第19回毎月短歌・3首連作部門に投稿いただいた短歌作品の一覧です(表示順はランダムです)
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悲しみの単位
悲しみの単位はリットルだと思う涙は時に海になるから
悲しみの単位をリットルとする時凍死した蝶のリットルを答えよ
十三.五垓《がい》リットルの悲しみを乗せて地球は今日も回る
(アサコル)
小さな勇気
脳内でシミュレーションはできるのに電車に乗るのはとても怖い
ドア閉まる音に鼓動が早くなり脳の誤作動と言い聞かす
特急と快速電車を見送って普通電車にそっと乗る
(はざくらめい)
×呪い 〇祝い
「寒いね」と言いつつ肩を寄せてみる 死んだらきっと地獄行きだな
駅が好き 未練の形したきみがすごい速さで離れてくから
「呪いたい人がいるんだ」 口をネに変えた 世界よ幸せであれ
(竜泉寺成田)
Z世代の7の部分
自己肯定(感)のところに引っかかるけれど呑み込む秋刀魚の小骨
ユタカサは宇宙人語で第三の眼が開くのを待ち侘びている
満点の星からすれば僕もまた地球とおなじミラーボールで
(メタル麺)
たまご
孵化しない玉子を握る手の冷たい人は心があたたかいという
いつからか君が訪れなくなった部屋に並べる無精卵たち
今からは一人で生きると決めた日に割れば双子の玉子の黄色
(宇井モナミ)
寝坊した朝
寝坊した朝もこっそりカフェオレを 君と会うため密かなジンクス
寝坊した6分遅い電車には君もいないしコーヒー買えず
寝坊したバタバタ準備家を出て息の白さに絶望ふかまる
デジタル・トランスフォーメーション
インティマシーコーディネーター部屋に呼び◯×つけてまぐわう僕ら
無加工の10年前の口角をデジタルタトゥーと旧友が呼ぶ
赤色のLEGOブロックを組み上げて作ったハートは取り替えがきく
(木ノ宮むじな)
言葉
見殺しにされた言葉を弔って今ひらくのは口でなく耳
棘を抜くのは苦手ですこの肺に毒の言葉が刺さったままです
言葉では世界を救えないけれどブランケットだ君の言葉は
(桜井弓月)
コンポタ
コンポタの缶あたたかく握りしめ試験に受かれば君の後輩
コンポタをあたたか〜いのボタン押し あたたかいではやっぱりダメなの
コンポタが大好きな君冷製も愛して初めて1人前ね
ネクターピーチ
ネクターになる前は桃、桃になる前はわたしのからだの一部
三年はかかる実りを待ちながらチークに花をリップは食んで
胚をなすピース 空洞、雨、揺らす、ヒールに見せるメリーゴーランド
(まちのあき)
贋作
暴力は嫌いと話すきみの手が硬いつぼみを丁寧にもぐ
咲かないと分かったうえで水をやる枯れないままで咲かないでいて
優しいと言われるたびに怪物が春の野原で暴れてしまう
(あきの つき)
Live
0曲目 客はあまりに静寂で演者の歩く袖が聴こえる
譜面には無かった休符なのでしょう氷の音が風景になる
もう少し誰かと生きてみましょうかアンコールをせよ知らないみんなと
(谷 たにし)
巡りて
雨の中、濡るも気にせず君めがけ。またばかねって、覚悟の上で。
濡れ髪は君のため馳す、なおぬくし。またばかだって、自覚も捨てて。
心かけあなたのために冷やした手。髪梳きてもて、温もり抱いて。
(ゆき)
ケーキ
これがいいチョコのケーキに目もくれずラーメンすする子の誕生日
ケーキ食むための理由は単純で今日はだれかの誕生日なの
歳をとり誕生日さえ過ぎ去って湿布の香りケーキに添える
(海沢ひかり)
春待ち
仄暮れの蝶の羽ばたきは湖《うみ》を越え夜霧の街のかなしみ揺らす
誰がために雪は降りつむあなたへの贖罪をかき消す無垢の白
テラリウムの小壜をぷぅとふくらませ春を待たずに花を咲かせる
(碧乃そら)
