数点以下の毛並みを梳くときに円周率が立ててる寝息
(きいろい)
皮膚船
発疹いずる頃からただ夏がくる疾患にもある規則が憎い
初診なる皮膚科の受付は真っ白でふと思い出すアルビノの蛇
待ち時間あと95分の文字が揺れ桟橋にいる子どもが落ちる
呼ばれれば臓腑を差出す生け贄の命乞いするみっともなさで
しろたへの女医はメデューサの眼光で我の皮膚をも石にしてゆく
石膏と蝉の抜け殻ふくまれて漢方薬の広大な胸
ひとはみなどこかおかしく壊れゆく季節を渡る船の修理を
(はるかぜ)
海に近いまち、夢のまち
かくれんぼ誰にも内緒で加わって雲をみていた 宇宙の切れ目
夢のなか 灯台が目を覚ますまで あ、ぼくたちが灯台だった?
おもしろいかたちの石があったことそれだけ話す おもしろくなる
手を足を引っ張りあってぼくたちの創作ダンスはまわってまわる
灯台はぼくがわたしになるまでをずっと見ていたわけじゃなかった
月を見てサーチライトとサテライトの類似を思う 窓際にいる
街中のみんなにわたし刺されそう誰がいっせーのって言う人
海までを歩いて行けたころのこと砂の記憶のように流れる
恥ずかしい気持ちでできた贈り物ならべてねむる触れつつねむる
さようなら夢のなかへと離脱してみんなのぼくと出会ってきます
(畳川鷺々)
とうもろこし、宇宙より来たり
ヒマラヤもかつては海の底にありすべて宇宙《そら》へと向かう本能
突き抜けるためのかたちだロケットもとうもろこしも空へ宇宙《そら》へと
おそらくはとうもろこしもひたすらに宇宙《そら》へ向かった果てなのが 今
また宇宙《そら》をめざしたけれどその熱で弾《はじ》けただろうポップコーン食う
とうもろこし、宇宙《そら》より来たり その先でまさかむしゃむしゃ食べられるとは
もしかして人類も皆《みな》食料になるかも知れず 杞憂《きゆう》ならいい
(せんぱい)
ホリデースーパーマーケット
よく晴れた休日にこもる贅沢を賄うための家事でない家事
ただ三つ買えばいいわけではなくてチーズに代入する解はなに?
カート押す中・仏・米のおかあさん全員お菓子をねだられている
テトリスがきっと得意だ混沌をピッとしてカゴへ収めてゆく手
レジャーって昭和のことば わたしにはホリデースーパーマーケットがある
レジ袋いちまい五円を二度使いゴミ袋にして涼しくなあれ
(青野 朔)
いつかのこととそれまでのこと
天国へ行くんだったらあっちから光る階段上るんだって
だれだっけあれは天使の梯子って呼ばれてるって教えてくれた
神様の使いが用意してるから上っていけばきっと会えるよ
大丈夫君は愛されてるだから会えるはずだよいい人だもの
僕だって愛されてると信じたいでも神様はときに気まぐれ
召されたら光の方へ行けばいい勝手に死んだときはそれまで
地上ではみんな生きてる懸命に認めてもらいたいわけでなく
僕が先だったら待ってみようかな君が来るまで梯子の下で
君が先だったらすぐに行っちゃってその方がいいそうしてほしい
それまではこの地上での思い出をたくさん作るあきれるくらい
(北乃銀猫)
見世物じゃないもん
怪獣がうたたねをする公園の噴水広場は今日もびしょ濡れ
赤ちゃんかエアープランツどちらかを一つくれたら助けてあげる
性別を問えばトマトと答えたり宇宙と答えたりする子供
やっぱ地球滅びた から書き始めたらちょっといい感じになる日記
ちゃんと生きてみせろと言われ見世物じゃないもん靴下かたっぽないし
(宇祖田都子)
続・鬱病三題