ゲームセンター
頭だけ持ち上げられたマイメロのゆらゆらゆらをひとり数えて
金貨チョコゆっくり回る金貨チョコ降り注いでく 指のつめたい
プリクラを遺影にしたい のびすぎたまつげの奥は光輪を持つ
(架森のん)
徒歩でゆく
諦めて明らめること多すぎて目を細めるよ 想像の羽根
才能の無駄遣いとか称賛のずるいに今日は土をかぶせた
徒歩でゆく雨の切れめに道ばたの苔がううんと伸びをしている
(塩本抄)
遺作まで
吹き荒れる心なかを嵐とか飛び交うバケツが雨を降らした
本当のあなたを誰も知らなくて知りたいと思うことは罪だと
遺作まで歌を詠むほど愛しても愛されるとは限らぬが常
(りんか)
友達以下〜恋人未満(モンブラン風味)
やけに目につくあいつとは昼メシを食べる時だけ隣同士だ
ガキのころお前がくれたモンブラン麺と思った麺じゃなかった
エプロンで佐藤砂糖を取れだってニヤけしばかれ調理実習
(たな)
朝を乗せて
吊り革にリードを任せて揺れ踊る老若男女のダンスパーティ
背もたれて欲しいあなたは僕の方じゃない景色をずっと見ていた
乗客は朝と僕だけ どの駅で名前を変えて降りるのだろう
(犬飼犬太)
きまり
恋のないさいわいな人生がある死刑囚にも人権がある
だいたいは四苦か罪だよモーニングルーティン法に触れてないだけ
神様が人を選びはしないから青になったら渡る決まりね
(綿鍋和智子)
ごつ盛りと俺
これっくらいの六畳一間にごつ盛りとバーチャル・ユーチューバーとX
ごつ盛りを動力として帆船は風を受けずに南を目指す
ごつ盛りとギャグにならない生活と理解されたいわけじゃない俺
(大頭非力)
じゃん・けん・ぽん
神様の似姿として僕たちの握れば骨の浮き出る拳
Victory/あるいは平和 指先はいつも何かを裁ち切るかたち
包みこむこと、それさえも勝ち負けで桜を揺らすようにさよなら
(ケムニマキコ)
地獄三首
地獄にてあなたの縋る蜘蛛の糸になりたいわたしも地獄行き
引っ越したはずのあいつがいないんだ まさか天国永住権を?
釜茹で地獄の火から煙草吸う ああいうやつが大成するのさ
(汐)
柔い
この部屋の光は柔らかすぎてどんな表情でも嘘に見える
朝顔の蔓がどこかで解かれず 誰もが少し絡まりながら
窓際で手を振る布のカーテンも君の別れを知っているかも
(箭田儀一)
熱っぽい頬に触れるといつもより少しだけ早く時は流れる
バファリンに頼る弱さもあるけれどそれもまた私の生きる道
痛みよと呼びかけながら膝を抱くわたしだけが知る夜の深さ
(ホワイトアスパラ)
近所の忍者
ここだけは風が強いと見せかけて駅の出口で忍者の合図
「蜘蛛の子はさほど散らない」猫会議が散るのを見ながら忍者と話す
導火線だけがいつまでも燃えている忍者が教えてくれた「交渉用」
(新井宗彦)
わたしは生命線が短い
生命線短いわたしもう好きなものだけ食べて生きていきたい
好きなことしていいよって言われてもスマホを見てる人生は短い
生き急ぐように映画を倍速で見ているけれどはやく泣けない
(睡密堂)
人工甘味料
かき氷 赤く染めてるこの赤は君を想うほど赤くはなくて
嘘の波。XがYを好きだって噂が襲う、私は貝に
恋なんて人工甘味料みたい 染まりゆくほど甘さ広がる
(りんか)
ソウルにて
この国でユンスルという名をもらい水面に白きひかりの踊る
イルボンから来たと言ってもこんなにもやさしくされるたびに悲しい
「ハンガン」とだけ聞き取れて文学は川は凍てつきながらも不滅
(石綱青衣)
前髪
切りすぎた前髪あなたに見せたくなくて
わざと遠回り帰路を延ばす
「ただいま」と前髪隠し君帰宅
流れる涙シャドウ滲ます
昨日より広くなった君のおでこが
悪いけれども愛おしくて
昨日より広くなった君のおでこが
愛おしくて 口付けをする
(月宮 奏)
痛み痛むし
結局は痛みで成長するもんで 痛みをくれて感謝しかない
実際に痛みで成長したにして でもいらんよな痛み痛むし
自分だけ痛みが痛むと思ってた 実は全員痛んでたぽい
(百壁ネロ)
ひらひら
どうしてもどうしても好きって伝えたら新聞記事になってしまった
この部屋の本のすべてを焼き尽くしあたしがきみの図書室になる
乱暴にあたしの灰を読みあげて オーディエンスの耳を塞いで
(宇佐田灰加)
やしろ
手水舎のちょろちょろ覇気のない龍は十一ヶ月を寂しく暮らす
信仰の薄れだろうか鈴の音がうるさいからと苦情が入る
人の気の失せた社でおみくじは冷やし中華のように終わって
(北野白熊)
1.5錠の憂鬱
殺してとまっすぐな目で君は言う蚊が飛んでいると言ったばかりに
致死量の優しさをくれさもなくばシロップの海で溺れ死にたい
満月と半月を白湯で飲み込んでたいていのことは非ドラマチック
(白鳥)
立春
停戦に合意 孫まで語り継ぐ君が選んだ桃色のお湯
いま年が変わるところがあるらしい 僕らは西南西が分からん
このままじゃ終われないよね割り切った時に失う淀みとか、待て
(山瀬ぬく)
キモノ艶姿
生ぬるい赤い襦袢を脱ぎ捨てて床に咲かせる牡丹密かに
なばたまの髪のほつれは蜘蛛のごと取って喰うから上手にお逃げ
辻ヶ花堪えきれない吐息から滴る嘘はひい、ふう、みい、よ
(朝路千景)
あの子
「ーございます」辺りでやっと目が覚めてサザエさんから始まる休日
今年から他校の君が反対のホームで誰かに手を振っていた
引っ越した後やってきたあの子こそ このお話の主人公です
(麻数)
snow
明るさを抱いてあなたはひっそりとあの娘(こ)へ想い積もらせてゆく
しんしんと気持ちが積もる 目覚めれば世界は変わっていると思うよ
条件が揃わなければ積もらない東京の雪だった初恋
(真朱)
メルヒェン
冥界の道も歩かず生き返るスノーホワイトあなたはだあれ?
人魚姫あなたの恋は足となりナイフとなってあなたをころす
硝子の靴で迎えに行く運命 ハッピーエンドだといいですね
(松たけ子)
黄昏て黄昏
渡すのか渡されたのか花束を抱える人が降りる夕暮れ
燃えさかる空を映した窓辺から街を見守るゴジラのソフビ
黄昏は誰かに優しくされたくてクリーニングの匂いにすがる
(白鳥)
夕暮れとブックエンド
異世界の扉はいつも開かれるたとえば西日の当たる本棚
図書室に開かれたまま残された本だけが知る君の行き先
またひとつ世界が終わり閉じられた本がもたれるブックエンドに
(宇井モナミ)
バージンロード
誰でも誰かの特別になれるからスパンコールのドレスが着たい
ホーンテッドマンションから放たれて萎びた花束を海に投げる
恋人は歌 ソファーにある暖かな凹みはいずれ必ず凹む
(オオカミ)
しんしん進化
クタクタがバレバレだからくたばれと言ってくれるのならば優しさ
てんてんこ盛り盛りすぎて飽和する意味を暗殺してくれ忍者
アイアイを愛愛にしておサルさんから人々へしんしん進化
(てと)
un, deux, trois…
白昼の実験室でアルコールランプに灯すおまえの鬼火
誰そ彼は椿の花ら口々に、心中、心中、と我を欲しがる
踊り場のある螺旋階段で踊る アン・ドゥ・トロワで近づく月球
(石綱青衣)
落ち椿
これが咎なら咎ならむただ君を思ふばかりに落つる椿よ
うつ伏せに落つる椿のいたはしさ世の哀しみをあまりに見れば
寒椿 艶なるままに土に落つせめて今宵は雪よ降らなむ
(吾意羅)
「夜を迎える」
青信号渡らなくてもいいんだと気付いてからは歩くのがすき
白亜紀の春を待ってる恐竜の背骨を踏んで迎えに行くよ
信号のランプひとつを増やすなら白色がいいみんなで眠れ
(きいろい)