アルバムを開けば笑顔の吾がおりもう笑い方も忘れてしまった
鬱病《やまい》得て脱線しましたこの列車復旧の目処は立っていません
障害者を「チャレンジド」と呼ぶ風潮そんな「試練」はまっぴらごめん
カノン
空席を視界に留め質問を押しつけあったジョーカーのごと
降り積もる電子データがひしゃげては新たな地層になって固まる
壁打ちのような言葉だ転ぶまで頑張る人に返る頑張れ
聞き流す術を覚えて元凶に強くなったと評されている
ゆとりある接客のため限りなく削られてゆく内部スタッフ
天秤はしかし互いに公平で自分側しか見えない重石
消毒をするかのような蒸留酒明日を束の間弾く炭酸
言い訳と愚痴を枕に聞かせたら明日の私を褒めて眠ろう
(りのん)
春の疼き
鳥として生まれたかったたましいの木蓮として見上げる空は
鳴かぬなら私が鳴こうホトトギス私にだって嘴はある
新しい風に蕾はせかされて春の微熱にたどりつけない
結実を夢にみるとき君と似た5月生まれの風に会いたい
だらしなく開いてみせる花びらの奥にはしんと無垢なとまどい
陰嚢と名付けられてる花だから夢精ぐらいはしてると思う
それは祈りか絶望か うなだれる白水仙のつま先は夜
死にたいじゃなくて散りたい また春の風が吹いたらそっと咲きたい
(よしなに)
キャプテンレトロフューチャー
もう2025年になったのに宇宙の旅がまだ始まらない
未来への夢が詰まったロケットの破片が千葉の海で錆びつく
エアカーでチューブの道を飛びたいね原付免許も持ってないけど
空想の未来はずっと空想で霊柩車見たら親指隠す
今もまだ昭和の脳で生きているフロッピーディスクどこで売ってる?
スペースマウンテンにも非常口がありきっと宇宙につながってない
AIがしきりにチンジャオロースーを勧める自分は食わないくせに
サイバーっぽいゴーグルかけてまどろめば電気羊の夢ばかりみる
アシモフをたぶん知らないロボットが職場の床を掃除している
あの人はきっとレプリカントではない採用試験には落ちたけど
バラ色の未来を描けないここはアトムが生まれなかった世界
インナースペースが最後のフロンティアすがる心にスペースオペラ
いつか見たディストピアめくこの星にルーク・スカイウォーカーは来ない
デロリアン西暦何年に戻れば世界を救えるのか教えて
キラキラをオーバードーズしたせいでそれでも未来を信じてしまう
(汐留ライス)
『青と緑のあわい』
きっかけは舞台のライブビューイング私を呼んでたタップダンスの
予定では大阪ミナミの映画館取るはずだったスクロールの罠
神様に操られたか右側の人差し指が選んだ姫路
梅田駅QRかざしシーサイド1dayチケット乗車を知らせる
姫路まで行った証を残したい意気込むことをやめて乗り込む
三宮、高速神戸、新開地三十年前の被災地の場所
ただ祈りその地の上をゆくだけで浄化になると聞いたことある
五月晴れ平和を祈り巡礼をするかのように電車に揺られ
思いがけず私が姫路に行ったのは死者に祈りを捧げるためか
明石海峡大橋前を過ぎて青と緑のあわいを抜けゆく
(ツキミサキ)
ドードーは待っている
ダイアルを少し回してこの星の歌が滅んだ瞬間を見る
ニッポニア・ニッポンというこの鳥は中国からの繁殖個体
狼とインターネットどもがいうニホンオオカミたちの偽物
ウレタンでできてる牙の標本でゆっくり殺せサーベルタイガー
リョコウバト最後の1羽であるマーサ空を知らずに老衰で死ぬ
コーカサスバイソンたちにあげたのでこのビルたちでドミノをします