種子
種は綿に紛れやってきた気づかない
くらい小さくて軽い質量のそれ
多分私の恋は断った時もう芽吹いたの
どうしようもなく育つ双葉眩しく
遠く離れた所で気がついた真夜中の花
あなたが欲しい あなたが恋しい
(フラ子)
exodus
夕焼けの切れ端三つあつめたら皿がもらえると聞いてきました
牛乳を正しく測る道具が買いたい これは清貧ではない
debutの迫害されているtに言及しない教師の多さ
(栗原 馴)
水鏡
やんわりと小窓の桟に日が溜まりしずかに溢れまどろんでゆく
たっぷりと水を湛えたみずうみに小舟浮かべる光はみちて
緑青の鏡のような水面にわが顔うつり白髪がおちた
(たけのまさ)
積もらない雪
ありふれたノスタルジーに泣けてくる君の天パに似てる舞茸
冬の夜すべてが光 こんちくしょう私以外が全部綺麗だ
君がいるところにあるのが幸せと思うほどには積もらない雪
(ぐりこ)
燃える星
泣くために泣くためにうまれてきたの そうして星は滅んでいくの
輝いたあとに自ら燃え尽きる 作り込まれた精緻なことばで
だからこそあなたは開いて陽の中をにんげんみたいに歩いていった
(宇佐田灰加)
どこまでも遠く
輪郭が奪われていく青の中笑ってる君と揺れる爪先
月光が私を呼んでるほらそこで だからそんな顔しなくていいよ
波音が僕らの世界を埋め尽くす 綺麗だね。ねえ、どこまで行こうか。
(夜星いさな)
落ちているネジ
工場に落ちているネジ 柴犬が咥えてくれるのを待っている
森林に落ちているネジ 有機物ではないことに気づかずに泣く
街角に落ちているネジ UFOであった記憶をひたすら食べる
(てと)
椅子はもういらない
君よ、死ぬな。僕の心に椅子はもう置けない。ずっと座っていてよ。
空席が増えるばかりの脳みそでもう戻れないと咽び泣いた
思い出も空席を埋めてくれない執着も死には敵わない
(傘糊)
『理論じゃないよ恋愛は』
切り取った気持ちをすっぱいグミに込め思いっ切り噛む シャリシャリの朝
過去についた嘘の跡をなぞるように今もう一度嘘をつく 薔薇
君を愛す非論理的に、不確実に 脳にタトゥーでこころと彫った
(パイン井)
きみ□神様
神様に似たまばゆさで誰よりも人間らしいきみが抱く火
神様の手からこぼれたアラザンのひとつがきみで光る宿命
神様にならなくたってきみならば四季の匂いをすべて纏える
(あきの つき)
姫君の名は
価値観をブッ壊しましょう「酒樽姫」?「枯枝姫」?は?名がありましてよ
花よりも咲った証拠目のきわの白百合誇る花咲里《はなさけるさと》
器量とか淑やかさとか知らんけど自力で行ける 我、航姫《わたるひめ》
(別木れすり)
新しい部屋
要るものと要らぬものとが決められぬままに進めていった荷造り
この街は過去のわたしを知らなくて白いシーツが少しまぶしい
新しい部屋では開けぬようにする折り畳まれたきみへの想い
(花林なずな)
主人公
神は言う「力を与えられたなら世界のために使いなさい」と
何時間、君と世界を天秤にかけることに費やしただろう
ヒーローも一人で悩む夜がある明日が怖い夜だってある
(りゅーせい)
them
別々の出口を目指すhe/sheが永遠となるroundabout
新しい風車ができたshe/heを括る一生逢えない羽根に
押し並べて彼・彼女らの顛末はBig Crunchにてthemとなる
(はじめてのたんか)
まばゆさの道
吐く息で眼鏡が曇る正面に朝日があって前が見えない
恐竜の名残の脚をさかのぼり朝日に煙るような羽毛が
七時過ぎ烏の羽も光らせて白く見せてくまばゆさの道
(せんぱい)
死ねよバレー部
おい、チャオズ、改名しろよ、それか死ね お前らみんな死ねよバレー部
家もクソ学校もクソ僕もクソ鋭くなってくNUMBER GIRL
飼うことのなかった犬と買うことのなかった首輪で土手の心中
(松たかコンヌ)
█恋
きよらかなきみのやわはだにきずがつく俺の気持ちはまだ治らない
恋 先にぼくの心を傷つけたきみが悪いよもうあわないよ
別にもう好きでも嫌いでもないよかわいいからまた頭を撫でる
(野田ひかる)
虚《うつろ》
人間に生まれたときに抜け落ちた羽舞い踊る冬の星空
伽藍洞 足りないものを埋めたくて埋まらないまま抱き合っている
逃げ切れる場所も見えないそのままに鉄の階段昇っていくよ
(春永睦月)
今日もご安全に
雪にさえ傘を差すこと笑われて じぶんにやさしくっちゃダメですか
清潔には傷が伴うアルコール除菌で曇るアクリルの板達
おまじない目を閉じてするラジオ体操だれともズレていませんように
(しみず)
レイトショー
ヒーローになれない俺とヒロインにならない君と行くレイトショー
巧妙に視線を逸らしあいながらセックスシーンをわざとけなした
忘れるよ 君と見たのも、あらすじも、今夜がひどい雪だったのも
(六日野あやめ)
予感する春
指揮棒を振る朝の伸び 屋根だった燕つぎつぎカノン奏でて
菜の花のごと泣く子らにならいつつフォルテのままにホームへ吹けば
開演のベルに譜面は伏せられて面接試験のドアよ燕に
(夏谷くらら)
技術的特異点でデートしよう
カーナビと結婚したくてキスをしたハザードランプが五回光った
全地球測位システム発信機全ての道はあなたに通ず
僕を見て「元カレみたい」という君の涙を拭うわれはロボット
(一文字零)
ほほえんで
ごめんもう僕はできないひたすらに見てることなど ほほえむ君を
一点を見つめてる君 ああそうかほほえむ君が見ている先は
まざまざとわからせられる僕のものではないことを 君のほほえみ
(北乃銀猫)
スターダストスターダスト
異星だと意識したのは突然で未知の世界へ誘う引力
放課後に飛ばす電波は指向性かなたの君に届いておくれ
法則を外れてふたり飛翔する一番きらめく星屑になれ
(汐留ライス)
エール
木が花にスルメになれる世界なら君の夢だけ無理なわけない
雲に向け飛び立つ鳥は気づかない足下に咲くドクダミの白
砂粒に紛れるような金色の花を見つけていきたい君と
(りのん)
トップシークレットあつこさん
テトラグラマトン・テトラグラマトン無宗教派のお星さまになあれ☆彡
わたしたちスーパーミラーの世界では幸せだって嘘(((嘘)嘘)嘘)
ルルルルルルールブックは胸のなか聖書あるいはラミパスラミパス
(畳川鷺々)
父〜我が幼少期〜
引き当てたオーブンレンジを右肩に担いでこいだ自転車の揺れ
ケチャップがついたフォークでデザートを突き刺し朝を無言で過ごす
隠せないキャベツの味が引き立てる父特製の卵チャーハン
(あだむ)
初恋
初恋はダイヤモンドダスト眩しくて君の顔さえまともに見れない
初恋は嵐のごとく突然に私を撃ち抜く貴方は雷
初恋は春の突風懸命に走り続ける君追いかけて
(アサコル)
CMY
この先も普通になれずマゼンダの可視光線に混ざれぬ悲哀
混ざってはいけないからと言い聞かせ シアンの毒に連なる孤独
底抜けに明るい君もイエローも混ぜれば黒に染まって無常
(そうま)
こたつ
自家製の野沢菜漬けに含まれる胸の痛みに効く栄養素
座布団の領有権を主張する 暖かく寝るための争い
漬物とみかんと会話をお茶請けにこたつを囲み笑い合う夜
(瀧本土筆)
恋の残照
夜を待ち沢山話したあの路地も
知らぬ人たちが行き交うだけ
背伸びして大人のフリした17歳
今振り返れば児戯に等しい
長い時積み重なりて思い知る
恋の痛みの忘れえぬこと
(森風輝)
夜ふかし
就寝の時刻は自由落下する林檎のように夜の底へと
お隣は食洗機かな 午前二時かすかに踊る水音を聞く