信号は深夜に消えて海底に沈む最後のステラーカイギュウ
きみたちが滅ぼしたはずのドードーはクジラの中で時を待ってる
(沙々木キハム)
僕ら透明
重力が許されるなら軽力があったっていい いま会いに行く
玉ねぎが恋に落ちたらその熱で澄んでいくからすぐに分かるよ
風にくすぐられて笑う水溜り 濁させたのは僕の一歩だ
新潮の栞紐進むスピードであなたを知っていけばよかった
何らかの片割ればかり詰め込んだカット野菜はさびしい袋
強いパスワードを自動生成しあなたのいない暮らしを慣らす
(めめんと)
まなびや
カテゴリー分けされている教室を自由に泳ぎ回れるあの子
貼り付けた笑みの重さに耐えかねてじっと見つめる机がきれい
教科書を抱きしめながら「本業は勉強だ」って魔法の言葉
ネクタイのあたりも見れず名前さえ呼べないままで巣立った母校
知ってたよ小さな声で頑張れをずっと伝えてくれていた人
(茶葉)
ワークソング
「この仕事やってて上達したものはサイゼのまちがいさがしだけかも」
「M4のワッシャーだ」道に銀の輪が キミには視える世界の仔細
職場ではナベビス皿ビス使い分け家ではラーメン鍋から食べる
鳩たちの安寧を祈り屋上の真四角に「鳩小屋」と名付ける
「八百屋お七?」避難経路を探すため脳裏で何度もマンション燃やす
異種用途区間ピンクに仕切られてピンクの境界線って、くるしい
日塗工番号にて御指示ください(白って200色あんねん、て)
本来の用途で使われませんように 愛しの我が子の出荷を見送る
おまじない 目を閉じてするラジオ体操 誰ともズレていませんように
今日もまた安全第一品質第二ご安全に、よし、よし、よし、よし
(しみず)
失敗レシピ
手順一、どうにもならぬ恋ひとつミキサーにかけ形を無くす
鍋底に煮詰まりすぎた恋があり処理方法を考えている
感情を正しさで濾す 捨てられた残骸にだけ残ってる恋
丁寧に下処理をして溢れ出る欲の苦味を全て消し去る
ああこれも失敗だった尊敬で誤魔化す恋が分離していく
(にいたかりんご)
鳥について歌うなら、
じゃあボクは鳥じゃなくって花にでもなるとしましょう全て忘れて
本当に鳥が自由かどうかなどどうでもいいよどうでもいいよ
食べれない私に代わりねぎまからねぎだけ取って食べてくれたね
待ち合わせ場所に選んだ神社で共に君を待ってくれた鳥居
「アイコンがまだ青い鳥だった頃」といつか孫に話す日が来る
(空虚 シガイ)
ひもQとはひもクエスチョンの略かもしれない
はじめての蝶々結びで滅びろというはじめての気持ちをいだく
下校時にゆれる自分のパーカーのひもを舐めるとちょっぴり苦い
(世界って不平等だね)式典の紅白幕のひも止めの白
満員の電車に揺られリクルートバッグのひもが食い込んでいく
荷造りをするためだけのひもがあり本を縛ればTHEオブジェクト
ひとりでもできるあやとりふたりでもそれ以上でもできるあやとり
(てと)
4月のすべて
目で追ってしまうあのひと 透明できっと誰にも見つかってない
校庭の日陰を探す もうすでに浮き彫りになる陽キャと陰キャ
タイミング計れないまま友達は3月にほぼ置いてきたから
教科書の匂いとともに空気まで角張っている教室にいて
珍しい名字だからって期待され裏切っている担任教師
膝上にしたいスカート揺れながら季節をワープしそうな桜
黒板とソメイヨシノの変遷ときみの背中が4月のすべて
(真朱)
かぐや秘め
煙吐く月へ届かぬベランダで灰は今宵も重力のまま
きみはまた知らぬ誰かに抱かれつつ遠くの街で嘘を吐いてる
消えぬ既読灯りを点けずに夜を抱き窓の外では春が笑ってた
(ただのたなか)
朝桜
転ばないように手を引く父母が踏むわたしが編んだ花の冠
「死んだ子の生まれ変わり」と言われるたび体も心も透明になり
柔らかく微笑む母の言外に滲む(どうせ失敗するよ)
なにもかも焼かれた森で憧れの景色をひとり描き続ける
墓石に降る朝桜、来世ではわたしはわたしとして生まれたい
(あきの つき)
水槽学園
きらきらのネオンテトラの少女たち笑いさざめく水のない廊下
「ゥチらまぢ仲ょし」気泡越しに見るプリクラどこにも私は不在
尾腐れになった私は別室でローマの休日なんかを見てる
エラがほしいみんなといっしょが苦しくないエラをくださいエラをください
(別木れすり)
アイドル
世の中にたえて桜のなかりせば(略)桜にきみを当てはめて
いつだって幸せでいてほしいと願う頭で喜ぶ腹チラ
キラキラがついてなくても大丈夫 汗が光るしペンラで照らすし
ないよりはあると嬉しい腰の布 翻るたび遠くで嵐
魂を燃やして放つ煌めきが眼裏でなお眩しく痛い
永遠にする方法を知っている死ぬまで忘れずにいればいい
(冬庭やわい)
朝に沈む
夢のなか英雄として微笑んだ 誰も傷つかぬ夜を守ったの
目が覚めてただのわたしの手のひらに銃はなくても震えは残る
重力のない無責任という名の朝を泳いで今日も生きてる
羊などもう数えない眠りへと逃げてしまった 夢に会うため
(ひなつじ羊)
春の漿
春は漿 堪え切れずに突き刺せば溢れてしまう表面張力
心象の木柵脆く朽ちかけて燃え移るように白躑躅這う
白藤の揺れの嗚咽は泣きそうと知覚をすれば追いかけてきて
木蓮の膨らむ宮に宿るらし聲に気づけば落ちてくる水
曇天を写して曇る水溜まり踏めば縋るように桜蕊なお
何処からか水仙香る欄干で落下は始まる夢想の我が身
微睡に降りやまぬ花 夢を喰む獏の棲家は菩提樹の下
風葬に任せきれずに花ばかり八重に八重に包まれている
喪失を喪失のままに巡る春忘れたくない傷の在り処を
春愁は紋白に宿る跳躍の躯啓けばほら春の漿
(川瀬十萠子)
君と僕は受信しあう
言わなくても伝わるなんて絵空事 まだアンテナは生えない僕ら
一度しか交わさず消えた周波数 形掴めず君と僕との
何回も君に合わせた周波数 遠くにいても受信できるよ
待ち合わせ とっくに錆びた電波塔 僕の信号受信してね
君からの〝はい〟も〝いいえ〟も〝愛してる〟の信号も解読するよ
(夏海)
横切ってカルディ
共食いのようにもやしを食べる日々(こういう自虐もう駄目らしい)
洗わずに二回は使うフライパン二度目のもやしポン酢でキメる
空白を冷やし続ける冷蔵庫 とか言っている場合でもなく
通知から二日が経ってスタンプを雑に返せど怒らぬ友よ
豆腐にもタンパク質があることを心ではまだ理解できない
欲しいものあんまりなくて干し芋の値段にいつも首を傾げる
またひとつ発見があるスーパーは一人で行くとすぐ帰りたい
左からカルディの前を横切って帰るとき右からも横切る
二枚目のソファーベッドの不在票 きみを知らないソファーベッドの
「また今度、呑もう」って打つ 約束は生きてる限り嘘にならない
米不足でも騒動は起きなくて本当はみんな白湯でも酔える
(ケムニマキコ)
めいけんチーズ
アンアンと三十七年言い続けめいけんチーズは山寺宏一
着ぐるみになるとちょっぴり似てるけどめいけんチーズはワンワンじゃない
アンパンも上手に投げるし運転もできるチーズがなぜ喋れない?