見渡せる窓のすべてが黒いので今日に幕引く係はわたし
(青野 朔)
さよならスター
友だちが星を拾ってスターになる眠れないほど輝くスターに
逆光じゃなくてもまぶしい人なので未だにちゃんと顔が見れない
線だけになってしまったあなたには触れないからさよならスター
(ゆひ)
消せないでいる
哲学の話でいつも立ち止まるシャーペンの先はいつも私だ
女神にはなれない 竈(かまど)の火の奥であなたを愛することだけ分かる
朝露に消せないでいる性欲がどうかかわいく散りますように
(納戸青)
魔法使いの見習い
相合い傘描いて名前を書き入れる右手翳すとほら、魔法陣
僕を見てこちらを見てと唱えれば君に聞こえる詠唱たれよ
攫いたい いっそローブに君隠し誰も知らない場所に行けたら
(北乃銀猫)
ご供養
ご遺影はスマホに表示いたします。ミニマリストの故人の遺志です。
丁寧に暮らしたあなたの仏壇に新鮮な果汁グミを供える
横たわる自然を愛した母の顔に有機栽培キャベツをかぶせる
([おもらし](https://x.com/mugino _omorashi ))
AI
うちでもねえ飼いはじめたのよ、ニンゲンちゃん うちのはココちゃん うちのはモモちゃん
「あの子もだ、この子もピーマン食べないや」「食べたら死んじゃうからいけません」
知らないの?レトロでシブい人間体 トイレもするし、手足を使う
(野田ひかる)
mmhg(ミリハーゲ)
「痛かったら言ってください(止めないよ)」学習したし期待しないし
大人しく絞めあげられる右腕に被食者として芽生えた自覚
mmhg 単位の中に息づいたあなたの毒はきっと消えない
(北野白熊)
風
いつの日か君を忘れた生活で子供が産まれ幸せになる
幸せに「なる」ではなくて「なってしまう」 愛は不確か、かすかに匂う
風に乗り記憶の彼方に消えゆく 少しその風を引き止めてみた
(りゅーせい)
花束
花束が出来上がるまでの工程は歌を詠むのとどこか似ている
苦しいも辛いも全部花束にリボンを付ければ愛しい想い
餞別の花束だけが鮮やかで去ってゆく人の姿ぼやけて
(水柿菜か)
セルフレジ
セルフレジ挑む気持ちで立ち向かう負けてたまるか年齢《とし》に抗う
試される適応力がものを言う生き残るんだ変わる社会で
高齢の親がいるんだまだ私弱音を吐ける立場ではない
(山野たみ)
初恋
顔立ちがご贔屓歌手に似てたから
視線釘付け これ、一目惚れ?
5−1(ごのいち)の
開いてるドアから目の端で
彼(か)の姿追う移動教室
名を呼ばれうろたえ隠し振り返る
きみを好きだと気づく瞬間
(蒔岡 るね)
正三角形
昔から私とあなたの関係は背中合わせの正三角形
見つめ合い抱きしめ合ったら私たち案外うまくやれるのかもね
ひとりでは尖ってしまうことがあるふたりでいれば正しい方へ
(ツキミサキ)
誰か私の生牡蠣デビューに付き合ってください
かたくりと塩を揉みこみ洗われる牡蠣の姿はパグに似ている
並べられ寝かされている牡蠣粒に名前をつけそう ジャック、プレアデス
路上行くぷるんぷるんの耳をしたパグを牡蠣と間違う前に
(別木れすり)
湯気揺れる日まで
舌苦《したにが》し茶葉立たぬ日が生《い》くる日と揺らがぬ湯気に気づかぬままに
無意識に流れる涙孤の中で新茶淹れる日いつか来るでしょう
誘《いざな》われ茶摘みに参った雪の中丸まる背中見つけ、たてたい
(ゆき)
ビタミンカラー
病室に花瓶はなくて帰り道籠で風切るビタミンカラー
きみはまだ寝ていたしばらく待っていた寝息に呼応して午後のひかりは
「ありがとう」窓辺に飾るガーベラはうつむきながら咲き終えてゆく
(小仲翠太)
バス停は雨
・一首目
夕方の成城石井の惣菜のほのかな不幸せの成分
・二首目