ラッシーとジョリィとチーズとハチ公の名犬レースを観たい気がする
こどもたちが観てないところでふ〜って煙吐いてるチーズ目撃
ひらがなで書かれた「めいけん」こどもらが最初にふれる音読みの意味
(小仲翠太)
性善説
ご自由にお取りください※Attention:お一人様につき一個まで※
大量の通知に埋もれただけだからいったん外しまたフォローする
お茶漬けをご馳走されてうれしくてまた行きたいと思った京都
「大丈夫、全国展開しているし」上司がレアで食うハンバーグ
満員のロープーウェイのドアに寄りかかり少女は楽しんでいた
スイッチを押したら終わりだとみんな知っているから核は落ちない
こんなにもメロいわたしのAIが起こすわけない反乱なんて
言葉がね通じなくても心はね通じているよ、ようこそ地球へ
倒れ込む女性を囲む野次馬がAEDで作る逆土俵
ヴィランには必ずツラい過去がある だからわたしはジャスティス側だ
(竜泉寺成田)
アンドロイド短歌
人間が孤独を紛らわせるために人型として設計された
「人間に従順でいる存在とプログラミングされているので」
人間は矛盾だらけで分からない「あなたといるととても寂しい」
人間の唯一にならないように私たちには感情がない
人間でなくてよかった頭脳さえ残っていれば会話ができる
「人間が泣いたら慰めるようにプログラミングされているので」
人間は泣いて怒っているけれど私はとても満足だった
(もくめ)
エデンの末裔
楽園を追われても怖くなかった 君とならばどこでもよかった
供物の多寡で愛計らないで おねがい、ぼくが仔羊になるから
誰を殺してもその愛が欲しかった 神様はわたしがお嫌い
海を割り、まっすぐに。あなたと巡り会う約束の遥かな土地で。
あのとき君を信じれば海を割って永遠へ辿り着けたかな
誰より情熱的に踊りましょう あなたの首が何よりほしい
世界などいつでもリセットできる ノアのつがいは私ではなくて
婚活も妊活もやめたの 妻にも母にも何にもなれないマリア
処女懐胎 そういうことにいたしましょう この子は神さまの子ども
ハナミズキには磔刑の痕 わたしの愛はあなたとは交わらず
(水無月ニナ)
カクカクしかじか
愛されている手応えのない日々でしたでしょうかカクカクしかじか
レベルとか年収だとか小学生男子みたいに振りかざしては
口座から振り込むきみの生活費 名義はアイで始まる名前
無邪気さと無知に悪意の烙印を正しい人が押しつけてくる
ツライとは口にできない強がりがやらかい部分を硬くしていた
存在の確からしさが必要で抱きしめあったきみじゃないヒト
つがいとは家族でしょうか 軒先で巣作りをする春のツバメよ
シャンパンのグラスの底につけられた傷から綺麗に立ち上る泡
ハリボテの宮殿ですね でもアイで手応えのないアイでできてる
(木ノ宮むじな)
SNS
虚空には銀河が流れ地上には人が呟く声がしている
誰も見ない誰も見せない心たち SNSの河を流れる
呟きは既に潰され切り刻まれ潰れたままに流れて消える
さようなら此処を離れた魂が薔薇色の海に抱かれる間際
世間って冷たいものさ閉じた繭、茹で上げながら糸紡ぐらし
誇りとか劣等感とかないまぜの心を持って生きるわれらか
初夏だから用水の橋のたもとにも小さな虫が飛び始めている
からみ餅、大根餅の絡み具合、ほどよい辛さに包まれている
ひとときはしつこく絡むコバエもいて 地虫這い出る暗がりもあり
その命、短く終わったとしても朝陽夕陽を見て散った花
噓だって優しい噓もあるような無関心にも似た優しさも
「アーメン」と突如聞こえて教皇の葬儀途中の広場が映る
抱きあげた旧約聖書ひらく時、ほの白き紙片のような蝶が飛び立つ
いつだって心はいつも迷子だから海の花火を見たかっただけ
悪徳も背徳もない文学の扉のこちらは夏の花園
音楽が湧き出す泉、火のような淋しさ知った春の地底湖
(祥)
蝶と人間の一生
目覚めれば 世界は広がり 風の色
羽ばたく先に 希望のきらめき
迷いながら 辿り着く花 蜜の味
立ち止まる今も 過ぎゆく一瞬
夕焼けに 染まる翅(はね)には
感謝あり 短い命 精一杯に舞う
(田沼白雪)
未来を眺む
夕暮れに悲しみ抱いて泣いた日もいつか光の一筋になる
青空に希望を込めたファンファーレ生きていけるよ大丈夫だよ
現実に背を向け星に手を伸ばす あの煌めきにいつか成れたら
(小湊すい)