しあわせになんてできないきみだけの神様じゃない バス停は雨
・三首目
霧向こうヘッドライトが差してきて「もう行くね」ってほほえんで発つ
(村崎残滓)
borderline
排他的社会人域外縁で夜船が灯すやさしい光
祝福を奏でる細工箱たちもつらくなったら壊れたらいい
どこまでが冬?まだあどけない問が有刺鉄線に触れてとけた
(とてか)
「レタスが溢れる」
ここまでで冬はおわりと決めた日にビッグマックのレタス溢れる
本当はもう春だって知っているしらんふりする時間がほしい
春先は犬になりたい鼻先でひかりをかぜをおとを辿って
(きいろい)
ひとのかなしみ
とつくにの言語ゆきかいやわらかく蹂躙されゆくおとめごの胸
狡猾に蛇はするりと忍びきて街も山・人・神をものみこむ
ヨーグルトの白へひとさじ赤いジャム 穢されたのはひとのかなしみ
(みつき美希)
ペーパーレス
形状の崩れたクリップ 言い分の束をぶつけてきみを壊した
ささくれのような切れ端 まっすぐに進ませるのに合わないハサミ
離れたら小さな穴と傷痕を残すホチキスあなたはいない。。
(真朱)
犬よりの風
はつゆきのミトンを嵌めてえんとつに空の番地をふる十二月
老犬の腫瘍は夜毎ふくらんで飛ばないように抱きしめてやる
犬よりの風がほっぺに吹いてきて春のリードを手繰り寄せてる
(小野小乃々)
愛すべき空隙
空しさは虚しさじゃない ヴィーナスの腕から天へ羽ばたけるでしょう
隕石とかけおちしてもこの乳房《ちぶさ》豊かの海と呼ばせてあげる
丸窓へ天が差しだす白き腕とればまぶしきここが子宮よ
(夏谷くらら)
筆跡
ていねいに綴るひとすじ込められた思いのいろは知らなくていい
夕暮れの日を浴びながら黒板に書かれた文字を消していく意味
きみの書くことばを辿るぼくの日は重なっていくおやすみまたね
(水也)
指の先には
雪だね、と頼んでくれた焼きたてのマルゲリータに指も触れずに
雪を摘む 花占いの真似をしてマーガレットを指輪がわりに
ステアしたライムに雪が融けるまでマルガリータに指を這わせて
(Rhythm)
NOWHERE
ぬかるんだ午後の光とセックスが陣取っていたあのワンルーム
実家から届く規格外野菜 できそこないは行き場少なく
キシキシと泣いてるベッドを抜けれずに凍てついていくビバークの夜
(木ノ宮むじな)
点Pまでの距離について
ヴォイジャーが置き去りにした星を思う まるい泡はくシーラカンス
ツェッペリン月夜の空を音もなく泳ぐ鯨はなかまを探す
満月がむさぼるように照らす海シーラカンスは今夜飛び立つ
(みぎひと)
きみへの淡い恋心
風が吹く なびく黒髪 その瞳
きみの視界に 初めて入った
おはようと きみが挨拶 してくれる
その声さえも 愛してしまって
おはようと 返す言葉が 裏返り
きみが笑って 好きが深まる
(にのみや朱乃)
自己紹介
堅物の父に反発したはずが年々似てくる血ってこわい
十歳も上の男に姉さんと呼ばれるキャラを気にいってない
せっかちで短気であるし本音など出せば炎上射手座でござる
(山口絢子)
公園
一抜けた 誰かが言えば最後にはみんな他人になって星空
空っぽと呼ぶには早い公園に雪、外灯に照らされながら
誰からも踏まれていない雑草を潰してしまう雪の重力
(梅鶏)
花に揉まれて
懸命に生きても別離と説く女(ひと)の笹の小舟は花に揉まれて
高砂の紅を落とせば三界に家なき瞳で想う百年
誰そ彼て彼は誰ていく私達見えなくなるまで手を振り合って
(川瀬十萠子)
口に入る白
給食であの子が飲めない牛乳をコッソリもらうだけのヒーロー
レジ横のなかまにいれてほしそうな熱い視線の白いスライム
見た目にも花言葉での慈愛にも葉牡丹と似たミルフィーユ鍋
(一筆居士)
無常
梅の花凍てつく風に散らぬよう この身に抱いて雪に埋もれ
蛇崩れに呑まれた人と共に去り 七福神の訪い途絶え
花筏流るる川に椿落ち ほとりほとりと灯されてゆく
(新井田歌子)
優しさ
「優しさを与える人になりなさい」わたしのこころ動かす力
「優しいね」 褒めるところがない時の絞り滓だと知って落ち込む
優しさを振り撒くことを止めはしない これが私の強さだと知れ
(灯志)
君が、君の心を愛せなくても、
愛されてみたいだなんて贅沢ともっと早くに気づきたかった
「あぁ、そうか」と全部理解できるのが死ぬ時ならば生きるしかない
花でなく言葉でもなく花言葉として紡いだアナタへの愛
(空虚 シガイ)
日本と言わず全部沈没
スウェーデン引っこ抜いたらいっせいに海が落ちてくどこに落ちてく
ブラジルが引っこ抜かれる。すきだよって言えてない から 手、離せない。
引っこ抜いた日本が人工衛星に、なるわけないから全部沈没
(松たかコンヌ)
夕焼け
黄昏がゆっくり夜に変わること。ぼく、父ちゃんが怖かったんだよ。
鍵っ子らは門限を守りそれぞれに暗いまんまの家へ帰れり
何人にも等しく夕陽は降り注ぐ 違法駐輪自転車らにも
(大頭非力)
こぼれるⅡ
死にたいと口に出してもいいのかなふと見上げればこんなにも星
もういっそスキップふむか「死にたい」が鼻歌みたいにこぼれ落ちてく
死にたさが霜の涙になる夜半にあしたの米をさりさりと研ぐ
(月夜の雨)
オルファ
皮膚の内側に痛みと平安が真珠みたいにある 可視化する
カッターはオルファがよくてカインズにいくのオルファの 替刃を買いに
何もかも取り上げられて羽交い絞め わたしは羽を折る蘇る
(宇祖田都子)
蝉がきこえる
録画から真夏の蝉が 背中には光の通るやや深い穴
厄介と気づけばそしてもうずっと厄介としてある二枚爪
透明な金魚の眠る仮死として氷の中のいちごシロップ
(まちのあき)
ひめごと
わたしたちもう終わりだね静かだね比翼の鳥が飛んでいく空
くらべればすこしくらいはわかるかな双子っていうぼくらの違い
愛情と同じくらいの比率でさ雨が降る夜の月を思う
(水也)
春は未来
買いすぎたパンが溜まっていく籠の底に蠢く春に似たもの
いただいたゴボウがすごく長くって先っぽが音速越えちゃいそう
スキップができなくたって大丈夫ガストで未来の話をしよう
(宇祖田都子)
夢見る魔法
大魔法 人の行く末憂う故 現実と夢 融け合う禁忌
理を解すことなどは叶わない現代魔法社会に生きて
歳をとる毎に魔法は解けてゆき人は最期に自分になれる
(ムラサメシンコ)
月になるとき
蟷螂になってあなたを食べるときどこから食べる キスをしながら
白椿 本望でしょう腹上死みたいに雪に首を落として
もっと奥もっと奥へと誘ってあなたの月になろうと想う
(よしなに)
昭和と私と部屋とYシャツ
それはもう昭和の頃は無茶でした24時間戦ってたし
給食で使った先割れスプーンをその後一度も見ない 一度も
今になり思えば昭和という時代ホントにあったのかも怪しい
(汐留ライス)
満月の夜に
月が欠けたのはおまえのせいだ涙は星の代わりにはならない
月が欠けたのはおまえのせいだ盗人に告ぐ逃げられると思うな
愛の本質は喪失なんだよ月が欠けたのはおまえのせいだ
(左手)
こぼれるⅠ
「死にたい」がぽとりと落ちてしまうからコートの襟に埋めるくちびる
「死にたい」を何度も打って打ちこむと最後の行が「たすけて」になる
「死にたい」をコートの裏にかくし持ち死にたいきみに生きようと言う
(月夜の雨)
打ち切り漫画
手作業で数える人を思いつつ祈る手つきで記す17
打ち切りの四文字を告ぐこの口はひどくビールを欲し続ける
美味くない中華に連れて行く父が同じ誌面を何度もひらく
(はじめてのたんか)